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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第一章 修復の絆編
9/98

9、優しくて優しくない皇子様

「……ユーリとルクレツィア嬢の婚約を白紙に戻す事を…決定した」

 到着した場所はマルセルの執務室だった。部屋の中にいた数人の補佐官たちを全て追い出し、皇后とユーリ、そしてディートリヒとルクレツィア、ヴィレンが着席して早々にマルセルは本題を切り出した。

 シン…と静まる室内。突然のことに、アネッサは冷や汗をかきながら思わず下を俯いた。一体、皇帝と公爵の二人の間でどのようなやり取りが行われたというのか…。

(…まさかこちらが不利になるようなことは…何も無いわよね…?)

 アネッサは嫌な予感を感じて下唇を噛んだ。その横でユーリがポツリと呟く。

「ど、どうして…白紙…?」

 焦点の合わない目を揺らしながら、ユーリは自分の耳を疑った。父親が今言った言葉を信じられなかった。

「僕とルクレツィア嬢の、婚約が…?」

 ユーリがルクレツィアを見た。目が合った瞬間、彼女はビクリとした様子でディートリヒに助けを求めるよう父親の手を掴む。そんなルクレツィアに大丈夫だと頷いてみせるディートリヒ。

 ルクレツィアとユーリの婚約は、二人が三歳の時に結ばれていたものだった。だからユーリはこれまで、自分の将来の妻はルクレツィアなのだと疑うこともなく生きてきた。

(今さら白紙だなんて…)

「父上、僕は嫌です!」

 ユーリは望みをかけてこの国の皇帝陛下である父に抗議する。

「…ユーリ。私と公爵の…同意の上で決めたこと。もう覆すことは出来ない」

 しかし、返ってきた望まない父の答えにユーリはくらりと目眩がした。

「ル…ルクレツィア嬢は…」

 ユーリは何故かルクレツィアを諦めたくなかった。彼女に恋愛感情があったのかと聞かれれば、それは分からない。でも、彼女に笑顔を向けられるヴィレンのことを羨ましいと思ってしまったのも事実。

「いいの…? 僕との婚約が白紙になっても…」

 ルクレツィアには自分が必要なのだと信じたいユーリは彼女にそんな事を尋ねた。

 彼女は何も答えない。ユーリはカッとなって更に言葉を重ねる。

「僕はこれまでずっと貴女を慰めてきた! 優しくしてあげたじゃないか! それなのに、どうして…」

 何も答えてくれないんだ、と言おうとしたら、ルクレツィアがユーリから顔を背けて、そして答えた。

「…ユーリ殿下の優しさは…痛くて、惨めでした」

 心が、と続くだろうルクレツィアの声なき声が聞こえる。

「…………」

 ユーリはその瞬間、脱力したように項垂れた。

「…現在、行政書士に婚約解消の認可書類を作らせている。出来上がるまでに数日かかるとの事だが…その書類に俺の娘と皇子が署名したら、この話はそれで終わりだ」

 ディートリヒは冷やかな目で周りの者を威圧しながら、今日のところはそう締め括った。


 *


 昨日はルクレツィアにとって沢山の事が起きた。皇族や周りの貴族は苦手だけれど、ヴィレンが自分の味方をしてくれた事がとても嬉しかった。

 それに、ユーリとの婚約の白紙。ルクレツィアは何となく、解放された気分になっていた。

 いつも通りの時間に目覚めて、朝の準備に取り掛かる。朝食をとるため、食堂へと向かったルクレツィア。

 廊下を歩いていると、数名の使用人とすれ違った。

 前は皆、ルクレツィアの姿を見てもそのまま通り過ぎていたのに、今ではわざわざ手や足を止めてルクレツィアにお辞儀をしていた。

 屋敷の中で変わったことはもう一つ。あんなに沢山いた使用人たちは少なくなっていた。特にルクレツィアに強く当たっていたメイド長やその近しいメイド達、それにニキルという執事長の姿をそういえば一昨日の晩から見かけていない。

 今屋敷に残っている使用人たちは、これまでルクレツィアに直接的な虐めや嫌がらせをしてこなかった者たちだけだった。

 食堂に入ると、やはりというか、ディートリヒがコーヒーを飲みながらルクレツィアの事を待っていた。

「おはよう御座います、お父様」

 書類仕事や読書の時だけ眼鏡を着用するディートリヒは、細い金縁の眼鏡をかけた姿で新聞を読んでいた。

 ただ新聞を読んでいるだけなのに、この神々しさは何だろうか…と、娘ながらに感心する。

「おはよう、ルクレツィア」

 ディートリヒは読んでいた新聞を折り畳み脇のテーブルに置くと、着席するルクレツィアに笑顔を向けた。

「ヴィレンはまだ起きてきていないのですか?」

「そのようだな」

 元々マイペースな性格だからか、ヴィレンの朝はゆっくりなようだ。

「ルクレツィア。今日は、食事を終えたら一緒に出掛けようか」

 ディートリヒが言うと、ルクレツィアは父との外出が嬉しいようで「はい!」と元気よく答える。

「帰郷について色々と準備をしなければならないが…考えてみれば、お前のコートやブーツを買わなくてはならない」

 ディートリヒがコーヒーを啜りながら言った。

「北の領地は一年の殆どが雪に覆われているような土地だからな」

 ルクレツィアは父が治める北の領地はどんなところだろうかと想像した。

 広大な領地だと聞いている。寒い地域にしか咲かない花や生息しない動物がいるらしい。それはどんな姿形をしているのだろうか?

 これから楽しみなことがいっぱいだ。

「既製品にはなってしまうが、いくつか予備の分も含めて買っておこう。ちゃんとしたものは、あちらでオーダーメイドして作ればいい」

 ディートリヒが微笑みながらルクレツィアの頭を撫でていると、メイド達が朝食を運んできたので二人は楽しい朝食時間を過ごしたのだった。


 ディートリヒとともに馬車を降りたルクレツィアの前には帝都で一番大きな子供服を取り扱っているブティックがそびえ立っていた。

 手を繋ぎながら店内に入ると人気店だというのに客は一人も居らず、販売員どころかオーナーが直々に店内を案内してくれた。

「誰もいませんね…?」

「貸切にしたからな」

 不思議そうに首を傾げるルクレツィアにディートリヒはサラリと涼しい顔で答える。ルクレツィアは思わず「え!」と、驚きの声をあげた。

 こんな人気店を貸切りに…一体いくら積んだのか…。

「俺は煩わしいのは嫌いだ。ルクレツィアもゆっくり買い物が出来た方がいいだろう?」

 本当は愛娘とのショッピングを誰にも邪魔されずにゆっくり楽しみたい一心で貸切にしたディートリヒだったが、そのまま伝えるのは照れるようで案外可愛いところのある『北の氷王』だった。

「お父様、このコートを見てください。可愛いと思いませんか?」

 ルクレツィアはオーナーに渡された冬服用のカタログを眺めながら、隣に座るディートリヒに声を掛けた。

「あぁ、そうだな。お前に似合うだろう」

「…お父様。さっきからそればかりです」

 カタログを覗き込むディートリヒが淡々とした口調で答えると、ルクレツィアは少し不満そうな表情でカタログから顔を上げた。

 どのデザインを見せてもディートリヒの回答はどれも同じようなものばかり…適当に相槌を打たれている気がしてルクレツィアは寂しさを感じていた。

「…仕方ないだろう。本気でそう思うのだから」

 しかしディートリヒは真顔でそう言ってのける。

「むしろ、お前に似合わない服を探す方が困難なのではと思っているよ」

 嘘偽りのないディートリヒの言葉に、ルクレツィアは照れと恥ずかしさからつい顔を赤らめてしまう。

 愛娘ルクレツィアの美貌と品位であれば、例え平民が着るような安物の服でも高級品に見えて着こなしてしまうだろう…と、本気で思っている親バカなディートリヒだった。

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