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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第四章 竜の花嫁編
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92、立場逆転の理由

「属国の弱小国家のくせに…」

 ルクレツィアとレメディアスが近付いていくと、エリーチカのそんな言葉が聞こえてきた。

 エリーチカの周りにいた令嬢の一人が、近付いてくる二人に気付き顔を青くさせる。それを皮切りにエリーチカの取り巻き達は青褪めた表情で俯くのだが、ミランダを貶す事に精を出しているエリーチカ本人だけが気付いていない。

「立場を弁えませんと…ここは魔術師の国ですよ? いくら姫君と言えど、帝国の足元にも及ばない貧相な国出身で大した魔術の才能もないとあっては…ユーリ様に相応しくありませんね」

 ルクレツィアは、彼女の言葉を聞きながら驚いた。もちろんエリーチカの幼稚な言い分に対してもだが…幼少期にユーリからあんな振られ方をしたのに、まだ彼を諦めきれていないエリーチカの図太さに驚き、そして呆れ果てる。

 取り巻き達が一歩二歩と下がるので、自然とルクレツィア達の前に道が(ひら)けていく。そこを堂々と歩き、エリーチカのすぐ後ろに立った。

「ミランダ姫様もこれ以上ご自身の無能さを帝国民たちに晒したくはないでしょう? ですから…」

「エリーチカ公女様、お久しぶりですね」

 ルクレツィアの冷ややかな声を聞いたエリーチカは、驚いた様子で勢いよく後ろを振り返る。すぐに紫の瞳と目が合い、エリーチカは憎々し気な表情を浮かべた。

「あら…お久しぶりですね、ルクレツィア公女様。そして、私の可愛い妹レメディアスまでいるじゃない」

 すぐに余裕ある笑みを浮かべて、エリーチカがルクレツィア達に向き直った。ルクレツィアがチラリとエリーチカの後ろに目を向けると、ミランダが涙目で不安そうな顔をしてこちらを見ていた。

(ミランダ姫様は確か今16歳…成人したとはいえまだ若い上に知り合いも限られた帝国に一人やって来たばかりで、ただでさえ心細く不安でいっぱいだっただろうに…)

 それなのに、エリーチカ達に虐められていたミランダは怖くて堪らなかっただろうと思い、ルクレツィアは眉を顰めた。

(この公女様は、昔と何も変わってないんだね)

 相変わらず、裏で人を虐める事が好きな浅ましい性格のままのようだ。

「何やらエリーチカ公女様の口から耳を疑うお言葉が聞こえてきたのですが…」

「気のせいでは? ミランダ姫様とは楽しくお話させて頂いているだけです。お気になさらず、早く会場へとお戻りください」

 ルクレツィアの冷たい目線を受けたエリーチカはニコリと柔らかく笑って平気で嘘を吐く。

「…へぇ。じゃあ、僕たちも混ぜてよ」

 怒りを露わにしたレメディアスが挑戦的な目付きをしながらエリーチカに笑いかける。エリーチカはレメディアスを馬鹿にしたような表情で、「ふふっ」と、笑った。

「レメディアス。貴女はそこのルクレツィア公女様とお友達ごっこを続けておきなさいよ」

 エリーチカは自分より魔術の才がないレメディアスを絶対的に下に見ていた。魔女は魔術ではなく、呪術や占いを生業(なりわい)にしている職業だ。エリーチカの思い描く能力基準では、魔女は魔術師より下という判断だった。

「…『友達ごっこ』?」

 エリーチカの言葉に、レメディアスよりも先にルクレツィアが反応する。

「『ごっこ』ではないですよ、エリーチカ公女様。私とレーメは正真正銘の『親友』です。貴女には友人の一人もいないようですので、分からないかもしれませんが…」

 ルクレツィアが目を細めると、反対にエリーチカは目を大きく開いて怒りを露わにした。

 そう、今のエリーチカには『取り巻き』はいるが『友人』はいない。彼女が父親の命令で公爵領で『静養』していた数年の期間、彼女を心配して訪れて来た者は誰一人として居なかった。

 当時、どうして誰も手紙ひとつ寄越さないのかと、ヒステリックを起こしていたエリーチカ。オルク伯爵令嬢が無情に切り捨てられた光景を見て、当時のエリーチカと親しくしていた彼女の友人達は目が覚めたらしく皆が彼女から離れていったのだ。

 現在、彼女の周りには少しでもヴァイスローズ公爵家の権威にあやかろうとする貴族ばかりで、由緒正しい貴族の子息達はエリーチカに近付こうともしない。

 あのお茶会の日から、エリーチカは何もかも上手くいかなくなった。つまらない田舎領地で粛々と過ごす日々は、帝都で過ごしていた優雅な日常をますます恋しくさせて苦痛で仕方なかった。

 やっと帝都に戻る事を許されたと安堵していれば、両親の関心はすっかり薄れて、たかが養子との婚姻を望み自分勝手に家出したレメディアスの心配ばかりしている。

 おかしいじゃないか。自分よりも出来損ないのレメディアスに関心を寄せるなんて。

 何故そのようになってしまったのか…その理由に気付けず、むしろ知ろうともしないエリーチカの愚かさがここまでくると可哀想に思えてくる。

 エリーチカは改めて目の前のルクレツィアに目を向けた。

 息を呑むほどの美貌と、優雅で気品のある堂々とした佇まい。おまけに、あのビアトリクス魔法学園を優秀な成績で卒業した魔術師で、周りに大切にされ愛されながら日々を過ごしていた事が窺える満たされた顔付き。

 反対に自分は両親の関心と友人を失い、通った学校と言えば田舎領地にある小さな貴族子女学院。親しかった者は皆離れていき、周りに残った者は品位のカケラもない無能な低位貴族…。

(どうして…こうも差が付いたの…?)

 昔は、ルクレツィアよりも自分が好かれていたはずだ。同年代の公女として何かと比較されてきた二人だが、周りの者たちは皆口を揃えてルクレツィアよりもエリーチカを称賛してくれていた。

(それなのに今…私とあの女の立場は逆転している…)

 嘲笑われ、嫌われて、いつも卑屈そうな暗い顔で俯いていた10歳のルクレツィア・クラウベルク。

 20歳になった今のエリーチカ・ヴァイスローズの姿と何が違うというのだろうか。現在、嫌われて疎まれている公女は自分の方なのだ…。

 自分はいつから、脚光を浴びるルクレツィアを、光が当たらない舞台下で彼女を見上げる人生になっていたのだろう。

 エリーチカの中では、元よりあったルクレツィアへの妬ましさが爆発寸前になるほど膨れ上がっていた。

(悔しい…悔しい、悔しい!)

 だからエリーチカは、悔しさで震える手を握り拳で隠してから、ルクレツィアに不快感を与えようと暴言を丁寧に吐く。

「…そうですか。確かに、お二人はお似合いですものね。魔術師崩れの魔女と、元ノーマンだなんて…」

 お前が出来損ないだった恥ずかしい過去を忘れるな。と、いう意味を込めてエリーチカはルクレツィアに言った。

 エリーチカが意地悪な顔で笑みを浮かべると、レメディアスが顔を真っ赤にして叫ぶ。

「僕の友達を馬鹿にするな! そういうお前は弱い者を見つけては虐める、下劣な人間のくせに!」

 レメディアスの言葉にエリーチカもカッとなって、「うるさい! この出来損ないが!」と叫ぶ。

 怒り心頭なエリーチカは浅ましい本性を隠す事なく、怒り任せにレメディアスを平手打ちしようと大きく手を振り上げたのだ。

 レメディアスを庇うため、ルクレツィアが一歩前に出る。威嚇するように勢いよく竜の翼を生やし、縦長の瞳孔を大きく開いてエリーチカをじっと見つめたルクレツィア。

「私の友達に何する気?」

 ルクレツィアのあまりの威圧感に臆したエリーチカは、手を振り上げたまま固まっていた。

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