第2話 忍び寄る刃
バルトの視界に映ったのは、
観客席の陰で
弓を構える黒装束の男だった。
狙いは明白。
ミレーヌ。
「ダニエル!」
叫びと同時に、
バルトは走り出す。
距離は約五十メートル。
通常なら間に合わない。
だが、
彼は王国騎士団長だ。
地面を強く蹴り、
魔力を脚部に集中させる。
身体強化。
筋力と瞬発力を
一時的に高める基礎魔法。
バルトの身体が、
矢のように飛ぶ。
弓弦が引かれる音。
「くっ……!」
矢が放たれる。
バルトは剣を投げた。
回転しながら飛んだ剣が、
矢を真っ二つに裂く。
同時に、
ダニエルが別方向から
突っ込んだ。
「逃がすか!」
黒装束の男は
観客の中へ飛び込む。
人混みが悲鳴を上げ、
逃げ惑う。
「包囲しろ!」
バルトは叫ぶ。
周囲の騎士たちが
一斉に動く。
だが、
男は素早かった。
煙玉を投げ、
白煙が広がる。
視界が遮られる。
「団長!」
「俺は行く!」
バルトは
煙の中へ踏み込んだ。
剣を拾い、
気配を探る。
――左。
振り向きざまに斬る。
手応え。
男の肩口を
斬り裂いた。
「ちっ……!」
黒装束の男は
後退し、
そのまま
観客席の外へ跳んだ。
追うべきか。
一瞬迷う。
だが、
最優先は――
バルトは振り返る。
ミレーヌは、
騎士たちに囲まれ、
無事だった。
だが、
顔色が悪い。
唇が、
小さく震えている。
「……大丈夫か」
バルトは
歩み寄った。
ミレーヌは
一瞬だけ
彼を見る。
そして、
そっぽを向いた。
「別に。
この程度で
動揺するほど
弱くありません」
強がりだ。
声が
かすれている。
「団長。
追いますか?」
ダニエルが
近寄ってくる。
「いや。
今は警備を優先する」
バルトは
ミレーヌを見たまま
答えた。
「……彼女を
重点的に守れ」
「了解」
聖光教会の司祭が
慌てて走り寄る。
「な、何者だ!
あれは!」
「分からん。
だが、
明確に聖女候補を
狙っていた」
司祭の顔が
青ざめる。
「まさか……
始まってしまったのか……」
「何だ」
司祭は
口を閉ざす。
「今は……
まだ話せません」
バルトは
それ以上追及しなかった。
大会は、
一時中断された。
観客の避難。
警備の再配置。
その間、
ミレーヌは
控室へ移された。
バルトは
その前に立つ。
護衛として。
「……どうして
私を助けたの」
控室の中から
声がした。
「任務だからだ」
「嘘」
短く言い切られる。
バルトは
少し考えた。
「見殺しに
できなかった」
沈黙。
しばらくして、
小さな声が聞こえる。
「……変な人」
それが、
ミレーヌが
初めて向けた
本音だった。
その夜。
大会は
翌日に再開されると
発表された。
バルトは
王城へ呼び出される。
玉座の間。
王子リュートが
立っていた。
「団長。
あの暗殺者……
教会内部の人間だ」
「根拠は」
「矢に刻まれていた
紋章だ」
リュートは
小さな布を差し出す。
そこには、
聖光教会の
極秘部隊を示す
印があった。
「……つまり」
「教会の中に
裏切り者がいる」
重い沈黙。
「ミレーヌ嬢は
何者だ」
リュートは
低い声で言う。
「記録上、
彼女は闇属性」
「だが……
それは偽装だ」
バルトは
静かに言った。
「俺は、
彼女から
闇の気配を
感じなかった」
「……同感だ」
リュートは
目を伏せる。
「彼女の正体は、
おそらく――」
その言葉を、
誰も口にしなかった。
だが、
答えは同じだった。
聖属性。
王国で
唯一の可能性。
「団長」
リュートは
真っ直ぐに
バルトを見る。
「ミレーヌ嬢を
守れ」
「命に代えても」
バルトは
膝をついた。
「御意」
若き騎士団長は、
この瞬間、
一人の少女の盾となることを
選んだ。
物語は、
加速する。




