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第弐話「ジャック」

幼少期の時、皇帝「カーバエマオ・エラド・ゲルズ・ネクロポリス」に受けた屈辱、挑戦に挑むため、戦場に行った親友「ルカ」のため、ネクロポリスの公爵「アラン・シュバルツァー」の息子「ルーク・シュバルツァー」は帝国に反逆を誓った。そのために準備を着実に進めていた。


しかし、準備には予定外が付き物だ。ルークが前からベラットという魔族に頼んでいた軍用改造ショットガン{アロンダイト}を取りに行った。それを見計らったように、帝国軍が攻めてきた。


逃げ惑う魔族達、だれが見ても絶望的な状況。この日こそが、ルークの人生の転換期だった。


ベルグス区 政庁

帝国の西側に位置するルークのいるナラン州を束ねる政庁、そこに一台の飛行艇が着陸しようとしていた。その着陸地点の周囲には、数名の着飾った人間が飛行艇を見上げていた。


周囲に多大な風を放ちながら、飛行艇は着陸する。すると、エンジンが切れると同時に、扉が開く。そして中から一人の男性が出てきた。


純白のスーツを身に纏い、髪も目はクリーム色で、冴え冴えした目は彼の威厳を象徴していた。右手には何かの資料。それが、彼が今日ここに訪れた理由だった。


そして、何より視線が集まるであろう場所は彼の背中だ。彼の背中には彼の身長と同じくらいの大きさがある翼があった。


天使族が天使族たる証明、それは翼だ。天使族の背中には例外なく翼が生えており、人類、魔族、天使族の中で唯一自立飛行が可能なのだ。


「いやぁお久しぶりですハル卿。また凛々しくなられたのでは?」

彼に紫髪の男性が近づき、右手を差し出す。貝のようにむっつりとした目が天使の男性を見据える。


「やめてくださいケイオス卿。私はもう21歳です」

そう謙遜して天使ハルは男性ケイオスの手を取る。


天使族にとっての21歳は人間でいう65歳のようなものだ。天使族の平均寿命は30歳とかなり短命だ。魔族の300歳、人間平均の80歳から見ても天使族の平均寿命30歳は信じられなかった。


飛行艇からもう2人の天使が出てくる。そのどちらも10歳くらいの少女だった。2人はハルとは対照的に普段着のような着慣れたクタクタのドレスだった。


2人は無言でてくてくと歩き、ハルの後ろにピッタリとくっついた。片方は赤色の癖のない肩まである髪で、もう片方は青色で赤髪の天使と同じ髪型だった。まるで姉妹だ。でも、どうやら違うらしい。


「おかわいいお連れ様ですね。」

ケイオスは2人の少女を一瞥し、軽くそう口にする。両手に花と言ったところである。ハルは両脇にいる天使2人のことをケイオスに説明した。


「2人は私の眷属です。この赤髪の天使が{アオ}、青髪の天使が{アカ}と言います。」

なんともややこしい。普通..........なのかは分からないが、少なくとも名前は逆の方が100倍は分かりやすいだろう。名付け親の顔が見てみたい。いや、むしろこっちの方が覚えやすいのだろうか?


「ほら、ケイオス卿にご挨拶を。」

ハルがアカとアオの背中をポンポンと叩く。2人はまるで石像のような無の表情でケイオスに挨拶した。


「アオ、なのです。」

「アカ、なのです。」


2人は同時にお辞儀をする。その動きは機械と言われても仕方がないほど規律正しく、生物らしくなかった。2人の切れ目の大きな目はどこか遠くを見つめていた。


「ではこちらへ、準備は整っています。」

ケイオスはあちらへどうぞと手招きして、ハルもそれに従って歩き出す。すると、南方にある軍事基地が慌ただしく活動しているのが目に入った。


「今日は何かイベントでもあるのですか?」

ハルはそう疑問を口にする。ケイオスもハルの目線の先にあるものから質問の意図を読み、答えを返した。


「ああ、先日ある方からラミル山に魔族の住処があるという情報が入ったんですよ。だからここ2日調査をして、魔族の住処を発見、今日一匹残らず殲滅します。」


殲滅、という言葉に引っかかる。

「殲滅、ですか?なぜそんないきなり。いささか過激すぎでは?」

ハルも他国の政策に口を出すつもりはない。しかし、たかだか少数の魔族が1つの山に隠れ住んでるだけで根絶やしだなんてやりすぎだ。


疑惑の目を向けるハルに、ケイオスは淡々と答えた。

「ハル卿、大切なのは魔族が我々の支配から外れてのこのこと生きていることです。ただでさえマーク事件が立て続き、シルヴィア総督はお怒り。ここで魔族の逃亡なんてバレたら、我らの監視能力が問われます。降格だって..........。だからこそ、その事実をなかったことにするんです。」


権力に固執するのは悪いことだとは思わない。自身を守るため、少なからず権力や地位は必要だ。だが悲しいかな、地位は手に入れるまでは難しいが、失うのは簡単だ。


だからこそ、偉い地位いいる者はずる賢い奴が多いのだろう。ケイオスに向かって、隊長らしき屈強な男性が近づいてきた。


「ケイオス執政官、ハインケル中佐、行ってまいります。」

「ああ、塵も残すな。」


ラミル山

「何で、軍がここに.........!?」

ルークは唖然としたまま動くことが出来なかった。燃え盛る炎が夕焼けと重なる。鉛玉で頭を殴られている気分だ。ルークは絶対バレない場所を見つけたはずだ。


いや、絶対は流石に言い過ぎだが、よほどのことがない限り見つかるだなんてことはありえないはずだ。周囲は悲鳴、銃声であふれている。


「おい、何ボケっとしてんだ!逃げるぞ!!」

ベラットが思いっきりルークの背中を叩き、ルークを現実へと引き戻す。ルークも軍相手にはどうすることも出来なかった。ただ腰抜けのように、尻尾を巻いて逃げるしかない。


ルークはベラットと共に、木影に隠れながら逃げ出す。ルークは逃げている間にも、何故ここがバレたのか考えていた。こんな時に考えることではない。


しかし、脳は危機的状況では関係ないことを考える習性があるらしい。しかし、いくら考えても答えは出ない。すると、何処かからルークを呼ぶ声が聞こえた。この地獄のような惨状に似合わないかわいらしい声を上げながら。


「おにーさん!何処にいるのーー!!!!おにーさん!」

それはサリーだった。サリーは顔に大きな火傷を負っていて、皮膚がジュクジュクと赤黒色く変色していた。そして、折れているのか左腕はだらんと下げられている。


ルークの心に誰かの人物像とサリーが重なる。顔は分からないが、よく家の庭で走り回った思い出が断片的に思い出される。サリーだけは守らなくては。


ルークは無意識にサリーの方へと向かっていた。ベラットの呼びかけも彼の耳には届かなかった。炎と悲鳴が飛び交う中を突き進み、サリーの元へと足をガムシャラに動かす。


「サリー!!」

彼女の名を呼ぶ。すると、サリーもルークの存在に気付き、おぼつかないながらも、安堵の微笑を浮かべた。そして、健気にルークを呼び、踵を変えてルークに走る。その時だった。


ダンッ!!ダンッ!ダンッ!ダンッ!


今、最も聞きたくない悪夢のような楽器の音。それと同時にサリーの体が真紅に染まる。大きくのけ反り、糸の切れた人形のようにバランスを崩した。


ルークは今に倒れかかったサリーを受け止める。自身の手や服も真紅に染まるが、そんなの気にならなかった。ルークは必死にサリーの名を呼ぶ。しかし、応答はない。


ルークの頭に最悪の結果が浮かぶ。すると、サリーの口が微かに動いてるのが分かった。なんとかそれを聞き取ろうとするルーク、それは、とても不気味で訳の分からない言葉だった。

「やっと、出来たよ。」


それを最後に、サリーは息絶えた。ルークは感情の上下に耐えられず、絶叫する。そんなことをしたら、兵士に見つかるのは避けられなかっただろう。

「危ねぇ!!!」


横から衝撃を受け、力に従って横に吹き飛ぶ。そしてルークが見たのは、うつ伏せで血の池に沈んでいるベラットの亡骸だった。


死んだ。皆、皆、皆、皆、皆、皆、皆、皆、皆、皆、死んでしまった。サリーも、ベラットも。もはや悲鳴すら聞こえない。もう逃げている魔族がいないのだ。どこで間違えたんだろう?


どこで自分は間違えたんだろう?どう考えても答えなんて出るわけがない。自分の愚かさと無知さに嫌気がさす。ルークの視界が歪み、水滴が頬をつたう。


絶望を嫌というほど味わったルークの前に、1人の兵士が現れ、ルークの顔を覗き込む。

「あれ?こいつ人間だ。おかしいな。こんなところに人なんて......?」

兵士はポケットに手を入れ黒い鉄の塊を取り出す。無線機だ。


「あー、あー、こちらケル8、作戦エリアで男性を発見。年齢は15から18、おそらく学生。ハインケル隊長、応答願います。」

その後しばらく会話をした後、ルークに手を差し伸べた。どうやら保護を命じられたらしい。

「君、大丈夫かい?怖かっただろう。」


さっきまで魔族をその手にかけたとは思えない優しい声。その優しさを少しは魔族に分けてやったらどうなんだ?やりようのない怒りがこみ上げてくる。手に持つ布に力が籠る。


サリーの死骸を丁寧に地面に置く。このまま何もせず終わるなんて納得がいかない!ルークの手は、考えるより先に動いていた。

「君、どうs」


ダンッ!というう音が響く。兵士はのけ反り仰向けに倒れた。近くにいた兵士が音がした方向を向く。魔族は殲滅したはず、まさか生き残りか?


ざっと兵士の考えはこのようなものだろう。しかし、そこには兵士の予想を裏切る予想外の人物が立っていた。倒れた兵士を踏みつける男性、両手にはショットガン。


「貴様、何者d」

言い切る前にその兵士は撃ち殺される。正確に脳天を撃ち抜かれたのだ。ルークは無言でアロンダイトの引き金を引く。静寂が訪れたはずの山に再び銃声が響く。


「屑どもが!!死で詫びろ!!!!」

叫びながら引き金を引く。ルークの心の枷は完全に外れていた。サリーが、ベラットが何をしたと言うんだ。むしろ他者に助けを求めるほど追い詰められてたんじゃないか!なのに、なんで!なんで!


1人の兵士の銃弾がルークの手元に命中し、アロンダイトを落としてしまう。急いで拾おうとするが、後ろからルークに忍び寄っていた兵士に取り押さえられてしまう。


「離せ!!離せ!!」

必死に抵抗するも、訓練された兵士に勝てるわけもない。同じだ、あの時と、皇帝に歯向かい、何もできずはじき返された時と。


結局現実なんてこんなもんだ。個人の思惑なんて、世界を前にすればそんなものはカス同然だ。そんなこと、分かってた。分かっていた。


ルークはもう諦めきっていた。頭は朦朧とし、考えがまとまらない。ただ、目の前にいる兵士が銃を構えていることしか分からなかった。ああ、ここで自分は終わるんだ。そう思って目を閉じた、その時だった。


「その人に触るな!!!!!」

その声と共に周囲にいた兵士達の首が吹き飛ぶ。突然のことでルークも理解が追い付かない。そして、ルークの前にルークを助けてくれたであろう者、それも女性が立っていた。


髪は炎のように赤く、後ろで1つに束ねられている。着ている服はどこかで見覚えがあった。たしか、教科書で.......。上下共に黒ずくめ、背中には一匹の鳥とその腸に突き刺さる剣。これは{魔王軍}の隊員服だ!


そして、なにより目を引くのは彼女の右手に持つ剣だ。グリップの華奢さに反し、刃は異常なまでに太く、長い。しかも刃には大量の炎が纏っている。刃が溶けてしまいそうなくらいだ。


女性は何も言わずルークの傷の手当てをした。まるで母の手のように優しく。

「これで大丈夫なはずです。さあ、お立ちください。逃げますよ。」


彼女の呼びかけに応え、なんとか立ち上がる。不思議と体は軽かった。さっきまでの事が嘘のようだ。とにかく、早くここから逃げなくては。しかし、ルークにはどうしても気になることがあった。


「ありがとうございます。あの、どうして助けてくれたんですか?」

あたりまえの疑問だ。ルークとこの女性は面識もなにもないはずだ。しかし何だろう、この既視感は?分からないことが多すぎてもどかしい。


その時、木の陰から大量の兵士が現れた。どうやらさっきの騒ぎにつられたらしい。女性は急いで持っている剣を構える。

「あなたは逃げて!下山すれば私の仲間が迎えてくれる!」


女性の言葉を無視して、ルークはその場に立ち尽くしていた。ルークの心臓がドクンと跳ねる。この光景を、ルークは見たことがある。


瞬間、頭の中である情景が浮かび上がった。相当にぎわっている、繁華街らしい。ルークの記憶にはない場所だ。ということは、これは誰かの記憶をたどっているのだろう。


ある程度歩くと、裏道から鈍い音がした。何か固いもので殴っている音だ。視線は裏道に向かい、恐れることなく闇の中へと歩いて行った。


しばらく進むと、大柄の男性と赤髪の小さな少女がいた。男性の頭は血だらけで、地面に顔をうずめてピクリともしない。それに対し、少女はその手に何やら円柱型の鉄でできた鈍器を持っている。起きたことを想像するのは簡単だ。


「何の用だよ!!」

少女は鈍器をこちらに向けて威嚇する。その吊り上がった鋭い目には、少女とはとても思えないような覚悟や闘志が燃えていた。


「これ、君がやったのか?」

自身の記憶の中の誰かは優しく問いかける。そして、刺激しないようにゆっくりと歩み寄る。しかし、少女は誰かとの距離を一定に保とうと、ジリジリと後ずさる。


「だから何だってんだよ!!!」

少女は声を荒げる。身をかがませいつでも攻撃できるよう鈍器を構える。

「いや、何か理由があるんじゃないかって思ってね。お父さんとお母さんは?」


「父ちゃんは死んだ。母ちゃんは、寝たきりだ。いつも辛そうにして、血を吐くこともある。金が要るんだ!」

「だから、こうやって盗みを働くのか?」


間髪入れずに誰かは少女にそう詰め寄る。その威圧に押し負け、少女は一瞬たじろぐ。しかし、すぐ調子を戻して睨みつける。


「なあ、それって具体的にいくらかかるんだ?」

「そ、それは分かんねえけど、とにかく金が要るんだ!用がないなら失せろ!!」


少女は再び声を荒げる。しかし、声は震えていた。目からは涙が垂れかかっていて、ふらふらだ。この少女がどこまで追い詰められているかは痛いほど伝わってくる。


「なら、俺のところでお前の母親を治療してやろう。」

その誰かが出した結論は簡単だった。手を差し伸べてやる、ただそれだけ。少女は目を見開く。当たり前だ。自分とこいつは出会ってからまだ一日もたっていない。何か裏があるのではないか?


「ほ、本当なのか!」

少女は半信半疑で問いかける。それに対し、誰かは、「ああ」とうなずいた。少女の目に光が宿る。しかし、まだ信じきるには至らなかった。


「どうして私なんかを助けてくれるんだ?」

「は?どうして助けなくちゃならない?俺がしたいのは契約だ。」


ああやっぱりか。少女の目から光が消えかかる。過去に母を助けてくれ、と助けを求めたとき、一人の男が契約を持ち掛けてきた。


不安に思いながらも、少女は契約を交わした。しかし、契約なんてものは簡単に破られた。男は少女を好きなだけ自由にした後、ろくに母の治療をすることなく金だけ奪って去って行った。


「で、私は何をすればいいの?」

半分諦めていた。しかし、もしかしたら本当に治してくれるのかもしれない。その希望が捨てられなかった。誰かはニッと笑うと、こう口にした。


「俺の眷属となり、俺の元で働け。日々鍛錬し、強くなれ。衣食住もこちらが提供しよう。どうだ?悪くないだろ。」

少女は以外のあまり口をあんぐりと開けた。正直母を助けられるなら自分はどうでもよかった。


「それだけでいいの?」

「ああ、そして俺が玉座につく日に、お前は俺の騎士となれ。俺は、有能な奴ならどんな奴でも使う主義でね。そんな体格のお前が大男を倒すとは、信じられん。歓迎するよ。」


誰かはそう言って手を差し伸べる。その時、裏道のさらに奥から重なった足音が聞こえた。

「お、おいなんだよこれ!!おいてめぇらがやったのか!」


どうやら少女が気絶させた男の仲間らしい。少女は正直に言おうと踏み出そうとする。しかし、それよりも先に少女を守るように立ちはだかっていた。


「俺がやった。すまない。こんなのが贖罪になるとは思わないが、せめてもの償いだ。好きにしろ。」

その後に起こったことは、もはや説明する必要もないだろう。地面に突っ伏し、地面の味をかみしめる。まるでつぶれたミミズだ。


口の中が血の味で支配され、砂利まで入ってくる。少女は倒れた誰かを見下ろしながら、こう口にした。

「ありがとう。」

「何、強くなる前に壊れたらもったいないだろう?これは俺のためだ。」


「なにそれ」

少女は震える声でそう言うと、誰かの手をつかんで、持ち上げた。傷ついた体に気を使いつつ、立ち上がる。体についた砂利をはらい、どうだと言わんばかりに少女を見つめる。


「どうだ、俺かっこよかっただろ。」

「ださい。」

真顔で言われる。分かっていたことだがいざ言われると傷つく。でも、そう少女は続けた。


「ちょっとカッコよかった................かも。私はレティー・エンジェル、あんたは?」

今度は少女は小生意気に笑いながら手を差し出した。

「俺か?俺はジャック・ヴィ・ラン・アーサーだ。」


そうして俺はその手を取った。


思い出した。全て、全て思い出した。ルークの日常に魚の小骨のように突き刺さっていた既視感、違和感。それが全て紐解かれた。


頭の中に記憶があふれ出す。これは、俺の前世の記憶!俺は前世で魔族最後の大魔王だった。俺が生きていた時はもう兵士達の士気は最低で、とても戦えるとは思えなかった。


それでも魔族を守るため必死に戦ってきたが、最後は城に攻め込まれて{勇者}と相打ちで死んだ。あの日から実に140年、やっと戻ってこれた。しかし、自分の転生を喜んでいる暇はない。魔族は今も迫害を受けている。


「なんだこれは!?お前がやったのか!」

目の前に広がる惨状に一人の兵士が声を上げる。その先には女性が立っている。女性は一歩前に出ると大きく息を吸い込んだ。


ルークがやったのを含めて全て自分がしたことにすればルークはただの被害者として扱われる。だからこそ、肯定の言葉を吐こうとしたその時、女性の前にルークが守るように立ちはだかった。あの時のように。堂々と。


「違うな。これをしたのは俺だ。」

兵士たちは目を見合わせる。こいつは報告にあった人間ではないのか?なのに、何故?疑念が膨らむ中、ルークは兵士の中にいる特に威圧を放っている兵士にまるで友人のように話しかけた。


「なあ、お前の名前はなんていうんだ?あと、お前はどんな立場だ?」

「お、俺か?俺はハインケル・パレットだ。一応、この隊の隊長を務めさせてもらっている。」


それを聞いてルークは口角を上げる。その顔はいつものルークの顔ではなく、悪魔と言われても違和感がないくらいの邪悪な顔だった。


「もう一ついいか?何故お前らはここにいる?だれの指示だ?」

「ケイオス執政官から、ここにいる魔族を殲滅せよという任務を受けたんだ。」


ルークから発せられる意味の分からない質問にハインケルは首をかしげる。ルークは口角を上げたまま動かない。だが悲しいかな、どんな資格を持っているか分からない相手と対峙するのは危険行為だが、その相手がルークとは。


すでにハインケル達の視界と聴覚はルークに支配されていた。もはや、ハインケル達に抗うすべはない。

「君は何なんだ!何で魔族の味方を..........」


そう言いかけて口が止まる。周囲が闇に包まれる。ルークが聞きたいことはすべて聞いた。あとは始末されるだけだ。暗所に閉じ込められてしまったという恐怖がハインケル達を襲う。何処からか笑い声も聞こえて来る。


恐怖に支配されたハインケル達は手に持つマシンガンを連射する。それが仲間に命中し、それに驚いた兵士が発砲、また違う仲間に命中する。負の連鎖、止まらない連鎖だ。


結局、兵士たちは互いに互いを撃ち合い、バタバタと絶命していった。血を川のように流し、赤ん坊のように悲鳴を上げ、無様な醜態を晒しながら死んでいく。血の池に体を沈めていく。


「魔族の味方をする理由なんて簡単さ。俺が大魔王だから、魔族を大切に思っているから、愛しているからだ。」

ルークは絶命した兵士たちを見下ろしながら、先ほどの問いの答えを返す。


「だ、大魔王様..............。」

女性はそうつぶやき、輝く瞳でルークを見つめる。

「よく来てくれた、我が眷属(しもべ)、レティー。」


レティーの方を見ることなく、ルークは感謝の言葉を口にした。周囲の炎がさらに威力を増して燃え上がる。それはルークの怒りを表しているようだった。


「他の眷属も来ているのか?」

「はい、山中で待機しています。」


ルークはアロンダイトを広い、サリーとベラットに目を向ける。そして、何かを決心したようにレティーの方に振り返った。

「レティー、ケイオスとかいう奴をここに呼び出して、殺す。」


レティーはルークの発言に対し、耳を疑う。いくら何でも来るにしても大隊を差し向けてく来るはずだ。

「勝算は?」

「愚問だなレティー、俺を信じられないか?」


レティーは無言で首を横に振った。それにルークは微笑を浮かべる。

「そう来なくては。そうと決まれば早速準備に取り掛かろう。」

「はい。」


ルークは拳を握る。思い出されるのは最愛の妹、マーゼ。誰よりもかわいく、誰よりもヤンチャで、誰よりも儚い、囚われの姫。


「おにーさん!」

ーおにーちゃん!ー

記憶の中でサリーとマーゼが重なる。サリーに感じていた既視感はこれだったのか。しかし、今となってはマーゼと共に宮殿の庭で遊んだ思い出は人間に連れ去られる時のマーゼの悲鳴で上書きされている。


必ずマーゼを助け出す!ルカも救う!そして皇帝を殺し、全ての魔族を解放してやる!


ルーク、いや、ジャックの復讐はここから始まった。のちにこれが世界中をも揺るがすことになっていくとは、今はまだ誰も知る由もなかった。

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