ケーキが買えなかったその次の日
『会いたい時にあの人はいない』の続編になります。
ケーキが買えなかった二人の翌日の風景。
「おはよう、ちい」
「おはよう」
掠め取る様なキスが唇に落ちる。通りからちょっと中に入った玄関だから通りの人に見られる事はない。
付き合い始めて早い時期からの私と彼の朝の習慣。
「遅れるよ。そろそろ行こうよ」
自転車を通りに出そうとしている私は彼に自転車に向かう様に促す。これも私の習慣。
「じゃあ……もう一度」
彼に抱きよせられてから、さっきより少しだけ長いキスをする。
「今日のパワー充電完了。駅まで行こう」
皆が騙されるキラキラの笑顔を貼り付けた彼が自転車に向かった。
顔を真っ赤にした私を放置したまんまで。
昨日。彼の部活の練習試合を見に行った。進路も決まってビリーと暮らす家の決まりつつある2月上旬。中のいい同級生は試験本番だ。
私と同様に推薦入試で合格している太一は家の都合で都内の実家に帰っている。
今度こっちに帰ってくるのは、来週末の高等部の入試の立ち会いと卒業式前の2日間と聞いている。寮の方は既に引き払っていて、理事長の家から通学するらしい。
今は違うだろうけど、元は親子だからそんなに気を使う事はないと思うけどね。
ぎこちない理事長と太一の姿を見ているのは微笑ましくて好きだ。
「今日は?」
「今日は……生徒会室で待っているね。来年度の予算案の引き継ぎ前に資料を確認したいから」
「そっか。悪いな。最後まで」
彼は私に頭を下げる。生徒会役員の任期は1月末まで。私が細かいフォローの一切を受け持つことで皆が役員の引き継ぎで学校に行く手間を省いている。
「仕方ないよ。その事には怒っていないよ?家にいてもつまらないもの。会計監査に関してはまながちゃんとやってくれるって言うから試験が終わるまで待ってね」
「まな先輩って、どうなっているんですか?」
「うーん、あの子はね、どうも太一の実家の側の大学に通う事になりそうね。昨日合格通知が届いたって言っていたから。それにあの大学があの子が受けた中では一番ランクが高いから」
「ってことは、理科大理学部?」
「そうよ。でも実験が多いから家を出ることになるって言っていたけど」
「そうなんだ。大変だね。女の子の一人暮らしって」
「なんだけども、太一の家の不動産屋さんに既にお願いしているんだけども、ひょっとしたら太一の家に下宿するかもしれないって」
「えっ?それって何?」
私はその経緯を聞いているから何とも思わないんだけども、とも君は気になるようだ。
「ねえ、太一のおじいちゃんが元国会議員さんなのは知ってる?」
「うん。それは知っている」
「その時に、秘書さんが住みこんでいた部屋があるんだって。それにあの二人ちょっと……ね」
「それって……そういうこと?」
「将来込みで予定って所じゃない?それに太一のご両親が一人暮らしするより安心だろうって、まなのご両親を説得したのよ」
「で、まな先輩は?」
「甘えていいのかなって躊躇っているけど、東京の家賃高いからいいんじゃないかなって思うけどね」
私としては、二人がどんな関係であれ、仲良くしていて欲しい。
二人とも私の大切な理解者だから。
「ふうん、寂しい?それじゃあ、アッキー先輩は?」
アッキー……章代か。あの子が一番最後まで試験なのよね。
「章代が一人だけ国立受けるのは覚えている?」
「うん、小学校の先生なんでしょ……キャラが違うよね」
「それ本人に言うと、蹴られるから言っちゃだめよ」
「はいはい。健先輩は?」
「たけちゃんは、外語大の推薦決まっていて、駅の側に部屋を借りるんだけども……こないだ聞いた時は、部屋のテレビの配置で喧嘩したって聞いたけど」
私が二人の近況を告げたら、とも君はああって顔をする。
私達より前に付き合い始めた二人は、トムとジェリーのような関係。
喧嘩するほど仲がいいって訳で、なんで私と章代がたけちゃんと取り合っているという噂が飛び交っていたのかが今でも不思議だ。思い切り事実ではない。
「で、あの話は本当なの?」
「本当よ。あの二人が結婚するのはね」
「冗談だと思っていた。瀬尾が言っていたのは本当だったのかよ」
「そっか。瀬尾君は、章代の家のご近所さんだものね」
「もしかして……できちゃったの?」
「まさか。それはないと思うけど。私も避妊具クリスマスにあげた位だし」
「ちいちゃん……それって……」
とも君が頭を抱えている。気持ち分かるけど、家族計画の半分は周囲の愛だと思うよ。
「それはない。けど、付き合い始めから結婚を前提だから大学でたけちゃんが家を出るから同棲よりも結婚でいいだろうって事で決まったのよ」
「アッキー先輩大学は?」
「国立残っているけど、たけちゃんの大学の英語学科受かったからね」
「ふうん。ちいちゃんは……やっぱり気になる?」
「何が?」
「皆がそうやって決まっていくの」
気にならないと言えば、嘘になる。そんなこと気にしても私にはどうにもならない。
私達の年の差なんて、たいしたことないんだから。
「皆は皆よ。とも君、焦る事なんてないよ。後1年だけ。そうしたら一緒にいる時間も増えるよ」
「俺が部活やっているから……」
とも君がネガティブ思考に陥っている。こういう時は何を言っても無駄だなのは分かっている。
私は彼の頬を両手で軽くパチンと叩いた。
「前だって、離れた1年あったじゃない。今度は私が待つ番よ」
私がそう言うと、彼は目をぱちぱちとさせている。
男の子なのに、まつ毛が長くて羨ましいなあとのんびりと彼を眺める。
「ごめん。今一緒にいられるだけでも幸せなのに……」
「そんなものよ。もっと幸せになりたいって思う事を私は責められない」
座っている彼の肩を私の方に押し寄せる。少しだけ空いた背中の隙間に手を伸ばして
トントンと撫でる。私達は大丈夫って言葉を隠して。
その後は、自然と言葉が少なくなってしまった。
電車を降りて、バスに乗って、学校のすぐそばのバス停で降りるのがいつもの習慣。
でも、昨日学校の側のコンビニに寄るって言っていたから、その一つ手前で降りないといけない。
私はコンビニに寄るのかどうか分からなかったから、とも君に確認することにした。
「ねえ?コンビニどうするの?」
「そうだったね。忘れていた。それじゃあ、次で下りようか」
彼がバスのブザーを押して、私の手を引いてバスから降りる。
付き合うようになってからいつもこうやって下りたりするから慣れつつあるけど、同じ学校の後輩たちの目線は痛い。気持ちは分かるけど。
嫌なら、真っ向から向かってくればいい。その方が気分的に悪くないから。
前の私なら、逃げていただろう。でも今は違う。彼と一緒に並んで歩くって決めた。
もう、彼の手を手放すなんて絶対に出来ないから。
彼と一緒にいるようになって、2カ月。私の生活の深いところまで彼は入り込んでいる。
なくてはならない存在……それが私にとっての彼になる。
目的のコンビニ店に足を入れると店員さんの明るい声が聞こえる。
が、この声はこの3年間で聞きなれたものだった。
「おはよう。ちい。自由登校なのに学校か?」
「うん、家にいてもすることないから。学校で生徒会室の整理とか進路指導室の生理の手伝いとかを午前中にしているの」
「って言いながら、本当はダーリンと一緒にいたいのってところじゃねえの?」
「今井君、そんなまで酷くないもの。あんまりよ」
そう、アルバイトしているのは、最初にこの学校の男子で仲良くなった今井君。
今井君は、自己推薦を使って都内の大学に通う事が決まっている。
幼馴染兼彼女候補の佐藤さんも……こう言うと佐藤さんは困っているけど、満更ではないんだよね……同じ学校に進学が決まっている。ただ、今井君は経済学部で佐藤さんは医学部。佐藤さんとは1年だけしか一緒じゃなかったけど、私達と一緒に過ごす事も多かった友達の一人。
「ちい?今井先輩と一緒の方が楽しそう」
隣でとも君がポツリと呟く。久しぶりに会った同級生と話すのは仕方ないと思わない?
「ごめんね。仕事中に」
「いいや。俺さっき仕事終わったところだから。これから家帰って寝るんだ」
今終わったって事は、深夜勤務をしているんだ。確かに時給もいいものね。
「そっか、お疲れ様。またそのうちね」
私はそう言ってから、彼の制服の裾を引っ張って店内の奥に移動する。
この店の奥がデザートスペースだ。えっと……初恋ショコラ……あった。
陳列されているモノを二つ取り出して、籠に入れる。他に紙パックのコーヒー牛乳とキャラメルを一箱入れる。
とも君の方は、雑誌の棚の週刊誌をパラパラめくっている。
本当は一緒にいたいんだけども、照れ隠しでそうやっているのを私は知っている。
「とも君は欲しいものないの?一緒に買っちゃうよ」
「うーん、チョコレート入れておいて。それと俺もコーヒー牛乳飲もうかな」
雑誌から目線を移さずに私に答える。それだけ聞ければ大丈夫。
私は頼まれたものを籠に入れて、それとは別にツナサンドを一袋入れた。
「お待たせ。学校に行こう?」
「ああ。今朝は食べたのか?」
「ううん、食べてないからツナサンド買った。半分食べる?」
「そうだな。とりあえず寒いから少しだけ早く歩くぞ」
「分かった」
私が買った商品の袋を彼が持って、開いている手で私の手を捉える。
「いいだろ?」
いつもならこうやって確認しないのに、今日はちょっとだけおかしい。
昨日、私と別れてから何かあったのだろうか?
その話は後でゆっくり追求すればいいかな。
私達は生徒会室に一緒に入る。今の私の生活のメインは生徒会室だ。
2月は3年生は自由登校になっている。直君がいた去年までは2月の頭に卒業式があったのに、今年度から変わった校長先生の一存で3月の中旬に卒業式が変更になった。
しかも、変更したその日が国立大学の後期試験当日なので、国立組の出席率は更に下がるだろうと思う。
そのせいか、推薦合格組の私達に先生達はかなり五月蠅い。
家にいても暇なので、週に2日アルバイトを入れて、午後から事務所に行く日もある。
週末は土曜日だけにして、日曜日は彼と過ごす時間に替えた。
昨日は練習試合だというので、お弁当と差し入れをたくさん作って応援と称して見に行ったんだけど。
一緒に行っても、やれる範囲のお手伝いはできるので、2年生のマネージャーさんに聞きながらコールドスプレーを出したり、テーピングを巻いたりしていた。
最初は出来なったテーピングも、直君に鍛えられたお陰で手慣れたものだ。
お昼すぎになると、試験が終わった3年生も顔を見せにやってきた。
マネージャー見習いをやっている私に気がついていきなりお説教しているし。
でもね、2年生はともかく1年生のマネージャーは使い物になってないから手伝ったのよと
真相を明かすと、彼らは頭を抱えた。2年生達が指導しても向上の兆しがないとか。
最終的に、3年生グループといて欲しいと彼に言われてしまう。
彼の試合中に、その事で散々からかわれたのは嫌だったけど。
試合を見ながら互いの近況報告をしたりしていた。
皆、実家を離れるのだそうだ。私もそんな一人だけども、今日のメンバーはそこまで話せる程親しくないから言う必要はないと思っていた。
「ちいちゃんさ、広瀬とどうなの?」
「どうなのって?」
「デートしてる?」
どうしてもそっちの方向に話が移りがちで。彼に八つ当たりが来ない方向で答える。
「部活もあるし、私もアルバイトあるから何処かに行くってのはないけど?」
「ちいちゃんは、それでもいいの?」
「うん。付き合う前もいろんなところに行ったもの」
「それはデートじゃないの?」
「どうなのかな?誘われないとどこにも行かないから助けてもらった様なものかな」
基本的に外出するのは好きではない。ぼんやりと過ごすのが好きだ。
彼と付き合いだしてからは、出かける週とお家にいる週をちゃんと分けている。
平日がもっぱら私の家で復習&宿題&夕ご飯だから週末は外出しがちなんだけど。
「……で、あいつとどこまで?」
「ノーコメント。っていうか、そう言う事は秘め事って言うじゃない」
私はきっぱりと言って返す。私達がハグしたりするのは既に知られているのでそれ以上の回答が欲しいのだろうけど、絶対に教えてあげない。
「ケチだな」
「あのね、人から聞いて耳年増になるんじゃなくて、経験値を上げる方が重要だと思うけど?」
皆にとっては痛い一言だろう。私がそう答えた時にバスケ部の顧問と目があった。
「佐倉……その答えは先生もドキッとするぞ」
「そうですね。校則に触れるような事はしていませんよ。以上です」
「それはそれで可哀想というかなんというか」
男子が一斉に頷き始める。何か失礼だな……全く。
「だったら、逆に質問。肉体関係にあって、仮に彼女が妊娠したらどう対処するの?」
「えっと……それは……その……」
「そのビジョンが明確でないのに、そういった事に興味を持つのって無責任だわ」
「じゃあ、ちいちゃんは?」
「私は育てたいから、結婚したい。その為にはパートナーも法的に結婚できる年齢じゃないとダメなんだと思っているけど?」
もしも、妊娠したら育てたい。やっと自分の家族が久しぶりに出来るんだもの。
堕胎なんて選択肢……私には最初から存在しない。
「あいつはどうなのさ?」
「さあ?聞いた事ない。まだ、彼はその年齢に達していないじゃない。第一、彼の人生プランに私は歩み寄っていない。そこからでしょ?まだ先の話だね」
私は一方的に話を切り上げた。その後は、くだらない話題を話しながら過ごしたのだ。
彼が帰ってから異変が起こるとしたら、その中のお節介がご丁寧に報告した位。
直君は戻ってきているけど、私達の邪魔はしない。今まで以上に過保護だ。
そんな事をしそうなのは……一人くらいしかいない。
彼を元に戻す方法は分かっている。方法を間違えなければ大丈夫なはずだ。
やがて、生徒会室の前に着く。彼がカギを開けて先に入ってエアコンのスイッチを入れる。
私はドアの側の電気をつけた。
「とも君、将来どう思っている?」
「ちい……気が付いたの?」
「もちろん。昨日の夜ね。彼でしょう?彼なりに心配しているんだよ」
私は会長の机に荷物を置いて椅子に座った彼の側に近寄る。
「俺……ヘタレ?」
「違うでしょう?私が妊娠したら、学校辞めれる?無理でしょう?」
「うん、それはちょっと嫌」
「だったら、その時じゃないの。それだけよ。私の夢はね、家族と暮らす事なの」
私は始めて自分の夢を話す。彼が目を見開いた。
「できれば、その相手は……今はとも君の予定なんだけどね」
「いいの?俺で?」
「うん。そのままの私でいいんでしょ?背伸びする事も大人ぶる事もしなくていいんだもの」
「ちいちゃんは、ちいちゃんのままでいい。だったら俺もちいちゃんと結婚したい」
「分かった。18歳になったら、婚姻届を書こう。それで二十歳になっても気持ちが変わらなければ、とも君の誕生日に入籍しよう?どう?」
「それでいいの?俺年下だよ?頼りないよ?」
体は大きいのに、ちょっと気弱な発言をする。本当は誰よりも優しい人だもの。
そんな彼にデコピンを一つ。
「いてぇ」
「学年が一つ違うだけでしょう?高校でたらたいしたことではなくなるわ」
「本当に?」
「大学に行けば浪人した人もいるわよ。ね、気にならないでしょう?」
「でも……もっといい人が……」
「あのね、私の専門学校は共学だけども、秘書科はね女子だけなのよ」
「へ?女子校……女子……なあんだ、ははは」
彼は笑いだした。私は意味が分からなくてポカンとするだけだ。
「先輩がね、ちいちゃんは女の子らしいけど男前だから専門学校でモテモテだろうなって」
「はあ……ってか、男前って何?」
「それにさ、部の連中だってさ……」
今度は拳に力が入っている。私はその手を両手で包み込む。
「部活子達が何て言ったの?」
「ちいちゃんが俺の彼女じゃなければとか、別れたら教えろとか……理絵先輩が悪質な噂を流していた時は、俺に止めておけって言っていたのに」
「人間なんて、そんなものよ。あなたも良く知っているでしょう?」
私は、力が緩んだ彼の指を一本ずつ広げていく。
「だけど!!」
「智。こうなることは私達が一番分かっているはずよ。忘れたの?」
滅多に呼ばない彼の名前を呼ぶ。彼の体が強張るのが分かる。
「理絵との清算方法に結果的にあなたを道連れにした形になってしまったのは今でも後悔している」
「俺は、そんなつもりは」
「でも……私がいなくなった後の皆はどっちの私をイメージするのかしら?」
「そ、それは分からない」
「あなたは、皆が持っている私の幻影とも戦わないといけないのよ。こんなことで弱気になっていたら……それこそ付けこまれるわ」
「そんなの……俺は望んでない」
彼に腕を引かれて、彼の膝の上に腰掛ける形になる。私は彼の首に腕を回す。
「分かっている。だから……もう少し強くなって。何を言われても自分を曲げない強さ。今のあなたにはまだそれが足りない」
「もう少し?」
「うん、私達がどんな関係だっていいじゃない。きっと結婚を考えているなんて皆は知らないと思うわよ」
「でも……まな先輩達は知っている」
「いいの。あいつらは。お願いがあるの、卒業式の後、迎えに来て」
「冷やかされるよ」
「いいの。最後位見せつけてもいいかなって。その代わりに、学校の行事の度に学校が休めそうならあなたに会いに行く。それならどう?」
「平気なの?」
「とりあえず、現時点で卒業時までに取得していされている資格の8割取得済みよ」
私は彼の頬に唇を合わせる。そして頬をくっ付けた。
「相変わらずだね。その手際の良さ」
「お褒めに預かって光栄だわ。私は、わざわざ負け戦をする趣味はないの」
「ぷっ、相変わらずだね。元々のちいちゃんは強気な子だったね」
「今となると知らない人ばかりだけど。私があなたを手玉に取っているって言われてそうね」
私が何気ない一言をいうと、体を固くする。やっぱり言われているのか。
「私はその件は何もしない。とも君のしたいようにして御覧」
「いいの?」
「出て行った後の事までは関与しないわ。信じてるから」
「分かった。好きなようにする。それと……聞いてもいい?」
彼の声が緊張を帯びている。これから彼の言う事はちゃんと聞いてあげないといけない。
「ちいちゃんが欲しいって言ったらどうする?」
やっぱりそこかと内心思う。昨日の奴らもしつこかったからな。
「じゃあ、私が妊娠したらどうする?結婚できる?」
「うん、俺は結婚する」
そうなのだ、ここまでは私達の中では同意事項なのだ。
二十歳になったら入籍することは彼の両親も認めている。
「18歳未満は、淫行条例に抵触するの。今関係を持つと私が逮捕されることになりかねないのよ。実際には聞いた事がないけどね。それに、不純異性交遊で校則違反よ」
「あっ」
彼は自分のおかれている状況に気が付いたようだ。
「妊娠して結婚するはともかくね。お金もまあ問題ないよ。でもそうじゃない所はあるでしょう?そこもクリアにしてからがいいなって思う訳」
「うん」
「もちろん、結婚してもすぐに妊娠したくない、暫くは二人で暮らしたい。その為に必要な事は?」
「妊娠しないこと。ってことは……しちゃいけないの?」
「少なくても今はね」
私が答えると、彼は小さくなってしまった。
「卒業確定か、進路確定した時の早い方でどう?」
あんまりこういう事はしたくはない。けれども最近の彼の成績か下降気味なのを知っていたのであえて自分の体も利用することに決めた。
「じゃあ、推薦で合格したご褒美でもいいの」
「ご褒美がソレって微妙だけど……それでいいのなら」
こんなことを約束している当たり単純といえば単純で、おバカさんとも言えるなぁと考える。
仕方ないか、恋は盲目だものね。
「じゃあ、勉強頑張るね。推薦の平均単位ってどの位?」
「うちは5段階だから最低でも4.5は欲しい所ね。去年が4.7でしょ?音楽が足を引っ張って」
私は今の彼がどうすべきなのか道しるべを用意する。
「ってことは、勉強か。仕方ない。頑張りますか」
そう言って、私を膝から下ろして、鞄に今日の教科を詰めていく。
「何をして待っているの?」
「まずは書棚の整理。それと自分の机の整理。後は6月の英検の勉強」
「英検って2級持っているじゃないか」
「まだ上がありますよ」
私はにこやかに答える。せめて準1級位は欲しいかな。贅沢な悩みだけど。
「成程。昨日の変な電話から食欲なくって朝食べてないんだ」
彼はホッとした表情で、朝を食べていない事を明かす。
「だったら、ツナサンド食べて、初恋ショコラ食べたら?」
「何……その取り合わせ。」
「疲れた体にはチョコレートはいいわよ。だから食べよう」
私は彼が返事する前にパッケージを開けていく。
「分かったよ。だったら食べさせて?朝の生徒会室には誰も来ないから」
甘いおねだりをしてくる彼を諌める事をすべきだろうけどしたくない。
「困った人。はい、口あけて」
ひと匙掬って彼の口の中に入れる。
「なんか疲れが取れそうな気がしてきた」
「いいじゃない。はい、どうぞ」
そんな調子で私は彼に食べさせ続けた。やがてケーキは無くなってしまう。
「御馳走様でした。ところでさ……」
「何?」
「ケーキと今までキスした人のキス……どれが欲しい?」
彼はしたり顔で聞いてくる。今までキスした人って……根底では気にしていた訳か。
「ケーキは後で食べるからいいです。今までキスした人ね……過去は思い出したくないの。最近キスした人のキスがいいかしら?」
最近キスした人はとも君なんだけども、分かるかしら?
「それって、俺の事?ビリーじゃない?」
……なんで、そこに猫が出てくる?それにビリーは唇はなめないように躾けてある。
舐めるにしても指先位だ。
「ビリーとはキスしたことないけど?」
私はそう言って、彼の机の開いているスペースに腰掛ける。
お行儀悪い?そんな事分かってるから今は目を瞑ってよ。
「せっかくキスのリクエストがあったことだし……いいよね?」
彼が私との距離を縮めたその時。予鈴が鳴った。
「タイムオーバー。この続きは学校以外でね」
私は彼に教室に行くように促す。
「チェッ。だったら予約だけ」
そう言って私の額にキスを落す。
「いい子にしていて?行ってきます」
そう言って、彼は生徒会室を後にした。
そして残った私は、子共扱いした彼に少しだけ腹を立てたのでした。
最初に書いていた方向とかなり話が変わった。何故?
チューはさすがにさせる予定はなかったのですが……おかしいなぁ?




