3話 絆を深めるプレゼント
早速、翌日から行動に移ってみたのだが……
「幾つか回ってみたけれど……
これといって、目立つ商品も思い当たらないか」
それでも、進展は思わぬところで起きる物。
そう思って更に幾つかの店を巡って考える。
それでも、微妙に煮え切らなくてどれも似たり寄ったり。
義姉さんの誕生日の時に入手していたチョコレートケーキ……
あれに匹敵する程のインパクトのある物は無いか。
(そんなに都合よく、見つかるはずも無いか)
あったとしても、大人気の……
駄目だ、出回ってる数が少ないから名前が完全に思い出せない。
一応それなりにチェックはしているのだが、
キャッチコピーが個人的にあまり好いていない所があったので、
あえて今回の候補からも外していたのだが……
(あ、これだな……)
散々各所を巡った後、
いつも通っているコンビニにまで戻ってきた。
入り口に立って、その名前が再び目に入った時にその名前を見かけた。
(そうだ、『初恋ショコラ』と言う名前だったね)
意外と評判が良いというのも聞いた事がある。
だから毎回売り切れで手に入らない。
出てから結構経っていると思うのだが、一度も試食した事が無い。
千佳さんならば食べた事があるのかもしれないが、
自分の仕事の方が忙しくて何処で売ってるのかなんて把握していないだろう。
確か、キャッチコピーも結構独特で……
自分からすれば、決して口にしないような台詞。
そもそも初恋なんて経験した事も無いから、
如何せんイメージが沸かなくて好きになれない原因の一つ。
(しかし、これを兄さんに言わせたら面白そうかもしれない……)
少しばかり意地悪な提案かもしれないが、
意外と似合ってしまうのではないかと思った。
他にも、いい案が浮かんでくるかもしれない。
ついでに色々と買い込めるものは買っておかないと……
そう思ってコンビニで商品を見ていると、後ろから声を掛けられた。
「こんばんは」
「ん、兄さん……
珍しいね、コンビニに来るなんて」
義姉さんが面倒を見始めてから、
あまりコンビニに立ち寄らなくなったと聞いていた。
「買い置きがなくなったから仕方なくだ……」
「その辺も含めて面倒見てもらっているのでは?」
「以前と変わらない部分が多いのさ。
あまりあいつに負担を掛けるわけにもいかないからな」
「なるほど……
で、今日は何を買いに?」
「電池を買いに来た。
本当ならば見知った電気屋に行きたいところだが、
電池だけを買いに行くには少し距離があるだろう」
「確かに、ここからだと遠いね」
この近くにはそういう物を取り扱っている店が無いので仕方ない。
あるにはあるが、丁度良い量ではない事も多い。
「で、お前は?」
「先日頼まれた物の件だよ」
「いい物は見つかりそうか?」
「期待に添えられるように努力するよ。
実際に何を渡すかは当日のお楽しみという事で」
「それで頼む」
笑顔で答える兄の姿を見て、
あのキャッチコピーを言わせたらどうなるか……
そんな事が頭の中を少しだけ過ぎった。
「その顔だと、既に何か決まってきているのか?」
「ある程度は絞り込んだけど、まだかな」
幾つかの候補の中で一番際立っているのは、
『初恋ショコラ』なので、大体決まりかけてはいる。
本当ならば実物を食べて判断したい所だが……
このチョイスを千佳さんが聞いたら大笑いするだろう。
しかし同時に、まともなアドバイスも得られない可能性も高い。
何せ、人気商品過ぎてあまり手に入らないのだから……
「まあ、楽しみにしておく。
変な物を渡されても俺は別に構わないが……
一応、信じてはいるからな」
そう言うと兄は電池とシュークリームを買ってそのまま帰っていった。
しっかりと好物を買い込んでいるのは流石である。
(信じている……か、ありがとう)
それならば、本当にしっかりと考えなければ。
だが、やはりそれでも『初恋ショコラ』に考えが傾いていく。
実物を見ていないのに、何故ここまで興味を惹かれるのか……
いや、だからこそ興味を惹かれるのだろう。
(これは是非とも、購入して食べてみなければ……)
期限までにはまだ時間がある。
その間に、是非とも一度だけでいいので手に入れてみたい。
だが、なかなか手に入らないというか……
広告あれども物はなしの状態がが続いていた。
(これは、別の物を候補にした方が良いのかもしれないな)
そう思っていた矢先。
千佳さんと偶然コンビニで出会った。
「あら……久しぶりね」
「こちらこそ、お久しぶりです。
珍しいですね、こんな所に来るなんて」
「ちょっと気になる事があって、こちらに来ていたの。
一応本来の用件は済んでいたからそろそろ帰ろうと思っていたのだけど、
あなたにも話があるのよ」
「何か悪い知らせ……かな?」
「違うわよ?」
ならば一体……何だろうか。
大体の場合、あまり良い事が起こるとは思わないのだけど……
「『初恋ショコラ』、探してるんでしょ?」
「何故それを……」
「近々安定的に入荷できる状態になるって聞いたのに、
何件か見て回ったけど見つからないのよ」
「入荷予定……本当ですか?」
「そうね、半分くらいは当てになると思うわ」
「確実では無いんですね」
「私が聞いた限りでは、そろそろという話ね。
食べた事が無いから期待しているのだけど……」
「そんな……」
まさか、本当に食べた事が無かったとは。
千佳さんの事だから色々な所を経由して一度は食べた事があると思ったのに……
「感想だけは色々と聞かせて貰っているのよね……
だから尚更、食べてみたいのよ」
「自分もまだ食べた事が無いんですよ」
CMなら何回も見ているのだが……
多分、入荷はされていても早い時間に売切れてしまうのだろう。
一番確実に入手するならば深夜とか早朝なのだろうけど、
面倒なのでそこまでやるつもりは……無い。
そう考えると、人気が有り過ぎるのも考え物だと思った。
それから少しして、テスト期間が丁度終わる前日……
増産が間に合ってきた『初恋ショコラ』が再び店頭に並びだした。
(よし、確保……)
近場のコンビニで二個入手して、これにて任務完了。
(自分の分は……)
手に取ろうと思って、止めた。
こちらを見ている女の子が居るのに気づいてしまった。
(買い占めているかのように見えるのは嫌だな)
なるべくなら、面倒ごとになりかねない状況は避けたい。
とりあえず今はこの二個を確実に確保しておこう。
自分の分は、別の店で改めて探して買えばいい。
という事で、時間帯を変えて再出撃。
少し離れたコンビニへと辿り着いた。
ここでもしっかりと『初恋ショコラ』が置いてある。
千佳さんの情報は大体正しかったみたいだ。
入荷時期が違ったという部分が、信憑性が半分程度という所なのだろう。
(千佳さんは手に入れられたのだろうか……)
そんな事を思いながら、夜も深けた頃に兄の部屋を訪ねた。
どうやら、つい先程帰宅したらしい
「お疲れ様です」
「そちらこそお疲れ様。
それで、頼んでいた物は……」
「これですね」
「ふむ……」
兄は受け取ると、袋の中を覗き込んだ。
「なるほど、最近CMでよく見かける……」
「そうです」
兄は喜んでくれていた。
これならば、こんな提案も許されるだろう。
「一つだけ提案があるのですが……」
「ん?」
「食べたら、是非とも義姉さんに向かってあのキャッチコピーを……」
「なるほど、少しばかり恥ずかしいが……
頑張ってみるか」
兄の方も乗り気になってくれている。
これなら、少しは進展してくれるだろうか……
「それでは、健闘を祈ります」
「ありがとう」
静かに、兄の部屋から立ち去る。
後は上手く行く事を祈るのみ……
そして自室に戻り……
自分のテスト勉強が間に合っていないのに気付き、
大急ぎで勉強に取り掛かったのは、ここだけのお話。
※なお、”決めなきゃ人生変えられない!”の後日談、
”初めてのキスはショコラの味”がこの話の後に続きます。
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