第7話
「よし。今日こそあのササバくんよりも真凛と仲良くなってみせるぞ!」
朝陽が窓から射しこむ教室内にて、照陽明和は自分の椅子に座りながらそう呟いた。
あの日、電車で見せつけられ、脳が完全に破壊されかけた光景は忘れやしない。
そこに立つのは僕。まだ負けたわけではない。そう言い聞かせ、なんとか脳再生して見せたのだ。
「フッフッフ……幼馴染ゆえに胡坐をかいていたのは認めるよ。けど、そんな僕が尽力しだしたらもう止められないッ!」
独り言が止まらなくなってきたその時、教室の扉が開いて彼女が現れた。
「あー……えぇっと……みんな、おはよ」
「――……はぇ?」
扉を開けた真凛と同時に、僕の口も大きく開く。
何せ、人間用とは思えない首輪を身に着けていたからだ。
どうやら僕にだけ見えている幻覚ではなく、クラスのどよめきからして他生徒にも見えているらしい。
「えーっと……雪月ちゃん? その首輪は一体……」
一人のクラスメイトが、真凛の首輪について言及する。
よく勇気を出して言った! 僕は心の中で拍手を送った。
彼女の方に耳を傾けていると、口を開いて説明し始める。
「わ、私もちょっとアレだなってわかってるんだよ!? でもこれ、す、好きな人から貰って……『似合う』って言ってもらえて……。ずっとつけてたいな~って思ったの……」
頬を赤らめ、恥ずかし気にそう答えた。
女子生徒からは黄色い悲鳴が、僕を含めた男子生徒からは痛々しい悲鳴が轟く。
「雪月ちゃんにもとうとう春が来たんだね~!」
「束縛系彼ピとはやるわね」
「う、ウソだそんなことーー!!」
「俺たちの真凛ちゃんが……汚されて……っ!」
クラスメイトに引けを取らず、僕も「ま、まさかあのササバくんがプレゼントしたのか……!?」と顎を外す勢いで口を大きく空変えている。
真凛にこんなものを付けさせた怒りより、もうそんなインモラルな関係に進んでいる事実に青ざめた。
僕が絶望している横で、クラスメイトの女子たちは詳細を聞き始める。
「真凛ちゃんの好きな子!? 誰誰! もしかして明和くん!?」
「へ? いやいや、照陽くんはただの幼馴染だから違うよ~」
慌てふためいて否定することなく、ただ淡々と否定された。
「ガフッ!!」
「あ、明和大丈夫かーーっ!?」
照れ隠しという線が消え失せ、吐血する勢いのダメージを負って片膝をつく。
クラスメイトも心配して駆け寄ってきてくれたが、大ダメージである。
そんな僕は眼中にないらしい女子生徒は、真凛に質問を続けた。
「じゃあ誰なのさ! 今までそんな浮ついた話なかったじゃんよ!」
「え、えっと……私の喫茶店に昔から通ってくれてる同い年の人なんだ」
「ほぇ~~。なんで好きになったん?」
「ちょっと変なお客さんに絡まれてた時助けてくれて、一目惚れ……ですっ」
「「「おぉ~~!」」」
いや、いやいやいや! いい話風に聞こえるけど、首輪プレゼントしてくるやばいやつだろ!?
少々脳内お花畑が過ぎる気がするが、割り込んでも僕が白い目で見られるので今は大人しく聞いておこう。
「その人とはどこまで進んでんの!? もうキスとかした!?」
「ち、ちゅーはまだしてないよ! ハグはしちゃいました……♡」
「くゥ~! 真凛ちゃんをこんなメス顔させるなんて、さぞかっこいいんだろうね~」
「メスっ!? そ、そんな顔してた……?」
「バリバリしてた☆」
「あぅぅ……はずかしい……」
真凛は赤くなった頬を指で掻きつつ視線を泳がせる。
普段ならこんなにも自分のことについては話さない。つい話してしまう時は決まって嬉しさが溢れ出ている時だ。
こんな事実認めたくないけれど……彼女は今、嬉しいらしい。
ハグしたことも、ペット用首輪をつけられていることも……。
(の、脳が……ぐちゃぐちゃに破壊されりゅ……!)
気を抜いたら、口から泡を吹いて血涙を流すダメージが脳に蓄積されている。
「えっと、先生来たからこの話は一旦終わり! ねっ?」
真凛が話題を逸らして自分の席に座った。
だが、やってきた先生も彼女の首元を見て呟く。
「……えーーっと。真凛さん? その首の物は一体……」
「た、大切な人からのプレゼント、です……。最近のファッションですよっ!!」
「最近はそんなものが流行っているんですか!? 若い子の感性、わからん……」
ササバくんに堕ちたとて優等生の評価は変わらない。
先生一同、真凛にはあまり強く出れないのだ。だから今のように、苦しい言い訳だとしても言いくるめられてしまう。
先生からのお咎めは何もなく、朝のホームルームが始まった。
時折「チリンッ♪」と教室内で鳴る鈴の音が、僕のメンタルをゴリゴリすり減らして行く。
(こ、これから毎日……この日常が続くのか!? ノイローゼになる気がするんだが……。あっ、しかもなんだか眩暈もしてきた)
結局この日、授業内容は一切頭の中に入ってくることなく、体調不良で早退をするのであった。
いつもよりも授業数が少ない早退だが、多大なる精神ダメージによって項垂れながらの帰宅をしている。
「はぁあああああ……。ササバくん、っていったか。僕の知ってる信頼できる人ならまだしも、全くの他人だからなぁ。真凛を任せるに値するか、せめてお話がしたいが……ん?」
ふと顔を上げると、とある人物が僕の瞳に映った。
「今日は早く授業終わったし、喫茶店でもいってマリンさんに癒されるかな~!」
その人物は紛れもない、真凛にペット用の首輪をプレゼントしたと思われるササバくんである。
僕は迷うことなく近づき、彼の肩に手を置いた。
「ササバくん……だよね? ちょっとだけ僕とお話、してくれないかな」
徹底的に言及してやる……!




