魔術師とは
大体歩きで片道40分の山奥にあるカルーフ魔法道場。
なぜ街中に立たないのか。
それは、生徒に”浮遊魔法”を身につけさせる為にこの奥地に建てているのだ。
浮遊で片道30秒。
昔だったらそのくらいで着いただろう。
「5分か………」
(目に見えて分かる衰えは、覚悟していた。だが、これほどまでに使えないか……)
ため息が宙を舞う。季節はもう冬である。
道場の前に行くと、そこには顔馴染みの姿があった。
「おお!久しぶりだな!!ハルビ〜ン!!」
”彼女”は僕を見るなり全速力で駆けてくる。
魔法を使えばいいものを考える前に行動する。そんな所が本当に彼らしい。
この10年間指導者になろうとした事は何度かあった。だが、結局やらなかったのは、その職場の同僚に、自分の無力さを曝け出す事に起因する。
それを昔の僕は、許せなかった。まだ残っていた少しのプライドがそうさせたのだ。
「久しぶ……グハ!!」
やや衝突気味に抱きついて来た。その瞬間、懐かしさで思わず泣きそうになった。
「どうしたんだ!昔のお前なら逆に吹き飛ばされたのにな!”老いたな!!”」
32歳に響くストレート過ぎる言葉が、俺の心を真正面から粉々に砕いた。
「老い……た…」
彼女、”シャーリン”に言われるのは、誰よりも心苦しかった。
「なにイチャイチャしてんだ。早く準備しろ!」
「マルナード!!なんでここに!?」
マルナードは同じ”魔法専門学校”の同期で、現役の時もよくパーティーを組んだ。
「ハルビン、お前は突然失踪したから知らないだろうが、あの後大変だったんだからな!!まず、ハルビンがやってた園芸とか、亀とか、犬とか、餌やり大変だったんだぞ!!」
「いや今更過ぎんだろ!」
マルナードは僕と会うたびに、これを言い続ける。 たかが16匹と20株の世話だぞ。
「はぁ、変わんないな。お前らは。」
わざわざこんなに明るく接してくれるのは、僕を元気づける為だろうか。僕も心なしか、元気が出てくる。
だが、そんな”嬉しいことばかりじゃ無い”。久しぶりの再会であった僕でも分かる。
マルナードとシャーリンには、目元にクマが広がり、着ている服も、数箇所の大きなシワが目立つ。
両方、服や身嗜みには”人一倍”力を注いでいた。こんな姿にしたのは、多分この”魔術師”という仕事だからだろうか。
その通りだ。
魔術師は、”落ちこぼれがなる職業”。だから、生活費を稼ぐのにも、一苦労なのである。