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残業にはハプニングがつきものです? 前編

あなたに恋する午前1時の忍&芽衣より。

しかし、この忍ちゃんは紳士じゃありません。紳士じゃないです。重要なので2度言います。あっちの忍ちゃんが前提になっております。

3月最後の金曜日。いつものように私はせっせと残業中。

金曜日のオフィスに残業で残る人なんて……そんなにいない訳で、広い営業部のフロアーも私一人しかいない。

4月には財務管理部に移動になるというのにと思いつつ私は盛大なダメ息を一つついた。

溜め息を着くと幸せが減るって言うけれども、つきたくもなる。

今回こなしている残業も、営業一課のものではなくて営業四課のものだ。

それも、私の業務には全く関係がないものだったりする。



「斉藤さん、残業?」

外周りから戻ってきた部長が声を掛けてきた。

「ええ。インスタントで良ければコーヒー淹れましょうか?」

「大丈夫だよ。仕事続けて。それは君の仕事か?」

「急に回ってきまして。けれども、やらない訳にはいかないものなので」

部長には返事を返すけれども、目線はPCの画面のままだ。

私の側に寄ってきた部長は、私が何をやっているか気が付いたようだ。

「四課は何をやっているんだ?」

「さあ?通常業務でも、私の席からは確認はできませんよ」

「そうだな。月曜日に回せないのか?」

部長は月曜日に回したらどうだ?と提案してきた。

できるものなら、そうして自宅に帰りたい。けれどもそうはいかない理由がある。

「部長。お気持ちは非常に嬉しいんですが、一課は月曜日から通常業務の引き継ぎが始まります。菫ちゃんは人事の引き継ぎがあるので、私が代理で引き継ぎをするんです」

本来なら、月曜日に私達が揃って異動先に移るはずだったのだが、後任者の都合で3日で引き継ぎ完了することになってしまった。

私の方は、営業の引き継ぎは既に完了しているので、今まで出来なかった資料の整理をメインにしながら、菫ちゃんのサポートをしていた。

菫ちゃんは人事課での秘書業務になるので、心構えから研修が始まっている。

人事から催促が来ているのだが、そんなこんなな事情で異動が完了していない。



「今、入力している伝票の〆切りは月曜日の12時なんです。月曜日からの引き継ぎに合わせてきっちりと調整していた私達にこれなんですけど?一体、彼女達は何をしに会社に来ているんですか?社員だろうが派遣だろうが、やる事をちゃんとやらせて下さいよ」

「斉藤君、どの位かかりそうだ?」

「久しぶりに仮眠室借りる予定ですよ。警備室には連絡入れてあります」

「斉藤君、帰れないのかい?」

「この伝票だけじゃないんですよ。押しつけられたの」

「まさか……僕はやるように言ったんだが」

部長の顔が引きつっている様な気がするけど、顔を見る気もない。

「そのまさかです。月曜日の定例会議の資料作成も回ってきています」

「竹田君は?手伝ってくれたんだろ?」

「えぇ。とりあえず、コピーの手前まではやってくれましたが、ご主人のお迎えが来たので帰って貰いましたよ。そこまで私は意地悪ではありません」

「それで、斉藤君はいいのかい?」

「部長?何がおっしゃりたいのか、私は分かりませんが?」

私は部長の質問をあえてはぐらかす。この現状は分かっていたであろうに、放置していた人だ。損得勘定をしても、利益を生んでくれそうもないこの人に、プライベートを明かす必要はない。

それに、この時間まで仕事をしていたら、そのうちメールでも送ってくるのがあの人だ。そのうちメールが届くに違いない。

「申し訳ないな」

「口だけでも、そのお言葉は有難く頂きますよ。営業一課以外の営業アシスタントの現状は既に竹田の方から人事に報告はいっておりますので、心配ご無用ですよ」

そう言ってから私はにっこりとほほ笑む。

この暇なおじさんに付き合うのも、流石に飽きてしまったので

「お疲れ様でした」

と言って、自分の作業に集中するのだった。



20時が過ぎて、部長も帰って行った。様子を見に来た警備さんが言うには、社内には私一人しかいないそうだ。

いつもなら月曜日に回す作業だけども、引き継ぎと同時進行で進める作業では決してない。

一休みしながら、コピーコーナーに定例会議の資料をセットして必要部数をコピーできるように設定して実行させる。

途中で用紙を補充しないといけないのが面倒といえば面倒だけども、気分転換にもなるので時間を有効に使う様に意識をする。

今日中にコピーとホチキスまでは終わらせたいし、伝票の方も入力チェックを終わらせて、部長のサインを貰う手前まで済ませないと。

部長のサインを貰わないと最終の承認決済の手続きができないのだ。



5月の給料から今より若干安くなる事が分かっている。異動になった時点で人事から説明があった。

その代わり、今度は内勤がメインなので制服勤務が可能になるので、これまで控えていたジーンズとラフなシャツで出社しても怒られない。

そう思うと、今まで4年間を本当によく頑張ったと思う。

だから、銀行に行くのも制服で行ってもいいんだそうだ。これは財務管理部の研修で確認した事だ。

メインの作業は銀行とのオンライン回線で終わるのだが、月に数度は銀行に記帳に行くのも私の仕事になっている。

私が引き継ぐ前の人は、ランチを兼ねて外出をしていたという。

他の部署はどうか分からないが、財務管理部は仕事をきちんとこなしていれば、多少のことは目を瞑ってくれる部署の様だ。

前任者は前任者であり、私はいつも通りの仕事をするまでだ。



入力が一通り終わって、チェックリストを出力する。処理が完了するまでいつものことだが、時間がかかる。

その間に、経理主任あてに、今回自分が処理した伝票番号を記したメールを送信しておく。

伝票に対しての問い合わせが私に直接来るように。菫ちゃん以外のアシスタントが仕事をしていない事を知らしめる為に。

作業が一通り終わると、流石に小腹が減ってくる。時間は21時。

時計を見て、お腹がすくのは当然かと苦笑いをして、お昼にコンビニで買っておいたメロンパンとペットボトルのカフェオレで休憩を取ることにした。

こんな姿……忍さんに見られたら絶対に怒られるから、今から言い訳を考えておこうっと。

まあ、何をしたって、お仕置きされてしまうのは、ホワイトデーに返事をしてから付き合い始めてからの日々で嫌って程分かっているつもりだ。

ああ見えて、忍さんは凄く行動力があって、ホワイトデーの後の週末に千葉の私の自宅にやって来た。

そして、4月からは直属の上司になるが、結婚を前提に交際したいと私の両親に宣言した。

前の彼氏と別れた事を行っていなかったので、両親はちょっとびっくりしていたみたいだけど。

忍さんは、自分は社長の息子であること、私のリクルート活動で始めて会ってから一目ぼれだったと。私の様にどんな業務でも仕事ができる人間になる為に努力したこと……私が知らない事をたくさん話してくれた。

その結果、私の家の桜の花が咲く頃に我が家で結納をすることになっていた。

我が家には古い桜の木があって、咲くと凄く綺麗なのだ。

忍さんが来てくれた時は、梅の花が満開に咲いていた。



メロンパンを齧りながら、カフェオレを啜る。

さっきまで見向きもしなかったスマホに手を伸ばして未読のメールをチェックする。

年度末日に同期が本社に揃うので、同期会をするというお誘いと営業部の飲み会と同期の結婚式の案内。

それとゴールデンウィークにある高校の同窓会の案内だ。

そして最後のメールには親友の香枝からのメールに目頭が熱くなった。

香枝のメールには、11月にはママになる事。それから、実家の不動産屋さんを継ぐ事が決まったので、9月までには会社を止めて、10月には地元に戻ると書いてあった。

香枝におめでとうと忍さんと交際している事を告げるメールを送るとすぐに着信が入る。

スマホにイヤホンを差して、作業をしながら通話をすることにした。



「芽衣?今どこ?」

「会社。メール見た。おめでとう」

「あのね、今何時か……」

「分かっている。異動前だからやっているだけ。この仕事来月から作業手順が変わるのよ」

「どうせ、押しつけられたんでしょ。全くどんな会社なの?」

「うーん、こんな会社?」

私がのんびり答えるのを聞いた香枝は質問する事を諦めてくれたようだ。

「で、何をしているの?」

「月曜日の会議の資料。残業の友はメロンパンとカフェオレと親友の声だね」

「全く、この子は。怒る気が失せるわ。彼氏は知っているの?」

「多分ね」

「あのね、同じ会社なのでしょ?なんでそうなるの?」

「今は同じフロアーにいないからね」

今の私は3階で忍さんは5階にいる。普段の交流はあまりない。

香枝に、忍さんは私が残業なのは知っているけど伝える必要がないし、忍さんの秘密を今は教える事も出来ない。その件は、結納が終わってから伝えればいいか。

「で、彼とはどうなの?

「どうも何も。今はメールがメインだよ。今週はゆっくりとは会ってないかな」

「そっか。4月からは上司だっけ?」

「うん。組織図的には直属なんだけども、担当は全く違うかな」

「ごめん、資金方面はちょっと分からない。ごめん」

香枝、実家の経営はそんな状態で大丈夫なの?辛うじて簿記3級だった彼女の事を考えるとついこめかみを押さえたくなる。

「大丈夫。芽衣の親戚の会計事務所がやってくれるって」

合理的というか、他力本願というか。

私は疲れているせいか返事をする気がしない。



流れ作業的にホチキスを止めて、付箋に会議に出るメンバーの名前を書き込む。

今回の異動で事業部長も変わる。新しい事業部長は28日から営業部に来ると聞いているが、今回の会議から参加するってさっき部長から聞いている。

資料の作成部数は私と菫ちゃんの分は不要……今回から私も会議には参加しない。

営業部内の引き継ぎは全て終わっている事になっている……はずだ。

営業アシスタントの引き継ぎは2日間。今度のアシスタントは広報部からの異動だそうなので、最低限のマナー程度は出来ているだろうから、PC操作についても心配はない。

作業で不明な点が出たら、私達が社内メールで対応すれば問題ないと思っている。

今回の引き継ぎで重要なのは、営業一課の仕事のみをするということを教え込む事。

この事は新しい事業部長からも言われている。



今までの私達に甘え切っていた営業アシスタントの子達の態度を改めさせるつもりだろう。

私と菫ちゃんの考えでは、1日で一課以外は業務破綻することを想定している。

菫ちゃんは、それを想定して、既に並行業務になってもいいように秘書課の仕事を開始している。

一課はアシスタントが完全に一人になってしまうので、出来る範囲で自分でやることを異動が決まってから徹底して貰っている。そのお陰で、経費の伝票や勤怠入力は自分達で処理が出来るようになった。その結果、清算も早く済ませられるので営業社員は他にも自分で進んでやるようになった。

そのお陰で、私達に回ってくる雑務もかなり減少している。

本当に忙しいとついアシスタントに回してしまうのは仕方ない事だけども、かなり楽になったと思う。

更に、経理システムも4月の半ばに変更になる。それに合わせて各部署ごとに研修がある。

私は、今回のシステム改編の研修には参加しない。私の仕事は経理から回ってくるデータを銀行に送信することと、税務署に支払いに行く事位だ。

簡単にマニュアルを見せて貰ったら、かなり楽になる事だけは分かった。

「芽衣、旦那が帰ってきたから切るね」

そう言うと、一方的に通話が切れた。

折角だから、スマホにダウンロードをしたジャズのCDを聞きながら作業をすることにする。



最後に残っているのはライン引きだ。事業部長は資料作成はローテーションと言いながらこっちに回ってくる事を見越して、ラインを引いて欲しい箇所をメールで指定してくる。

事業部長は資料をカラーで作ってくれるんだけども、営業部での通常使用のプリンターはモノクロがメインで繋がっていて、カラーで出力するには一度配線を変えないといけない。

身内の書類なのでライン引きをしているので、4月からは部に2台カラープリンターが導入される。1枚出力して、コピー機で処理する事が出来るからこの作業も最後になるはずだ。だから、四課の子は私達に押し付けたのだろう。

自分達がしていることが、結果的にどうなるのか……聡い子なら分かるだろうけど、彼女達はそうではないのだろう。総合職の私は、本来事務職の仕事を率先して業務をしてはならない。今回の引き継ぎの件も事業部長承認の元で行っている位だ。

その結果、一課の男性は、私達に頼る事を今は控えている。

多分……派遣の子達は、来月末で解約解除だろうし、社員の子の査定は最低のまま評価が付いて回るだろう。気が付いた時にはもう手遅れなのだ。そこにすぐに気が付けばまだ間に合うのかなぁって他人事ながら考えていた。



「芽衣?そろそろ……終わりそう?」

「あっ、忍さん。早くないですか?」

「送別会なんて、この位じゃないか?2次会は行く気がしなかったから今そっちに向かっている。後、どの位で終わる?」

「後は、会議の資料作りと引き継ぎ資料位でしょうか?」

「それって、僕の家でも作れるもの?」

「出来なくはないですよ」

「だったら、迎えに行く。一度切るね」

忍さんは通話を慌てて切った。迎えに来られちゃうのか。

どっちにしても自宅には戻れない事は決まってしまった訳で……。

今週末の私は無事に乗り切れるのだろうか?



「芽衣、もう、22時過ぎたよ。どこに帰るんだい?」

オフィスの廊下で私の伺いながら忍さんが呼びかける。

「忍さん、お帰りなさい」

「ただいま?ちょっと違うか。でも近い将来はそうなるけど」

「忍さんったら……ちょっと、その手は何をしているんですか?」

忍さんの手が私の項を執拗に撫でる。

「だって、僕がいるのに芽衣が見てくれないでしょう?だから芽衣が見てくれるまでこうする」

そう言うと、忍さんは髪を纏めていて、無防備になっている項をきつく吸い上げる。

「ちょっと……そこはダメだって……」

「だって、嫌なら僕を見て。それに前に付けた印も消えちゃったしね」

どうやら私に謝る気は一切ないと見た。自分の首筋に危機感を覚えて纏めていたシュシュを外す事にした。

忍さんは飲んでいないって言うけれども、少しは飲んでいるはず。



「とにかく、片づけるまでは待っていて下さい。それと残りは忍さんの家で作業させてもらえますか?それならもう帰ります」

「本当は嫌だけども、今日は許してあげるよ」

あっさりと了承してくる忍さんにあれって思うけど一緒に帰れる事が嬉しくて私は荷物をまとめ始める。

「忍さん、終わりましたよ」

私は帰り仕度を済ませたので忍さんを呼ぶ。

そんな私を目を細めて微笑んでいる。

「仕事はね」

そう言って、忍さんはニヤリと笑う。この言葉に何か意味があるのだろうか?


あっちの忍ちゃんが降臨するまで……後5秒(笑)

寸止めでごめんなさい。

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