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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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ホラー

都合の良い怪異

作者: 豆狸
掲載日:2026/05/04

 初めまして。

 彼のことを聞きたいんだったよね?

 いや、彼に憑いてた怪異のことだったかな。


 すべてを知ってるわけじゃないけど、僕が知ってる範囲のことなら話させてもらうよ。

 うん、憑いてた怪異のことだって彼のことには変わりないものね。

 人間はどうしても、言葉にしないと忘れてしまう生き物だから。


 彼に憑いてた怪異はね……ものすごく都合が良かったよ。

 どういうことかって?

 うーん、ほら、最近異常気象が続いてるだろ? というか、地球が変わりつつあるのかな。毎夏毎夏最高気温を更新してるじゃない?


 でもね、彼の側にいると暑くなかったんだ。

 彼の側だけじゃなくてさ、彼の部屋もそうだったな。

 涼しいんだよ、とても。彼に憑いてた怪異はね、彼とその周辺を涼しくする怪異だったんだ。


 うんうん、心霊スポットは気温が低いとかいうよね。

 そういう感じ。

 あ、だけどだからって冬は寒くなり過ぎるってわけでもなかったんだ。


 井戸水ってあるじゃん。

 若い子は知らないかな? あはは、僕もまだ若い?

 ありがとう、お世辞でも嬉しいよ。


 それで井戸水なんだけど、夏涼しくて冬温かいって言われてるんだよね。

 彼の怪異はそんな感じ。

 夏は涼しくしてくれて冬は暖かくしてくれる。寒過ぎず暑過ぎず、ずっとちょうど良い気温にしてたんだよね。


 最近は春秋なんてあってないようなものだろ?

 彼の周りは一年中人が集まってたよ。

 彼がいなくても部屋もそうだから、無人の部屋に入り浸るヤツもいた。彼の恋人が長続きしなかったのって、正直そのせいだったんだよなー。いや、申し訳ない。


 ホントちょうど良い気温だったんでさ、彼の部屋冷蔵庫無かったんだよ。

 冷蔵庫無くても肉や魚が腐らない適温だったの。

 ちょっと心配ならタライに水入れてパックごと突っ込んどけば大丈夫だった。むしろ時間を置いても熟成しないって文句言ってたほどだった。


 ……うん、大丈夫だったんだよね、あのときまでは。


 そうなんだ、あのときは部屋の気温が上がってて、肉が腐ってたんだよ。

 彼が会社の幹部合宿に行った後だったから、その間怪異が部屋にいなかったんだろうね。

 実力を認められたんじゃなくて、自分がいると涼しいからメンバーに入れられたんだって、彼笑ってたっけ。実際あの会社、彼が入社してから冷暖房にかかる費用が激減したらしい。


 合宿所は大学や会社よりアパートから遠かったから、怪異の影響が部屋まで届かなかったのかって?

 どうかな。

 大学時代に彼が里帰りしたり旅行に行ったりしたときも部屋は涼しいままだったよ。さすがにその経験が無ければ、何週間も出しっ放しだった肉を食べたりはしないさ。閉め切った部屋がいつになく(ゆだ)っていたとしても、自分の周りは常に涼しいから気づかなかったんだろうね。


 彼の死体は鼠に食われてたんだよ。

 まあ死んだ後で良かったよね。

 とはいえ腐った肉を食べてもがき苦しんで死んだから、辛くなかったってわけじゃなかっただろうけど。


 ……うん、そうだよ。鼠に裂かれた彼の腹の中は全部食べられてた。

 わずかに残った肉や内臓についていた歯形は、鼠のものだけではなかったみたいだね。

 人間のようなものもあったとか……家族でもない存在に警察がすべて教えてくれるわけじゃないから、僕も噂話で聞いただけだけどさ。


 真実はわからないけど、想像は出来るよ。

 彼に憑いてた怪異は、もともと井戸に憑いてたんじゃないのかな。

 井戸に憑いていて、井戸の性質を身に着けていたんだ。彼に憑いたのは、もしかしたら住んでたアパートに関係するのかもしれないね。


 あの土地、前は大きなお屋敷だったんだ。

 いつのころかって?

 戦争の前くらいじゃないかな。


 あんまり良い噂の無いお屋敷だった。

 まあお金持ちは必ず悪い噂を流されるものだけどね。

 そのお屋敷の悪い噂っていうのは座敷童がいるとか殺した邪魔者を裏庭の井戸に捨ててるとか、そんな感じ。


 座敷童は良い噂じゃないかって?

 うーん、座敷童ってその家にとっての邪魔者を座敷牢に閉じ込めたり、殺したりした上で都合良く守り神にしたもの、って説もあるんだよね。

 もちろん良いことをした報いとして神様に守護してもらってる場合もあると思うけど。


 たぶんさ、その井戸にいたのは『なりかけ』だったんだよね。

 井戸に落とされる人間の死体を喰らって、()()()になりかけてた存在。

 人間は喰いたいけど自分で殺すほどの力はなかったんじゃないかな。


 だから自分に出来る精いっぱいのことをしたんだよ。

 それが結果、彼に都合の良いことになってただけ。

 冷蔵庫が無くても良いって、かなり電気代浮くしね。怪異だって人間だって、自分のために動いてるんだよ。都合良く動いてくれているように見えても、そこには必ずなにか理由があるんだ。


 ところでさ、この話どうなるのかな?

 ああ、ネットに公開するんだね。

 それは都合が良いな。彼と怪異の話が世界に広がっていくわけだ。読んでくれる人が少なかったとしても、どうせ()()()()()()()()()には限界があるからちょうど良い。


 そういえば今年も猛暑になりそうだね。

 たとえ怪異に憑かれても、部屋が涼しくなったらそれだけで嬉しいって人間はたくさんいるだろうね。……願いは叶うよ、きっと。

 これから楽しみだな。うん、とっても楽しみ。


<終>

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