第8話 静かなる波紋
聖女ミレーヌの誕生から、
一週間が過ぎた。
王都リュミエールは、
祝祭の空気に包まれている。
だが、
その裏側では、
確実に不穏な動きが
広がっていた。
王城・会議室。
重厚な円卓を囲み、
王族、
貴族、
軍上層部が集まる。
王子リュートが
口を開いた。
「聖女誕生は
王国にとって
大きな力だ」
「同時に、
大きな標的になる」
年老いた貴族が
鼻を鳴らす。
「若造の戯言だ」
「聖女一人で
何が変わる」
バルトは
静かに言った。
「すでに
暗殺未遂が起きています」
「教会過激派は
壊滅しましたが、
背後関係は
不明です」
室内が
ざわつく。
リュートが
続ける。
「諜報部からの報告では、
周辺諸国が
動き始めている」
「聖女を
“保護”するという名目で」
それが
意味するところは一つ。
侵略。
「馬鹿な……」
誰かが
呟く。
バルトは
ミレーヌの姿を
思い浮かべた。
まだ十五歳の少女。
国家の道具に
されるには、
あまりにも若い。
会議後。
王城の中庭。
ミレーヌは
ベンチに座り、
本を開いていた。
だが、
文字は頭に入らない。
「……疲れた」
呟く。
バルトが
少し離れた場所で
立っている。
「休め」
「休めない」
即答だった。
「聖女は
休んじゃ
いけないんでしょ」
バルトは
少し考え、
言った。
「人は
休む」
「聖女でもだ」
ミレーヌは
顔を上げる。
「……命令?」
「助言だ」
少しだけ、
口角が上がる。
ミレーヌは
小さく息を吐いた。
「ねえ」
「何だ」
「私が
いなくなったら」
「王国は
楽になる?」
バルトは
即座に答えた。
「ならない」
「むしろ、
終わる」
ミレーヌは
目を伏せる。
「私は……
誰のために
生きればいいの」
バルトは
一歩近づく。
「自分のためだ」
ミレーヌは
驚く。
「聖女でも?」
「関係ない」
沈黙。
やがて、
ミレーヌは
小さく頷いた。
その夜。
王都の外れ。
廃屋の地下。
黒衣の男が
膝をついていた。
「教会の計画は
失敗しました」
闇の中から
声が響く。
「問題ない」
「次は
“国”を
使う」
男は
震えた。
「聖女を巡る戦争を
起こせ」
闇は、
まだ深い。
バルトは
城壁の上に立ち、
夜空を見る。
胸に誓う。
――何が来ようと、
あの少女は
守る。
静かな波紋は、
やがて
大きな嵐になる。




