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気になる気持ちは止められない!  作者: 空橋 駆
1章 『初恋ショコラ』の裏側で side:智明
2/21

1話 全ての発端そこにあり

※時期的には前作本編の終了後、後日談の時期に近いです。

事の発端は、つい先日の話だったと思う。


”いつもお世話になっているあの人”から連絡があったのは。


呼び出された場所は、洋菓子店……ではなく喫茶店。

いつの間に見つけたのかは知らないが、

待ち合わせ場所で何も言われる事無くここに引っ張られてきていた。


「前置き無しで聞きたい事があるのよ。

 隊長の事と、ついでに君の事も少し教えてくれるかな?」

「兄についてなら少しは話を聞いても構いませんが、

 自分の事を話す気は無いと前から……」

「本当、強情よね……」


”いつもお世話になっているあの人”は溜息をついた。


義理の姉さんからは年上故に”お姉さん”と呼ばれているが、

自分はその呼び方をしたくない。


「千佳さんが何を考えているのか知りませんが、

 策謀を巡らせたいなら自分一人でやってください」


だからこんな感じで、いつも名前を呼ばせてもらっている。

ついでに、応対もいつも適当に済ませている。


「どうせまた兄と義姉さんの関係を進める為に、

 変な策でも巡らせようと……」

「それ良いわね、貰っていくわ」

「なっ……」


どうやら自分は不用意な発言をしてしまったみたいだ。

これが原因で変な方向に火が付かなければ良いのだが……


「暫く様子でも見るべきではと思っていたのよ。

 だけど、確かにこれから先は追い込みが必要になるわ」

「追い込み、それは千佳さんの勤め先のお話では?」

「そうね、仕事の方も色々とあるのは間違いないわね」

「ならば、そちらに全力を投じるべきでは?」

「それは横に置いといて、

 とにかく年末のイベントは色々狙い時なのよっ!」

「ま、まあ確かに言おうとしている事は……」


解らない事も無いけど、無理してやる必要は無いのでは?

大人しく見守っているのも時には必要だと思う。


とはいえ、千佳さんが言う事も一理あるのは否めない。

何と言えばいいのか、心配しているのは皆同じなのだ。


「多分、全部は知らないと思うけど……

 見ているこちらが胸焼けする程の甘さを醸し出しているはずなのに、

 実態は全く恋人らしい事をしていないという報告があるの」

「報告に関しては、初耳ですが?」


風邪の噂で聞いた事はあるが、無い事にしておこう。

自身でも信じていない部分がある。


「同じ学校に居ながら、噂くらいは流れてこないの?」

「そういう類の物は、あまり無いですね……

 あっても、休み時間に一緒に居る程度だとしか聞いていませんよ。

 そもそもこちらがそこまであの二人に構っている余裕があると思ってますか?」


これは、本当だった。

一緒に登下校して、昼食を一緒に食べている事くらいしか知らない。

目立ちすぎるのに際立った噂が無いのも不思議な物だ。


「確かに、以前みたいに見張っているわけにもいかないのよね」

「余計な事をして兄に感付かれたら厄介ですよ?」

「あの時みたいに、明確な理由があるならば別。

 平常から人の生活を監視など出来るわけないわね」


そういう意味でも、二人の進展を間近で見るのは難しい。

別居している事も含めれば、余計にそうなってしまう。


「階が違うと、情報も手に入らない。

 隣に移り住めば知れそうだけど、警戒されるから難しいか」

「そうなのよね……」


実は兄弟揃って同じマンションの別室に住んでいるのだが、

場所が離れている事もあり、遭遇も稀なのだ。


「本当、その辺りは完全に上が凄いとしか言えないわね」

「ああ見えて、爺さんは本当に抜け目が無い」


雇い主、義理の姉さんになる人の、祖父。

諸々の経緯は説明しないが古くから付き合いのある人というか、

未だに返せないほどの恩を貰っている、恩人。

爺さんの指示で、この状況が作られていたと思うと、実によく出来ている。


「千佳さんは二人の周辺警戒を請け負っている……

 そう聞いていますが、違いますか?」

「半分は当たり。残り半分は……

 言わなくても大体想像が付くわよね」


義姉さんにとって信頼できる同性の友人。

そういう意味でも、非常に適役。


「その割には、随分と要らぬお節介を焼いている気がしますけどね」

「そう見える?」


首を縦に振ってみせたが、

千佳さんはあまり不服そうな顔をしていなかった。

お節介焼きなのは、自覚しているのだろう。


知り合ってからそこまで長いわけでもないのだが、

兄共々色々とお世話になっているのは間違いない。


「とりあえず、何か知れた事があれば教えて欲しいわね」

「善処はしますが、期待はしないでください。

 面倒臭い事は嫌いだから」


面白ければ良いと思う時もあるが、

基本的に、関わりたくは無い。


「そうね、何もせずにそんな事を頼むのも悪いからお礼が必要ね。

 今飲んだココア一杯で手を打つ気は無いから、

 後で勤め先にいつもみたいに来てくれれば良いわ」

「ありがとうございます。

 是非とも、後で立ち寄らせて貰います」


会計は全部千佳さん持ち。久々に飲んだココアは美味だった。

まあ、払う前に何となく嫌な予感がしたので、

経費で落とさないでくださいとだけは言っておいたが……

その辺はまた、向こうで話し合って何とかするのだろう。


「そういえば、この辺りに来る事は少ないのよね?

 見知った場所までは一緒に連れて行かないとね」

「お願いします」


割と美味しいココアが飲めたので、

この店の事をよく覚えておこうと、思った。



見知った場所にて千佳さんと別れ、

特にやる事もないので適当に本屋などを巡ってきた。

時間を潰す必要はあまり無かったのだが、

直ぐに行くのも何となく気が引けたからだった。


それなりに繁盛しているのは知っているが、

着いた時に待っていたのは学生の女の子が一人だけだった。


その女の子はショーケースの中の物を見終わって、

ケーキの箱詰めと会計を待っているみたいだった。


応対しているのは千佳さん。

洋菓子店の制服を着ていると尚の事美人に見える。


「いつもありがとね。

 おつり、240円になります」

「はい……」


学生の女の子はお財布を開けて釣銭を……


「あっ……」


入れ損ねてそのまま床に2枚落としていた。


「おっと……」


片方がこちらに転がってきたので、拾ってあげた。


「気をつけて」


女の子は顔を真っ赤にしていた。

そして小銭を受け取ると……


「あ、ありがとうございます」


ぎこちない笑顔をその場に残して、去っていった。


「いらっしゃいませ」


そのやり取りの後、すかさず千佳さんに声を掛けられた。

なんとも言えない笑顔で……

どうやら、一部始終を見られていたらしい。


「ご注文の品ですね、少々お待ちください」

「あ、はい……」


何か頼んだ覚えなど無いのだが、

この場合、千佳さんがある程度気を回してくれていると思う方が良いのだろう。


「お待たせいたしました。

 代金の方は既に頂いておりますので、このままお持ち帰りください」

「はい」


差し出された袋を受け取る。


無料で差し出されるという事は試作品とかその辺だと思う。

袋が結構重いので、中身は恐らく……


(楽しみだ、帰ってから確認しよう)


微妙に気になりながら、帰宅する事になった。



帰宅して、満を持して箱を開けてみた。

一枚のメモと共に、器に入ったプリンが2個。

確かこれ、人気商品だった気がするのだが……


「試作品につき味は保障しません」


何味なのかもの凄く気になるのだが……

そこまでは書いていなかった。


色から判断できない以上、食べてみるしか、ない。

食後のデザートとするにも、リスクがある。

どうすればいい、こんな時は……


「今、食べてみるか」


とりあえず覚悟を決めて、一つ開封する。

開けて匂いを嗅ぐが、甘くていい香りがするのは変わりない。

その中に、妙に特徴的な……把握できる香りが混じっている。


一口食べてみれば、正体は見破れた。

だが、何というべきだろうか……


「かぼちゃ入りか、これ」


相当手間がかかっている代物には違いない。

そこは認めるが、味の方は……


(少し、口に合わないかもしれない)


正直に言うと、若干物足りないというか、

甘みは少ない上にかぼちゃの割合が少なすぎるのではないだろうか。


(だから、試作品なのか)


近いうちにまた何らかの話をする事になると思うので、

その時に感想を伝える事にしよう。

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