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気になる気持ちは止められない!  作者: 空橋 駆
6章 立ち上がってもう一度 side:小織
17/21

16話 不器用だけど頑張るよ

今日は久しぶりのお休みの日。

わたしはちょっとだけ早起きをして……


「小織ちゃん、おはよう~」

「おはようございます、あさおねーさん」


あさおねーさんと一緒に、千佳さんの家に行く。

今日は、お菓子の作り方を教えてもらいに来た。


「本当に、小織ちゃんが不器用だったなんてね……

 中学時代の時も沖本さん辺りから聞いた覚えがあるけど、

 実際に見て驚いちゃった」

「あ、あはは……それは言わないで欲しいです。

 お母さんが入院してるから家事はしてますけど、

 料理は特に苦手なんです……」

「でも、基本はしっかりしてたからすぐに何とかなったね。

 その辺は、私と一緒かな」

「あさおねーさんも、そんな感じだったんですか」

「うん、だからすぐに上手くなるよ」


だけど、毎回色々と作るから大変……

覚えるのは楽しいけど、なかなか時間が取れない。

作るのが面白いって思えてきたから尚更そう思っていた。


「二人とも時間通りに来たわね。

 今日もまた、色々と作って覚えていきましょう」

「はい、お願いします」

「お願いします」


これまでに数回習ってみたけれど、

最初の時よりはやる気が出てきた。


「出来上がり~」

「ううっ……あさおねーさん、早いよ~」

「朝葉様の方が慣れているから、仕方ないわね」


毎回毎回、作る度にあさおねーさんのお菓子はわたしより何倍も上手で……


「器用なのは、うらやましいです」

「確かに朝葉様は器用なのよ。

 小織ちゃんにも真似できない事も考え出せる事実だけど、

 時折凄い大間違いをしてしまうのが玉に瑕なのよね……」

「それは言わないでぇ~」


あさおねーさんが苦笑いしていた。

何か大きな失敗をしてしまったのかな……


「ホイップクリーム作るときに、

 二人分作るなら単純に材料を全部二倍すれば良いのに、

 砂糖だけそのまんまの量にして甘くないのを作っちゃったり……」

「それくらいならまだ大丈夫ですよね」


食べさせられた方はちょっとした惨事かもしれない。

その場に居合わせていなくて良かった。


「バニラエッセンス使うところで、

 間違ってレモンエッセンス使っちゃったりした事があったから……」

「それ、大丈夫なんですか?」

「甘い香りにならないだけで、味にはあまり影響無いのよ。

 でもね、棚から出して目の前に置いてあった奴を使わずに、

 自分から取りに行って間違えてるから……」

「う、ううっ……

 教えないでって言ったのに……」


恥ずかしくて顔を真っ赤にするあさおねーさん。

だけど、それを聞いてわたしは気分が楽になった。


「でもね、失敗は誰でもするものなのよ。

 むしろ失敗せずに学ぶなんて、考えられないわね」

「そうね、だから私もこれだけ上達したんだし……

 ちょっと大変だったけど、感謝してるよ」

「不器用とは違うところで間違えるのはちょっと困るわ。

 朝葉様は特に気をつけてくださいね」

「今はもう、ちゃんと確認してから使ってるから大丈夫です……」


何か、拗ねてるような声で言う姿が面白かった。

わたしはつい、笑ってしまった。


「笑わないでよ……もうっ……」

「ごめんなさい」

「別に怒ってないけど、二人には言わないでね。

 弟くんに教えるとそのまま晴樹さんに伝わってしまいそうだし……」

「わかりました、秘密にしますね」

「お願いね」


本当、そういう所はあまり中学時代から変わっていない気がする。

何か懐かしい気持ちになった。

と、思っていたら……


「そういえば、小織ちゃんは朝葉様の中学時代を知ってるのね。

 今と比べて、変わったと思う?」

「はい、見違えるほどに綺麗になったと思います。

 なんか、大人の女性になったような……」

「大体3年くらいだから、色々と変わるよね。

 私も最初に小織ちゃんを見たとき、成長していて驚いたし」


成長するのは当たり前だけど、

確かにあの頃と比べると色々と変わった気がする。


「でも、あんまり変わってない所もあるんです。

 話し方とか、雰囲気とか……顔とか」

「私自身はあまり気にした事は無いよ」


わたしとあさおねーさんだけの会話になっている所を、

上手い具合にすり抜けて、千佳さんが入ってくる。


「小織ちゃん、もしかして……

 朝葉様って、昔からちょっとだけ抜けてる所があったのかな?」

「はい、千佳さんのご想像通りです」

「ちょ、ちょっと……何二人で勝手に納得してるのかな……

 少なくとも私は、お菓子作りの時みたいな失敗の仕方はしてないよ?」

「そうですね、でも……

 肝心な所で大切な事の一部が抜けてる事はありましたよ」

「あ、あれは……うん、言わないで、お願いだから」


忘れてはいけないと言っていたはずの物を、

思いっきり忘れてきてしまった事が何回か……


「少なくとも、高校に入ってからは無くなったよ。

 私だって、ちゃんと成長してるんだからっ」

「実際は隊長に面倒を見てもらってたのでしょう、朝葉様」

「あはは、否定できないから困るよ……」


苦笑いしている朝葉様の横で、

わたしは……何か頭の中で引っ掛かっていた。


「あさおねーさんと晴樹さんって、

 その頃から一緒に……」

「そうね、大体その認識で間違ってないわ」

「でも、付き合い始めたのって……」

「色々と深い事情があるのよ」

「そういうこと」


あさおねーさんと千佳さんが、二人で笑顔で言った。


「ところで、小織ちゃんは……

 弟くんの事、今でも気になる?」

「それは……」

「よく、判らない?」

「振られてしまってから避けられている気がするので、

 このまま忘れようと思っています」


本当は、お菓子を作り始めてから……

彼の笑顔を思い出しながら作ってるのは、秘密。


「先日話し合った時はそんな素振り見せてなかったわよ?」

「弟くん……どうしたんだろうね。

 小織ちゃんの件で少し落ち込んでいるのは知ってたけど、

 励まそうと思っても自然と離れて行っちゃうから……」


その時、わたしの頭の中には……

先日の釉の言葉が、思い出されていた。


「暫くの間は、護ってあげるからねって……

 釉が、言ってくれました。

 あさおねーさんは、何か関係あると思いますか?」

「それだけでは、解らないかなぁ……」


やっぱり、気のせい……


「その言葉は、いつ聞いたの?

 時と場合によっては疑う要素にもなるわよ」

「千佳さん?」

「一理あると思う。

 小織ちゃんはいつ、どこでそれを聞いたの?」


確か、あれは……

わたしが振られたすぐ後で、その事を釉に話して……


(あの後から……智樹さんを見なくなった?)


何かが、わたしの中で繋がった気がした。


「わたしが智樹さんに振られた直後です。

 その後に多分、釉が智樹さんに何か言ったのかもしれません」

「確証はあるの?」

「わたしが釉に智樹さんとのやり取りを話した直後から、

 智樹さんがわたしの視界の中から消えてしまいました。

 探しても、見つけられなくなってしまったんです」


だから、あの言葉の意味も……


「私が弟くんを見かけたのは、それよりも後。

 だから、大体間違いないわね」

「それで、小織ちゃんは……

 智樹君の事を今も気になってるのかな?

 答えは聞かなくても、もう自白してるようなものだけど」

「そうですね、気になるから……

 探して、見つからなくて、ちょっとだけ憂鬱な気持ちになります」


好きかどうかまでは、判断できないけど……

告白してしまってから、尚更気になってしまう。


「きっと、その気持ちも恋に繋がっていくと思うよ」

「朝葉様は経験者ですからね……」

「そうなんですか」


色々と紆余曲折があったって聞いてたけど……


「多分、沖本さんの忠告で……

 弟くんは小織ちゃんになるべく近付かないようにしてる」

「本気で考えて動けば、彼なら十分にできる話ね。

 彼は彼で思い悩んでるとは思うけど……」


千佳さんが話している内容はよく解らないけど、

とにかく、智樹さんはわたしを気遣ってくれている。


「小織ちゃん、ちゃんと……

 自分の気持ちと向き合ってみて」

「ここから先は、あなたが決めないといけないのよ。

 決断しないと、手伝う事はできないわ」


あさおねーさんが、わたしの目を見て告げる。

千佳さんが、わたしの肩に手を置いて呟く。


「わたしには、チャンスはありますか?」


二人は、黙って頷いた。


「わたしはまだ、智樹さんの事が好きです。

 一目惚れの時とは違う、それ以上の気持ちなんです。

 逢えないのが……寂しい……」


素直な気持ちを、二人に告げていたのだった。


「お菓子作りがもう少しだけ上達したら、

 その時は色々と手伝ってあげるから……

 もう少しだけ、頑張りましょうね」

「私も一緒に頑張るよ。

 弟くんには幸せになって欲しいからね」


あさおねーさんに優しく抱きしめられて……


わたしの恋は、もう一度動き出す。

お菓子作りを覚えて、智樹さんに食べてもらう所から始めよう。


「もっと、頑張らないと……」

「あら、無理は駄目よ?」


千佳さんは優しく、私の手を握る。


「でも、年内には何とかしたいから急ぎたいのは確かね。

 後はあなたの努力次第よ」

「はい」


こうして、わたしの修行は続いて行くのだった。

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