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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第三章 魔王と二人の宝石編
83/98

83、三人の物語の終点

 *


 結果はルクレツィアの圧勝だった。幽鬼(ゆうき)族と言っても戦闘能力のないサラは、人間だったルクレツィアならまだしも竜となったルクレツィアの力には到底及ばすに、彼女の鉤爪に胸を引き裂かれた。

 後ろに倒れ込むようにして地面に転がったサラ。傷の痛みは感じないのに、どうしてこんなにも心が痛いのか…サラはぼろぼろと涙を流して向こうで倒れているユーゴを見た。

「…あなた達に特別な力があるように、リクにも特別な力があるの」

 倒れるサラを悲しい目で見下ろしながらルクレツィアが言った。

「万物を封じる力…ヴィレンを封印したあの魔法を、あなた達二人にも使うね」

 ルクレツィアはそう続けてから、魔法を発動させる。ユーゴとサラに光が宿ったかと思えば、二人の中から強大な力が失われていく…。

「……ずるい…」

 サラはユーゴからルクレツィアに視線を移し、呟くように言った。

「ずるいよ…ルクレツィアばっかり…あんたは大好きな人たちに囲まれて…羨ましい…!」

 それはサラの素直な本心だった。サラは止まらない涙を拭うことなく、まるで小さな子供のように泣き喚く。

「私の大好きな人達はみんな、死んだ…優吾も、理玖も…!」

 この世界の不条理を嘆く…。

「私にはたった二人だけなのに…どうして…どうして! この世界は私から二人を奪うんだ! どうして私たちを苦しめるんだ! この世界にさえ来なければ…私たちは平凡に、生きられたのに…」

 サラは最後の力を振り絞ると、もう満足に力の入らない身体を引き摺って、ユーゴの元へと地面を這っていった。

「優吾…ごめん。私、馬鹿でごめん…!」

 見苦しくてもいい。今度こそ自分達が終わりなのだと理解しているサラは、どうしてもユーゴに伝えたい言葉があった。

「付き合わせてごめん、苦しめてごめんね。それでも、いつも私の側にいてくれてありがとう…!」

 最期まで、サラはユーゴと共にありたかった。だから、彼の方へと手を伸ばす。

「俺の方こそ…」

 ユーゴも涙を流しながら、その手を掴もうと自身の手を伸ばした。

「紗良がいてくれたから俺は、いつも強くあろうと思えたんだ…!」

 二人の互いに伸ばした手があと少しの所で触れようとしたところで、体に力が入らなくなり動かせなくなってしまった。いよいよ身体が言うことを聞かない…もう間もなく、二人の命が尽きようとしていた。

 ついに崩れ始めた自分達の身体に、サラとユーゴが絶望した表情を浮かべる。

「……神様。私、いっぱい悪い事したけどさ…」

 サラは震える声で呟いた。

「最期にひとつくらい、願いを叶えてくれてもいいじゃんか…」

 サラの今の願い、『優吾と手を繋ぎたい』。

 彼女の指先が崩れ落ちた時、ルクレツィアが二人の伸ばした手を取る。サラとユーゴがルクレツィアを見上げた。

「今の私じゃあなた達を救えないのは分かってる。でも、私には未来があるから…私のこれからの未来を使って、絶対に二人を救ってみせるから…!」

「また、綺麗事を…」

 サラに睨まれたルクレツィアは困ったように笑って、そっと、サラとユーゴの手を重ねた。そして、繋がれた二人の手を両手で大切そうに包み込む。

「…ほら。『僕たちまた、三人一緒』…なんだよね、リク?」

 ルクレツィアがそう言うと、彼女の中にあったリクの魔法の残滓が抜けて行った気がした。そして、同時にサラとユーゴが何かを感じ取ったようにハッとした表情を浮かべる。

「サラ」

 ルクレツィアがサラを呼んだ。

「貴女は私のことを偽善者だと言うけれど…私、本気だよ」

 初めはこの言葉に傷付いたけれど、偽善ではなく本当にしてしまえばいいだけだとルクレツィアは思った。

「貴女がまたこの世界に生まれた時、貴女が大好きな人たちと当たり前に過ごせる世界を私が作ってみせるよ」

(きっとそれが、サラの望む世界…これまでの彼らにとっての救済だと思うから)

「だから未来で待っててね——サラ」

 そう言ってルクレツィアが最後にニコッと笑うと、鋭かったサラの目が少しだけ柔らかくなり、彼女は呟くように言った。

「…世界って…馬鹿じゃないの…あんたに何が出来るっていうの……期待なんて、しないから…」

 サラは最後までルクレツィアを認めてはくれなかったけれど、ルクレツィアは今はそれでいいと思った。

(未来で示せばいいだけだ)


 いよいよ、二人の身体は形を保てなくなっていた。

「…優吾。もう少しだけ、側にいてくれる?」

「少しじゃなくて、ずっと紗良の側にいてやるよ」

 手を繋いだままサラとユーゴは見つめ合うと最期に笑って、そして、ルクレツィアの目の前で塵となり消えて行ったのだった。



 ***


 紗良は気付くと、元の世界にいた。久しぶりの自分の本来の姿、そして制服、自分達が通っていた学校…懐かしいその景色を見つめながら誰もいない廊下を歩き自分の教室に向かった。

 中に入ると、そこには自分と同じ制服姿の理玖と優吾がいた。

「おー、来たな紗良。遅ぇよ」

「紗良、こっちこっち!」

 紗良にはすぐに分かった。ここは…自分達の元の世界の言葉を借りて言うなら、『あの世』だということを。

「理玖、優吾…」

 紗良は呆然とした様子で二人を見つめる。まるで紗良が恋しくて仕方なかった『日常』の光景だ。二人が笑っている姿を見るだけで…紗良の鼻の奥がツンと痛くなった。

「…あぁ、もう。お前はすぐ泣くよな」

「僕のハンカチ、貸してあげるよ」

 ぽろぽろと涙をこぼす紗良を、優吾と理玖は優しく迎え入れる。

「二千年ぶりに再会したんだ。たくさん楽しい話をしようよ」

 二人に手を引かれて椅子に腰を下ろした紗良は、改めて理玖を見た。

「理玖、会いたかった…」

「僕も。ずっと二人に会いたかったよ」

 三人はたくさん話した。自分達の昔の楽しかった思い出はもちろん、理玖はヴィレンとの思い出も二人に聞かせた。

 どれくらいの時間が経っただろうか。突然、緊張した表情を浮かべる優吾が勇気を出して紗良に伝える。

「俺、ずっと言えなかったけど…紗良の事が好きだ」

「はい?」

 紗良は驚きで目を丸くして優吾を見た。そして、すぐに顔を真っ赤にさせて混乱する頭で言葉を返す。

「私、だって…本当はあんたを……じゃなくて! あ…あんた、いっつも色んな女の子達と付き合ってたよね? それなのに、私を好き? じゃあ、どうして告られたからって、他の子と付き合ってたの!?」

 狼狽える紗良の姿に、優吾も目を丸くしていた。

「…は? お前、俺を好きだったの? ずっと理玖の事が好きなんだと思ってた…」

 死んで初めて知る事実に優吾は顔を赤らめて、ついニヤけてしまう口元を隠すように、手の甲を口に押し当てた。

「なんだよ…じゃあ、お前がいつも俺に喧嘩売ってくんのは、ヤキモチだったのかよ」

「…うるさい」

 ぷるぷると肩を震わせながら真っ赤な顔でこちらを睨み付けてくる紗良。とても恥ずかしそうだ。

「急に紗良が可愛く思えてきた」

「私はいつも可愛いよ!」

 紗良が威嚇する猫のように言い返すと、優吾が揶揄うような笑顔で紗良の頭をわしゃわしゃと撫でた。そんな二人を、理玖は嬉しそうに見つめる。

「はぁ、これで二人の仲も進展したわけだしさ…もうこれからは、僕を喧嘩に巻き込むの、やめてよね?」

 理玖がそう言うと、二人は顔を上げて尋ねてくるのだ。

「理玖! 理玖は私の味方だよね?」

「違ぇよ。俺を選ぶよな?」

「あぁ、もう! またそうやって…」

 呆れた様子の理玖だったが、ふと窓の外に広がる自分達が生まれた世界の景色に目を向ける。

「…何千年経っても、僕達は変わんないね」

 理玖は優しく微笑みながら言った。

「それはきっと、未来でも同じことなんだよ」

 そして、改めて二人を見つめる。

「これだけの腐れ縁なんだもん。僕はね、遠い未来でまた二人と出会える気がするんだー」

 すると紗良と優吾は泣き出してしまい…理玖も涙目で笑っては、二人纏めて力いっぱいに抱き締めてやった。

「だからまずはこれまでの罪を償おう…僕も二人に付き合うからさ」

 腕の中から二人を解放して、今度は紗良と優吾それぞれと手を繋いだ理玖。

「ルクレツィアさんも言ってたでしょ? 『僕たちまた、三人一緒』、だってね」

 優吾と紗良は泣きながらも笑顔を浮かべると、素直に頷いて…理玖に手を引かれながら、三人は一緒に教室を後にしたのだった。


 ***

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