第9話 招かれざる客
王都リュミエールの正門前。
豪奢な馬車が
列を成して並んでいた。
それぞれの馬車には、
異なる国章。
周辺諸国の使節団である。
聖女誕生から
わずか数日。
情報の伝播は、
あまりにも早かった。
バルトは
城門の上から
その光景を見下ろしていた。
「露骨すぎますね」
隣に立つ
ダニエルが言う。
「隠す気がない」
バルトは
淡々と答えた。
王城・謁見の間。
赤絨毯の上に、
各国の使節が並ぶ。
最前列。
帝国ヴァルグスの
代表が一歩進み出た。
銀髪の長身の男。
名は、
カイゼル。
若い。
だが、
目が冷たい。
「ルミナス王国に
新たな聖女が
誕生したと聞いた」
「帝国は
祝意を表する」
形式的な言葉。
続けて、
口角を上げる。
「同時に、
我が国で
保護したい」
場の空気が
凍る。
リュート王子が
前に出る。
「それは
拒否する」
「聖女は
我が国の
国民だ」
カイゼルは
肩をすくめる。
「ならば、
共同管理という形は?」
「安全のためだ」
バルトは
一歩踏み出す。
「安全は
我々が守る」
カイゼルの視線が
バルトに向く。
「君が
王国騎士団長か」
「若いな」
「だが……
悪くない」
その言葉には、
明確な品定めの色があった。
謁見は、
平行線のまま終わった。
王城の回廊。
ミレーヌは
柱の陰から
その様子を見ていた。
自分のせいで、
国が揺れている。
胸が苦しくなる。
「……私が
いなければ」
呟いた瞬間。
「それは違う」
バルトの声。
ミレーヌは
驚いて振り向く。
「君がいるから、
王国は
立っていられる」
「責任を
背負う必要はない」
ミレーヌは
唇を噛む。
「でも……
怖い」
「俺もだ」
正直な答えだった。
「だから、
一人じゃない」
ミレーヌの胸に、
小さな灯がともる。
その夜。
王都の屋根の上。
一人の男が
立っていた。
黒髪。
細身。
カイゼルの部下。
「標的確認」
小さく呟く。
双眼鏡の先。
ミレーヌの部屋に
明かりが灯っている。
「命令を待つ」
遠くの闇で、
別の声が答える。
「待て」
「まだ
仕掛けるな」
「まずは、
王国騎士団長を
試す」
男は
薄く笑った。
嵐は、
すでに
始まっていた。




