3話「聞き込みから得るもの」
情報収集が僕の中で続いているのは当然である。
千秋と聞き込みにならない聞き込みをしてからすでに3日聞き込みを続けている。千秋との会話を反省し雑談に話がズレないように聞き込みをしているのだが、思うような情報、手掛かりは掴むことができずにいた。
ちなみに、この聞き込みを続け思ったことが一つ。
もし有力な情報を持っている人に出くわしたときに多分僕は思うことが一つあるような気がした。
「(もし、有力な情報を知っていたら・・・その人はただのストーカーなのではないか?)」
そんなことを僕は余談で考えていた。まだまだこんなことを考えれるのでおそらく気持ちに余裕があるのだろう。本来慌てなくてはならないはずなのだが。
聞き込みを続けていくには、交遊関係や人徳が左右してくるのは当然である。
ちなみにこれが左右しないのは刑事という職業だけらしい。
そのため自然と人数は限定されてくる。
僕はなんとなく聞き込みをした人間、これからできそうな人間を捻り出してみることにした。
「・・・んと、」
アヤ
当夜
千秋
途成
草奏
・・・先に印象が濃い人間をあげてみた。
『アヤ』・・・当事者なので意味ないし
『当夜』・・・やはり行動が一緒のため意味なし
『千秋』・・・主旨が逸れたので駄目
ちなみにほかの二人にも聞き込みを試みようと思ったのだが、はっきり言ってやめることにした。理由は途成は特に聞いても問題はないのだが、問題は草奏である。
「私がどうかした?」
「いやな、草奏に聞き込みをするのは・・・」
僕は嫌な予感満載で後ろを振り向いた。
「うわあああ!」
僕は思わず後ろに下がってしまった。すると
「何よ!失礼ね。人の顔見るなり大声だして。」
「・・・そう思うんだったら急に背後に立たないでくれ・・・」
大分寿命が縮んだ気がした。
心臓に悪い。
「ところで私がどうかした?」
「え!?」
「だからさっき私の名前呟いてたわよね?」
「え、えと・・・」
台詞化したつもりはなかったのに何故か声に出していたみたいだ。
というか言ったとしても小声の独り言だ。
恐ろしい地獄耳である。
後が怖いものにはごまかすしかない。
「いや、なんとなく思い出しただけだよ。深い意味はない。」
これでひっかかるとは思っていないが、言うしかないので仕方なかった。
そして肝心の反応は
「ふ~ん。まあそれならいいけど。」
煮え切らなさすぎて、逆に怖い・・・ここは言葉を信じるしかないと思った。
「ところでさリト。」
「ん?何?」
草奏から話を変えてきた。とりあえず安心感が広がった。
「途成君見かけなかった?さっきから何処にもいないのよ。」
「いや、僕は見てないけど。何か用事なのか?」
「い、いや、た、たいした用じゃないんだけど・・・・・・・・・」
「?」
何故か途中で言葉を区切り沈黙状態になってしまった。
僕何かおかしな質問でもしたのだろうか?
「草奏?どうかし一一一」
「あーー!!私、用事を思い出した!じゃあねリト!」
「へ?お、おい!」
僕の呼びかけに答えず、叫んだのちすぐに僕の視界に入らない場所に走り去っていった。
あの様子なので、なんとなく草奏の考えていることを想像してみる。
「(途成にまた無理難題を押し付ける気かな?)」
頑張れ!途成。
そう僕は心の中で呟いた。
途成を応援するつもりで呟いたのだが、それが逆に自分のしなければならないことを思い出させた。
「しまった!情報収集しなくちゃいけないのにー!」
頭に手を置き、盛大に嘆いてみた。すると、
キーンコーンカーンコーン♪
「ん?」
チャイムの音が鳴り、さらにアナウンスも聞こえてきた。
『まもなく5時になります。用の無い生徒はすみやかに寮に戻りましょう。』
現在時刻午後5時。
高校生からしてみれば、帰るには早い時間なのだが、何分この学園は小学生もいるので、早い時間でアナウンスが鳴る。
「ふー。仕方ない、一旦寮に帰っていろいろ考えよ。」
僕は早いながら寮に戻ることにした。ちなみにいろいろと言ったが具体的には何も考えていない。
琴結学園 生徒寮 第1棟
琴結学園の寮というのは3つの棟、簡単に説明すると3つの寮と呼ばれる建物で構成されている。寮の中といえばいくら3つに分かれているとはいえ全校生徒が帰る場所ということもあり、夜や登校時は大量の人でうめつくされあたかも、何かのイベントで並んでいる人のようにも見えるのだ。
そして、もう一つ変わった特徴もあるのだが、それはさておき僕は長い廊下と階段を3階まで上りようやく自分の部屋の前に着いた。
「ふぅ。とりあえず、ちょっと寝てからまた考えよ。」
ガチャ!
僕は何気なくいつもの部屋に入った。すると、
「へ?・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
片方の沈黙は僕だが、もう片方は違う。僕の部屋に一緒に住んでいる、いわばルームメイトなのだが、この後に最悪の展開しか見えてこない・・・
「い、」
「い?」
「いやぁぁぁぁ!!!」
バキ!!
「がっ!!」
今のは何の効果音と台詞かというと、簡単だ。
殴られたに決まっている。盛大に、それはもう部屋の外の壁にぶち当たるくらいに。
「痛ててて・・・」
バタン!
殴られた頬を確認していると扉が勢いよく閉められた。
「何も、あそこまで本気で殴らなくても・・・」
とは言ったが、さすがに本人にはまずい部分があったのだろう。いや、おそらく部分どころか全てなのかもしれない。
下着姿からさらに、裸になろうとした瞬間に扉を開け目撃してしまったら。
ハァ~・・・
「リト、何やってる?」
「ん?当夜か・・・見ての通りだ。」
僕は自分の頬を見せ、扉を指指した。
「んと・・・頑張れ?」
「ああ、大丈夫だ。疑問形は間違ってない。」
そう言うと、当夜は心配そうな顔で去っていった。
そして、殴られた体勢のまま3分が経過した。
ガチャ。
ゆっくりと扉が開く。そして顔半分が扉から覗かせ、僕に小声で話しかけてきた。
「・・・もういいよ、入って。」
「・・・うん・・・」
僕は相槌を打って、黙って入ることにした。というかそうしないとまた展開が最悪だ。
僕達の寮の部屋は、ほとんどの部屋が間取りは同じなのだが、階によって広さが微妙に違うということがある。
ちなみに僕の部屋は3階の関係上あまり部屋は広くない。
まあ広くはないが、窮屈とも言い難い、それなりの部屋だ。しかし、今の僕の状況的にはもう少し広いほうが良かったと思えてきてしまう。
「・・・」
「・・・」
部屋の中に入っても、僕とルームメイトの沈黙である。別にお互い話さなければならないわけではないのだが、どうしてだか沈黙というか、雑談の一つも始まらない。
言ってはみたが、僕はこの状況で雑談を始めるのはごめんこうむなる。
何も言えず、黙っていると、ルームメイトは立ち上がり一言呟いた。
「お、お風呂に入ってくる・・・」
「え?あ、どうぞ、ごゆっくり・・・」
そう僕が言うと、彼女は早足ともゆっくりとも言えない速さで風呂場に向かっていった。
自分がどうなっていたかは分からないがおそらく僕も相手も恥ずかしさが込み上げているような顔をしていたに違いない。
「(多分、恵なりに気まずい空気に気を使ってくれたんだろうな~。)」
彼女の名前は、鈴崎 恵という。
僕は恵が風呂に入ったのを確認すると、自分のベッドに寝転んでため息をつく。
「ふう。ああ、最近は運が悪いな。」
運が悪いというか、女難の相でも出ているのではないかと、言った後に思った。
「(そもそもこの寮のシステムに問題があるような気がするな。)」
琴結学園学生寮
多大な生徒数。小中高の全員が住んでいるので1部屋2人のシステムなのはいいのだが、問題は今の僕の部屋の様な現状が起こる・・・
ほとんどの部屋が男女の相部屋というシステムである。
システムを今更嘆いても仕方がないと、僕は思った。
先程のどたばたのせいで少し忘れてしまっていたが、今僕が考えなければならないことは他にある。
「あ!台本書き換えの犯人を捜さないと。」
そう僕は言うと、斜め後ろにある僕の机から映画撮影の台本を取り出す。
何か手掛かりがないかと駄目元で思ったからだ。
「・・・・・・」
ただ黙々と台本を読み進める。書いてある一つ一つの台詞に何か無いかと。
『え?屋上に?一体何しに?』
『それは教えられないな。気になるんなら自分で捜しにいけ。お前に止められるんならな。』
『何を言ってるんだ、寺門。』
『屋上という単語、そしてあの才能の無い奴のことだ、どうなるかはバカじゃないお前ならわかるよな。ショウカ。』
『ま、まさか!』
・・・・・・そしてこの後場面を変更してアヤから指摘をくらったシーンが入る。しかし所々場面説明や主人公の心境など台詞ではない部分を入れたとしても、アヤが書いた所とそうでないところの違いはまったく、分からない。
「リッ君?何見てるの?」
「え?恵か。いつのまに出たんだよ。」
「さっきから出てたよ。リッ君、本に夢中になってるから。ところで何見てるの?」
この場合『夢中』ではなく『集中』の間違いだとなんとなく思った。何せ今は、台本を見ている主旨がちがうのだから。
ちなみにさっきの事は完全に落ち着いているようだった。
なんだか、早すぎる気もしたけど良しとしよう。多分・・・本来僕にとって台本は台詞を覚えるためにある訳で、今回のような使い方はあまり好きではない。
「ああ。これは映画の台本だよ。」
「映画ってアヤちゃん達とやってる?」
「そう。でも、覚えるために見てるんじゃないんだけどな」
「え?じゃあ何のため?というか、台本って覚える以外で使うことあるの」
恵がもっともらしい質問をしてきた。僕も他人事だったら、そう見ているかもしれない。
「ああ。実はなーーー」
僕はなんとなく、理由を恵に話すことにした。
琴結学園 生徒寮 第1棟 403号室
「・・・・・・・・・・・・」
「いつまで無言でいるつもり?」
そう言ってるけど「触れるな!危険!」という発想しか受かんでこない。
「まあいいわ。あなたが無言を貫くということは私が何を言いたいか、分かるということよね?なら、話す必要も無いわね。」
現在部屋の中で、半ば正座で尋問状態の僕、途成です・・・何でこんなことになっているのかはすぐに分かります・・・
「とりあえず、単刀直入に私の一番聞きたいことだけ言っておくわ。どうして昨日アヤに台本の話を持ちかけたの?今一番台本の話題に触れてはいけないときなのは、分かってるでしょ!」
僕も言わなければならないことだけは言っておく。
「そ、草奏さん。はっきり言っておきますけど、これ以上あのままにしておけば、ばれるのは時間の問題ですよ!」
「大丈夫よ。触れさえしなければ、事は勝手に書いた通りに進んでいくから。ばれたらアヤの事だからすぐに書き直すから問題無いわ。」
「でももし、やったのが草奏さんだってばれたらアヤさんに酷い目にあいますよ!」
脚本を書くのと、監督業務がアヤさんの独壇領域なのは映画撮影班の間では有名だ。当然妥協は許さない。それは草奏さんだって知っているはず。
「その時はアヤに気の済むようにしてもらうわ。」
「でもそれじゃあ、」
「とにかくあまり余計なことを喋らないように。分かったわね途成君。」
バタン!
そう言うと、草奏さんは自分の部屋に帰っていってしまった。このままだと遅かれ早かれ、草奏さんの立場が危うくなる。というのも、今の台本で事がしっかり進んでいるのなら僕はこんなことはしない。
しかし、この間の学食の会話と、3日間撮影現場に顔を見せてくれない主人公役のリトさんからして進んでいるとは思えなかった。
「明日、何気なくアヤさんに聞いてみよう。」
草奏さんは、ああ言ったけどやっぱりほおってはおけない。
一連の理由を恵に話した僕は、再び台本に顔を戻す。
「理由は分かったけど、それって台本を見て分かるものなの?」
「分からないけど、他に手掛かりも無いし。かと言って何にもしないってわけにはいかないしな。」
「聞くけど、一回やってみるっていう選択肢はなかったの?」
「え?何を?」
「だから、一回涙を流すシーンをやろうとは思わなかったの?リッ君、結構演じるのうまいって評判だよ。」
その評判は知らないし、僕が演技が上手いかどうかは自分では分からない。
しかし、その発想は何故か無かった。何故だろう?
「分からないけど、無意識にやりたくないっていう気持ちになったのかも・・・」
改めて考えてみると、そうなるのかもしれない。何故か涙には抵抗があるのだ。
「よく分かんないけど、やりたくないなら私は別に強制してるつもりじゃないから。」
「うん。わかってる。ありがとう恵。」
とは言ったものの話はまったく前に進まない。それを思い出し頭を抱えていると、
「ねえ、リッ君?」
台本の予備を見ながら恵が話かけてきた。
「どうかしたのか?」
「あのね、たいしたことじゃないんだけど、これ間違ってない?」
「?」
恵はそう言うと、台本のあるページを見せてきた。そこは何と台詞ではなく、場面と心境説明の文だった。
「このページのどこが間違ってるんだ?」
「うん。ここの―――」
「こんな間違い、アヤちゃんがするのかな?」
僕は今の部分を見て希望がわいてきた。
「ありえない。こんなミス、アヤがするわけない。」
「じゃあやっぱりこれは・・・ってキャ!!」
「ありがとう!恵。よく見つけてくれた。これでなんとかなる本当に有難う!!」
僕は希望が見つかった嬉しさのあまり、恵を抱き寄せた。
「わ、わかったから、わかったから///」
僕は恵の言葉も耳に入らずしばらくそのままの体制でいた。
ちなみにその5分後僕は、恵を離すと。
「???あれ?おーい、恵ー?」
「/////////////」
何故か、体制そのまま硬直していた。
「(抱きしめたときに、首とか閉めちゃったかな?)」
だったら悪いことをしたと僕は反省することにした。
まだまだ、設定が穴だらけなこの小説ですが、どうか長い目でみてください。
キャラの名前に法則があるのくらいは気付くと思います。
では次で