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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第四章 竜の花嫁編
89/98

89、鬼の花嫁

 ***


 ルクレツィア達に遅れて、一週間後にサティがやっと学園都市からイスラーク城へ帰還し到着した日のこと。

「トーヤさん、マノさん!」

 負傷した二人がアルゲンテウスの兵士達と共に治療を受けていた病室に、青褪めた表情のサティが飛び込んできた。

「サティ?」

 殆ど回復していたマノが驚いた表情でサティを見る。元気そうな彼女の姿を見て、サティはホッと安堵した後、思わず涙ぐんでしまった。

 事の顛末を後から聞かされたサティは、あの時の二人のおかしな言動は自分へ別れを告げていたのだと言う事に気付いたのだ。

 結果的に二人が無事だから良かったものの、下手すればサティは何も知らないまま、マノやトーヤと一生会えなくなっていたのかもしれない。そう思うと、とても悔しい気持ちになるサティ。

 サティは何も言わずに、ただ黙ってベッドの上で上半身を起こしたマノを力いっぱいに抱きしめた。

 そして「また会えて良かった…」と、小さく呟く。マノは困った顔で笑って、サティを優しく抱きしめ返すのだった。

「…トーヤさんは…?」

 マノから離れたサティは隣のベッドで眠っているトーヤに目を向けた。見れば、彼の顔色はとても悪くて、一目見てトーヤが重傷なのだと分かる。

 身体中に包帯が巻いてあり、その包帯も所々血が滲んでいた。

「…私たちの中でも一番酷い負傷でね……剣で胸を貫かれてしまったトーヤは、もう…」

 険しく悲しそうな表情を浮かべて言葉を途切れさせるマノに、サティは「そ、そんな…」と絶望した表情で呟くように言う。

「…傷の完治は難しそうなの。どうしても傷痕が大きく残ってしまうようだけれど、体力自慢の鬼人族だから(じき)に目を覚ますわ」

「酷いです! トーヤさん!」

 マノは続けてトーヤの状態を説明していたのだが、話を聞いちゃいないサティはマノの言葉を掻き消すように叫んだ。

 マノと、周りにいたアルゲンテウスの兵士達が驚きながらサティを見る。

 背の低い彼女は、まるで小動物のようにプルプルと肩を震わせては真っ赤な顔で眠っているトーヤを睨み付けたかと思えば、突然、その小さな握り拳を振り上げてトーヤの胸を何度も叩きながら泣き始めたのだ。

「起きてください! 私のハジメテを奪っておいて…そんなの無責任です…! 責任取ってくれるまで、死ぬなんて絶対に許しませんから!」

 始めこそサティの暴挙に青褪める一同だったが、続く彼女の発言に、どよめきの声と共に周りの目が一斉に眠っているトーヤに集中する。

「は? この男…呆れた。これだから、鬼人族の男は…手が早いにも程があるでしょ」

 マノが心底軽蔑した顔でトーヤを見下ろしながら冷たく言う。

 実際のところ、トーヤはサティと婚前交渉などしておらず、奪ったものと言えば彼女のファースト・キスなのだが…マノを始めとしたアルゲンテウスの兵士たちに誤解されるトーヤだった。

「トーヤさん! 死んじゃ()だよ〜!」

「………痛い…サティ…」

 サティが叩き続けていると、トーヤがあまりの痛みに堪らず顔を歪めながら目を覚ます。

「……トーヤさん!」

 サティは涙に濡れた目を大きく開き驚いたようにトーヤの名前を呼んで、嬉しさのあまりそのまま彼に抱き付いた。

「痛っ…サティは何で泣いとる? 何があった…?」

 状況の掴めないトーヤが痛がりながらもサティをしっかりと抱き止める中、マノや兵士たちがトーヤを責めるような厳しい目付きで周りに集まってくる。

「そんな事より、トーヤ。あんた、ちゃんと責任取んなさいよ?」

「あぁ、俺たちの前で今すぐに誓うんだ」

 サティは泣いて抱き付いてくるし、周りの者たちは怖い顔して「責任を取れ」と言ってくるし…トーヤは訳が分からず首を傾げる事しか出来なかった。

「みんな、どうした? そげん怖い顔して…」

「サティに手を出しといて…とぼける気?」

 マノの言葉に思わずトーヤは「はぁ?」と、聞き返してしまった。しかし、すぐにハッと思い当たる。

(そうか、こいつら…何がどうなってそげな誤解が生まれたんか分からんが…俺がサティに婚前交渉したと思っとるんか…)

 それはとても心外な誤解ではあるが…しかし、トーヤは元々、今回の件で自分の命が残ったならばサティを迎えに行こうと思っていたのだ。

 トーヤは未だ泣き続けるサティに目を向けて、声を掛ける。

「サティ。いい加減、泣き止まんか」

 サティは顔を上げてトーヤを見た。するとトーヤの大きな手がサティの頬に添えられて、彼女の涙を親指で丁寧に拭っていく。

「大泣きするくらい俺の事が好きなら、覚悟を決めて俺んとこに嫁に来い!」

 トーヤのシンプルだが力強い求婚(プロポーズ)に、サティは顔を真っ赤にして目を大きく開いた。

「…お前の目ん玉が、こぼれ落ちてしまいそうで心配になる」

 サティがあまりにも驚くので、トーヤが可笑しそうに笑う。

「お前の家庭的でその小さな体に隠れた根性に惚れた。毎朝、俺のために飯を作ってくれ」

 初めて人族に来て人間たちと生活してみたけれど…魔族の自分に臆する事なく家事の指示を平気で出してくるサティの度胸を好ましく思っていた。

 それなのに、力は無いし危なっかしいし…トーヤがサティから目を離せなくて、その気持ちが『守ってやりたい』に変化するのに時間はかからなかった。

「……それで、お前の返事は?」

 トーヤが色気のある笑顔でサティに尋ねると、彼女は真っ赤な顔のまま反射的に口を開く。

「は…はい! 喜んで!」

「なんじゃ、その変わった返事は」

 トーヤとサティは周りに見守られながら笑い合う。ここに今、ひと組の異種族婚カップルが成立したのだ。


 近い将来、鬼人族をまとめる族長となったトーヤの隣には逞しい鬼嫁へと成長したサティがいた。

 鬼達は族長夫婦を見て育ち、『鬼に金棒』ではなく『鬼に鬼嫁』という(ことわざ)が出来る程、トーヤとサティは互いを思いやり助け合う皆の理想の夫婦となるのだが…それはもう少し未来のお話。


 ***

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