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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第三章 魔王と二人の宝石編
81/98

81、異世界人

 バチバチと電気を爆ぜさせながらユーゴが剣を構える。その横では、サラがルクレツィアを睨み付けながら一歩前に出てきた。

「ルクレツィア…あんた、さっきから綺麗事ばっかりなんだよ」

 サラは悔しそうな顔で泣きながら、ルクレツィアを責め立てた。

「私達が間違ってる…? 正しさなんて、ひとつじゃないでしょ? 表と裏があるように、表のあんた達にとっての『間違い』だとしても、裏の私達にとっては『正解』かもしれないじゃん!」

 ルクレツィアはサラの言葉に何も言い返す事が出来ずに、つい黙ってしまう。

「見るからに幸せそうな人生を歩んでそうだもんね、ルクレツィアは! 人間のクズな本性ってやつを知らないんだ…だから、あんたは! そうやって、さも当然のように私達に『間違ってる』なんて言えるんだ! この偽善者!」

 サラの言葉に、ルクレツィアはポロリと涙をこぼす。その顔は耐えるような表情で、グッと強く口元を結んでいた。

 ルクレツィアは思う。これは、サラの八つ当たりなのだと。

 そして、思い出してしまう。帝都の屋敷で、嘲りと侮蔑に耐えながら一人寂しく過ごしていた頃の自分を…。

(…サラはきっと、あの頃の私と一緒なんだ。もし、ヴィレンと出会えなかったら、もしお父様との絆を取り戻せなかったら…私はきっと、サラみたいに周りを恨んでいたんだと思う…)

 そう思うと、二人とは違い『救われた』自分が彼らにかけられる言葉なんて無いのかもしれない…。ルクレツィアがついに下を俯いた時、ディートリヒの大きな手がルクレツィアの肩に乗せられる。

 まるで『お前は間違っていない』と、言われているようだった。

「ルクレツィア。あの二人を引き離すぞ」

 ディートリヒが静かな声で言った。その声には怒りが滲んでいて…。

「これ以上は…あの勇者も、聖女も哀れすぎる。この世界から解放してやろう」

 きっとその怒りは、サラとユーゴをここまで傷だらけにした…何の責任も果たさなかった過去の者たちへの怒りなのだろう。

 ルクレツィアは俯いていた顔を上げて、強く頷く。

「はい。お父様…!」

(この二人を救う方法…それはきっと…)

 ルクレツィアは手で涙を拭う。リクに頼まれたからではなく自分自身の気持ちでこの二人を救ってやりたいと願い、改めてユーゴとサラを見つめるのだった。


 *


 ディートリヒが二人の間に氷魔法を放ち、物理的にサラとユーゴの距離を開かせる。彼は二人の弱点を既に見抜いていた。

「ルクレツィア…お前に、この場の雪銀の魔兵団(アルゲンテウス)の最高指揮権を与える。スペンサー軍団長と協力して、聖女を食い止めろ」

 娘の頭を撫でながらそう言って、ディートリヒは考える。

(おそらく…サラというあの少女はまるで戦場慣れしていない。聖女という立場からなのか、彼女は誰かに守ってもらう前提でしか動けないようだ…)

 だからユーゴがあれだけ前に出て、死に物狂いでサラを守っているのだろう。

 つまり、少人数でユーゴを抑え、大人数でサラを包囲しユーゴへの治癒の供給を切る。この二人の攻略法はこれだ。

 これまでは、ユーゴを少人数で抑えるなんて実現させる事は難しかったが…ディートリヒは『偉大なる魔術師』の称号を賜った帝国最高の魔術師だ。

(俺一人で、勇者を相手にすればいい)

 そして、残りの戦力を全てサラにぶつける。

 ルクレツィアとアスゲイルが動き出す中、サラの元へ戻ろうとするユーゴの道を塞ぐようにディートリヒが前に出た。

「………」

 ユーゴは足を止めて、これまで以上に警戒しディートリヒを見据える。

「…ルクレツィアの父親なんだってな」

 互いに睨み合っていたのだが、ユーゴが沈黙を打ち破った。

「ルクレツィアは異世界人なのか?」

「半分な」

 先程とは違いやけに落ち着いた様子のユーゴを見て、ディートリヒは彼を、精神力の強い男だ。と、心の中で称賛した。

「半分?」

「…母親が、異世界人なんだ」

 ディートリヒがそう答えると、カレンが姿を現した。もう人間ではないようだが、どう見ても自分と同じ日本人のカレンの姿にユーゴは始め驚くも、すぐに小さく笑った。

「…そうか。幸せになれる異世界人もいるんだな…」

 カレンの満たされた表情を見て、ユーゴは彼女の事が羨ましくなる。

(…俺たちも、何かひとつでも違っていれば…この世界で幸せに生きられたのだろうか…?)

 例えば、召喚された国がファブレイク王国じゃないとか、例えば、自分達が既に大人で冷静に考え主張できる力があったら、とか。

(例えば、俺にもっと…二人を守る力があれば…)

 いつからだろうか。ユーゴはもうずっと、元の世界で過ごした幸せだった頃の三人の記憶を思い出せなくなっていた。

 サラとリクの事を思うと、この世界で辛かった思い出しか蘇らない。まるで、幸せだったはずの思い出なんか初めから存在しなかったみたいに、ユーゴの中の後悔が思い出を塗り潰していくのだ…。

(どうして俺は、二人を——)

「お前が今、何を考えているかは知らないが…」

 ユーゴの思考を邪魔するように、ディートリヒが静かに言う。

「当時のお前たちが悪いわけじゃない」

 こちらに向かう道中に、ディートリヒはルクレツィアからサラとユーゴの過去を聞かされていた。

 同じ年頃の娘を持つ父の身としては…何とも、胸が痛くなる話だと思った。

「お前たちはまだ子供で…お前たちを正しく導いてやれなかった周りの大人の責任だ。だから、過去の自分を責めるな」

「………」

 ユーゴは、自分はずっと誰かにこう言って欲しかったのだと気付いた。

『お前は悪くない』

『だから自分を責めなくていい』

 堪らず涙がこぼれ落ち、ユーゴは慌てて腕で涙を拭う。

「だからと言って、今のお前たちの行いは到底見過ごせるものじゃない」

 そんなユーゴを複雑そうな顔で見つめながら、ディートリヒは続けた。

 ユーゴも涙を拭って顔を上げる。その表情は、改めて決意したような強い表情だった。

 ディートリヒの周りの空気や地面が凍っていく。

「俺は大人だからな…今度こそお前たちを正しく導いてやろう」

 ディートリヒの青紫色の瞳を真っ直ぐに見つめて、ユーゴは笑う。

「思春期男児の反抗期、舐めんなよ?」

「…それはもう…ヴィレンだけで勘弁してくれ…」

 ディートリヒとユーゴは改めて対峙した。


 ディートリヒは剣士であるユーゴと向かい合い、剣を受けるための杖を取り出そうとジャケットの胸ポケットの中に手を入れたのだが…。

(…しまった。さっき、ヴィレンの攻撃を受けた時に折れたんだった)

 そうそうに折れない強度を誇る杖だったのだが、竜のヴィレンが馬鹿みたいな力で攻撃してくるから耐えきれずに折れてしまったのだ。

「ディー、私を使って」

 カレンがディートリヒに声を掛けて、自らの姿を氷の剣に変える。

「カレン…」

 ディートリヒは(カレン)を握り締めて、頷いた。

「はっ。魔術師が剣を持って、剣士の俺とどうやって戦うんだよ」

 ユーゴは馬鹿にしたように笑い「魔術師の攻略法は、接近戦だ!」と、叫んでは一気に距離を詰めてきた。

 ガィイイン、と、硬物質のぶつかり合う音がしてディートリヒとユーゴは鍔迫り合いになる。

 ユーゴは戦場で培った剣術でディートリヒに攻撃を仕掛けるのだが、彼は顔色ひとつ変えずに全ての剣筋を乱れなく受け流していった。

(おかしい……剣を扱う動きが、素人のそれとは違う…!?)

 ユーゴはすぐに、自分がディートリヒの能力を見誤っていたのだと分かり、体勢を整えるために大きく後退して距離を取る。

「…どういう事だよ。お前…魔術師じゃないのか?」

 ディートリヒは(カレン)に傷が付いていないか、太陽に翳しては入念にチェックしながら答えた。

「俺は魔術師だが……別に剣が好きではないだけで、不得手な訳ではない」

 そして再び、ユーゴへと目を向ける。

 ディートリヒの回答にユーゴは悔しさから歯を食いしばっていた。

(魔法も剣術も一級品ってことじゃねぇか…!)

「何だよ、こいつ…! チート野郎かよ!」

 自身が完全にディートリヒの下位互換であると痛感する。唯一勝っているところと言えば、おそらく使用する魔法の多彩さくらいだろう。

「さて、腕慣らしはこのくらいでいいだろう…」

 焦るユーゴを見据えながら、ディートリヒは静かな声で言う。

「ひとつ伝えておくが…俺の妻にひとつでも傷を付けたら、俺はお前を許さないからな」

 そう続けて、(カレン)を構えるディートリヒ。

「…だったら、奥さん仕舞えよな…」

 それでどうやって、俺はあんたの剣を受ければいいんだよ…。と、ディートリヒの横暴な発言にユーゴは緊張しながらも強気な笑顔を浮かべて軽口を叩いたのだった。

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