11話 新たな関係出来上がり
今日も今日とて、授業が終わる。
「それじゃ、今日は部活だから……」
「うん、また明日ね~」
残念ながら、今日はわたし一人で帰らないといけない。
そう思っていたら……
「待ってたよ、小織ちゃん」
「あ、あさおねーさん……」
帰宅しようと思っていたところを、
唐突に現れたあさおねーさんに呼び止められた。
「色々と話したい事があったから、
先回りして大急ぎで待ってたよ」
「あ、ありがとうございます……」
確かにそれは嬉しいけど……
今日再会して、その日のうちにこの行動。
わたしの記憶の中にある、以前の先輩と比べると……
行動力が間違いなく高くなっている気がする。
「そ、れ、とっ……」
「な、何ですか?」
「今日は会わせたい人がいるから、
忙しくなければ、是非とも一緒に来て欲しいな~」
きっと、そこで会うのは彼氏さんだと思う。
多分緊張してしまうから……逃げたくなってきた。
「温かくて美味しいココア、今度奢ってあげるから」
「え……」
「好物だよね」
「はい、覚えていてくれたんですね」
先日の喫茶店でも頼んでいたけど、わたしはココアが愛飲しています。
特に、温かいココアは最高なのですが……
「でも、物で釣られる気はありませんよ?」
「そういうと思ってた。
だから、私は強制はしないって言ったはず。
決めるのは小織ちゃんだからね」
「え……あ、はい」
その時のあさおねーさんの表情は、
今まで決して見たことが無かった、真剣な物だった。
「もし付いていくとして……
あさおねーさんの彼氏さんに会いに行くのですか?」
「それもあるけど、それだけじゃないよ。
他にももう一人いるけど、気にしなくて大丈夫。
「そう……ですか……」
正直、そんな所に足を踏み出すのは怖い。
そう思っていると、あさおねーさんに頭を優しく撫でられた。
「心配しなくても大丈夫。
昼の時に話した、小織ちゃんの事を教えてくれた人だよ」
「それって、藤山くんですよね」
「あ、そうだったね。顔見知りだったのをすっかり忘れてた……」
何となく、冗談に……聞こえないのが困るよね。
「お待たせ~
小織ちゃん、連れてきたよ」
「え、えっと……」
わたしの前には、二人の男の人。
片方は藤山くんだから、もう片方は多分あさおねーさんの彼氏さん。
「緊張しなくて良い。
俺は、藤山晴樹。君の名前は?」
「榎木小織……です」
緊張して上手く声が出ない。
変に思われていなければいいけど……
「朝葉の中学時代の後輩と聞いていたが……
なかなか可愛らしい娘じゃないか」
「え、あっ……ありがとうございます」
「中学時代より可愛らしくなったと思うよ、私も。
あさおねーさんは、綺麗になったと思います」
「えへへ……ありがとう、小織ちゃん」
晴樹さんは、何かとても優しそうな人だった。
二人並んでいる姿を見ると、本当にお似合いです。
「羨ましいなぁ……」
「ん、何か言った?」
「え、いえ、何も……」
思わず呟いてしまったのを、あさおねーさんに聞かれていた。
わたしは、何も答えられなかった。
「弟とも面識があると聞いた。
あいつに女友達なんて少ないだろうから、仲良くしてくれると助かる」
「余計なお世話ですよ、兄さん」
今まで一言も発してこなかった藤山くんが発言したのを聞いて、
わたしは思わず、そちらに顔を向けてしまった。
「わたしは、別に構いません。
藤山くんとお話しするの、楽しいです」
「なっ……」
思わず本音が漏れて……
藤山くんが硬直していた。
「ふーん、なるほどなるほど」
「ほう……珍しい反応をする」
それを見て首を振り合ってる先輩さん二人。
「小織ちゃん、一つ提案なんだけど……
弟くんの事、名前で呼んであげた方がいいかも」
「えっ……
そ、そんなっ……」
まだそこまで仲良くなっていないと言おうと思ったら……
「勘違いしては困るから言うのだが、一応俺も智樹も同じ藤山なんだ。
一応、兄弟だからな……」
そっと藤山さんがわたしに注意してくれた。
「”さん”と”くん”の呼び方の違いで判断するの、大変だと思わない?」
「そういう事ですか」
確かに、苗字だけしか言わなかったらどちらを指すのか判らない。
ちょっと緊張するけど、仕方ないよね。
「弟くんも、それでいいよね」
「断ったら斜め上の呼び方を提案されそうだから、
自分はそれで構いませんよ」
その、あさおねーさんが提案する斜め上の呼び方が気になったけど、
名前で呼ぶことを許してもらえたのは、嬉しかった。
(釉は苗字を呼び捨てだもんね……)
少しだけ、仲を深められそうな気がした。
「ということで、改めて……
智樹さんと呼ばせていただいて、良いですか?」
「別に構わないよ、榎木さん」
千佳さんという人みたいに、名前では呼んでくれなかった。
ちょっとだけ、寂しく思った。
「お兄さんの方は……」
「智樹と判別が付くなら、好きな呼び方で構わないよ」
「それなら、藤山さんとそのまま呼ばせてください」
「ああ」
あまり喋らない人なのか、静かに頷いていた。
「滅多に女の子と喋らないから緊張してるでしょ……」
「う、うむ……
やっぱり見抜かれていたか」
「兄さんらしいな……」
「智樹も人の事をあまり言えないだろう」
「小織ちゃんはどう思う?」
三人の会話を聞いていて、その雰囲気が良いなぁって思っていたら……
あさおねーさんがいきなりわたしに話を振ってきた。
「わ、わたしはまだあまり智樹さんのこと知りません」
これから色々と知ってみたいと思います。
知ったら、もっと好きになれそうな気がします。
「それにあさおねーさんと藤山さんの事も、
友人に聞かされて知ったんですよ?」
「聞いた相手は沖本だろうね。
千佳さん繋がりだから色々聞いていても不思議とは思わないよ」
「あら、そこに繋がってるんだ」
「ほう……」
その、千佳さんという洋菓子屋の店員さん。
とっても重要な人ではないかとは思ったけどよく知らない。
「なら、二人が出会ったのって……
もしかして、千佳さんの勤めてる洋菓子屋?」
「最初に会話した場所……と取るなら、そこになる」
でも、本当は……
それまでに何度も、すれ違っているような気がする。
「なんか、そう考えると運命的だと思うよね……
ところで、弟くんって彼女いたっけ?」
「いませんよ……って何をいきなり聞いてますか、義姉さん」
うろたえる智樹さん。
(彼女、いないんだ……)
わたしにもまだチャンスはあると思うと同時に……
「義姉さん?」
「あ、しまった」
気まずそうな顔をする智樹さん。
目を閉じて何も聞かなかった事にしようとしてる藤山さん。
「あさおねーさん、これはどういう事ですか?」
「小織ちゃんになら説明してもいいかな。
本当はあまり教えない方が良いんだけど……」
「朝葉の好きにしたらいい。
実際は誰も言わないから広まっていないだけで、皆感付いていそうだからな」
つまりわたしは、その辺の噂にとても疎いってわけです。
仕方ないよね、情報収集は釉が得意だから任せちゃってるし。
「実はね、晴樹さんと婚約済みなの」
「で、自分からすれば、未来の義理の姉さんになる」
「そうだったんですか」
不思議と納得できたのは、この場の雰囲気が和やかだったからかもしれない。
だって、先程から先輩二人がべったりとくっ付いて……
「あまり驚いてないよね……」
「そのラブラブな姿を見たら、誰も疑わないと思います」
「榎木さんもそう思ってくれるのか……
有難いね、味方が一人増えてくれた」
「それは喜んでいいのか微妙かも」
智樹さんと仲良くなるには嬉しい方向性なのに、
素直に喜んだら色々巻き込まれそうな気がして……
思わず、本音が出てしまった。
「さて、そろそろ時間かな。お開きにしよう。
話し足りなければ、また改めて時間を作れば良い」
「うん、もうこんな時間だよ……
ということで小織ちゃん、これからもよろしくね」
「はい、皆さん……
これからも、よろしくお願いします」
わたしは、皆の前で一礼した。
「帰り、途中までは一緒だけど……」
「そろそろ友人が来る頃なので、その人と一緒に帰ります」
「うん、それなら、またね」
あさおねーさん達と別れて、わたしは校門で待つ事にした。
暫くして、釉がやってくる。
「あれ、こんな時間まで残ってたの?」
「うん、色々あって……」
「もしかして、三野先輩と話してたのかな?」
「ううっ、鋭いよ……」
「あれだけ気に入られているのを見たら、
それ以外に思いつけないかな、普通は」
しっかりと見通されていて、相手の感想まで聞かれましたとさ。
だけど、あさおねーさん達と話した内容は……
最後まで、何一つ聞かれる事無く帰宅していたのだった。
多分、気を遣ってくれたのかもしれないけど……
全く何も聞かれないと、それはそれで寂しかったのは秘密。




