98、エンディング、千年後の君へ
「ヴィレン。私、サラとの約束のためにもこの『世界』が欲しいの。手伝ってくれる?」
「もちろん。お前の為ならば」
「…世界が欲しいなんて、魔王みたい。…強欲が過ぎるかな?」
「なんだ、ルーシー。お前、竜のくせに知らないのかよ?」
「竜は、この世で最も強欲な生き物なんだぜ」
*
*
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「——サラ。おい、サラ!」
サラと呼ばれた少女は、誰かに肩を強く叩かれた事により目を覚ます。
「っは…!?」
そこは、サラの通うビアトリクス魔術学園高等部の教室の中だった。窓から差し込む日の光がオレンジ色…夕暮れ時だ。
「居眠りしてんじゃねぇよ。帰るぞ」
「…あれ、ユーゴ…?」
サラは目の前で顔を顰めている同級生を見つめながら、何となく不思議な気持ちになる。
(…今、とても長い夢を見ていたような…)
「リクが待ってんだから…早く、帰り支度をしろ」
「あっ、うん! 分かったから、置いてかないでぇ〜!」
サラは慌てて学生鞄に教科書や宿題を詰め込むと、さっさと教室から出て行く幼馴染のユーゴを追いかけるように走った。
「ユーゴ、サラ!」
ユーゴと共に校門前に向かうと、サラとユーゴの年上の幼馴染、リクが笑顔で手を振っていた。
「リクー! お待たせ!」
サラはリクが大好きだ。血は繋がっていないけれど、サラにとって優しいお兄ちゃんみたいな人。
「リク、待たせた。サラのせいで遅くなったわー」
気怠そうな態度でユーゴが言う。
「そんな言い方しなくても良くない!?」
サラはユーゴの事が、憎たらしいけれど大切だ。いつも喧嘩ばかりしてるけど、唯一無二の親友みたいな人。
「ゆ、ユーゴ君!」
三人が集まっていると、一人の女学生が顔を真っ赤にして話しかけてきた。手には一枚の手紙…。
「…あー、えっと…」
ユーゴは気まずそうな表情を浮かべてから、「あっちで、話そうか…」とその女学生を連れて校舎の影へと姿を消す。
「あれ、絶対に告白だよね」
「うん。百パーセントそう」
サラがリクに耳打ちすると、リクも頷く。
「ユーゴのやつ、意地悪で性格最悪だけど顔だけはいいからなー」
「いいなぁ。僕も一度でいいからモテてみたい」
「私はリクが大好きだよ!」
「うん。どうもありがとう」
全然本気にされていない…と、落ち込むサラ。そこに、再びユーゴが戻ってきた。
「おめでとう。カノジョ持ち」
サラがニマニマと笑いながら揶揄うように言うと、ユーゴは目を伏せる。
「いや…断った」
「え! なんで!?」
サラが食い付くように尋ねた。何故ならユーゴは、これまで告白された女子と必ず付き合っていたからだ。それで、すぐに別れるまでが恒例。
「……俺、これまでたくさんの女の子と付き合ってきたけど…結局、サラ以外の女の子に自分自身なんて出せねーし…だから、」
「いや、ユーゴは性格悪いから自分を作っとかないと女の子にすぐ嫌われちゃうよ?」
何だか頬を染めてごにょごにょ言ってるユーゴに、サラは真面目な顔をして助言してあげる。
「…っ、くっそ! なんで分かんねーんだよ! このアホ女!」
すると、何故か憤慨しだすユーゴ。
「ユーゴ。サラには、直球勝負がいいと思うよ…」
そして、ユーゴを慰めるように彼の肩に手を置くリク。
(? 何なの、二人とも…意味分かんない——)
サラはふと、夕暮れ空を見上げる。リクとユーゴもつられて空を見上げた。
「あ…竜だ」
オレンジ色の空の向こうに、小さく二匹の竜が飛んでいた。
「人族の前に姿を現すなんて、珍しいな…」
「魔王様かな?」
サラ達が生きるこの世界は、魔王と呼ばれる竜が支配している。
支配といっても、何か強要されている訳でも搾取されている訳でもない。この世界に人族や魔族の国は無数にあり、それぞれが統治している。
ただ、人族も魔族も空も大地もこの世界の全てが魔王のものだということだけ。だから人族も魔族も小競り合いはあっても、戦争をする必要はないのだ。
サラはこの世界に生まれて良かったと思っている。大好きなリクがいて、大事なユーゴがいて…この戦争のない平和な世界で生きている今が、とても幸せな事なのだと、サラは知っている。
二匹の竜の姿が見えなくなった時、サラはふと…全てを思い出したのだ。
その瞬間、自分の中に止めようもないたくさんの感情が溢れ出てきて、涙があふれた。
「サラ!?」
「どうしたんだ!?」
嗚咽を上げ始めたサラを見て、二人は驚き戸惑っていた。
「なん、でも…ないの…もう、大丈夫だから」
何度涙を拭っても、止まらない涙。
『貴女がまたこの世界に生まれた時、貴女が大好きな人たちと当たり前に過ごせる世界を私が作ってみせるよ。だから未来で待っててね——サラ』
サラはもう一度、空を見上げた。
「……ありがとう、ルクレツィア…」
リクもユーゴも、意味が分からないと首を傾げていた。
(約束、守ってくれて…)
「…リク、ユーゴ」
サラは二人の名を呼ぶ。そして今一度、改めて思うのだ。長谷川紗良も、聖女サラも、そして今の普通の女の子サラも…あの約束から千年経った今でも、ずっと変わらないものがある。
サラは涙に濡れた目で笑顔を浮かべた。
「あのね、二人とも大好きだよ!」
彼女のその笑顔は、とても幸せに満ち溢れた笑顔だった。
——fin——
これにて、本編完結です。
『絆』と『成長』をテーマに、嫌われ疎まれていた女の子が周りの人たちを救う光となるお話が書きたくて、執筆を始めました。
主人公達だけでなく、サブキャラにも成長するキッカケとなるエピソードを考えて執筆したつもりですが…楽しんで貰えたら嬉しいです。
20万文字くらいを目指して投稿しておりましたが、結果的に思ったよりも超大作(私の作品の中では)になってしまいました。これでも削ったエピソードも幾つかあるので、全部書こうとしていたらどれ程の文字数になったのか…恐ろしいです。
決して短くはない物語を、完結まで読んで下さった皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。
また別の作品でもお会い出来ましたら、その時はどうぞよろしくお願いします!
2025/1/2 リラ




