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桃紅の約束 〜玖

…時は数刻戻り、城大広間


 天守閣前に飛び出した鶴姫と梅喧を見送った桃、才蔵、与一、小太郎

 領主が妖しく笑う


「此れで漸く邪魔者はいなくなった

 さぁ、殺し合いをしよう」


 与一は三人に耳打ちをした


 四位一体の連携

 与一が指示した作戦

 

 小太郎が勢いよく領主目掛けて駆け出した

 

「学びのない奴らだ」


 領主が金棒を振り回して小太郎目掛けて放った

 

グサ


「ちぃぃ!」


 其の瞬間、領主の右肩にもう一度、与一の弓が刺さる

 其れは先程刺さった箇所と寸分違わぬ、全く同じ箇所だった


 小太郎は領主が怯んだ其の一瞬をついて領主の懐へ飛び込んで、懐から小さな玉を取り出した

 そして、其の玉の導火線に手甲鉤で火を付け、領主へ投げ付ける


「超近距離火遁!と、烈火」


ドガァァァァン


 けたたましく爆ぜる音と同時に、しゃがんだ状態の小太郎が右手に付けた手甲鉤で、回転しながら立ち上がって領主に斬りかかった

 領主の甲冑に僅かな傷を付けていく


 領主は不気味に笑いながら金棒を小太郎目掛けて振り回した


ガキィィィン


 小太郎に当たる直前で止まった領主の金棒

 心眼を開いた才蔵が其の動きを見切り、村正をぶつけていた

 

「小賢しいのう」


 再度金棒を振りかぶる領主

 其の動きは神速

 右と左に跳んで金棒を避けた才蔵と小太郎


「…!」

 

 才蔵と小太郎の影に隠れて見えなかった

其の後方にいた桃

稲妻を纏う雷切を大きく振りかぶっている

 此れは避けられんのう


ガキキィキン


「くっ!」


 桃が悔しそうな表情をする


 想像を上回るほど固い領主の甲冑

 刃が入っていかない


「面白い…」


 未だ日が暮れる時間ではないのに、厚い雲が多いせいで薄暗い

 遠くで聴こえるのは狼の遠吠えか

 松明が揺れるたびに視界が奪われる


「影縛り」


 小太郎が領主の足元目掛けて滑り込み、蹴りを放つ

 ひらりと躱した領主の目前に才蔵が再び現われて村正を振るう

 金棒を当てて躱し、右回し蹴りを才蔵に放った瞬間

 再び与一の矢が領主の右肩を撃ち抜く

 後方の桃が雷切を水平に振るう

 此れは空を斬り、青色の軌跡が美しく散る

 

 小太郎が先手、才蔵が二番手、与一が三番手

 最後に桃

 此の作戦での攻防は暫く続いた

 

 次第に無口になっていく領主

 

「なんか、顔つきが…」


 小太郎が肩で息をしながら言う


「鬼の血を取り過ぎた、のか?

 取り込まれていく…」


 才蔵が冷静に分析した


「ぐ、ぐ、ギィィィィ」


ズブっ


 領主の額の中央から生えた一本の角

 其れは、人であったものが人でなくなる瞬間

異様な光景だった

 

 其れに、先ほどよりも領主の肌が赤黒く、硬質化したように見える

体温も上がっているのだろうか


「あれが、領主の真の姿…」


 領主を纏っていた邪悪な瘴気が黒い霧となって辺りを覆いつくした


「何も見えねぇ、うっ!!」


 小太郎の声が響いた


バタン


 直後に聴こえる激突音

 桃の右側にいたはずの小太郎 


「小太郎!?」


 桃が叫ぶ

 一寸先も見えないほどの霧

 小太郎の返事はない


「畜生、これじゃあ

 ぐっ!!」


ドォン


 桃の左隣にいた才蔵が悔しそうに言った瞬間

 聴こえた激突音

 

「其処かぁ!!」


ズドォォン


 目を閉じた与一が心射で領主を狙う

 其の矢は領主の心臓を捉えるが、やはり甲冑は貫けない


 霧が薄れ、徐々に戻る視界

 才蔵と小太郎が立ち上がる姿が見えた


「あの霧を出されたら心眼が効かない

 先手だ

 月華残影げっかざんえい…」


 才蔵が村正を胸の前に構えると、淡い紅の光が刀身から零れ落ち、才蔵の姿が揺らいだ

 低い体勢のまま、よだれを垂らして才蔵を睨みつける領主

 才蔵が縮地で駆け出して、素早い斬撃を見舞う

 紅の光が才蔵の周りを照らし出して、まるで分身したかのように見える


 其の斬撃は領主の左腕に僅かに傷を付ける


「…鳴神のなるかみのまい


 才蔵の後ろから青い光を纏った桃が跳んで領主に斬りかかった

 青の光が空に舞い、まるで踊っているかのようにすら見える桃の剣技


「なんだありゃあ、すげぇ」


 小太郎が感嘆の声をあげる

 桃の剣は、領主の分厚い甲冑に無数の傷を付けた


 不気味に笑って消えた領主

 其の後、才蔵の後方に現われた


「なっ、速すぎる」


 後方から正拳突きを放った領主

 心眼のお陰で僅かに体勢を変えて威力を減衰させた才蔵

さらに領主が追い打ちをかける

 放ったのは大胆な回し蹴り

 村正を合わせて防御した才蔵

 領主がニヤリと笑う


「ウォォォォ」


 領主は全体重を村正に当たる右足にかけた


ミシミシっ! 


「くそっ、このままじゃ…」


 聴こえた村正の悲鳴

たまらず後方に跳んで距離をとった才蔵


「速さ、力、尋常じゃない」


 直後、四人の真ん中に移動してきた領主


「速いっ!!」


 思うよりも速く領主は、いつの間にか把持していた金棒を持って一回転した

 心眼を持たない与一と小太郎、金棒を躱すことが出来ず、激しく吹き飛ばされて壁に激突する


「与一、小太郎!!!!」


 金棒を雷切で受け止めていた桃の叫び声がこだまする

 小太郎はかろうじて呼吸しているのが見える


 与一が漸く立ち上がる

しかし、左手に把持した与一の弓

下端が折れて、弦が張力を失っていた

其れを力無く見つめる与一


父上…


 与一の弓

其れは父、総士から譲り受けたもの

玄信と厳しい修行に取り組む桃に負けじと、腕がもげるほど矢を放ち続けた

其の姿を見て、総士が与一に託した

総士が帰らぬ人となった後も、弓を握るだけで其の存在を感じられた

 与一にとって、父の形見である此の弓は、宝物以上に価値のあるものだった


 弓を見つめながら呆然とする与一



才蔵は、金棒を受け止めた衝撃で村正に入ったヒビに目をやる


「もう少し、もう少しだけ持ってくれ…」


 領主との距離を取るために、すかさず村正を振るった才蔵

 領主は其れを高く跳んで避ける


「状況が悪い…」


 才蔵が落胆の表情を浮かべる

 また、領主が消える


 其の矛先は与一へ向かっていた

 領主の狙いにいち早く気付く、桃と才蔵

 与一は気付かない

 心眼が無ければ躱せない一撃が来る


ガキィィィン


 領主の一撃は、才蔵の村正によって止められていた

 才蔵は、与一目掛けて縮地を行い、瞬時に移動して与一を護ったのだ


「才蔵…!」


 与一が声をあげた瞬間だった


パキィィィン


 村正が其の中心から折れた

 淡い紅の光が其の輝きを失って空に消える

 

「くっ!」


 領主の金棒は勢いを緩めない

 才蔵の胸元へと激突する


 其のまま吹き飛ばされる才蔵


「遠雷…」


 青い光を纏った桃が領主の後方から斬りかかるが、寸でのところで躱される

 才蔵に駆け寄る桃


「才蔵…」


「今のは避けられなかった

 すごい力だ…

 畜生、右腕の骨が折れた」


 壁への激突で負傷した才蔵

 村正と右腕が折れた今、才蔵が戦い続けることは難しかった


 小太郎は気絶

 与一の弓は破損

 才蔵も戦闘不能

 

 縮地の使えない桃

 其の攻撃は最早領主に当たらない

 絶体絶命だった

 

「与一、少し時間を稼いでもらえないか」


 与一に懇願した才蔵

 戸惑いながら頷く与一


 与一は折れた弓を再び見つめた

 下の先端部が僅かに折れているだけ

 然し、弓は其の全体で調和をとる繊細な武器

 僅かな破損でも、最早其の機能を発揮することは出来ない


 弓を扱う者にとって、最大にして唯一の武器

 其れが壊れたら…

 父上ならどうする

 うつ手なし…なのか?

 

 与一は何かに気付いたように、矢筒の中に残った二本の矢の内、一本を取り出して二つに折った

 そして、最後の矢も取り出した


 領主に目をやる

 鬼と人の狭間で揺れているのだろうか

 頭を抱えたままうずくまり、此方の様子を窺っている

 今が好機だ


 小太郎の下へと駆け出した与一

 距離は遠くない

 松明は幸い、小太郎への道を確実に照らしている


はぁはぁ


 小太郎は目を覚ましていた

 手甲鉤を借り受けた与一


「小太郎、ごめんな」


 与一はそう言って手甲鉤についた紐を急いで外していった

 其の紐は鹿の皮を使った丈夫なもの

 小太郎は理由を察したのか、何も言わなかった

 

 与一は先程折った矢を弓の折れた部分に当て、添木のように手甲鉤の紐を巻いて補強していった


 幸い弦は無事

 長くは持たないし、威力もないと思うけど

 後一回は射てるだろうか

 父上、力を貸して下さい

 そして、道助さん

 貴方の力も此の最後の矢に込めさせて下さい


 小太郎は身体中に走る激痛を顔に出さないようにして言った


「おいらが引き付ける…」


「有難う

 僕達は、領主に一瞬の隙が作れれば良い

 後は、桃達に託そう」


 小太郎は平然を装って力の限り頷いて見せた

 其れに気付いていた与一


 小太郎も限界だ

失敗は、許されない…


 与一の顔に漲った気合


 小太郎は背中から忍者刀を引き抜いた


「母ちゃん…行くよ」


 膝に手をついて立ち上がった小太郎

 其の背中を与一に向ける


 未だ知り会って幾日も経たないのに、何故だろう

 ずーっと昔から知っているような気さえする

 小柄な背中に、大きな希望を背負っている

 一つ年下の彼はこんなにも頼もしい

 父上、負けていられません


「おい!領主だか鬼だかわかんねぇけど、こっちだよ」


 小太郎は痛みを堪えて走り出した

 領主は、小太郎を目で追いながらゆっくりと口を開いた


「もう、諦めたらどうだ

 頼みの綱の才蔵もあのザマだ

 貴様らには微塵の勝機もな…い

 ギギ、ギィィィィイ」


 いつもの嫌味な笑みに戻ったかと思えば、直ぐに焦点が定まらなくなった

 領主は小刻みに震えながら首を鳴らす


「心まで喰われていやがる…」

 

 小太郎はそう言うと後を振り返った


「与一、指示してくれ!!」


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