表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第伍話「始動」

一部の天才を除き、努力しなければ出来ることも出来なくなってしまう。そして、努力とは時にすさまじい力を発揮することもある。


大魔王の生まれ変わりであるルークも凡人の領域を出ることは出来ない。だからこそ今はただがむしゃらに努力を始めた。


「うがああああああああああああああああ!!!!」

まだ太陽が顔を出したばかりの時間、ある豪邸でひとつの叫び声が轟く。声の主はルーク。ルークは自身の半分くらいの大きさがある岩にロープを巻き付け、そのロープを引っ張っている。


しかし、全く動かない。いや動けない。前に進もうと踏ん張ってみても、足が後ろに下がってしまう。改めて人間としての肉体の脆弱性に呆れてしまう。


「な、なんですか朝っぱらから.............。」

ルークの声は鶏の鳴き声のように作用し、スズや他の使用人を叩き起こした。その全員がルークを見て唖然とする。


ありえない。いつも遅刻ギリギリに起きるルークがあんな早起きをするなんて。しかも今までろくにしてこなかった肉体の特訓なんて。


続けてルークは豪邸を出てジョギングに向かった。護衛なしで。公爵の息子が勝手に護衛なしで出かけたのだ。なにかある前に追いかけるしかない。


「お待ちください!!」

スズは窓からルークに向かってそう叫ぶが、聞こえていないらしい。幸い、スズの部屋は一階にあったためスズはパジャマを着たま窓から外に出てルークを追いかけ始めた。


「何故です!何故父上はあの自称大魔王とやらの捜査を許可してくれないのでしょう!」

政庁にその怒号が響き渡る。大魔王と名乗る奴が現れてからかなりの時が経ったが、いまだに許可は下りない。


それに総督であるシルヴィアは酷くご立腹だった。彼女自身、曲がったことが大嫌いなこともあり、この現状に納得がいってなかった。


「シルヴィア様、どうかここはこらえてください。せっかくのお顔が台無しです。」

すると、シルヴィアの背後をついてきていた眷属の内の一人である{ドロテア}がそう口にした。彼女はシルヴィアよりも背が高く、天井に届きそうなほどだ。


「髪のセットも乱雑です。昼に余裕がないからと言って徹夜で皇帝陛下に手紙を書くなど言語道断です。」

続けて、ドロテアと同じ眷属されど対照的な{レム}がシルヴィアに言った。身長はドロテアの半分にも満たず、ドロテアの黒髪ボブカットに対しレムは白髪のストレートで膝まで伸びている。


「そんなことは分かっている、だが、市民の安全のために外敵は消し去らないといけないんです。」

ヘアゴムでシルヴィアは肩まで伸びた草原のような緑髪をポニーテールに束ねる。


これは今スイッチが入ったという印だ。これからシルヴィアは帝国にはびこるテロリストやレジスタンスの被害報告と、それに対する政策会議なのだ。


徹夜で鉛のように重い体を鞭打ち、黒目のネコ目を光らせて会議室に入る。そして、意外な者を見た。気が遠くなるほど長い机の端に、見たこともない男性がいるのだ。


「えっと、貴方は?」

そう質問すると、その男性は立ち上がり、シルヴィアに丁寧に頭を下げた。


「初めまして、ハロルド新聞社の{ギャック・バス}と申します。シルヴィア様に会えたことをとても誇りに思います。今回来たのは、あの大魔王を名乗る輩が姿を現した{ラミル山事件}に関し、ある情報を手に入れたからです。」


そしてギャックは一枚の写真をテーブルに置いた。それはあの何も写ってない心霊写真のようなあの写真だった。



授業中でもルークは体を休める事はない。閉じた両足の甲の上に重りを乗せ、上下させる。右手で文字を書きながら左手で三角形や四角形などの図形を書いて脳を鍛える。


「いきなりどうしたんだ?お前そんなキャラじゃなかっただろ?」

まるで未確認生物を見るような目でルークを見るカミテル。おい、何でそんな目で見つめる?たしかに授業中にこんなことをするなんておかしいけど。


そんなに自分は今まで努力してないように見られてきたのか?なんとも心外である。そんなことを考えながらルークはカミテルに言葉を返す。


「まあちょっと、体鍛えなきゃなぁって思って。」


放課後、ルークはカミテルの誘いを断り、一直線にアジトへと向かう。そして着くなり倉庫で保管していたアロンダイトを手に取り、射撃訓練を始めた。


ヘッドフォンを取り付け、左手で銃身を持ち、右手を引き金に添える。腰に力を加え、右目を閉じてフロントサイトに左目を合わせる。


照準を合わせ、引き金を引く。その瞬間弾丸が発射され、的の隅に直撃した。ルークはもう何発か撃ってみるも、良くて当たり、ほとんどの弾は的に当たる事すらなかった。


自身の射撃能力の低さに、ルークは喉を鳴らす。反動もすごくて何発も連続で撃つことは出来ないだろう。この醜態じゃまともに当てることもままならない。


「腰、力、ゴミ。」

その時、ドアの方からそんな声がした。振り向くと、そこにはドアを半開きにさせ、顔の半分だけを覗かせているジェリーの姿があった。


ジェリーは背中にスナイパーライフルを担ぎながら部屋に入ってくると、ルークの隣までやってきて、スナイパーライフルを構えた。


なんのためらいもなく、ジェリーは引き金を引く。それは的の真ん中に直撃した。それに、ルークは驚愕する。ジェリーは続けて何発も発射し、その全てが真ん中に当たる。


ジェリーは見てた?というような目をこちらに向け、やってみるよう促した。もう一度アロンダイトを構え、引き金を引く。


しかしそれは的のすぐ隣に着弾した。

「ゴミ!!!」


そしてジェリーからの罵倒。あのジェリーさん、言いたいことは分かるのですがもう少し優しくいってもらえないでしょうか?


と、そんな切実な思いを胸の奥底にしまい、ジェリーの方を向く。

「ええと、何処を直したらいいでしょうか?ジェリーさん。」

「全部!!全部!!ゴミ!ゴミ!!」


泣いてまうぞ。そこから、ジェリーのスパスタ指導教室が始まった。持ち方から構えのポーズまで直してもらった。最終的に何とか中心に当てることが出来、OKをもらうことが出来た。


「ぐっ!」

握り拳から親指を上げ、OKのポーズをとるジェリー。まだまだ下手糞だが、やっている間にどんどん上手くなっていることをルークは実感した。


次の日、ルークはレティーと剣術の訓練をしていた。家の後ろにある小さな雑木林は荒れ果てていて、家の雰囲気も相まって誰も近寄らない。練習場にするにはうってつけだ。


「よしレティー、本気で来てくれ!!」

「分かりました。本気ですね!!」


ルークの声掛けにレティーもうなずく。互いに木刀を持って相手に斬りかかる。結果は目に見えていた。当然のごとくルークはぼこぼこだ。


体中にあざがあり、まさに潰されたカエルのように突っ伏している。

「あ、あの、すいません。」

流石にやりすぎたと感じ、レティーはおどおどしながら謝罪する。


「いや、謝るな。じゃなきゃ、訓練になれない。」

木刀を支えにし、ルークはもう一度立ち上がる。どれだけボロボロでも、どれだけ無様でも、ルークは立ち上がる。強くならなくては。


じゃなきゃ誰も助けれない。ルカも、マーゼも。


その闘志に、レティーは頷いた。ルークの本気に答えるため、レティーも本気でぶつかる。

「分かりました。では、行きますよ!!」

「来い!!」


両者は同時に構える。そして、相手に向かって突進する。木刀がぶつかり合い、木に亀裂が入る音がする。力の押し合いになったらどちらが勝つかは明白だ。


ルークはまたもやなすすべなく吹き飛んだ。全く種族の違いとはこうも理不尽な事か。魔族は20歳で肉体の成長が止まり、250歳くらいから歳をとり始める。


全盛期の力を長く保てるのだ。レティーは今はおよそ200歳前後だろう。つまりまだまだ全盛期ということだ。なんともうらやましい。


しかし、だからと言って諦める理由にはなり得ない。ルークは激痛の走る体を鞭打ち、もう一度立ち上がる。特訓は日が落ちた後も続けられた。



「もー、ジャック様も無理しないでくださいね。」

アジトに戻り、ルークはソファでマギアスの回復魔法で治療を受けていた。痣はみるみると治っていき、跡も残らなかった。


使用する魔力量は多いものの、回復魔術はどんな怪我でも時間をかければ治せるという優れモノだ。ただ、ルーク達の中でマギアスしか発動できる魔力量を保持していないことが不便だが。


その時、部屋にミージュが一枚の紙を持って入って来た。紙の大きさは手のひらより少し大きい程度で、ミージュの緊迫した表情から何か慌ただしいものを感じる。


理屈などではない。直感でだ。そして、その直感は見事に当たった。渡された紙に書いてあったのは招待状だった。


ー大魔王様、貴方に魔族を解放していただきたく、援助をするためこの手紙を出させてもらってます。この手紙が貴方様が受け取った3日後、メーゼルゲットーの{2つの竜が見える場所}に来てください。ー


「2つの竜が見える場所、ね。」

謎めいた書き方にルークは胸を躍らせる。ようやく自分たちはスタートラインに立ったのだ。それが嬉しくもあったし、同時に緊張もあった。


自分は死ぬかもしれない。しかし、それこそが彼を動かす着火剤であった。重度の戦闘狂である彼に死という激辛スパイスは彼の食欲を存分に搔き立ててくれる。


噛むたびに口の中に激痛が走り、脳が拒否を求める。しかし理性なんてものは欲望を前にしては無力に近しい。止まることはなく、その刺激は口に入れられていく。


それが好きだった。それが狂おしいほどルークは大好きだった。


「いかがいたしましょうか。罠という可能性も.........。」

「いや、こんな回りくどいことをせずに直接襲撃した方が確実だ。万が一罠だとバレ逃げられたらたまったものではないしな。」


ミージュの言葉にルークはそう返し、意気揚々と立ち上がった。思い切り口を釣り上げ、もう一度手紙に目を通す。そして、これからの予想できない出来事に、心を躍らせるのだった。


しかし、ルークは一つ大きなことを見落としていた。普段運動もろくにしない奴がいきなり運動を始めたら、どうなるのかを。


「あだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!!」

翌日、ルークの全身を激痛が走る。{筋肉痛}である。全身の筋肉が引っ張られるような痛み。立てない、立ちたくない。今立ったら確実に死んじまう。


呼ばれたのが3日後で本当に良かった。翌日なんて言われたら行けなかっただろう。運動はほどほどにしておこうと心に決めるルークであった。


「あだだ........。」

学校でも、筋肉痛は収まることなく、ルークに牙を剥く。

「あ、筋肉痛になったんだろ!いきなり運動なんて始めるからだよ!!」


机に座り、出来るだけ動かないようにしていたルークにカミテルが近づく。そんなことは分かっとるわ!!と叫びたくなるが、ぐうの音もでない。


しかし痛い。筋肉痛とはこういうことかと痛いほど叩きつけて来る。ルークはこのかた運動などほとんどしたことがなく、体育でも成績は圧倒的ビリ。そのツケが、今回って来たのだ。


ルークがカミテルに絡まれていると、ルークはどこからともなく視線を感じた。今まで感じたことのない刺すような視線、皿についたソースをなめ回すかのような視線。


何処だと思ってルークは首を回そうとする。そして激痛。

「がああああああああ!!」

「何やってんだよお前!」


同時にカミテルからも笑われてしまった。ろくなことがない。そんなことをしている間にその視線は消えてしまった。



2日後、ルークはアジトで準備を整えていた。黒髪ロングのカツラをつけ、仮面を上から被る。白いコートを羽織り、アジトの隅にあった鏡でチェックをしていた。ピッタリだ。


しかし、ルークの頭にはなおもあの視線の事がこびりついている。初めての感覚だったが、どこか懐かしくもあった。まだ思い出せていない前世があるのだろうか。


「魔王様、きまってるじゃないですかないですか!」

すると、ミージュが右手にキャリーケースを持ちながらルークに近づいてきた。そしてそれをルークに渡す。ルークはありがとうと言ってケースを受け取った。


そして仮面やコートをケースに入れていく。流石にこの姿で外に出るわけにはいかない。メーゼルゲットーまでケースに封印だ。


ミージュも魔王軍の戦闘服でなく、全身が白で統一されたシャツとズボンをはいていた。おそらく戦闘服は誰かに預けているのだろう。


「そろそろ行きましょー。」

マギアスが顔だけをドアから覗かせる。せかされた2人は急いで外へと向かう。そこで見たのは2人の想像を大きく超えるものだった。


「お、おい........。」

ルークは、ミージュは絶句する。そこにあったのは全員分の戦闘服を着たジェリーの姿があった。いや、意味が分からない。だれかこれを解説してくれる親切な人はいないだろうか。


「ポカポカー。」

抜けた声でそう口にするジェリー。満足気なマギアスの表情からマギアスが提案者なことはすぐわかった。

「おいマギアス、どういうことだこれは?」


「えっ!?だってジャック様戦闘服はまとめとけって...........。」

いや確かに言ったがこうなるか!?普通!こいつの脳みそはミジンコか!?................つい言葉使いがきつくなってしまった。上に立つものはこういうことを笑顔で許してあげるのよ、おほほ.........


「とにかくジェリーから戦闘服を脱がして違う服を着せてやれ。その戦闘服はミージュに管理させる。」

幸先が不安で仕方がない。なんか一瞬言葉遣いが汚くなったし。先の事を考えると、胃が痛くなってく。



ルーク達は電車に乗り込み、メーゼル区へと向かい始めた。戦闘服を入れたケースを足元に置き、背もたれに体を預ける。各自が各々のやることに取り組む中、ルークは手紙に目を落としていた。


{2つの竜}このワードが気になる。わざわざ{匹}ではなく{つ}と書いているあたり、何かしらの仕掛けがあるのだろう。


一筋縄じゃいかない。あっちから呼んでおいて試験をするなんていい性格している。いいだろう、簡単に攻略してやる!ルークはそう闘志を燃やすのだった。



メーゼル区


海沿にあるこの街はいつも人でにぎわっている。漁業が盛んなその街は「栄光の都」とも呼ばれ、ネクロポリス帝国の豊かさの象徴だ。


電車を降りた5人はとりあえず昼食を食べるために近くのパン屋に向かった。駅前のパン屋、しかも昼時ということもあり、かなり混んでいた。


荒れ狂う蛇の大群に抗うかのごとく、人込みをかき分けてなんとかパンを5個手に入れ、レジに持っていく。すると、大きな髭を生やした大柄の店主がルークに話しかけた。

「おうあんた、見ない顔だね。どうしたんだい?」


「ええ、旅行みたいなものです。」

「旅行か、いいねぇ。じゃあさ、いい場所知ってんよ。」

「いい場所?」


「ああ、少し遠いんだが大通りを抜けたところに高台があるんだよ。ンで、そこから見える竜の銅像がかっこいいのなんのって。」

「竜の銅像!?」


ルークはその情報にかぶりついた。まるで餌に飢えた獣のような目で店主を見る。すると店主は手を横に振った。

「ああ像に近づこうとすんなよ。像自体はゲットーにあるからな。あそこは魔族がうじゃうじゃ潜んでいるんだ。」


店主の言葉にルークは頭にきたが、どうにかこらえ、礼をして店を出た。店前で待っていた眷属達に買ってきたパンを渡し、店主から得た情報を説明する。


「じゃあそこに手紙の差出人がいるってことですね。」

レティーがほおばりながらもそう口にする。それにルークは頷いた。

「その像を中心に調べる。俺とマギアスは像の西と東、ミージュ、レティー、ジェリーは北と南を頼む。」


人目に入らないようにルーク達はメーゼルゲットーに入っていく。活気のあるメーゼル区とはまるで対象的だ。空気は重く、かろうじて残っているレンガの建物たちは半壊。そこに住む魔族達の目も虚ろだった。


ルークは悔しさのあまりに歯噛みする。すると、建物を抜けた先に広場があった。円形の広場にはメーゼル区に背を向けている形で立っている竜の銅像、そして、広場の中心に噴水がある。


ルーク達はそこで別れることにし、日が落ちるころ、またここで集まろうということになった。ミージュ達が広場を去った後、ルークは竜の銅像を調べてみることにした。


あらゆる角度から銅像を覗き込む。銅像は見た感じ20m近く、かなり大きかった。近くで見ると、それなりの威圧感を感じる。


すると、噴水の方を見るように言っていたマギアスが声を上げた。

「ジャック様!!噴水の裏から見るとその銅像見えなくなりますよ!」

ルークは振り返る。確かにその噴水は異様なほど大きい。噴水の中心にある循環設備は驚くほど縦に長く、人ひとりがすっぽりと収まってしまう。


しかし今はそんなことは重要ではない。

「おい、真面目に探せ。」

「はーい。」


それからも銅像を中心に探し回ったのだが、何一つ手掛かりは見つからなかった。いったん視点を変えようと店主が言っていた高台に向かってみることにした。


「ジャック様、速く速く!!」

晴天の下。そこでウサギとカメが高台に向かって歩いていた。マギアスはひょいひょいと登っていくのに対し、ルークは中腹でもう限界だった。

「ま、待ってくれ。」


大魔王の面目丸つぶれ。屈辱の極みだ。結局、ルークはマギアスより5分ほど遅れて頂上に到着した。そこには何の変哲もない公園があった。


子供が駆け回り、大人はベンチに座って優雅な時間を過ごしている。汗をぬぐい、ゲットーの方を向く。そこには確かにひときわ目立つ竜の銅像が見えた。


天に向かって勇猛果敢に雄叫びを上げているその姿は見ている者を魅了させる。遠くから見てもその存在感は圧倒的だ。

「いやぁ、かっこいいね。君もそう思わないか?」


その時、ルークの隣から声がした。気配すら感じなかった。こんなことガレタッソクの時以来だ。反射的に声がした方を見る。そこには一人の少女が立っていた。


「どうやって気配を........?」

「なに、幽霊の資格だ。吾輩は気配を消すのが得意なのだ。」


黒い日傘をさして、そのせいで顔は見えない。漆黒のドレスを着ており、長袖のそれは見てるこっちも熱くなる。このさわやかな雰囲気の下で、その姿はまさに異端だった。そうなれば、初対面の人間に話しかける理由が一つ思いつく。


「手紙の差出人ですか?」

「おやおや、鋭いな。」


やはりか。しかしこいつは何をしに来たんだ?行動の意図が読めない。

「何をしにここへ?」

「いやなに、進捗はどうだと思ったものでな。」


進捗とは、まさに試験管気取りだ。

「ええ、まあぼちぼちってところです。」

「へえ、それは素晴らしいものだ。吾輩は君たちに期待してるんだ。よろしく頼むよ。」


そう言って、その少女は去って行った。全く食えない奴である。あれ?なんか忘れているような.......

「ジャック様!絶景ですよ!!」

そうだった。マギアスは50mほど離れた地面に設置されている双眼鏡で街を見ている。あいつどこまで行っているんだ。


もうあいつは半分旅行気分だろう。ルークはマギアスの自由ぶりにため息をつきながら向かっていった。その時、海岸の方から大きな汽笛が聞こえた。どうやら海に出ていた船が帰って来たのだろう。


ルークは音が聞こえた方を見る。船から漁師と思わしき人と、執って来たであろう魚たちが出てきた。しかし、ルークが見ていたのはそのもっと先、灯台に向けられていた。


ルークは何を思ったのか、双眼鏡の可動域を調べ、ある方向に向けた。

「なあマギアス、してほしいことがあるんだ。」

ルークは今、完全に理解した。あの試験の意味を。まあなんともぶっ飛んだ試験だこと。


太陽が落ち、月が顔を覗かせる頃、マギアスを除いた4人はまた銅像の前に集まっていた。灯台は船のために光を発し、街は眠ることを知らない。

「手紙の意味が分かった!?」

ミージュがそう声を上げる。それにルークは頷いた。


「今マギアスが準備している。もう少しのはずだ。」

その時、脳内でマギアスの声がした。眷属というのはこういうところでも役に立つ。

ー準備完了です、いつでも行けます!ー


「よし、じゃあやってくれ。」

ルークのその合図とともに、回っていた灯台の光がピタッと止まったのだ。その異変に人々は気付きはじめ、視線は灯台へと向けられる。


灯台の中ではマギアスが管理者を縛り付けて気絶させ、ライトの首をいじくっていた。光を高台に向ける。その光は高台の双眼鏡に当たり、レンズの中へと入っていく。


レンズの中で乱反射が起こり、2つの対物レンズに吸い込まれた光は2つの接眼レンズで巨大化されては放出される。そのレンズの先にはあれがあった。


竜の銅像が、そこにはあった。レンズは一般人には気付かないほど少し内向きにされており、長い距離をかけてその傾きは大きくなっていく。


そして2つの光は竜の銅像に当たり、左右に2つの影が出来上がった。それを見て、ルークは口を釣り上げる。しかし、問題が1つ。これでは2つではなく3つの竜が眼前にあるのだ。


これでは1つ多い。だからこそ、ルークは噴水の裏に向かった。そこでルークは見た。竜の銅像は循環設備によって隠れ、2つの影だけが見えていた。つまり手紙にあった2つの竜とは2つの竜の影の事だったのだ。


ーピンポーン、大正解なのじゃあ!!ー

すると、何処かからその声と共に裏の壁が沈んでいき、地下に続く階段が現れた。それはまごうことなく手紙の差出人、あの黒ずくめの少女のアジトだ。ルークの胸が踊る。


住民の視線が灯台に集まる中、マギアスはしっかりと逃走方法を考えていた。

「じゃあサラ、お願いね。」



マギアスがそう言うと、服の中に隠れていたサラが灯台を出て空高くに向かって進んでいく。そして、程よい高さまで登ったサラはマギアスの魔力を使って炎魔術を発動し、夜空に炎のアート作品を作った。


猫、馬、鷹、竜、次々と作られるアートに住民の目は釘付けだ。その隙を見計らってマギアスは灯台から逃げ出して人込みに紛れた。


持ち前のスピードであっという間に人込みを抜けたマギアスはルーク達と合流する。持ってきた各々の服に着替え、階段の前に立つ。


ルークを先頭に、5人は闇の中へと下って行った。その映像を、最深部のモニタールームで見ている者が2人いた。1人はさっきのあの少女。明かりがついていなく、モニターの光だけが照らす中、少女の赤い血のような瞳が光る。


少女が大きな椅子にふんぞり返るなか、その左に静かにたたずむ老人がいた。黒にも白にもなり切れていない銀髪を後ろで束ね、白のシャツにネクタイを下げている。


「どうやら第一試験は突破したようじゃな。さあケネディ、次はおぬしの出番じゃ。」

「はい、お嬢様。」


その老人{ケネディ}は少女に向かって一礼すると、その部屋を後にした。それを見送り、少女はサイドテーブルにあるカップを手にして紅茶を一口飲む。そして、カップの持ち手に力が籠る。

「お父様、ついに来てくれたんじゃよ。ついに、大魔王が.......。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ