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気になる気持ちは止められない!  作者: 空橋 駆
1章 『初恋ショコラ』の裏側で side:智明
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2話 甘い依頼と提案と

その日、自室にいると呼び出しのベルが鳴った。


「智樹、久々に少し話をしないか」


珍しい事もあるものだと、思った。

兄が久しぶりにこちらの部屋に訪ねてきたのだ。


「本当にお久しぶりです。

 義姉さんとは上手くやってますか?」

「上手くやってるも何も……

 相変わらずだぞ、俺とあいつは」


相変わらず……ということは、進展なし。

噂でも出てこないのだから当たり前かもしれない。


「それに、俺の場合……

 現時点であまりそちらに感けていられない」

「確かに、受験生という事をすっかり……」


兄は忘れていなかったらしいが、

義姉さんの方はしっかりと忘れていたらしく、

現在大慌てで進路を決めている……らしい。


「結局、俺よりもあいつの方が忙しくなっちゃってね。

 教えればそれなりに理解して覚えてくれるからまだ救いはあるが、

 如何せん元の状況が悪すぎる」

「まさか同じ大学を目指すとか……」

「流石にそれは無いから安心しろ。

 仮にそれを選んでいたら俺の寝る間が無くなるだけでは済まなくなるしな」


これが冗談で済まなさそうだから困る……


「基礎から色々教えないといけない所もある。

 色々と面倒だが、これはこれで楽しいさ」


背負わないで良い苦労を背負い込んでいる気がしないでもないけど、

納得しているのならば、それで良いのかもしれない。


「まあ、あいつの事は主に俺が何とかするから心配するな。

 嫁になる相手なんだから、互いに面倒を見合うだけの事さ」


照れながら答える兄の姿を見て、

二人の関係は心配するほどではなく、十分に上手く行っているのではと思った。


「その割には、噂などを殆ど聞きませんね」

「今は、これでいい」


昔のような無表情に近い顔で、兄はそう言った。

そして……


「お前に彼女が出来た時は、ちゃんと俺達にも会わせてくれよ。

 あいつが間違いなく残念がるだろうから」

「そもそもそんな機会、無いと思ってますよ」

「そうか……それは、残念だな」


先日の義姉さんの誕生日までは、

全くと言って良いほど意識していなかった。


二人が恋人を通り越して婚約まで交わした時には、

気付きこそすれど考えようとも思っていなかった。


今の自分は……

そんな事、起こるはずが無いと決め付けていた。



「ところで、一つ相談があるのだが……」

「ようやく本題ですか、全く」

「一応先程までの話と繋がってはいる。

 実は近いうちに行われるテストの後に……」


兄の要望を聞いた時、少しだけ驚いたのは秘密だ。


「なるほど、兄さんがそんな事を考えるなんてね」

「珍しいか?」

「いや、これからはそれが普通になるのかなと思ってね」

「そうか」


笑顔で答える兄の姿を見て、やはり変わったなと思った。

ただ、現実的な問題についてはきちんと答えなければならない。


「残念だけど、既に店頭には出ていない商品だから無理だね」

「ならば、他の物でも構わない」

「任せてくれるなら、良い物を探してくるよ」

「よし、思い切って全部任せた」


これで、契約成立。


「それじゃ、頼んだぞ」


そう言うと兄は大急ぎで自分の部屋に帰っていった。

携帯を片手に持って走っていたので、義姉さんから連絡があったのだろう。


時間はまだあるので、代わりの物を早めに探しておこう。

これで久しぶりにコンビニに立ち寄って色々買える……

早速、出かける事にしたのだった。



ある日の午後。

また、千佳さんに呼び出されて喫茶店に連れられていた。


「兄さんと義姉さんは……

 心配せずとも、いい関係を続けていますよ」

「直接会って聞いたのね。

 なのに、浮かない顔をしているのは何故?」


自分の事についても悩んでいるが、

兄の事については、少し疑問に思う事があった。


「今のままだと、クリスマスでも正月でも関係なく、

 勉強漬けでもしそうな勢いなんですよ、あの二人」

「確かに、受験生は勉強が本分だから仕方ないわね。

 でも、あなたの心配も的射ているわよ、きっと」


千佳さんも溜息をついていた。

義姉さんと仲良くしているので、色々と話を聞いているのだろう。


「私が必死に服を選んで、

 乗り気にさせてようやくデートに行ったくらいなの。

 色々と大変だったのよ?」

「ああ、それくらいの根回しはしていたんですね」


心の中では、それすらもしていないのではと思っていた。

一応乗せられればそれなりに恋人らしい事はする……らしい。


まあ、兄に甘味処の案内を頼まれそうになった理由が判明したので、

気持ち的に僅かながらすっきりとしたのだが……


「何、その反応」

「いや、あの二人なら進展が無いのも当然かな……と」


兄に近況を聞いた時、進路の話ばかりで……

結局、紹介した洋菓子屋の感想なども聞かせてもらっていない。


「勉強も大切だけど、少しくらいは息抜きしないといけないのよ」


そんな事も言っていられない程、

切羽詰っているというわけでも無いのは聞いている。


「こちらから口を挟む事ではないと思います」

「それもそうだけど……

 少しは面白い事、してみたいと思わない?」

「面白い事?」


何となく、嫌な予感しかしないのだが……


「一応、私は朝葉ちゃんの方を何とかしようと思っているのだけど、

 時間が合わなくて上手く行かないのよ……」

「だから、勉強などで忙しいのでは?」

「そうなのよね……

 何か、思い切った方法が必要かもしれないわね」


とりあえず、何の計画なのかは薄々感付けるのだが……


「こちらはこちらで、何かやってみますか」

「あら、乗り気なのね」

「思うところがあるんですよ、色々と」


先日の兄からの依頼。

それが丁度上手い具合に千佳さんの言っている件と噛み合う。


「競争というわけではありませんが……

 効果がある方法を実践してください、頼みますよ」

「そちらこそどんな策を使うのかは知らないけど、

 上手く行く事を祈るわ」

「ありがとうございます」


そうは言ったものの……

実は今の時点で、何の案も出ていないのだった。


「ところで、あの試作品はどうだった?」

「微妙な出来ですね。

 妙に甘みが足りないし、中途半端な気がしました」

「男の子からの意見でもそうなるのね……」


まあ、甘い物好きな時点で一般的な男子とは少し違うかもしれないが……

それでもあれは間違いなく改良が必要だろう。


「一応女の子からの意見も貰っているのよ」

「義姉さんとか?」

「違うわね」


違うとなれば、どんな相手から貰っているのだろうか。

少しだけ気になるのだけど……


「同じ職場の人の娘さんにも試食してもらっているのよ。

 あなたと同い年って聞いているから、多分同じ学校に行っているのかもね」

「それを聞いただけで見知っているかなんて解るはずが……」

「そうね、その反応なら知らないみたいね」


まあ、元々交友関係が広い方ではないと自覚しているので仕方ない。


「沖本さんって人なの。名前だけでも聞いた事はある?」

「無いね。少なくとも自分のクラスではない事しか……」

「残念ね……」


まあ、とりあえず今後関わる事になるかもしれない相手なので、

その名前だけは頭の片隅にでも覚えておく事にしよう。


何となくだけど、この先本当に遭遇しそうな気がしないでもない。


「本当はもっと多くの人から感想を欲しい所なのだけど、

 あまり多くの試作品を出して情報が漏れるのも困るのよね……」

「まあ、その辺りは本当に悩みの種だと思いますよ。

 ある程度完成度を高めないと売れないのは……」」

「というわけで、今回は秘密にしておいて。

 その代わり、また試作品を預けるからよろしくね」


お礼と称して渡されたのが試作品だった時点で、

最初からそのつもりだったのだろう……

恐らく抗議しても論破されると思うので諦めよう。


「今度は良い味である事を期待しています」

「そうね、そう伝えておくわ」


あの二人にも試作品が行き渡る事になるのだろうか……

そう思ったが、聞くのは怖いので止めておいた。


そんなこんなで、話し合いはもう少しだけ続くのだった……

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