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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第四章 竜の花嫁編
84/98

84、少女の提案

「大変申し訳ありませんでした」

 ルクレツィアが朝食を取るために食堂へ入ると、いつもは寝坊助なヴィレンが早起きして彼女のことを待ち構えていた。

 そして、まだ碌に包帯も取れておらず、満足に身体も動かせない状態のくせに、ヴィレンはルクレツィアの前で土下座したのだった。

「俺が馬鹿なせいでルーシーを傷付けてしまいました…」

 と、心からの反省の色を示すヴィレンにルクレツィアは困ったような笑顔を浮かべる。

「だからもういいって…」

「いや、俺の気が済まねぇ!」

 サラ達と決着がついたあの後、イスラーク城に戻って来てからというものの、ヴィレンはずっとこんな様子だ。

 ルクレツィアとヴィレンは今、ビアトリクス魔法学園ではなくイスラーク城へ帰宅している。

 サラとユーゴが幽鬼(ゆうき)族だったという事実は学園側にも報告しなくてはならず、その幽鬼族が在学していたという事実に学園側は急遽学校を緊急休校させた。

 一歩間違えれば学園内は幽鬼族の巣窟となっていたかもしれない…体制を見直し、生徒の安全性を高める対策を取るために、もうすぐ新年の長期休暇だったこともあり、新学期まで休みとなったのだ。

 サラ達が拠点にしていた聖リアン王国だが、ユーリの指揮のもと帝国軍が王国に攻め入ると、王国の内情は酷い有様だった。

 魔王教に苦しめられていた国民は搾取され、大多数の力のある高位貴族達は牢に収監されていた。

 国王は抜け殻のように王座に座る傀儡と成り果てており、王妃はベッドの中で病死していた。王子や姫達はその殆どが貴族達と共に牢に繋がれていたのだった。

 大陸の中でも大国のマルドゥセル魔導帝国軍がやって来て国民達はまるで救世主が現れたかのように泣いて歓喜した。

 王国民たちは皆、銀髪の美しい皇子であるユーリを尊敬の意を込めて『月光の英雄』と呼んだ。ユーリ本人の意思とは関係なく、その二つ名は大陸中に広がっていきユーリの名声は高まる事となった。

 聖リアン王国の復興のため、王国は帝国の一時預かりとなり…新しい国王として即位した王子は、改めて帝国の属国となる事を申し出た。

 ディートリヒ達は事情を知るアレンディオと話し合い、ユーゴとサラが異世界人であり元勇者と聖女だということを世にしっかり伝える事に決めた。

 旧暦時代の者たちから故意的に揉み消されていた歴史の真実を明るみにする事が、勇者と聖女への誠意だと思ったからだ。

 もしくは、ディートリヒ自身が、過去の暗い歴史を隠したまま、彼らを都合よく『魔王を倒した英雄』だなんて祭り上げる事に嫌悪感を感じてしまったからなのかもしれない。

 ユーリはヴィレンが元魔王だということはマルセルに伝えていなかったらしい。ディートリヒもまた、その件についてあえて言及はしていない。過去はどうあれ、今のヴィレンは『魔王』に抗ったのだから…。


「——うーん、そこまで言うなら…」

 ルクレツィアは謝るヴィレンを眺めながら、これは何か罰を与えてやらないと終わらないんだろうな。と、困った気持ちのまま考えた。

(きっとヴィレンは、償う機会が欲しいんだよね……あ、だったら…)

 ルクレツィアは何かを思い付いたようで、膝を付くヴィレンを立たせると、彼を見上げながらにっこりと笑う。

「元気になったら、罰として私とデートしてよ」

「え?」

「あ、ただのデートじゃないよ? 始まりから終わりまで、ヴィレンが私を楽しませるために考えたプランのデートだからね」

 ルクレツィアが楽しそうに笑いながら言うと、ヴィレンは目を潤ませてルクレツィアを見つめる。

「私が満足しなかったら無効だよ? そうだね、たった一回じゃ罰にならないから、毎月一回。それも、一年間やって貰おうかな!」

「ルーシー!!」

 ヴィレンはルクレツィアを力強く抱きしめた。

「大好きだルーシー! そんなの、毎日でもやってやる! 俺、ルーシーの為のデートを一生懸命に考えるよ!」

 相変わらず…いや、今回の事件を経てもっとルクレツィアの事が大好きになったヴィレンは、抱き締めたまま愛おしそうに彼女の頭に頬擦りする。そして、そんな彼の腕の中では…。

「意欲的みたいで大変喜ばしいことだけれど……毎日はちょっと、多いかな…」

 照れつつも少し恥ずかしそうな顔をするルクレツィアがいた。

(元々、ヴィレンは距離感の近い人だったけど…城に帰ってきてから益々近くなってない…?)

 と、ヴィレンのより強まった求愛行動にいちいち赤面してしまうルクレツィア。

 慣れない…が、満更でも無さそうな彼女は口元がニヤける前に、微笑ましそうにしている周りの使用人達の目もあることから、なんとかグッと表情を引き締めるのであった。

「ヴィレン様!」

 ヴィレンがルクレツィアを抱き締めていると、青褪めた表情のレイモンドが彼にしては珍しく慌しい様子で食堂に現れる。

「何故、出歩かれているのですか!?」

 そしてすぐに二人の元へとやってきては、ヴィレンを責める口調で尋ねてきた。

「医師に数日は絶対安静と言われておりますよね?」

 普段は穏やかなレイモンドだが、この時ばかりは口調が強くなってしまう。それだけ、ヴィレンを心配しての事だった。

「……いや、俺…もう動けるし…」

 部屋を抜け出してルクレツィアに会いに来ていた事がバレたヴィレンは、口籠もりながら誤魔化すようにレイモンドから目を逸らした。そして自分をジッと見つめてくるルクレツィアの視線に気付かない振りをする。

「ヴィレン?」

 ルクレツィアが小首を傾げて名前を呼ぶと、ヴィレンは「うっ…」と、うめき声を上げてはバツの悪い顔をした。

「だって…早くルーシーに会いたくて…」

 と、しおらしい事を言ってくれるヴィレンに、ルクレツィアもつい叱る気持ちよりも嬉しい気持ちが勝ってしまう。しかし、彼女は自分の心に喝を入れてヴィレンを改めて見上げた。

「私もヴィレンの顔が見られて嬉しいよ。でも…それと同じくらい、早く元気になって欲しいよ」

 ルクレツィアは続ける。

「私の為にも、早く元気になってもらわなきゃ。じゃないと、いつまでもデートに行けないでしょ?」

 するとヴィレンは静かに頷いて…そんな彼をニコニコと笑顔を浮かべながら見つめるルクレツィア。

 レイモンドはそんな二人の様子を見て、ルクレツィアに感心していた。

(普段ならご自分のなさりたいようにしか振る舞わないヴィレン様が、あんなに素直に…)

 惚れた弱みという言葉があるが、ヴィレンのそれはまさしくその通りだな。と、思ったレイモンド。

「レイモンド。今日は私もヴィレンの部屋で彼と一緒に朝食を取ろうと思うの」

 ルクレツィアがヴィレンの腕に自身の手を絡めながら言うので、レイモンドはすぐに姿勢を正して微笑んでは答えた。

「はい。直ちに準備致しますね」


 午前中はヴィレンに安静に過ごしてもらう為に、一緒に彼の部屋で過ごしたルクレツィアだったが、午後からはディートリヒとの約束があったので彼女は父親の待つ場所へと向かっていた。

 呼び出された場所はイスラーク城の中でも高い位置にあり素晴らしい景色が見られる客間だった。

 ルクレツィアがノックして部屋に入ると、そこにはディートリヒ…そして、アレンディオとヴァレリアがいた。

「ルクレツィア。お久しぶりね」

「お久しぶりでございます。ヴァレリア王妃様」

 ルクレツィアは綺麗なカーテシーをしながら丁寧に挨拶を返すと、「将来、ヴィレンと婚姻すれば貴女は私の娘になるのだからもっと気軽に接して欲しいわ」とヴァレリアは少し寂しそうに笑いながら言った。

 ルクレツィアは少し恥ずかしそうにしながら「ヴァレリア様」と、彼女を改めて呼ぶとヴァレリアは満足そうにニコリと笑っていた。

「アレンディオ国王陛下。お初にお目にかかります、ルクレツィア・クラウベルクと申します」

 続けて初対面のアレンディオに挨拶するルクレツィア。ヴィレンの父親の前に、一国の王相手にルクレツィアは緊張しながら頭を下げた。

 アレンディオは懐かしそうにルクレツィアを眺めながら、優しく微笑んで答える。

「あぁ、『初めまして』。とても素敵な淑女に成長したな。ヴィレンには勿体ないくらいだ」

 アレンディオの返答に、ルクレツィアは違和感を感じて首を傾げながら顔を上げた。初めましてと言いながら、まるで昔と今のルクレツィアを比較したような物言いだったから…。

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