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産声


 桃太郎は鬼を退治することが出来なかった


 何故なら鬼に家族がいたから

 赤鬼の背後には人間と見紛う姿の小さな子鬼

 ただ、身体が赤いだけのその物体

 人間と同じように付いた両の眼は、怯えたように桃太郎と親鬼を見比べている


 赤鬼は興奮した顔で桃太郎を睨みつける

 桃太郎は、刀を握る両手に力を込められないでいた


 昔から鬼は悪の象徴だった

 悪いことをしたり、嘘をついたりすると鬼が攫いに来る

 怖いもの、醜いもの、触れてはならぬもの

 そう教えられてきた

 無論、鬼に家族がいるなど教えられていない

 鬼に出くわしたら逃げろ

 それが村の教えだった


 幼い頃から

 そう....


 そういえば、いつの頃からだっただろうか


 桃太郎は、生死を賭けた鬼との戦いの最中

 回想を廻らせていた




 .....関ヶ原の戦いが起こる前の時代


 前後するも、世は北条早雲、上杉謙信、武田信玄、毛利元就などの戦国大名が活躍する群雄割拠なる激動の時代


 天正十年(西暦一五八二年)

 織田信長が本能寺の変によって明智光秀の下克上により殺された年


 舞台は吉備の国

 現在でいう岡山県岡山市

 吉備津彦神社の近くの小さな町


 その町は、動物の名をとった三つの村からなっていた

 まずは「いぬの村」

 武士の身分の者が多く住むその村は、領主直轄の村とされ、古くから特権を付与されていた


 そもそも村というのは自分達で掟を作り、独自の方法で集団を守るためのものとしてつくられる

 村を守るため、ささを村の入口や周辺に引いて囲っていくことにより、村を擬似的に山林に見立てることがある

 当時、『山林には神が宿る』と考えられていた為、村が、『聖なる場』となり譴責使(けんせきし、年貢を納めない農民に対して催促のために領主が派遣する使い)等、領主の権限で村に介入する余地がなくなり、いかなる領主であっても神の祟りを恐れ、入ることができなかった


 この町ではこれが先述した特権であった

 従って、先述した戌の村以外は、領主が自由に村の中に入ることができていた


 この時代は、略奪行為や人身売買は日常茶飯事であり、村人たちは、山や地下にシェルターを設けたり、村を要塞化したり、村の食料や財産を守った

 しかし、幸いなことに領主が独占政治を敷いていたこの町では、そういった紛争が起こることは一度もなかった


 二つ目の村は「(さる)の村」という


 この村は、商人が多く住む村で、三つの村では歴史が一番古く、秘密の多い村として知られていた

 実際、歴代の領主は、この村から買うことのできる多くの国外の物品や情報などを高く買っており、良く言えば信頼、悪く言えば利用していた


 最後の一つが「きじの村」といった


 この村は、当時他国の殆どがそうだったような農民が暮らす村で、雉という名が表すとおり、鳥等を狩猟するための弓術に長けている者も多かった

 また、この村は領主から厳しい年貢の取り立てを受けており、栄養不足から倒れる者も多く、薬に対する知識や医学に通づる者も多かったのが特徴である


 年貢とは、日本史上の租税の一形態である

 律令制における田租が、平安時代初期-中期に律令制が崩壊・形骸化したことにともなって、年貢へと変質し、その後、中世・近世を通じて、領主が百姓を始めとする民衆に課する租税として存続していた

 税は主に米で納められるため、年貢米と呼ばれていた


 当時、この三つの村の様に

「武士、商人、農民」

と明確に村の性質が分かれていることは非常に珍しく、一般的には一つの村の中にこの三つが混じるのが常識的であった


 そして

 物語は、この雉の村から始まるのである


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