表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハード戦記  作者: paccman
1/1

脱却せよ!!

 時代は今、暫く続いた好景気が終わり、長く暗い不況へと移り変わっていっていた。人々の思考は、進取から退嬰へと変わり、安定したと職・・・とやらを選ぶ風潮になってきた。そんな不況の中、一人の青年が、このどうしようもないイメージ社会に反抗しようとしていた。名を、神川真之という。

 彼は、高校を卒業後、夢を実現させる為上京した。しかし・・・。全て門前払いで追い返され、スタートラインに立つことすらかなわなかった。仕方なく、彼は近くの製紙工場に就職する。生活は、食うに困る程ではなかったが・・・貧しかった。同世代でも多くは、就職したとしても親元でぬくぬくと暮らすか、大学や専門学校に進学し、親の援助を当然の様に受けて生活している。彼らの多くは暇を弄び、休みの日にはいろいろな事に金を散財させ、恋愛とかいう呆けた事をしている。

 同世代の人間の多くが、そういう暮らしをしているにも関わらず。真之は、ひたすら耐え、上にいくことだけを考え勉強し、努力していた。

 真之は彼らに疑問を感じた、(彼らは何故、ここまで陽気になれるのか・・・。)今は不況の真っ只中、真之がこう感じるのも無理はない。しかし、少し考えると、すぐに答えは見つかった。(そうだ、彼らには保険があるのだ・・・。親という保険が・・・。)

 しかし、入社して4年後、彼に転機が訪れる。そう、大学を卒業した同世代の人間が、入社してくる年である。彼らが入社して、数カ月の間は、特にこれといって何も感じることはなかったが、数カ月立って、今まで気づくことのできなかった高卒と大卒の立場の相違を理解する・・・。(俺は、何て間抜けだったんだ。所詮高卒なんてのは、企業の歯車として使われてお終い・・・。頑張れば上にいけるなんて事は、俺の都合のいい妄想に過ぎなかったのか・・・。しかし、奴らは後から入ってきた無能の分際で、自分たちより優遇され、大学時代遊んできただけにもかかわらず、上に座りやがる。奴らに出きる事と言えば、良識派面した権力者共の太鼓持ちくらいだ。)

 彼もまた、他の同世代の人と同様に遊んできたのなら、この境遇を甘んじて受けたであろう。しかし、実家も貧しく大学を諦め。そして、社会に出たはいいがこの境遇、この・・・どんなに足掻こうが、同じ立ち位置に上る事すら許されないこの仕打ち、彼にとって、この耐え難い仕打ちは、頭で理解してはいても、享受することは到底不可能な事であった。真之は思った。(この学歴社会・・・いや、イメージ社会はすでに完成され・・・腐臭を撒き散らしている。しかしその腐臭は、どうやら俺にしか感じられない様だ。クソッ、エリート共は上司達の太鼓持ちをし、上の奴らは奴らでこのエリート共の真面目しんめんもくを全く理解出来ねー。ようは腐りきったイメージ社会だ。)

 そして、この時から真之は、この唾棄すべきイメージ社会から、どうすれば脱却することができるか考えるようになる。頭の中ではすでに、小説家やロックなどが浮かぶが・・・、自分には、この魂の咆哮を、歌や文章で表現することは、不可能と思えた。

 真之は、ベットに横になり考える。(イメージ社会の蓄郡共は、どうやら性格とやらが人の内面と考えているらしい・・・、しかし、そんなもん上っ面の内面に過ぎない。真の内面ってのは・・・、心の奥底から湧き上がってくる、この堪え様のない魂の咆哮だけだ!。)しかし、考えれば考える程わからない。ベットから起き上がり、ふと、テレビを点けてみると、今注目されているボクシングの何たら三兄弟の前座で、日本タイトルマッチがしていた。正直ボクシングにそこまで興味もなく、あんな喧嘩の何が面白いんだ?・・と思っていた。しかし、数分後、自分の認識不足を痛感する。

 ラウンドは、すでに4Rまで進んでいた。王者の川原どうやらブルファイターのようだが、ガードを固め、大振りのフックで前へ出ていく、エリートの関口アウトボクサーはストレートで対抗するが、プレスが強く、真っ直ぐ下がる癖がでてしまう・・・。しかし、王者のガードが下がったところに、伝家の宝刀・・右ストレートをカウンターで当てる!!王者は完全に意識が飛び・・前のめりにダウン!もう駄目か・・・。誰もがそう思った次の瞬間、カウント8でなんとか立ち上がる。しかし、立ち上がった所へ、これで終わらせんとばかりに挑戦者がラッシュ!!・・・かけ始めたところで、ラウンド終了のゴングが響く。5R、挑戦者のストレート、王者のフックというパンチの交換が続くが、徐々に王者のフックが、挑戦者の顔面を捉えるようになる。6R、王者のボディーフェイントのテンプルへのフックが見事に当たり、挑戦者をグラつかせる!!そのチャンスを見逃さず、王者が畳み掛ける!!猛烈なラッシュ!!・・・それは、王者の苦難の人生を、まるで見ているかの様な錯覚に陥る程、凄く・・・感動的で、真之は落涙してしまった。挑戦者はガード一辺倒となり、遂に腰から砕け落ちる!・・・次の瞬間、レフェリーは両手を交差し、試合終了の合図を送る。観客も、アマチュアエリートの関口の噛ませ犬として呼ばれた王者の大逆転劇に、ホールは興奮の坩堝とかす!この試合、合計3度(1、3、4R)のダウンを喫しながら、最後の最後で逆転KOを演じた王者に、惜しみない拍手が送られる。

 (・・・・・・・・・・・・。俺は・・・今まで何を見ていたんだ、ボクシングは、この腐りきったイメージ社会に、言葉を用いずとも、この魂の咆哮を伝えることのできる最後の手段ではないか!この俺のような、社会不適合者の人間音痴には、言葉という手段では、最早人に上手く伝える事はできないだろう。そう、だからこれしか・・・これしかないのだ俺には!!)

 この瞬間・・・、他とは違う、異色な一人のボクサーが誕生した・・・。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ