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第陸話「少女と老人」

ベルグス区 政庁

ギャックは写真の意味について説明を始める。

「これは私があの自称大魔王が時計塔で話している時に撮っていた物ですが御覧の通り何も写ってないんですよ。」


写真を見て、全員がその写真に誰も写ってないことを確認する。ギャックはもう一枚の写真を出す。

「そしてこれが、私が山で撮った写真です。」

そこには夜闇に浮く1つの影があった。一点に向かってショットガンを構えている。


浮いているということは{飛翔の資格}か、風魔術の{フリュー・ゲル}だ。シルヴィアの脳内に嫌な予想が浮かんでしまう中、ギャックは言葉を続ける。

「この後この影は{ノクシア・ザーラ}という上位魔術を使用、着弾地点には複数の死体が無残な姿で転がっていました。」


ギャックはその死体を写した写真数枚をテーブルに置く。そこにはケイオスの姿もあった。シルヴィア達は、先ほどの写真の影がケイオス達を殺したと瞬間的に理解する。


すると、ギャックは先ほどの人影の写った写真を指差す。

「さらにこの写真、見えにくいと思いますが、軍の装備を着ています。そして、剝ぎ取られたであろう死体も、山の中腹で発見しました。


また一枚の写真をだす。こいつは一体どれほど撮ったのだ?とシルヴィアは驚きを隠せない。それはそうと写真に目を落とすと、装備を剥ぎ取られたハインケルの死体があった。


「さらにこの場所には、民家と思われる建物が11軒ほど建てられており、魔族の死体も大量に転がっていました。こちらです。」

続けて出した数枚の写真には体に大量の風穴を開けられた魔族達の死体が写っていた。


そして、何より驚いたのが、それがマーク事件で誘拐された魔族とピッタリ一致しているからだ。頭の中で次々とピースが組み合わさる。


ギャックの話が結論へと移行する。

「つまり、この人影はマーク事件の犯人である可能性が非常に高いと言えるのです。」

「待ってくれ、つまりどうゆうことなんだ?」


話についてこれていないドロテアが声を上げる。そのドロテアの反応を見て、レムが説明した。

「マーク事件はかなり奇妙な事件で誰も犯人の姿を見ていなく、誘拐されたことにも気付かなかった。」


「しかしそんな情報では抽象的すぎる。けどもしラミル山事件とマーク事件が同一犯だとしたら、話は大きく変わってくる。このカメラマンが撮った一枚目の写真、」

レムはギャックが一枚目の写真を指差す。


「ここに本来人がいないのに見えたとすれば視覚の資格、声が聞こえたのなら聴覚の資格を所持している。この2つなら大量にあったマーク事件の犯人の能力にも説明がつく。」


マーク事件の犯人のスペックは今まで大量に候補があった。見えないということは超スピードで動いたのでは?分からなかったということは催眠能力を持っているのでは?


しかし、ラミル山事件のおかげで、犯人のスペックは粘土のように固まっていく。レムは最後に人影のある写真を指差した。

「そして{ノクシア・ザーラ}なんて上級魔術、魔力量の低い魔族が撃てるとは考えにくい。もちろん突然変異の奴ってこともあるけど、翼が生えてないから人間の可能性がかなり高い。」


「つまり、犯人は風魔術と闇魔法魔術が使えて視覚の資格と聴覚の資格を持った人間の可能性が高いってこと。」


そんな話が政庁で繰り広げられる中、そうとは知らずルークは階段を一段一段下っていた。アロンダイトを両手に携え、周囲を警戒しながら進む。


古くくたびれた壁のレンガにはヒビが入っていて、そのヒビからは冷気が漂ってくる。気味の悪い場所だ。まあ気味の良い地下室なんて見たことないが。


「なんかお腹が空きましたね。」

マギアス、お前は自由か!そう叫びたくなる。いや実際誰かそう言った気さえする。こんな食欲をそぎ落とすような場所だというのに。


大魔王時代から付き合いがあって今30年近くだが、未だにこういうマギアスの緊張感のない言葉には惑わせられるものの、今はありがたい。


だってここ、お化け出そうなんだもん!!暗い、古臭い、寒い、暗い、あれ?今暗いって2回言った?とにかくルークの背筋は凍りそうなのだ。


その時、背後で音がした。恐怖のあまりルークは劇画調顔で叫んでしまう。アロンダイトの引き金に手を添えて振り向くと、そこにいたのはただの一匹のネズミだった。


一瞬で緊張がほどけ、大きく息を吐くルークのその光景を眷属達はひどく驚いた顔で一部始終見ていた。それに気付いたルークは満面の、そして、反論を許さないと言わんばかりの笑みで。


「いいかお前ら、お前らは何も見ていない。」

「もしかしてジャック様ってこわg」

「いいか、何も見ていない。」


マギアスの言葉を視線で制す。流石にいつもおちゃらけたマギアスもやばい雰囲気を感じ、縮こまった。

ルークは何事もなかったように歩き出す。


ルークが踏み出した足に異変が起こる。タイルに足が着いた瞬間、少し脚が沈んだのだ。それを目の当たりにしたルークはゴクリと唾をのむ。


良くない予想が頭を駆け巡る。その予想は見事に的中した。地面の隙間から何本もの針がルークに襲い掛かる。ルークはなんとか刺さる直前にフリュー・ゲルを使って飛び上がる。天井に張り付き、針はルークの目の前で止まった。


「大魔王様、大丈夫ですか?」

一番にレティーがルークに呼びかける。針はゆっくりと隙間へと帰っていき、ゆっくりとルークは地面に気を付けながら着地した。


どうやら仕掛けがあったらしい。1つのタイルが少し浮かんでいる。趣味が悪い、二次試験というわけだ。ルークはその事実に口角を上げる。


それからルーク達は道中でいろんな罠に襲われた。


先を歩いていたマギアスが一本の糸に引っかかると、その瞬間に地面が崩れ始め、5人は急いで後退した。前方の道が崩れてしまったため、回り道をするしかなく、迷路のような道を歩くことになった。


歩き始めてから30分くらいたったところで次の罠が牙を剥く。

マギアスが十字路に差し掛かった時に右側の道の突き当りにテーブルとその上に置いたフルーツを見つけた。かなり状態がよく、おそらくもいでから2日もたってないだろう。


それを眼前にしたマギアスが耐えられるはずもなく、餌に釣られる魚のごとくそこに向かっていった。案の定それは罠で、突き当りの壁から火炎放射が突出し、炎が5人を襲った。


そしてさらに行くとまたマギアスが張られた糸に引っかかり、目の前から奇麗な球状の岩が迫って来た。


そしてそれに逃げている途中にルークが浮いているタイルを踏み、地面を突き破ってお化け屋敷などで使われそうなオブジェが出現した。ルークは気絶した。



「あの罠考えたやつ、絶対殺してやる...............。」

ルークは殺意の籠った眼差しでアロンダイトを握りしめる。その時、けたたましい黒板をひっかいたような音の後にガラガラの少女の声が聞こえた。


ーあー、あー、聞こえてる?聞こえてるな、受験生諸君、聞こえてなくてもそういうことで話すからな!ー

いやそこは確かめろ!!そう思わず突っ込みたくなるが、聞こえてるのでスルーすることにしよう。


ー第二次試験合格おめでとう、正直殺す気でやったんじゃけど全員突破とはびっくりじゃ!そういうわけで最終試験じゃ。ー

ようやく最後か!ゴールが近づいているのを実感し、ルークは安堵する。それと同時に前方の闇の中から足音が聞こえてくる。


軽い足音だが、一歩一歩に重みを感じる。その闇の中から出てきたのはいかにも優しそうな老紳士だった。笑顔を浮かべ右手を胸の位置で地面と平行に止めて頭を下げる。着ている服的に執事だろうか。


「初めまして、{ケネディ・グラベットシュタイン}です。お嬢様の執事をさせてもらってます。」

ケネディが自己紹介を終えると、右手に持っている者を見せた。それは無色透明のピンポン玉サイズの球だった。


「最終試験は、この球を私から奪うことです。」

「待ってください、呼び出しておいてこういうことをする意図が見えません!」

ミージュが声を張り上げて抗議する。それに答えたのは少女の声だった。


ーその理由は簡単じゃ。吾輩たちが情報やらなにやらを与える価値があるか見定めるためじゃよ。無能にやる物はない、吾輩が求めているのは家畜ではない、鉄風雷火の限りを尽くして敵を蹂躙し、恐怖を与える獣、品定めは必要じゃ。ー


なんと傲慢な奴か。そっちが呼び出したんだろう?声の主に1発かましてやりたいが、その前にケネディとやらを倒してかららしい。


耳が長い、魔族だ。そして見た目から年齢はすでに300はいっているだろう。その華奢で長細い体型からは想像できないほどの圧を感じる。


「では準備OKですね。」

笑顔のまま、ケネディはそう問いかける。5人は返事の代わりに各々の武器を構えることでそれに応えた。そして、最終試験が始まった。


ケネディは球を胸ポケットに入れる。どうやらそこからとらないといけないらしい。どう攻めていこうかと頭の中で思案する。


しかし、ケネディが何を使うか分からない以上、迂闊には動けない。お互い動かないまま時間だけが流されていく。それに耐えられなかったのか、マギアスは独断で突撃を始めた。


「ま、待てっ!!」

ルークの静止も聞かず、ケネディの武器を受け止めるために右手にナイフを携えて、左手を胸ポケットに伸ばす。マギアスはこれで決まったと思った。


どんな武器を持っていたってこのスピードには対処できまい。しかし、そんな幻想はいとも簡単に破られることとなった。


ケネディが右腕を掲げた瞬間、マギアスの体中に切り傷が数えきれないほどつけられていた。何が起きたのか分からず足を止めてしまう。その一瞬の隙をついて、ケネディはマギアスの首筋に手刀を目にも止まらぬ速さで当てた。


ーはーい1人脱落!!あ、ケネディそのひと横に置いといて。ー


風船がしぼむように倒れるマギアス。気絶したんだ。ケネディは倒れたマギアスを丁寧に隅に寄せる。何が起きたとルークは周囲を見渡す。


すると、自分たちの周囲に何やら光る何かがあるのに気付いた。暗がりのこの場所でも確かな光を発する何かが。


その正体を知り、ルークは青ざめた。ワイヤーだ。自分たちの周囲にワイヤーが張り巡らされている。そのワイヤーはケネディの手の中に収束していた。


レティー達も気付いたらしく、冷や汗をかき始める。このままでは不利と判断したルークは一度引くことに決めた。

「一時撤退だ。引くぞ!!」


ルークの指示に従い、レティー達は撤退を始める。それを逃がさんとするケネディの追撃が牙を剥く。とても老人とは思えない速度で距離を詰める。それを見て、ルークはジェリーに指示をだす。

「ジェリー、足を!」

「ガッテン!!」


走りながらジェリーは後ろ向きにスナイパーライフルを構え、ケネディの右足に向けて発射する。しかし、その弾丸はケネディに届くことなく、空中でその動きを停止した。


なんと、弾丸は鋼線にぐるぐる巻きにされていて、強制的に動きを止められていた。ケネディの技量に驚愕する面々。目にも止まらぬ速さの弾丸を細い鋼線包み込むなんて。


続けてケネディは両手を前に突き出すと、大量の鋼線が4人を襲う。そして、ルークのアロンダイト、ジェリーのスナイパーライフル、ミージュのライフル二丁を巻き上げ、奪い取ろうとする。


武器を取られまいと踏ん張りながらルークはアロンダイトの向きを固定し、鋼線に向けて引き金を引く。しかし、逆に弾丸は真っ二つにされてしまった。


「させるか!!」

レティーが踵を返し、炎の聖剣を振るってルーク達の武器がケネディの手に渡る前に鋼線を斬り落とそうとする。しかし、鋼線は斬れるどころか溶けることさえなかった。


結局力負けし、ルーク達の武器は奪い取られてしまった。それを見たルークは歯噛みしながらあれを使う。正直使いたくないが仕方がない。


「ゾールゼ・メロ」

その瞬間、ルークを中心に黒い煙幕が発生した。その煙幕はたちまちケネディやレティー達を包み込む。そこで、ルークはあるものを見た。


それと同時に立ちくらみ。この魔術は魔力消費がかなり高い、逃亡の際のルークの奥の手だ。今のうちと言わんばかりにルーク達は煙幕を抜け走り出す。


ケネディは鋼線を自分を中心に螺旋状に回転させ、煙幕をはらう。しかし、そこにルーク達の姿はなかった。しかし、ケネディの表情は変わらない。


目の前には十字路。おそらくどこかに逃げ込んだんだ。ケネディはゆっくりと足を前に出し、捜索を始めるのだった。



ルーク達は先ほどの罠が張り巡らされた地帯に戻って来ていた。ルークは息を切らし、虫の息で壁に手をついている。他の面々もまだまだ余裕とはいかない。


魔力も底をつきかけている。資格の使用は出来ない。武器もなければ魔術も使えない。まさに八方塞がりという奴だ。


「どうしますか?ジャック様。」

息を整えたレティーがジャックに問いかける。既に武器はレティーの炎の聖剣のみだ。.....いやそれだと少し語弊がある。正しくは2つ。


しかし1つはほぼ使い物にならない。1つは炎の聖剣、そしてもう1つは、メビウス。ただし、あの時ルークと一緒に壁にめり込んでしまったことにより、異常を起こして引き金が引けなくなったのだ。


メビウスの使い道は2つ、投げるかそのままぶん殴るかだ。まず投げたところで止められる可能性が高いだろう。かといって近づけもしない相手に有効とは思えない。


ルークは先ほどの煙幕魔術の使用により、しばらく強力な魔術は使えない。そしてミージュとジェリーは魔術が使えない。となれば残るのは1人だけ。


ルークの頭の中に1つの筋道が出来る。正直一か八かの賭けだが、それ以外何も思いつかない。

「レティー、打開策が1つ出来た。それにはお前の炎魔術が必要不可欠だ。」



ケネディは一つ目の道の突き当りまでたどり着く。そこにルーク達の姿はなかった。

「ここではありませんか.............。」

即座に踵を返して歩き出そうとする。その時、気配を感じて動きを止めた。


「なるほど、そちらから来ていただけるとは思いませんでした。」

そこにはルーク達4人が立っていた。そして、その目には確かな、活路を見つけたような光があった。


「はてさて、武器なしにどうするのでしょうね?」

ケネディはそう軽口を叩きながら横向きに3本の鋼線を放つ。すると、レティーが真っ先に前に出て迫りくる鋼線を上から叩きつける形で炎の聖剣で受け止め、はじき返した。


「ラグニア!」

そして、下ろした聖剣を上げると同時に三日月型の炎の斬撃を放つ。しかし、ケネディは読めてたと言わんばかりに自身の前に鋼線」を張り巡らせて、斬撃を受け止めた。


その瞬間をルークは待っていた。両手に持っていたメビウスをピッチャーのフォームの要領で振りかぶる。かなり重いが、筋トレのおかげで前より楽に扱うことが出来る。


しかし、そのフォームを取っている途中で横から鋼線がルークに襲い掛かった。ルークは避けるためにフォームを崩して後退する。


何か変な事をされる前にそれを止めればいい。どんな秘策をもってしてもなにかアクションを起こす前に止めればなんの意味もなさない。


ルークは再び構えをとるが、鋼線の邪魔が入って投げれない。ケネディの注意を引くべく、ミージュとジェリーが特攻をかける。


ケネディの放つ鋼線を搔い潜り、距離を詰めるが、事前にケネディが仕掛けてあった鋼線の輪の中に足を踏み入れてしまう。その鋼線が一気に中心に向かって収束し、ミージュとジェリーの両足を縛りあげた。


バランスを崩して横並びになって倒れる2人。それでも、時間稼ぎとしては十分だった。


ルークはケネディに向かって手に持つメビウスを思い切り投げつけた。そして、空中に放たれたメビウスをレティーは炎の聖剣でバットの要領でケネディに向かって打つ。


炎をまとい、速度が上がったメビウスが、ケネディに牙を剥く。しかし、ケネディはメビウスに気付き、鋼線で包み込んでしまった。その瞬間、ケネディは武器を失った。


「そんなものを投げても無力です。」

そう軽口を叩き、右腕を突き出して鋼線をルークに放つ。しかし、ルークは微動だにしない。まるで外れるのを知っているかのようだ。


その鋼線はルークの隣をすり抜けていった。ケネディは驚愕と、ある違和感を覚えた。手元が狂った?いや、狙いは抜群だったはず。しかも、いつもと比べて重い。そして、それはすぐわかった。メビウスだ。


先ほどレティーが炎の聖剣で打ったことにより、メビウスの表面の鉄が溶けていたのだ。そしてそのメビウスをケネディの鋼線で包み込んでしまったことにより、時間がたって表面の鉄が固まった鋼線とメビウスが絡みついてしまったのだ。


これではもう鋼線は使い物にならない。鋼線は立体攻撃や捕縛、防御が出来るものの、扱いはかなり難易度が高い。一本一本が繊細で、ヘマをするとすぐに絡まってしまう鋼線を操るには相当の訓練が必要だ。


そして今まさに鋼線はルークの手によって絡まってしまった。ルークの掛け声と共にレティーがケネディに襲い掛かる。ケネディは即座に鋼線を手放し、何処かからナイフを取り出す。


しかし、ただのナイフと炎の聖剣の差は歴然で、ケネディは成すすべなく地面に叩きつけられる。倒れたケネディに向かい、ルークはゆっくりと近づく。


これで終わりだと言わんばかりにケネディの胸ポケットに手を伸ばす。その時ケネディは確信した。勝ったと。何故ならケネディの胸ポケットにはあの透明の球は入ってないのだから。


本当の隠し場所は自身の右腕の袖の中。あの時手にはもう一つの球を隠し持っていて、ポケットに入れたのはハズレ用の黄色の球だ。これを取れば強制的に失格。敵の言っていることに疑わず、思考を停止させる無能はいらない。


嗚呼、きっと取ったら一瞬感極まった表情になり、すぐさま表情が逆転するだろう。そんな顔をする者を、今まで何人も見てきた。期待していたが、違ったようだ。


その時、ルークの右手が突如としてポケットの眼前で止まったのだ。

「普通の奴なら、ここでそのはずれを取っていたんだろうが、俺は違う。」

そして、ケネディのポケットから袖に手を移動させ、中にある透明の球を取り出した。


「どうして.......!?」

「何、簡単さ。今まで難易度の高い謎解きや殺しにかかるような仕掛けだったのに、ラストでこんな単純なわけがない。しかしそれでは推測に過ぎない。でも、あの煙幕のおかげで確信を持てた。」


その時、ケネディは思い出した。自分の犯した過ちに。

「あの時お前は煙幕内での奇襲を恐れて初めに右腕の袖を隠した。本来なら胸ポケットを守らなくてはいかないはず。だから確信した。本当の隠し場所は袖だって。」


ー合格じゃーーーーー!!ー


少女の声と拍手の音が聞こえる。どうやら無事に合格出来たらしい。安堵の息を吐くルーク。ケネディも立ち上がって拍手をしてくれた。その後、ケネディに連れられ、マギアスと合流してそのお嬢様のところまで連れて行ってもらった。



たどり着いた場所はところどころに配線が張り巡らされており、目の前の監視モニターには、この地下室のほとんどが映し出されている。そんなモニターの前で、ルーク達に背を向けながら回転する椅子に座っているあの少女がいた。


ルークが一歩前に出て、椅子にふんぞり返っている少女に自己紹介をする。

「どうも、アラン・シュバルツァー公爵が長子、ルーク・シュバルツァーこと大魔王、ジャック・ヴィ・ラン・アーサーです。」


少女は何も言わず、サイドテーブルにあるカップを無駄に上品に手に取り、無駄に上品に紅茶を飲んだ。

「初めましてジャック公、吾輩は今は亡きギュール・タン=ド・アンデルセンが長女、{ダミィ・ビレイダス=ド・アンデルセン}じゃ。」


ゆっくりと少女は椅子を回転させてこちらを向く。足を組んで座っている姿がまた無駄にかっこいい。赤い目からは何もかもを包み込んでしまうような気迫があり、この暗い部屋の効果もあり、黒ずくめのその姿がかなり不気味だ。


髪は紫色で、前髪が右目が隠れている。後ろでポニーテールにまとめられた姿は酷いまでとは行かないが、不格好だった。確たる証拠はないが、ケネディではなく、この少女がやったのだろうと感じた。


身長に対して椅子がかなり大きくて、親に抱えられている子供のような印象を受ける。次はケネディがダミィの隣に立って再度自己紹介を始める。背筋を伸ばして手を後ろで組む。


「改めまして、お嬢様の執事をやらせてもらっていますケネディ・グラベットシュタインです。以後、よろしくお願いします。」

ダミィとは対照的にこれでもかというほど下手に出るケネディ。ルークたちも簡単に自己紹介をする。それが終わったところで、早速本題に入った。


「まずはおめでとうじゃ。うちは何でも屋、情報の提供から武器の販売まで何でもする。しかし吾輩もビジネスであってボランティアじゃない。こちらからの要求にも応じてもらうぞ。」

ダミィはカップをサイドテーブルに置くと、ひじ掛けに両肘を乗せてルーク達を見渡した。


「要求というのは?」

「決まったものがないからどうとは言えん。で、なにか頼むのか?」

ミージュからのの質問を軽くいなすと、ルークと目を合わせた。ルークは頷き、自身が要求するものを口にした。


・魔王軍の団員の募集をかけてほしい。

・魔族解放戦線の居場所を教えてほしい

・支配、飢餓、死の騎士の居場所を割り出してほしい

・弾薬を売ってほしい


「なるほどな、募集はかけておこう。武器も売ってやる。ただ、残りの2つは少し時間がかかるじゃろう。では、こちらからの要求じゃ。」

ダミィは椅子を回転させてルーク達に背を向けると、机の引き出しを探り、中からA4サイズの1枚の紙を取り出して、ルークに渡した。


その紙を受け取ったルークは紙に目を落とす。そこにはある場所が書かれていた。ネクロポリス帝国の真東の端に位置する山脈{エルトン}だった。そして、何枚かの写真が添えられている。


それはどこかの大きな空洞の中にある仕事場?のようなところだった。見るだけでかなりの不快感を感じる。

「それは山脈の地下にある大規模の労働場所じゃ。ちょうどマーク事件がその異質さから話題になっていたこらへんからあるらしいんじゃ。」


「そこではエルトン山脈の近辺の街から誘拐した魔族を労働させているらしい。麻薬の製造をしているという。そこの施設を壊滅させてほしい。」


なるほど、今回の要求はその施設を壊して魔族を助け出すというものらしい。」正直写真を見る限り、警備はあまり厳重ではなさそうだ。すると、まあなんとかなるだろうというルークの思考を読んだかのようにダミィは言葉を続けた。


「ただな、ここから逃げ出した魔族によると、ここの施設に、()()()()()()がいるそうなんじゃ。」


その言葉で空気が一瞬で変わった。{転生した勇者}それはルーク、いや誰にとっても因縁の相手だった。たった1人で魔族を追い詰め、戦争を終結させた人間。


眷属の面々が少し怖気づいてしまうなか、ルークだけは違った。口角を思いっきり上げ、嘗め回るような目で紙を見る。

「素敵だ.........こんな早く再戦が出来るなんて.....。」


その威圧に圧倒される面々。ルークはその顔はまさに悪魔を連想させるものだった。冷や汗をかきながらも、ダミィは言葉を続ける。

「やる気があって何よりじゃ。しっかり頼むぞ。」


「当然です。」

ルークは自信満々にそう口にする。今度こそ勇者の完膚なきまでに圧倒して息の根を止めてくれる。頭をかち割って脳髄を引きずり出してくれる。


その時、今まで黙っていたケネディが口を開いた。

「あの、ルーク様。これ、いかがいたしましょう?」

ケネディが出したのは、大量の鋼線と絡まっているメビウスだった。すっかり忘れていた。


「えっと、どうしましょう...........。」

いきなりの事でまごつくルーク。そんなルークにケネディはある提案をした。

「このメビウス、私が改良してよろしいでしょうか?」


「改良?そんなことが出来るんですか?」

「ええ、だって私がこれを造ったのですから。」

いきなりのカミングアウトだ。メビウスはジャック用に特別に造られたもの。その作者がここにいたなんて。


「ぜ、ぜひお願いします。」

ルークはその提案を承諾した。それに対しケネディも「こちらこそ、お役に立てるのなら光栄です。」と言って頭を下げた。



ベルグス区政庁

日がその姿を隠し、誰もが寝静まる頃、シルヴィアは今日の会議の事を思い出していた。


ーつまり、犯人は風魔術と闇魔術が使えて視覚の資格と聴覚の資格を持った人間の可能性が高いってこと。ー


レムの発言がずっと頭の中で反芻する。その条件にほぼ当てはまる人物を彼女は知っていた。それは、自身の後ろ盾にもなってくれている家の子供、


ルーク・シュバルツァーだ。

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