19話 苦労の末の見返りを
※小織視点、18話の開始前に時間が飛びます
今日は……わたしの作ったお菓子を食べてもらう日。
クリスマスパーティーを始める前に、皆さんに味見をしてもらう。
あさおねーさんや晴樹さん、千佳さん……
いつもの人々に加えて、ゲストの人が来ると聞いていた。
(来ないと聞いていたけど、本当なら智樹さんに食べて欲しいよ……)
だけど、少し事情が変わったらしい。
作り始める直前にあさおねーさんから指示があって、
一人分を、今一番食べて欲しい人の事を思って作って欲しいと頼まれた。
(もしかして……それって……)
淡い期待が出てきた瞬間、やる気が湧き出てきた。
練習の時は、何度も何度も失敗した。
このまま頑張っていても、上手く行かないかもしれないって思っていた。
(今日作ったのが、一番上手く行ったよ……)
今、目の前にあるお菓子。
これがわたしの、自信作。
「どうですか?」
「手順とか分量は、私が見ていた限り問題ないよ。
後は小織ちゃんの腕次第だけど、きっと大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
あさおねーさんが笑顔で答えてくれて、わたしは嬉しくなった。
更にパーティーが楽しみになった。
「今、晴樹さんから連絡があって……予定通りだって」
「それって、智樹さんも来るって事ですか?」
「その通り、弟くんがここに来てくれるよ」
「わ……わたしっ……」
どうしよう、本当に来てくれるなんて思わなかった。
何かとっても緊張してきた……
「嬉しいとは思うけど、ここで決めないといけないの。
私や千佳さんは舞台を整えただけ」
「それは、もう一度告白を……」
「その通りよ」
あさおねーさんはそう言うけど、私には決意できそうになかった。
(また振られるの、嫌だよ……)
そんな考えが浮かび上がって、怖くて動けなくなる。
「怖くても、目を逸らしたら駄目だよ」
それを祓うかのように、あさおねーさんがわたしの手を握って言ってくれる。
「不器用だったのに、ひたむきに練習して……
美味しいプリンを作ってみせた小織ちゃんなら、大丈夫」
「大丈夫……うん、大丈夫……」
あさおねーさんの励ましで、わたしの心は少しだけ落ち着いた。
そしてその時が来るのを、今か今かと待ち続けていた。
暫くして、晴樹さんと智樹さんがやって来た。
「朝葉様、準備が全て整いました!」
「千佳さん、ありがとう。今そちらに行くね」
わたしはあさおねーさんの後ろをついていった。
手には、先程仕上げたお菓子を運びながら……
(笑顔……笑顔で……)
作り笑顔になってしまうかもしれないけど、
とにかく笑って、智樹さんの前に立った。
そっと、作ったお菓子を机の上に置いて……
智樹さんは、わたしの事を見てくれていた。
ほんの少しだけ、照れ臭くなった。
そして、智樹さんとしっかり話した後……
わたしは、机の上に置いていたプリンを智樹さんに食べてもらう事にした。
「どう、ですか?」
智樹さんが、わたしの作ったプリンを食べて……笑顔になった。
手を出して欲しいと言われ、わたしはそっと手を差し出した。
彼に手を握られた瞬間、全てが上手く行った事を確信した。
そして、わたしからもう一度告白した。
恋人未満のような関係なら良いって言ってくれたけど……
恋をするならわたしが良いって、その言葉は反則だと思った。だから……
「榎木……いや、小織ちゃん、か」
「はいっ!」
わたしはもっと大きく揺さぶってみたくなった。
「あの……」
「ん?」
「いつかは、呼び捨てにしてくれると嬉しいな」
「考えておくよ」
お兄さんの晴樹さんよりも引き締まった笑顔から作られる、
その照れた顔も素敵なんです。
きっと、この恋……成就できますよね。
今日集まっていただいた皆さんは、
きっと、これからもずっとお世話になる人。
そうなれるように、頑張ります。
パーティの準備を終えて、席に座る。
「今日は楽しんでいってね!」
そして千佳さんの一言で、パーティーが始まる。
(今なら、許してもらえるよね)
わたしはすぐに、智樹さんの座っている所へ。
「あの、隣に座ってもいいですか?」
「もちろん」
了承を得たから、わたしは彼の隣に座る。
この光景、他の人から見たら……どう見えているのかな?
(いつか、これが当たり前になりますように)
パーティーが終わるまで、
ずっと彼の隣に座っていようと思っていた。
「小織ちゃん、こっちこっち~」
智樹さんと一緒に居たかったのに……
あさおねーさんに呼ばれてしまった。
「あ、ちょっと待ってください……
智樹さん、あさおねーさんと少し話してきますね」
「行ってらっしゃい。
多分、心配する事は何も無いと思う」
そういう事じゃなくて、一緒に居たかった。
あさおねーさんに連れられて、再びキッチンへ。
「小織ちゃん、少し良いかな」
「智樹さんと一緒に居たかったのに……」
「大切な事だからね」
「それなら……」
仕方ないとは思うけど、何か納得いかない。
「小織ちゃん、あさおねーさんって私を呼ぶのを止めて欲しいの。
あの頃の印象のままで呼んでくれているのだろうけど……
できれば、普通にお姉ちゃんって普通に呼んでくれると嬉しいな」
「え、何でですか?」
「私にとっては、血は繋がってなくても妹のような存在だからかな。
弟くんの恋人だから、今後は私の関係者にもなるし」
「あ、ありがとうございます……」
あさおねーさ……違う、お姉ちゃん。
「晴樹さんの事もお兄ちゃんって呼んであげると、
面白い事になっちゃうかも」
「そ、それは……
まだあまりよく知らない人ですから……」
「残念、反応はとても興味深いけど、
それはまた今後の楽しみに取っておこうかな」
お姉ちゃんがそこまで言うと気になるけど、
何か妙に楽しそうに話しているので、ちょっと疑ってみたくなった。
「今後の楽しみって、何か企んでますよね確実に」
「ふふっ……それは、内緒。
だけど、私が考えなくても多分千佳さんが動くよ。
正しくは、既に完全に巻き込まれてると思うけどね」
巻き込まれてる?
それって、どういうことなのかな……
(何か、心当たりがあるけど……)
わたしが考えていると、
お姉ちゃんが冷蔵庫から何かを取り出してきた。
「二人が仲良くなった記念として、
ちょっと贅沢なものを持ってきました~」
そこには、見覚えのある物が……
「え、これって『初恋ショコラ』ですよね。
この辺ではまた売り切れになってるって……」
「千佳さんがこの日の為にと何所かで買ってきたらしいの。
これ、弟くんと一緒に食べて欲しいって言ってたよ。
できれば、あーんとかしてあげる姿を見たいって」
「え、ええっ!」
わたしは思わず、驚いて声を出してしまった、
「そ、それは恥ずかしいです……」
「今日くらいしか見る機会が無さそうだから、頑張って」
「ううっ……
それなら、何で千佳さんが直接言いに来ないのですか?」
「間違いなく弟くんに止められるからだよ。
恋愛には疎いけど勘は鋭いからね」
「そうなんですか」
だから、わたしの目の前から完全に姿を消すなんて事も……
智樹さんって、やっぱり凄いよね。
「小織ちゃんの不意打ちには特に弱いかも。
それに、私と智樹さんを仲良くさせてくれたのもこれだから」
「お姉ちゃんと……晴樹さんを?」
「うん、その時は弟くんが持ってきてくれたんだよ。
私の分と彼の分で、2個」
『初恋ショコラ』を2個買って……
あれ、何か思い当たる事が……
「智樹さんじゃなくて、お姉ちゃんと晴樹さんが食べていたんだ……」
「だからね、これは私や千佳さんからのお詫びの印。
小織ちゃんの恋路を、一時的とはいえ迷わせちゃったからね」
「お礼も兼ねて……ですか」
「そういう事になるかな」
手渡された『初恋ショコラ』を見て、少しだけ迷ったけど……
「やってみますね」
決意を固めて、再び智樹さんの隣の場所に戻った。
「ん、義姉さんと話してたのか……
長かったから心配した」
「うん、それで、これ……」
わたしは『初恋ショコラ』を差し出した。
「なるほど、これが自分達へのプレゼントか。
皆揃ってなかなか面白い事をしてくれるね」
智樹さんが何か企んでいるような笑顔になる。そして……
「千佳さんと義姉さんの思惑に乗るのは面倒だけど……
小織ちゃん、これ、今から食べよう」
「智樹さん、どうぞ」
「いや、二人で食べるよ。
というわけで、先に半分くらい食べる」
わたしが考える間もなく、智樹さんは『初恋ショコラ』を食べ始めた。
そして、半分より少し多く残してわたしに回してきた。
「どうぞ」
「うん、食べるね……」
スプーンが一つしかないから、間接的に……うん。
ここまできたら、恥ずかしいけど……そんな事言ってられない。
「智樹さん、あーんしてください」
「お……おう」
先程までの口調から一変して、恥ずかしそうな顔をする智樹さん。
「はい、あーん」
「ん……」
そのまま、智樹さんの口の中へ……
「ありがとう。兄夫婦がやっていたのを見て何が良いのかと思っていたが……
これは、意外と楽しいな。
というわけで、今度は……」
「うんっ」
立場を入れ替えて……
「ほら、口を開けてくれよ……」
「あーんってちゃんと言って欲しいな」
「よ、よし……ほら、あーん」
「んー……はむっ……」
うんっ、何かとっても……恥ずかしいけど嬉しい。
「あとは……そうだな。
ケーキとキス、次はどちらが欲しい?」
「えっと……」
確かにわたしと智樹さんは仲良くはなったけど……
恋人同士にはほんの少しだけ届いていない。
だから……
「ケーキを、ください」
「それが正解。
キスは、もう少し後まで取っておこう」
「うん」
わたしと智樹さんは、笑顔で約束した。
ふと、辺りを見回すと……
智樹さん以外、誰も居なかった事に気づいた。
「気を遣ってくれていたのか……
後で兄夫婦と千佳さんにお礼を言っておかないと」
「そうだね」
わたし達がそう思っていたら、千佳さん達が戻ってきた。
「キスまで行かなくて残念だったね、小織ちゃん」
「もう少し欲張っても良いんだぞ、智樹」
「あらら、二人にはまだちょっと早かったかな……」
ということは、今のやり取りは全部筒抜けだったという事で……
「前言撤回で良いかな、これ?」
「うん、わたしも同じ意見でお願い」
その後、わたしと智樹さんは散々この三人にからかわれました。
それもまた、仕方ないよね……うん。
結局、そんなこんなでパーティは無事に終わり……
わたしは智樹さんに家まで送ってもらいました。
「今年のクリスマスは、一緒に居ても良い?」
「ああ、是非とも」
最後に、そんな約束を残して……
激動の一日は、こうして幕を閉じました。




