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桃紅の約束 〜禄

…城を飛び出し、天守閣前に出た梅喧と鶴姫

 敵の大群を見て流石に愕然する


「ちと多いなぁ、オイオイ」


 腕を組みながら梅喧が呟く

 鶴姫は一息置いて応えた


「私と梅喧なら、余裕だろう?」


 梅喧を横目で見た鶴姫

 其の美しい顔立ち、仕草に梅喧が戸惑う

 嫌でも女性として見てしまう


 滅茶苦茶綺麗じゃねぇかよ、おい!


「…だ、だなぁ

 死ぬんじゃねぇぞ、おら!」


 梅喧の返答に、ふふと笑って見せた鶴姫 

 

 梅喧の人間らしい所に魅力を感じる鶴姫

 死地の中、互いの魅力を再確認した二人

 

「貴方もね」


 鶴姫がそう言い残して先に敵陣へと向かっていく


「お、おい

 先行くんじゃねぇよ!」


 梅喧も慌てて駆け出した


 前を駆けていた鶴姫の足が突然止まる

 敵の大群の先頭にいる男


 明らかに他と違う雰囲気を放っている


 上半身裸

 汚れて、ぼろぼろになった袴

 よく見なくても、栄養失調がわかる華奢な身体に膨れた腹

 両手には、鎖の長い手錠がはめられている

 白い肌なのに、顔の至る所は黒く変色していて、虚ろな瞳


「…り、ひ…」


 何か呟いているが、此の軍勢の雑音で聞き取れない

 山賊の叫び声が、下品で耳障り


「なんだよ、ありゃぁ…」

  

 梅喧が心情を吐露する

 

「人体実験…

 領主が鬼の血を啜るようになる前、民に鬼の血を入れて実験をしていた、と聞く

 半鬼、そう呼ばれていた

 梅喧、あいつは私がやろう」


「領主の野郎、相変わらずの鬼畜ぶりだな

 山賊共は俺に任せとけ」


 事実、梅喧が得意とする鎖鎌は、対多数の戦いでも有効だった

 一対一の戦いに強い鶴姫

其の判断は正しかった


「おぅら雑魚ども

 俺様が相手になってやる

 何処からでも掛かってこい!!」


 梅喧が叫び声を上げる

 此れは戦闘開始の狼煙

 武士達は一旦下がり、血に飢えた山賊たちが一斉に梅喧に向かってくる


 にやりと笑った梅喧


「馬鹿がぁぁ

 此れが本物の大駒の力と技だぜぇ!」


 そう言って鎖鎌をぶんぶんと振り回して次々に山賊に当てていく梅喧

 分銅を当てられた山賊達が面白いように吹っ飛んでいく


「らーくしょうだぜぇ」


 


 鶴姫は金時の鉞を優しく地面に置いて、薙刀を構えた

 半鬼の手には、いつの間にか武士から日本刀が手渡されていた

 半鬼は日本刀をしばらく眺め、声にならない声を上げた


「ひ…り」


 まただ…

 何だ、さっきから

 何を言おうとしている?


 鶴姫が首をかしげていると、半鬼が鶴姫に向かって駆け出して来た


 速いっ!


ガシィィィン


 半鬼が振り下ろした刀と薙刀が勢いよくぶつかって弾け飛んだ金属音は、薄暗くなり始めた空に吸い込まれた


 遠くで梅喧が山賊達を次々に薙ぎ払っていく姿が見える  

 あっちは順調か…いや、今は

 

 悠長に仲間の戦いを見ている余裕はなかった

 鶴姫は頭を切り替えて、現状の戦いについて冷静に分析を始めた


 華奢な身体で、ゆったりと動いたかと思えば俊敏に刀を振るう

 脳みその制御機能が壊れているのだろうか

 油断すれば死ぬ

 此奴はどうやって止めれば良い?

 殺す以外の止め方を、私は知らない


 鶴姫は薙刀を半鬼目掛けて振るった

 半鬼は刀を合わせて防ぎ、両手に繋がれた鎖を上手く使って薙刀に絡めた

 身動きの取れない鶴姫

 半鬼は薙刀を絡めとって日本刀を振るう

 後転しながら躱した鶴姫


 距離を問って戦うのが無難か…

 

 半鬼が落とした薙刀を拾いながら、後方へ半歩下がる

そして、薙刀を横に振るった鶴姫

 

ガァァァン!

スパッ


 其の重たい斬撃が、半鬼の刀を打ち砕く

 薙刀はそのまま半鬼の肩を切り裂いた


 真っ赤な血しぶき

 距離があったから、其処まで傷は深くない


 半鬼は表情一つ変えない


「り、な…か、なのか?」


 うわ言のようにただ繰り返すだけ

 

「痛覚がないのか…どうやって止めれば…」


 鶴姫が再び薙刀を構えた時、後方から何者かが近づいてきた


「鶴姫様、助太刀致します…」


 声の主は、先程与一、光政と二の門、虎口で戦って改心した老武士だった

 其の名は、勘介という


「勘介…殿

 か、感謝する…」


 鶴姫の返答に、今度は勘介が動揺した

 鶴姫達大駒部隊は領主に継ぐ権力者

 直接でないものの、勘介はいわば鶴姫の部下

 誰に対しても態度、表情を変えなかった鉄仮面のような鶴姫が、勘介を呼び捨てにせず、また助太刀に感謝した

 

 勘介はまた、死地で笑みを零した


「時代はどんどん変わるんじゃのう

 これからが楽しみだ」


 そう言って、刀を抜いて鶴姫の隣に立った


 鶴姫が梅喧へと目をやると、あちらも十数人の武士が梅喧と共闘していた


 改心した武士達だろうか

 駒としか思っていなかった兵達

 本当に心強く、頼もしく感じる

 …有難う

 これが、仲間なのか


 半鬼はニタニタと笑みを零したと思えば、悲しい顔になった

 とぼとぼと歩いて、倒れた山賊から、刀を奪い取る

 そして、鶴姫達に向かってきた


「勘介殿、後ろへ回って」


 半鬼の攻撃を防ぎながら勘介に指示を出した鶴姫

 勘介は素早く後方へ向かって、攻撃を繰り出した


 半鬼は前と後ろからの攻撃を器用に受け流し、勘介の方に突撃した


「何っ!」


 時間がゆっくり流れる

 半鬼は山賊の刀を思い切り振り上げて勘介の刀を払いのけると、そのまま勘介の腹に刀を突き刺した


ブスッ


 其の刃は、胴当ての隙間を縫って身体の奥底までめり込んでいく

 半鬼の表情は背になっていて見えない

 然し、勘介の表情は良く見える

 その顔から、次第に生気が失せていく


 半鬼は刃を何度も捻る

 其のたびに、勘介の身体がびくん、と反応して血が流れ落ちる

 もう、助からない…


「いやぁぁ!」


 目の前で人が死ぬのはもう沢山だった…

 何十人も、此の手で殺めてきた筈なのに

 こんなにも、命が、たった一つの命が尊く感じる

 都合の良い話だ

 だけど、もう誰にも死んで欲しくない

 死ぬべきじゃないときに、人が死ぬのはもう沢山

 なのに…


 鶴姫の両の目から流れ落ちた泪

 不思議と身体が動かない

 今なら半鬼を倒せるかもしれないのに

 勘介の命が、尊い一つの命がゆっくりと消えていく


「鶴姫様ぁ

 わしの命で泪を流してくれるなんざ光栄です

 わしはねぇ、ぐっ

 新しい時代の片鱗を見れた

 領主に仕えたのは間違いじゃったが、前領主様、後はあなた方、部下たちに恵まれた

 良い人生だったぁ

 ば、ばあさん、長いこと待たせたなぁ…」


 其の言葉を最期に勘介は何も喋らなくなった

 泪で潤んでぼやけているからか、微笑んでいるようにすら見える

 いや、既にして死んでいる

 死してなお、半鬼の刀を両手で掴んでいる


「目の前で、人が死ぬのは、もう、沢山なんだ!

 其のためにも…」


 鶴姫が薙刀を強く握りしめた

 半鬼は刀を諦めたのか、両手から離し、今度は勘介の刀を持って鶴姫に向き直った


「メノマエデ、ヒトガシヌ…?

 おまえガ、ころ、シたんだ…ロウ?」


 今度ははっきりと聴こえた

 

「何をさっきから意味のわからないことを?!」


 力の限り薙刀を振り下ろした鶴姫

 

ガシャァァン


 其れは、鶴姫の薙刀が壊れた音だった


 半鬼が鶴姫の薙刀に合わせるように振るった刀

 激しく衝突し、薙刀の刃が割れた


「ひ…かり、ヒカリ、ひかり、ひかりぃぃぃぃぃぃ!

 ひかり、をコロ、シたのは、お前だろウ」


 半鬼の眼は見開かれていた

 そして其れは、激しい殺意となって鶴姫へ向けられた


 

…鶴姫の悲鳴、薙刀が壊れる音は梅喧の耳にも届いていた


 畜生、鶴姫のところに行きてぇのに…

 あんな痩せ細った奴に鶴姫が苦戦するわけねぇと思ったが

 助けに行きてぇ


 焦る梅喧

 二人の山賊と対峙していた

 其れは山賊の頭と名乗る男女

 男は雷神、女は風神と其々名乗っていた


「大駒になりてぇんだよ、毎日ちまちま生きていくのは面倒くさいんでな」


 雷神と呼ばれた男が、小さな双剣を舐めながら言った


「あぁそうさ、豪華な暮らしがしたいんだよ」


 槍を振り回しながら、風神と呼ばれた女が言った


「ど阿呆共、お前らなんかじゃ、大駒の足元にも及ばんわ

 舐められたもんじゃのう」


 よろめきながら梅喧が言った


「強がってんじゃねぇよ、毒が効いてきてんだろう」


 雷神の双剣、風神の槍には毒が塗りこまれていた

 致命傷になっていないものの、何度も負ったかすり傷、血液に混ざった毒が、次第に梅喧を苦しめていく

 毒に耐性のない梅喧

 視界が霞んで足元もおぼつかない


 こんなところでくたばっていられねぇんだよ

 早く鶴姫のところへ…

 


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