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気になる気持ちは止められない!  作者: 空橋 駆
5章 最大にして最悪の失策 side:智明
15/21

14話 自覚と後悔

榎木さんの告白を告白を断った翌日の昼……

沖本が、こちらの教室へやってきて、自分を名指しで呼び出してきた。


「小織を泣かせたの、藤山だよね?」

「ああ……」

「許さないから」


静かに伝わってくる、怒り。

今の自分には、それを真正面から受ける事しかできないから……


「構わない。

 それだけの事をしてしまったのだから」


ただそれだけを、沖本に伝えた。


「自覚してるなら、どうして……」


それを見た沖本は、驚いて思わず自分に問いかけてくる。

誤魔化しても気付かれると思ったので、正直な気持ちを出そう。


「中途半端な気持ちで付き合えば、

 もっと深く傷付ける事になる」

「それは……正論。だけど……」


沖本は納得して首を縦に振っていた。


「ただ、頭が回らなくて……

 言葉が、上手く選べなかった」

「そう……」


本当ならば怒鳴りたくもなるだろう。

沖本は手を硬く握り、震わせていた。


「それなら、暫くは小織に近付かないって約束して。

 破ったら藤山の事、絶対に許さないから」

「ああ……」


心配しなくても良い。

もう、二人と話す気なんて無い。

最初に戻った……それだけだ。


ただ、味気の無い日常に戻っただけ。

それが……今はとても、哀しい事に思えたのだった。



その日の夕方、千佳さんに呼び出された。

連れて行かれたのは、喫茶店。


「注文は……ココアで良いわね?」

「いつも通りで、お願いします」


この喫茶店で飲む暖かいココアは、美味しい。

だが、これから話さなければならない事を考えると、苦しい。


「どうして呼び出されたのか、心当たりはあるのでしょう?」

「大体は……自覚しています。

 だけどどうしてその事を知って……」

「その事は今は関係ないし、情報の出所を教えるつもりは無いわ。

 心配しなくても追々知る事になるから、今は忘れて」

「そう言われると、余計に気になりますよ……」


聞き出そうと思っても、恐らく教えてはくれないだろう。

こちらとしては、顔見知り程度ではないかと思っていたはずの、

千佳さんと榎木さんに接点がある事に驚いているくらいだ。

まあ、沖本経由で繋がりがあっても不思議ではないのだが……


「どうして振ったのか、教えてくれる?」

「それこそ千佳さんには関係ないはず……」

「残念ながら、少しだけ関係があるの。

 小織ちゃんは、朝葉様のお気に入りの娘さんなのよ。

 少しは気にしても不思議ではないでしょう?」


なるほど、それで……か。

つまりこの場合、背後には兄夫婦が構えている。

この僅かな間に皆の間で彼女は信頼を得ていた……か。


(これでは本当に、自分が悪者になってしまうな)


まあ、本当に悪者になってしまいそうな事をやっていたので、

自業自得でしかないのだが……


「理由がどうであれ、教えるわけには……」

「そうね……

 それなら、別の事を色々と教えて欲しいかな。

 あなたの恋愛観とか、一番知りたいかな」

「そもそも、恋愛ごとには興味なんて……」


本音を言うのならば、それはほんの少しだけ嘘が混じっている。


「無いとは、言わせないわよ」

「無いですよ」

「本当に?」

「もちろん」


あくまで冷静に、そう言っておいた。


「それなら、まだ可能性はあるのね」

「可能性?」

「小織ちゃんを、好きになる可能性」


そんな突拍子も無い事を考えられるとは……


「今はまだ、考えられない」

「今はまだ……なのね。

 そう答えられる覚悟はしていたけど、改めて聞くと切ないわね」


千佳さんは、ゆっくりと頷いてそう言った。


「自分にはまだ、恋愛をする資格が無いと思っています。

 恋愛はもっと、面倒な事を当たり前と処理できる、

 そんな大人の人間がするものではないかと……」

「そこから間違えていたのね。

 思ったより単純で、根深い問題ね……これは」


千佳さんが呆れていた。

なぜそんな反応をされるのか、自分にはよく解らなかった。


「とりあえず一言だけ言わせて。

 根が真面目すぎるのも考え物なのよ、解る?」

「それは、兄を見れば大体……」

「あなたの場合は隊長以上よ、

 私が言うから間違いないわね」


自覚はあまり無かったのだが……


「誰もが理詰めで恋愛なんかしてないわよ。

 好きだと思ったときにはもう手遅れ。

 その人の事が気になって仕方ないと思う瞬間から動いているの」

「恋愛なんてそんな面倒事に関わる気は……」

「恋愛を面倒だなんて言わないで」


兄夫婦の結ばれるまでを見れば、面倒だと思わないわけが無い。

それとも、それは違うと千佳さんは明確に断言してくれるのか。


「あなたがどれだけ関わる気を持っていなくても、

 向こうからやってくる事だってあるの。

 無意識の行動まで思い通りになんかならないわよ?」

「それでも、先のことを考えると……

 どうしても自分には、向かない気がする」


前々からそう思っているからこそ、

なるべく表に出ないようにしていた……つもりだった。


「もしかして、付き合ったら結婚が控えてると思ってる?」

「兄夫婦のその後を見たら、そう思ってしまうけど……

 そう思うのは間違いだろうか?」

「はぁ……」


千佳さんの大きな溜息が聞こえる。

ああ、ここまでしっかりと聞こえるようにやられるという事は、

相当自分は不味い事を言っているのだろう。

だが、それならどう答えれば……


「お菓子とかには詳しいけど、

 恋愛事に関してはさっぱりなのね……」

「兄の為に知らなければならない事は知った。

 だけど、自分にはまだその機会が来るとは思っていなかった」

「鈍感もここまで来ると、博物館物ね」


自分で口に出しながら随分と堅苦しい考えだと思っている。

何か、一つ一つは理想を追っている形なのに……

全体で見たら間違いなく滅茶苦茶なバランスになっている気がしてならない。


「誰かを好きになる事すら、忘れていたのね。

 ここまで来ると、小織ちゃんの告白を受けたとしても……

 暫くの間は待ったをかけておく必要があったわね」

「どうしてそこまで……」

「もう少し、色々な意味で成長しないと駄目よ。

 だから、まずは自分の気持ちに正直になる所から始めて」

「自分の気持ちに正直になる?」

「小織ちゃんが小銭を落とした時、どうしてすぐに助けれたの?」

「それは……」


ああ、なるほど。

千佳さんの言葉を借りるなら、あの時より前から既に動き始めていた。


(知らぬ間に近くに居た彼女の事が気になっていた)


だから、目を離せなくなっていて……

その日、自分は彼女を助けていた。

それから、喫茶店で沖本に呼ばれた時も……


全部、全部繋がっていく。

気にも留めていなかったはずの全てが……


(惹かれて、いたのか……)


そして一つの、答えとなる。


「さて、ココアはもう全部飲んだ?」

「ああ……

 だけど、気分が落ち着かない」


いつもなら、もっと落ち着いた気持ちになれるのに……


「そういえば、二人ともここで同じココアを頼んでるのよね……

 この前も頼んでたから、気に入ったみたいよ?」


ふと、千佳さんが呟く。


「彼女も、ここのココアを気に入っているのか」


気が付かなかった。

喫茶店で三人で話したときには、そこまで注視していなかった。


「もっとよく、見てあげたら?」

「そうする」


沖本には止められているが……

それならば、それなりのやり方で切り開いてみるとしよう。



千佳さんとは喫茶店を出てすぐに別れ、

帰り道を歩いていたのだが……


(あ、しまった……)


会計をまた全部千佳さんに出して貰っていたのに気付いたのは、

家の近くのコンビニに立ち寄った時だった。


入り口から離れた所に飾られているポスターに、目が行った。


(近日発売予定、『君想いマカロン』?)


また何か、美味しそうな物が出るみたいだ。

キャッチコピーがまた……独特だ。

気持ちが完全に定まっているわけではないけど……


(君に会いたい、だから君を想う)


もし発売されていたら……

買って、食べて、祈っていたかもしれない。


コンビニから、高校生くらいの女の子が出てくる。

その子とすれ違って、自分は店に……


(榎木……さん……)


その女の子は、すれ違った相手が自分だと気付くと……

そのまま走り去っていってしまった。


何事も無いかのように、自分は店内へ入った。

それしか、できなかった。



面倒だと思ってしまったから、大切な物に気付けなかった。


(後悔しても、もう遅い……)


受け入れられずに拒んで、振ってしまったのだ。

去っていく彼女を追う事など……できるはずがなかった。

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