表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気になる気持ちは止められない!  作者: 空橋 駆
7章 外堀は既に埋まっていた side:智明
18/21

17話 あの時の感謝を籠めて

※智樹サイド、最後の章です

後悔をするのは止めた。

前を向いたら、何も変わっていない事に気付いた。


ただ、拒んでしまった。それだけだった。


最近は、義姉さんや兄さんにも会いたいとも思わなくなった。

恐らく事情は知っているだろうから、尚の事会い辛かった。


あの二人及び千佳さんと会った場合、

そこから榎木さんと強引に会わされる展開にでも持ち込まれかねない。

拒否する間もなく、話し合いをさせられるだろう。


(しかし、沖本との約束は破りたくない……)


それならば、逃げ続けるしかない。

例えそれが、自分の気持ちとは外れた行動だったとしても……


(兄でも、その状況に耐え抜いてみせた)


だから、自分も耐えてみせなければならない。



だが、そんなのはただの言い訳だった。

弱い決意なんて、簡単に崩されてしまう。


「話がある。時間は大丈夫か?」


逃げ続けられるとは思っていなかった。

いつかは、向き合わなければならない日が来る。


兄が訪ねてきた瞬間、絶望的な気分になった。


「あまり話をしたい気分じゃない……

 できれば、日を改めて欲しい」

「そういうわけもいかなくてな。

 正直、今のお前は見ていられない」

「自覚は……している。

 今の自分は、昔の兄さんと似ているかもしれない」

「俺はそこまで悲惨ではなかっただろう。

 最初から最後まで、自分の想いには忠実だったからな。

 その結果あれだけの騒動を巻き起こしたが……」


悪くは無かったと言ってのけた兄の顔は、

あの時も、今も同じで……堂々としていた。


「とにかく、今のままで良いと思わないのならば……

 こちらに来てもらえないか」

「榎木さんや沖本がそこに居ないという事を約束してくれるなら、

 行っても……構わない」


観念したわけじゃない。

これで、終わりにするために……

兄の部屋へと、入って行く事にした。


「弟くん、遅かったね。

 来なかったら、晴樹さんと一緒にドアを蹴破ってでも話し合うつもりだったよ」


義姉さんは、さらりと怖い事を言ってのける。

正直、この二人ならば実行しかねない以上、手詰まりに近い。

相手が悪すぎるとは、こういう事なのだろう。


「正直、義姉さんには特に会いたくはありませんでした」

「そうだろうね。

 小織ちゃんを傷付けたのを自覚してるから余計にだよね。

 でも、私が怒るならもっと別の事を引き合いに出すかな」

「別の事で……怒る?」

「自分の気持ちに気付いたはずなのに、

 向き合わずにそこから逃げて消えるのを望んだ事の方が許せないよ」

「そこまで、知られていましたか」


恐らく千佳さんから聞いたのだろう。

情報の通るルートからして、知られていたとしても不思議ではない。

ただ、何故それで自分が怒られなければならないのか……


「だから、私は弟くんに忠告します。

 好きになったのなら、最後まで護ってあげてね」

「自分は……まだ……

 そこまで、気持ちが固まっていない」


気になる存在では、ある。

だけどそれが恋愛とかそういうものなのかは、よく判らない。


「それに、仮に好きになったとしても、

 兄さんみたいに護れる自信は無い」

「ならば、俺からも一つ忠告しよう。

 好きになったのなら、最後まで信じてみるんだ。

 信じるのは相手だけじゃない、自分も同様にな」

「信じられないからこそ、恋などまだ早いと思っているのに……」

「ふむ……」


恋にも発展していないそれを、どうする事もできない。


「あのね、弟くん。

 ちょっと気になったんだけど……

 彼女と一緒に成長していくって考え方は無いの?」

「一緒に……成長?」

「私と晴樹さんだってね、一緒に成長する中で恋が育っていって、

 巡り巡って婚約まで結んじゃったんだから……

 紆余曲折とというか、凄く大きな試練はあったけどね」

「まあ、その過程があまりにも衝撃的なのは認めるし、

 成就する時期しか見ていない智樹が勘違いするのも無理は無いだろう」


要するに、兄夫婦もまた……

長い時間を掛けて関係を結んできた。

考えてみれば、当たり前の事だ。


「大人しか恋ができないって思ってるのなら、

 弟くんはきっとこの先もずっと恋を知らないままになるかもね」

「俺はそこまで酷くなるとは思っていないが……

 朝葉の言っている事も一理ある」


そんな事は無いと言いたかったのだが、

榎木さんに告白されるまで自分にとっては面倒事だと切り捨てていた関係上、

声に出して否定する事ができなかった。


「どうしてそこまで関わろうと……」


だから、二人にその理由を問いかける事にした。


「それを弟くんが言っちゃうんだ……」


兄も義姉さんも揃って溜息をついていた。


「俺と朝葉を結ぶ手伝いをしてくれた礼に決まってるだろう。

 それに、色々な意味で成長できる良い機会だと思ったからな」

「小織ちゃんは私のお気に入りの可愛い後輩だからね。

 弟くんとなら間違いなく気が合うと思うよ?」


ああ、単なるお節介じゃなかったのか。

兄夫婦は最初から最後まで自分の事を考えて動いていた……

そして、何よりも自分の事を理解していたわけだ。


「弟くん、もしも、もしもだよ?

 小織ちゃんがもう一度告白してくれるなら、受ける?」


もう、嘘はつけない。

偽る必要なんか、無くなった。


「当然ですよ」

「それは、私達に説得されたから?」

「それは、絶対に違う。

 千佳さんに榎木さんの事を聞いて興味が湧いた。

 直に話して、もっと色々な事を知ってみたいから……」


視界から消える状態を続けたら、逆に興味が湧いてしまった。

原理なんて解らないが、一度関わると忘れられなくなるのだろうか……

それとも、彼女が印象的過ぎたからなのか。


「良い方向ね。

 これなら、安心かな?」

「ああ、問題ないだろう」


何か妙な会話のやり取りが聞こえたけど……

とりあえず今は気にしないでおこう。



一呼吸置いて、義姉さんが話し始める。


「千佳さんからの伝言があるんだけど……」

「義姉さん、千佳さんからという時点で……

 自分は嫌な予感しかしないんですが?」

「今回に限っては心配しなくて良いよ」


いや、そもそも今回に限ってはという言葉が出てくる時点で……

義姉さんもまた色々と振り回されているのだろう。

それはともかく……


「本当に毎度のごとく、何を企んで……」

「私の作ったお菓子の試食会だよ。

 クリスマスイブも近いから、千佳さんが提案してくれだんだ~」

「クリスマスイブは別件で忙しいと聞いているからな。

 その前にパーティーでもしようと言っていたら、こっちにも誘いが来た」


まあ、大体この二人の為の配慮というよりも、

店の方が忙しくなるから当日は無理なのは前から聞いている。

試作品の類が回ってこなくなったのもそれが理由なので、

千佳さんが計画を立てても不思議は無い。少し警戒をしすぎたみたいだ。


「誰が来るかは秘密。

 参加するかしないかは弟くんの自由だよ」

「止めておこうかなと思っています。

 色々とこちらも、事情があるので」


沖本や榎木さんが来る可能性もある。

一応、視界にも入らないように気をつけるという約束をした以上、

下手に破りかねない行動は、避けたい。


「弟くんが気にしてる件だけど……

 明日には解決してると思うから、大丈夫だよ」

「根拠が無いのに信じられませんよ、普通」

「そうだね、だから一つだけ約束して欲しいの。

 もし明日以降、沖本さんが教室に尋ねてきたら……

 ちゃんと話を聞いてあげてね」

「まるで全部、知っているかのような……」

「もちろん、千佳さんも私も知ってるよ」


本当に、完全に包囲網が形成されているじゃないか……

ここまで来ると、逃げるだけ無駄だ。


「判りました、参加する方向で調整します」

「ありがとう」

「助かった……」


なんか、兄が胸を撫で下ろしていた気がするけど……

理由に心当たりがあるので、言及しないでおこう。



そして、翌日。

義姉さんの言ったとおり、沖本に呼び出された。


「あのさ……

 先日の約束、取り消しでお願い」

「あの時は許す気は無いとまで言ったのに、何故?」

「許すも許さないも無いわ……

 やり過ぎだって小織に怒られたの」

「沖本は間違った事など言ってないはずだが……」

「藤山があそこまで完全に身を隠すなんて思わなかったわよっ!

 ちょっとくらいハプニングがあると面白いかもって思ってたのに!」

「待て、約束をした側がそれを言うのか……」


何だろう、お節介好きな誰かの姿が重なって見えるのだが……


「それなのにさ、全く視界に入ってこなくなるなんて想定外だよ。

 不気味というか、凄いというか……」

「そこまで言われるとは」


まあ、確かに頑張り過ぎたのかもしれない。

ただ、沖本の描いたシナリオには乗りたくない。

千佳さんの企みに乗るみたいで嫌な予感しかしない。


「とにかく、頑張りなさいよ。

 応援してるんだから」

「ん……ああ」


そう言って、沖本は笑顔で去っていった。


(何を頑張れば良いんだ……?)


その言葉の意味が解らず、こちらは少しだけ困惑したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ