第5話 決戦前夜
王都リュミエールは、
不気味なほど静かだった。
聖女選定戦、
決勝前夜。
人々は酒場に集い、
勝敗の話題で盛り上がる。
だが、
その裏で、
確実に血の匂いが
漂っていた。
バルトは
王城の訓練場で
一人、剣を振っていた。
素振り。
ただの素振りではない。
魔力を流し、
剣と身体を
同調させるための
基礎鍛錬。
汗が
床に落ちる。
「団長」
ダニエルが
歩み寄る。
「休んでください」
「今は無理だ」
バルトは
剣を止めない。
「明日、
何が起きるか分からない」
ダニエルは
ため息をつく。
「団長は、
背負いすぎです」
「騎士団長だからな」
短く返す。
沈黙。
やがて、
ダニエルが言った。
「もし……
俺が倒れたら」
バルトは
剣を止めた。
「倒れさせない」
「もしの話です」
ダニエルは
真剣だった。
「団長は、
ミレーヌ嬢を
最優先で」
バルトは
ゆっくり頷く。
「約束する」
ダニエルは
満足そうに笑った。
その頃。
王城の一室。
ミレーヌは
白い衣を
手にしていた。
明日、
聖女候補として
着る服。
「……似合うのかな」
呟く。
鏡に映る自分は、
いつもの高慢な令嬢ではない。
ただの、
十五歳の少女だった。
扉をノックする音。
「誰」
「バルトだ」
一瞬、
間があった。
「……どうぞ」
バルトが入る。
「明日、
人前に出る」
「怖いか」
ミレーヌは
頷いた。
「でも……
逃げない」
「偉いな」
バルトは
そう言った。
ミレーヌは
驚いた顔をする。
「褒められるの、
初めて」
バルトは
少しだけ
目を伏せる。
「俺が守る」
「約束だ」
ミレーヌは
小さく笑った。
「……変な人」
その夜。
教会地下。
蝋燭の灯りに照らされた
円卓。
黒衣の者たちが
集まっていた。
「明日の決勝で、
全てを終わらせる」
中央の男が言う。
「聖女候補ミレーヌは
“事故”で死ぬ」
「護衛役も
同時に処理する」
別の男が言う。
「王国騎士団長が
相手だ」
「問題ない」
中央の男が
嗤う。
「“器”を
投入する」
重い沈黙。
「……成功すれば、
我々の時代だ」
闇は、
すでに王都の中心に
根を張っていた。
バルトは
城の廊下を歩く。
窓の外には、
満月。
胸騒ぎがする。
だが、
迷いはない。
守ると決めた。
それだけだ。
決戦の朝は、
確実に近づいていた。




