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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第三章 魔王と二人の宝石編
79/98

79、この世で最も強欲な一族

 *


 ヴィレンはついに竜の姿を保てなくなり、人型となった。

 割れて散らばる氷の欠片の中、ヴィレンは壊れた人形のように身動きせずにただ地面へと落下していく。

 まるで走馬灯のように、これまでの自分の一生が頭の中を過ぎって行った。

 初めは双子の兄ヴィンスとの気ままな生活に満足していた。そんな中、リクと出会い『友達』ってものを知った。そしてルクレツィアと出会い『恋』を知った…そんな人生。

(分かってんだ、自分の本心くらい…)

 ヴィレンの人生は確かに熱を帯びていき、実りあるものとなった。その全てが手放し難い、大切な宝物だと…。

 遠のいていく意識の中、ヴィレンの霞む視界には、2千年前じゃない今の彼が生きる世界が映っている。

「ヴィレン!」

 そこには、必死な表情でこちらに手を伸ばしてくるルクレツィアとディートリヒの姿。過去ではなく、リクとヴィンスがいない現在…そして未来に繋がる、ルクレツィアとディートリヒがいる現在の世界が映っているのだ。

 ヴィレンは涙を流しながら笑った。自分を諦めないでいてくれた彼らの存在への喜びと、自分は何て馬鹿な男なんだという心からの反省の笑顔。

 ルクレツィアとディートリヒは同時にヴィレンの身体を受け止める。そして、地面に着地すると、クラウベルク親子はぐったりした様子で倒れるヴィレンを覗き込んだ。

「ヴィレン…大丈夫?」

 ルクレツィアが声を掛けると、ヴィレンが目を開けた。

「無様なものだな、元魔王も…」

 ディートリヒが鼻で笑いながら言うと、ヴィレンは「うるせぇ…」と、力無く悪態をつく。

「お前は昔から、生意気で我儘で…自分勝手に振る舞っては周りに迷惑をかけるやつだった」

 ディートリヒの言葉は厳しいけれど、ヴィレンの顔についた汚れを拭うその手はとても優しかった。

「歳を取ったところであの頃と同じだな…何も変わらない」

「…何が言いたいんだよ…」

 こんな姿になっても相変わらずな生意気な態度のヴィレンに、ディートリヒも呆れてつい笑ってしまう。

「そう、何も変わらないんだ。過去がどうであれ、お前は…俺たちが初めて出会った頃のまま、ただの竜人族ヴィレン・イルディヴィートのままなんだ」

「…………」

「いい加減、負けを認めて素直に本心を言え」

 ディートリヒの言葉に、ヴィレンはくしゅりと顔を歪ませると、ぼろぼろと涙を溢しながら言った。

「……ルーシーと結婚できないなんて嫌だぁ…」

 男として情けない。情けないが、それがヴィレンの本心。

「ずっと一緒にいたい…俺の事忘れろって言ったけど、本当は忘れて欲しくない…!」

 ルクレツィアも泣いているヴィレンの姿を見て目に涙を浮かべる…けれど、彼女は優しい笑顔を浮かべていた。

「でも、俺…人間たちを虐殺した罪人だから。過去を無かった事にしちゃ駄目だって、ルーシーと一緒にいちゃいけないって…だから、せめてずっと俺の事引きずってくれたらいいのにって思ってた…」

 未練がましいヴィレンにルクレツィアはクスリと笑う。

「ヴィレン、酷いね。私に未亡人のような寂しい人生を歩めって?」

 ルクレツィアはヴィレンの手を握りながら顔を覗き込むように尋ねると、ヴィレンもルクレツィアの手を握り返して頷いた。

「あぁ…俺以外の男と幸せになるなんて耐えられないから…ルーシーには一生誰とも結婚せずに、ずっと俺を想ったまま生涯を終えて欲しい」

 ヴィレンの自分勝手さにルクレツィアも呆れてしまった。目の前のディートリヒを見上げると、父も自分と同じ気持ちのようで肩を竦めて見せる。

「あのね、ヴィレン。そんな寂しい人生なんてまっぴらだよ。私はこれからも、絶対に幸せに生きるんだから。大好きな人と結婚して、お父様やお母様みたいに愛し合う夫婦が理想なの!」

 ヴィレンは悲しそうな顔でルクレツィアを見つめた。何も言い返せないようで、ひたすら涙を流している。ルクレツィアはそんな彼の涙を指で拭いながら続ける。

「貴方が過去の罪から私の手を掴めないと言うのなら…選んで、ヴィレン」

 そして、彼女は何とも竜族らしい強欲そうな笑顔を浮かべて、ひとつ問い掛けるのだ。


「私の『宝石(もの)』に、なる? ならない?」


 ルクレツィアはこう考える。ヴィレンの罪ごと、彼を自分のものにしてしまえばいいのだと。

「竜はこの世で最も強欲な一族なんでしょ? だから私も、欲しいものは全て手に入れる」

 ルクレツィアは、まるで純粋な少女のようなとびきりの笑顔を浮かべて続けるのだ。

「私、貴方の愛情も優しさも過去の罪も全部欲しいの。だから、ね。私と共にある未来を選んで。そして一緒に罪を償っていこう?」

 ヴィレンは涙に濡れた目を大きく開けて…そして、観念したように笑いながら答えた。

「……なる、ルーシーの宝石(もの)に…」

 竜人族は独占欲と所有欲が強い一族だ。ヴィレンもまた、ルクレツィアに対し愛情とともに独占欲と所有欲を感じていたけれど…。

(誰かのものになりたいと思ったのは、初めてだ…)

 ヴィレンは昔から、ルクレツィアを誰かに取られたくないと常々思っていた。

 彼女は自分のもので、だから手放すと決意した時も彼女の意思は関係なく自己完結してしまっていて…でも、そうじゃないんだ。

 互いが互いの『宝石』なのだとしたら、それは…。

『——ルーシーの残りの人生、全部俺にくれる?』

「…俺の残りの人生、全部ルーシーにやるよ」

 彼女に求婚(プロポーズ)した時の言葉を思い出していると、ヴィレンの口から自然と出た言葉。すると、ルクレツィアは幸せそうに笑い、ゆっくりとヴィレンに顔を近付けていく…。

 カレンが現れて、サッと後ろからディートリヒを目隠しした。「おい…!」と、視界を奪われて焦る父親を他所に、ルクレツィアは愛を込めてヴィレンにキスをする。

『——私の残りの人生、全部ヴィレンにあげる』

「うん。ヴィレンの全部、私にちょうだい」

 すぐに唇を離し、恥ずかしさから真っ赤な顔でルクレツィアがそう言うと、ヴィレンの腕がルクレツィアの首後ろに回ってきて引き寄せられた。

 そして、今度はヴィレンからキスをする。

 これまでの唇を重ねるだけのキスではなく…熱烈な、ルクレツィアを強く求めるようなキスだ。

 ディートリヒの抵抗にカレンの目隠しのタイムアップが来て、その熱いひと時はすぐに終わってしまったけれどね。

 それでも、二人は頬を染めて見つめ合い、擽ったい気持ちでクスクスと笑い合っていた。

「もう絶対に手放してあげないんだからね…!」

「あぁ…俺の全てをお前に捧げるよ」

 そして、今度こそ離れないと誓いながら二人は抱き締め合う。

「…ヴィレン。リクの分まで、二人で未来を生きていこうね」

 そう自分の腕の中で呟くルクレツィアを、ヴィレンはもう一度、強く抱き締めたのだった。



 ***


「ヴィレン、後のことは私たちに任せて」

 ルクレツィアは抱きしめていた腕からヴィレンを解放して、優しく笑いかける。

「だから安心して…ゆっくり休んでてね」

「あぁ…あの二人の事、頼むな」

 ヴィレンは彼らに見守られながらゆっくりと目を閉じていった。

「あいつら…俺たちと同じ、16歳のまだ未熟な奴らなんだ…」

 ヴィレンも限界だったようで、意識が遠のいていく…。

「間違ったことを、『間違ってる』と言ってくれる人が…あの二人には…必要…だ——」


 ——ヴィレンは沈んでいく意識の中で夢を見た。

 白くて、輝いていて、温かくて、そんな景色の中で紫に煌めく黒髪を靡かせてこちらを振り返る愛しい人の夢を。


「ヴィレン。私、サラとの約束のためにもこの『——』が欲しいの。手伝ってくれる?」


 ヴィレンは直感的に、これはただの夢ではないと思った。おそらく、予知夢のような…自分たちの未来を少し覗いている感覚。

 ヴィレンの意思とは関係なく、『ヴィレン』は愛する人を優しく見つめながら答える。

「もちろん。お前の為ならば」

 すると、ヴィレンが知る彼女よりも大人になったその人は嬉しそうに笑って、そして少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。

「…——が欲しいなんて、魔王みたい。…強欲が過ぎるかな?」

 『ヴィレン』はニカッと太陽のように明るい笑顔を浮かべて、彼女の小さな手を握り締める。

「なんだ、ルーシー。お前、竜のくせに知らないのかよ?」

 そして彼女を引き寄せて腕の中に閉じ込めると、その紫色に輝く瞳を見つめながらキスをした。


「竜は、この世で最も強欲な生き物なんだぜ」


 それは、遠いような、近いような…いずれにせよ、自分達の未来に起こる『ルクレツィア』と『ヴィレン』の…確かな幸せの日々を過ごす二人の会話の夢だった。


 ***

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