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気になる気持ちは止められない!  作者: 空橋 駆
4章 世間は狭いよ本当に side:小織
13/21

12話 喫茶店の謎の店員さん

今日は久しぶりにお母さんのお見舞いに行く日。

暫くの間、お見舞いにお菓子を持っていかなくなっていたけど……


(失恋自体がどこか行っちゃったから、もう大丈夫だよね)


という事で、いつもみたいにあの洋菓子屋に行く事にした。


「いらっしゃいませ」


今日の店員さんは、千佳さんだった。

お客さんは、見当たらない。


「お決まりですか?」

「はい、これと、これと……」


わたしがケーキを選んでいると、お客さんがやってきた。


「いらっしゃいませ……って、早かったわね」

「約束通り来ましたよ、千佳さん」


本当にまた、偶然のようなタイミングで……

わたしと彼は、一緒のお店に居た。


「こんにちは、智樹さん」

「おっと、こんにちは榎木さん。

 今日はお見舞いの日だったのか……」

「そうです」

「あら、顔見知りの人だったのね」


わたしと智樹さんが話していると……

千佳さんが、その姿を見て話しかけてきた。


「もしかして、あなたが榎木小織さん?」

「あ、はい、そうですけど……」

「唐突かもしれないけど、これを受け取ってくれる?」


手渡されたのは、一枚のメモ用紙。

”私の仕事が終わった後に、話をさせてほしい”と書いてあった。

時間と、連絡先も……


「その紙の通りに動いて欲しいの。

 大丈夫、危害などを加えるつもりは無いわ」

「見ず知らずの人に従うつもりはありません」


わたしは明確に、拒絶した。


「ちょっと強引なやり方で、ごめんなさいね。

 でもこれはあなたの事をよく知っている人達からの要望……」


それを見ていた智樹さんは……


「怪しい事を言って、わたしに何をさせたいのですか?」

「そうね、まだ名乗ってすらいなかったわ。

 高屋千佳、覚えておいてね」

「見ず知らずの人にと話したいとは思いません。

 一体何を企んでわたしに……」

「女同士の話になるから、この件には口を挟んで欲しくないのよ。

 今回が無理ならいずれ家に押しかける事になるけど……

 それはちょっと、こちらとしても避けたい所なの」


一方的に事を運ぼうとする千佳さんという人に……

わたしは、ちょっとだけ嫌な思いをしていた。


「それでも、わたしはこんな物を受け取るつもりは……」

「残念ながら、詳しい事を伝えるのは禁止されてるの。

 だから、後でその紙の上の方に残った筆跡を浮き出させてみて。

 依頼してきた人の名前を見たら、納得すると思うから」


信じたくは無かったけど……

そう言わないとケーキを渡してくれなさそうだったので、

仕方なくメモ用紙をポケットに入れて、お会計を済ませて店を出た。



不審な事があったのを気にしながら、病院にやってきた。

誰かにつけられているとか……そこまでは、無いと思う。


「お母さん、お見舞いに来たよぉ~」

「久しぶりね、元気にしてた?」

「うんっ!」


順調に回復しているお母さんをみると、とても安心できる。

先程の洋菓子屋さんであった事を忘れたくなるほどに……


(筆跡、浮き出させてみたら……)


罠かもしれないと思った。

でも、その人は釉の知り合いだから……


「お母さん、鉛筆ってある?」

「そこに置いてあるから、使って」


鉛筆を借りて、メモ用紙の上の方を塗ってみる。

見知った名前が浮かび上がってきた。


(え、釉と……あさおねーさん?)


「小織、何かあったの?」

「う、うん……

 ちょっと驚いただけだから、心配しないで」

「悪い事じゃない?」

「予想外な事……かも」


つまり、わたしが千佳さんと話す事を……

あさおねーさんだけではなく、釉もお願いしていた。


(行った方が良いよね……)


そう思ったわたしは、病院から出て一度帰宅した後、

着替えて洋菓子屋の裏口にて待つ事にした。


「お待たせ、信じて来てくれてありがとう。

 本当は朝葉様の名前は出したくなかったのですが……」

「わたしは、あさおねーさんの名前があったからここに来ました。

 そうでなければ……」

「本当に、朝葉様の事を慕っているのね……

 こんな所でする話では無いから別の場所に行くけど、良い?」

「はい、常識的な場所なら構いません」


心のどこかでは、まだ千佳さんの事を信じられていなかった。

だけど、その後わたしがこのお姉様に全幅の信頼を寄せる事になるとは、

今の瞬間からは、考えられなかったと思う。



連れてこられたのは、喫茶店。


「ここ、知ってます」

「沖本さんの娘さんあたりに連れてきてもらってたの?」

「はい」


そして、ここは智樹さんの名前を知った場所。

席に座ると、あの時のことが頭に過ぎってくる。


「注文はどうするの?」

「ココアをください、温かいので」

「あら……」


注文を取りに来た店員さんが立ち去って、千佳さんの方を向く。

かすかに微笑んでいた。


「ココア、好物なのね」

「はい、温かいココアを飲むと落ち着くんです」


それを聞いた千佳さんは、笑顔になっていた。


「朝葉様の見立ては間違っていないみたいね。

 予想以上よ。間違いなくお似合いの二人になるわ……」

「えっ?」


先程までの重そうな雰囲気が一気に消え去った気がした。


「単刀直入に聞かせてもらって良い?

 智樹君の事、気になるのでしょう?」

「そ、それがどうしたのですかっ……」


いきなり核心を突かれてしまった。

焦ってしまい、ちょっと語尾が上ずってしまう。


「その反応、図星だったみたいね。

 認めちゃった方が、この後の話がスムーズになるからここは認めちゃってね」

「そ、そんなっ……」


だけど、図星だから否定できない。

なんか、さっきまでの真剣な話し方が崩れてるし……


「告白、手助けしてあげるわよ。

 もちろん、その時は朝葉様や沖本さんの娘さんも、

 陰ながら手伝ってくれるから安心して」

「それは……」


わたしは、悩んだ。

人に頼ってしまって、良いのかなって。

だからわたしは、言い訳をしようと思った。


「まだ、智樹さんの事……

 よく知らないのに、告白なんて……」

「それもそうね……」


千佳さんは、がっかりとしていた。

好きだけど、本当はやっぱり好きなんだけど……


「今は、この関係を壊したくありません。

 もっと時間を掛けて仲良くなってから、

 わたしは改めて告白したいと思っています」

「解ったわ。

 その気持ちは、汲み取ってあげないといけないわね」


穏やかな笑顔で、千佳さんは言った。


「それに、あえてお節介を焼かない方が良い……って、

 一応忠告されているから、今回は諦めるわね」

「今回は……ですか?」

「そう、朝葉様と同様に遠くから見守るの。

 何かあった時は、いつでも力になってあげるわ。

 全幅の信頼を置いていただいている以上、それに応えないと」


あさおねーさんが、全幅の信頼を置いている人。

それを聞いて、わたしは千佳さんの事を信じても良い人だと……

改めて、そう思う事ができた。


「朝葉様からのご依頼なのよ。

 だからこそ、小織ちゃんには後悔して欲しくないの。

 相手が……相手だから余計にね」

「どういう意味ですか、それって……」

「彼は、ああ見えて本当に自分の恋愛ごとには本当に笑えないくらい鈍いの」

「嘘ですよね、それ」


そんな事、信じたくなかった。

女性を避けているみたいではなかったので、尚更そう思った。


「いいえ、本当なのよ」

「それは、千佳さんの経験からですか?」

「違うに決まってるでしょ……」


智樹さんの片思いとかそういうのでもなくて……

何か、嫌な予感がしてきた。


「兄夫婦のあんな仲睦まじい姿を近くで見てるのに、

 当の本人は恋愛する気なんてありませんなんて宣告してるのよ?」

「そんな事言ってたんですね……」

「だから、まずは意識させないと何も始まらないわ」

「そんなに……」


それが本当なら、わたしの恋って……


「早いうちに告白だけでもした方が良いわよ。

 それだけでも、あなたを意識させる事ができると思うから」

「アドバイス、ありがとうございます……」


前途多難だと……思った。

それに、そんな勇気なんて……


「それと、今日の御代はこちらが払うわね。

 ちょっと長い時間、話に付き合わせてごめんなさい」

「いいえ、色々と重要な事を聞かせていただきました。

 お陰さまで、ちょっとだけ勇気が湧いてきました」


その半分以上は、空元気から作られてるけど……


「帰りは、途中まで送ってあげるわね」

「はい……」


千佳さんに案内されながら、わたしは帰宅した。


ベッドに倒れこんで……

わたしは、千佳さんから聞いた話を理解するために、ずっと考えた。

考えても、考えても、わたしは……


(智樹……さん……)


やっぱり、この初恋は……

実りそうに無いのかなって、思い始めていたのだった。

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