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地球を超えた任務

ガブリエル・オルドニェスはドッキングクランプの衝撃を感じた瞬間、もう後戻りはできないことを悟った。


ハーネスを外し、体を起こす。ガイア・リーディング・トロヤン・ステーションの人工重力が、これまでにない重みで彼の体を引き寄せた。空気は無機質で、金属と再生酸素の微かな匂いが混じっている。輸送機の狭い通路は薄暗く、工業用の装甲板が並び、遠くの換気システムの低い唸りだけが響いていた。


彼は一瞬ためらった。これまで地に足のついた兵士だった自分が、望んだわけでもない現実の縁に立たされている。


契約は単純に思えた――ウシル・パワー・コーポレーションの警備任務。高リスク・高報酬。よくある話だった。しかし、気づいたときにはもう遅かった。彼は地球の手の届かない場所へと送り出され、沈黙の虚空の中で、戦争も政治も生存のルールさえも、良心より権力を持つ者たちによって決められる世界へ足を踏み入れていた。


出口ハッチの上の赤いランプが点滅し、やがて緑に変わる。ドアが静かに開いた。


反対側には二人の男が立っていた。一人は濃紺のUPC警備員の制服を着た男。もう一人は「司令官 イライアス・マーサー」の名を刻んだ軍服のジャケットを羽織っていた。年配の男は、長年指揮を執ってきた者特有の鋭く洞察する視線を持っていた。


「オルドニェス。」マーサーが彼を手招く。「ガイア・ステーションへようこそ。」


ガブリエルはダッフルバッグのストラップを直し、ハッチをくぐった。「歓迎会があるかと思ったが。」


マーサーは薄く笑う。「パレードでも期待したのか?」


「いや、契約書にサインする前にオフワールドへ送られると聞いておきたかったな。」


「もし知っていたら、契約したか?」


ガブリエルは答えなかった。本当のところ、自分でもわからなかった。


マーサーは彼に続くよう促し、二人はステーションのメイン通路を歩き始めた。壁には強化パネルが並び、縁には薄白いライトが灯っている。すれ違う数名の警備員が軽く頷いた。ベテランらしき者もいれば、ガブリエル自身の顔に浮かんでいるであろう不安な緊張を漂わせる者もいた。


「ここはただの企業拠点ではない。」マーサーは続けた。「このステーションは(614689) 2020 XL5からの原材料を処理し、それをヘリオス・ステーションへ送って製造に使う。それが意味するのは……我々が"狙われる"ということだ。」


「狙われる?」ガブリエルは眉を上げた。


「スパイ活動、破壊工作、そしてUPCが人類史上最大の小惑星資源を独占していることを気に入らないライバル企業。」マーサーが彼に視線を向ける。「そこで、お前の出番というわけだ。」


ガブリエルは頷いた。戦場の変化を読み取るには、十分すぎるほど軍務を経験してきた。そして今ここも――まだ銃声は響いていなくとも、戦場なのだ。


マーサーは強化ドアの前で立ち止まり、近くのパネルに指を滑らせた。ドアが静かに開き、研究室が姿を現す。


中では、白いジャンプスーツを着た女性が背を向けたまま、鉱物サンプルや分析装置で散らかった作業台に向かっていた。部屋の壁には保管コンテナが並び、それぞれ元素組成のラベルが貼られている。ガブリエルはそれを解読しようとも思わなかった。


「エヴリン・ツァオ博士。」マーサーが室内へ踏み込みながら紹介した。「この研究所の主任科学者だ。」


女性は背筋を伸ばし、こちらを向いた。ガブリエルは無機質で冷静な科学者を想像していたが、彼女の目にはそれ以上の鋭さがあった。まるで、彼を分析するかのように見つめている。


「また兵士か。」彼女は感情を押し殺した声で言った。「必要なものとは思えないけど。」


ガブリエルは腕を組んだ。「こっちも、よろしくな。」


マーサーはそのやりとりを無視した。「ツァオ博士は鉱物分類と資源採掘方法の責任者だ。お前は彼女のチームに同行し、安全を確保するのが仕事になる。」


ガブリエルはゆっくり息を吐いた。「つまり、科学者の保護役か?」


ツァオの表情は変わらなかったが、目がわずかに細まった。「そして私は、コバルトとイリジウムの違いを説明しなければならないのかしら?」


「俺が知るべきなのは、それが何かじゃない。」ガブリエルは言った。「それを巡って誰が殺し合うかだ。」


ツァオが返答する前に、鋭い警報音が空気を切り裂いた。ステーションのライトが一瞬点滅し、上部スピーカーがざらついた音を立てて作動する。


**「警備警報。セクター3にてシステム障害発生。外部からの干渉の可能性あり。」**


マーサーはすでに動き出していた。「オルドニェス、来い。」


ガブリエルは言われるまでもなく足を踏み出した。


ガイア・ステーションでの初日。そしてすでに確信していた。これはただの仕事ではない――始まりつつある戦争だった。

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