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気になる気持ちは止められない!  作者: 空橋 駆
3章 休憩時間は千客万来 side:智明
8/21

7話 感謝の言葉は励みです

※再び視点が変わって弟くんへ。喫茶店での再会から少し後です。

兄さんに初恋ショコラを渡して、数日後。

暫くの間音沙汰が無かったのではなく、

互いに忙しくてなかなか会うことが出来なかった。


その後に何があったのか、色々と聞きたいと思っていたが……


翌日すぐに呼び出されなかったので、

上手く行ったかどうかはまだ知らない。


まあ、電話等の連絡が無かったとはいえ、

千佳さん辺りから流れてくる文句が来なかった事を考えると、

恐らく上手くいったのではないかと思うけど……


(色々と気になるな、本当に……)


そんな事を考えていた昼休み。


「智樹、弁当を持ってちょっとこちらに来てくれるか?」

「解った……」


唐突に、兄が自分のクラスを訪ねてきたのだった。


こうして兄の方がわざわざやって来るのは珍しい。

基本的に、自分から昼食等の為に出向く形が多いのに……


つまり今回は、何らかの報告があると見て良い。


「とりあえず、何も言わず中庭まで来てくれ。

 あいつもそこで待っているからな」

「という事は……」

「色々と事情があったからな。

 直ぐに連絡できなくて、済まなかった」


別にそれはかまわないけど、

結果だけを報告するだけなら別にこうして引っ張っていかずとも……


それに、今日の兄の表情は何処と無く緩んでいる気がするのは見間違いなのだろうか。

これもまた、どう見ても原因が思い当たりすぎるので困る。

ついていった先で何を言われるのだろうか……


人気の少ない中庭へとやって来た。

置かれているベンチには先客が座っていた。


「あ、やっと来た……」


見間違えるはずも無い、義姉さんだった。

何か雰囲気がいつもと違う気がして、ちょっと戸惑った。


「待ったか?

 あまり智樹の教室に行く事も無いからな、少し迷った」

「大丈夫だよ、今来た所」

「お久しぶりです、義姉さん」


とりあえず、一礼する。


「堅苦しいのは無しだよ、弟くん。

 今回呼んだのは、お礼が言いたかったから」

「ああ、俺からも言わせて貰いたかったんだ」


そこまで言えば……

大体、解る。


「『初恋ショコラ』、ありがと。

 二人で美味しく頂いちゃいました」

「お陰様で幸せな時間を過ごせた。

 本当に、感謝しても仕切れないな」


二人揃って丁寧にお辞儀されてしまった。


「先日のデートの時の助け舟といい……

 本当に、弟くんには色々とお世話になってます。

 だから、いつか恩返しさせてね」

「あ、いや……

 別にそこまではして貰わなくても……」


気を遣わせてしまうのも忍びない。

だけど断るのはもっと忍びない気がする……


「私の方もまだ何か返せる状態とは言えないから、

 本当にそのうち、気が向いたらになるかも」

「その時は、俺からも何か返したい物だな」

「兄さんまでそんな事言って……」


とはいえ、こういうやり取りは嫌いじゃない。

感謝されるのも、悪くは無い。



「ところで、この前聞いたんだけど……

 弟くん、彼女作る気なんて全く無いって本当?」

「待て、直球で聞いてやるな……」


いや、兄がすかさず止めに入ろうとしているが、

全然止められてなんかいない……


「まだまだ未熟な自分には、考える事など出来ない……と、

 そういう意味で言っただけの事です」

「なるほどね……」


義姉さんは僕に何か疑いの目を向けているが、

今の所そんな事を考えるような状態ではない。


何せ、目の前に居る二人の仲を進展させる方が大切だから。


「お姉さんが聞いたら嘆き悲しむかも……」

「そうだな」


いや、こちらに対しては何も言ってこないから、

そこまで手を回してくるとは思わない。

一番気に掛けているのは兄夫婦の方……ではなかろうか。


「それにしても、毎回毎回……」

「ん?」

「いい加減にお姉さんと呼ばずに千佳さんって名前で呼んであげてくださいよ……

 色々と紛らわしいって千佳さんが言ってますよ?」

「うん、そうしようと努力はしてるのだけど、

 何故かついついお姉さんって言っちゃうんだよね」


それだけイメージとして強烈なのは認める。

だけどあえてそう呼ばないのは義姉さんが居るから。


「俺は……」

「兄さんの場合は千佳さんと殆ど話してない」

「それもそうだな。

 下手に話すとまた弄られかねんから」


兄がそう言うと、それを聞いていた義姉さんも苦笑していた。


(間違いなく、また何かやられたとしか……)


苦労しているのはお互い様。

千佳さんも、かなり楽しんでいるというか、悪乗り気味だから……


(順調に、仕掛けているとも言えるのかな)


心の中で、笑いそうになってしまったのを堪えた。


「まあ、千佳さんは千佳さんで、

 二人の仲を深めて欲しいと思っているのは間違いありませんよ」

「うん、そこは感謝してるかも」

「まあ……程度が過ぎなければな」


苦笑いを崩していない兄に対して、

感謝しているなんて事を言う義姉さん。


(確かに、自分も千佳さんには世話になっているな……)


先日、あの喫茶店で面白そうな女子二人と会えた事も含めて、

こちらはこちらで感謝しないといけない。


「弟くんは何か面白い事は……」

「報告するような事はありませんよ」


あるけど、まだ半分信じていない。

本当にあの二人、同じ学校の生徒で同学年なのだろうか。


(実際に姿を見なければ……)


確証が取れるまでは、何も口にしない方が良いだろう。


「ふむ、その顔からすると……

 思い当たる事はあるが、まだ口に出せないか」

「ぐっ……読まないでくれませんか?」

「まあ、今日無理に聞き出す気は無いから安心して良い」

「うん、話したくない事は聞かないよ」


ありがたい。

悟られたくは無かったけど、そう言ってくれれば安心できる。


「それで、最近は……」

「うん、色々と楽しい事が……」

「なるほど、それは……」


昼食を食べながら、三人で談笑していた。

食べ終わった後も、のんびりとしながら。


「時間大丈夫?」


義姉さんが兄さんに聞いている。


「まだ大丈夫だが、早めに戻っておくか。

 それじゃ、また」

「美味しいケーキなどの情報があればまたよろしくね」

「食べる事ばかり考えるなよ……」

「ごめんなさい」


いつもの明るい二人のまま、

兄さんと義姉さんは教室へと戻っていった。


(自分や千佳さんがわざわざ何かしなくても良い位、

 良い夫婦だと思うのは気のせいだろうか……)


今の二人の後姿を見ていると、そんな事がふと頭を過ぎった。

だけど、冷静に考えてみると……


(その原因の一端を担っているのもまた、

 この前の『初恋ショコラ』かもしれない……)


多分、そんな気がした。


あれだけ美味しいデザートなのだ。

二人で一緒に食べる事で、幸せな時間に繋がっていくのも想像できる。


渡した後に何かあったのかもしれないが、

それもきっと二人にとってとても良い出来事だったのだろう。


(あの台詞、ちゃんと口にしたか聞くの忘れてたな……)


まあ、それはまた後日聞けばいいか。

そこからまた話が弾むかもしれないから、取っておこう。



ちなみに、ゆっくりと考え事をしながら教室に戻ると、

クラスの知人から誰かが尋ねてきていたと言われた。


(もしかして、ここに来ていたのか?)


タイミングが悪いというか何というか……


(仕方ない、帰りにでも偶然出会える事を期待するしかない)


ひとまずその事は頭の片隅に置いて、

午後の授業に集中するのだった。

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