そして、僕は途方に暮れる 前編
CM撮り前のアイドルの苦悩編。
「なあ、何で?このシチュエーションが俺?」
「決まった事だしさ」
「ファンの意見を無視するのか?」
「仕事だ。やれ」
「頑張れぇ~~」
俺は頭をかきむしる。本気で悩む俺をニヤニヤしながら見ている奴らに正直に言わせてもらうと腹が立つ。
そして、テーブルの上に置いてある、ケーキのパッケージをツンツンと突く。
このケーキ…初恋ショコラが俺の最大の敵になるとは、その時は思わなかった。
そもそもは、全国展開しているコンビニチェーンの新商品。
そして、広告代理店を通じて俺達の事務所にオファーが入った。
そこまではいい。そして、その仕事が俺ら…アイドルグループ『ビビッド』に割り振られたのも、別にいい。
メンバー一人ずつ違うCMなのも、気にはならない。そういうの前にもあったし。
なのに…なのに、一番女性に縁がないとメンバーもファンも認めているであろう俺…樹にベタな恋愛シチュを求めて来るんだ?
「で、コンテによるとだな、彼女とのティータイムににじり寄ってコピーを耳元で囁く…と」
淡々とコンテを読んでいくのが、昌喜。
「とりあえず、言ってみなよ。ほらっ」
「けっ、ケーキと…おおっ…」
「はい、だめ。もう一度」
「ケーキと俺の…うわあああ!!」
俺はやっぱり恥ずかしくなって読んでいた台本を落してしまった。
「あのさあ、樹の気持ちは分かるけど…。ごめん、やっぱ…無理。ぎゃははは…」
俺に同情しつつも、笑い上戸の昌喜は笑いだした。
いつもはこいつが収録の足を引っ張るって言うのに。
「言うな!!頼むから!!言うな!!」
「俺も気持ちは分かるけど…ここまで噛むのは、それ以前の問題」
「うう~~」
俺に反論の余地すら与えないのは楓太。
「やっぱり、マネージャーと相談だ」
「…だな。CM撮りまでには形にしておかないと」
スマホでマネージャーに連絡しているのは、瑞貴。いつもマネージャーは同行だろ?どこと通話していやがる?
一方の祐樹は俺のスケジュールを確認して。おおっ、明日の午後がオフだってさ。俺達はCM撮りだってのに…って文句を言いつつ瑞貴に伝える。
この二人…実は二卵性の双子。顔は似ていない癖に性格は二人揃って策士ときている。
「了解。それじゃあ、よろしくね」
瑞貴がようやく通話を終えた。すっごく、嫌な気がする。Bダッシュで逃げだしたい位に。
「樹!!喜べ。明日のオフに特訓だ!!」
何?オフに俺に何をしろと?
「今のままでいいと思うのか?」
「そっ、それはマズイと思う」
「子役から仕事してるから、樹は本当に恋愛初心者だからさ」
うっ、それを言われると更に辛い。俺がこの仕事を始めたのは、児童合唱団に入ったのが最初。
そこから子役のオーディションを受けて、気が付いたらアイドルになっていた。
今18歳だが、子役になったのが8歳だから既に芸歴10年だ。
今までは、青春ロマンスってタイプの役がせいぜいだったから良かったが、今回はそうはいかない。
それよりも、これ以上のダメージに耐えられるのか?俺のHP(笑)
「だから、俺らがCMを乗り切る為にサポートするよ」
サポートだあ?更に嫌な予感しか俺はしないぞ?本当に大丈夫か?
「まずは、明日の午後に事務所に行って…」
「バックアップの里美ちゃんと練習ね。社長の許可もあるしさ」
目の前が真っ暗ってこの事をいうのか?俺らビビッドのマネージャーは二人。
一人はいつも同行してくれるマネージャー。ちなみにこの人は男性だ。いつもは気のいい兄貴で頼りになる。
もう一人のバックアップは主にスケジュール管理と事務処理担当。…で、この担当が里美ちゃん。
里美ちゃんは、元々は同じ事務所でモデルをメインに活動していたが、大学卒業を切っ掛けにマネージャーに転身した。
ちなみに、そんな彼女に俺が恋心を抱いている事は、メンバーに知られている。
絶対に、皆して面白がっている。何が楽しくて好きな女を相手に練習しなくてはならないんだ?
本当に頭が痛い話だ。
「いいなぁ。樹。俺得で」
「これでフラグ立てなきゃチキンだよね」
「事務所のレッスンルーム抑えたから。キスしちゃだめな」
「だからって、押し倒すのはそれ以前だし」
メンバーが言いたい放題に俺に向かって言ってくる。
誰が、誰に見られるか分からない所できっ、キスしたり…押し倒せるかって言うの。
「明日…オフじゃなくていい。仕事したい」
俺は思わず本音を漏らす。こんな公開処刑みたいな練習ごめんだ。
「明日じゃなければ、いつ練習できるの?それともリテイク大増産したい訳?」
リテイクの大量発生…そっちの方が余計に嫌だ。こうなると腹を括るしかないのか。
俺は大きく溜め息をついて、天井を見上げるのだった。
誰だよ…こんな企画通した奴。責任者出てこい!!
続きは後編に続く…かなぁ?




