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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第二章 復讐の聖女編
47/98

47、ビアトリクス魔法学園

 秋。それはイスラークの住人にとって一番忙しい時期だ。本格的な寒さが始まる前に、これから始まる長い冬を越せるだけの冬支度をしなければならない時期だからだ。

 街道も薄らと雪が積もっている。その上を何度も人の足や馬車が通り、今日もイスラークの街は賑やかさに溢れていた。

 そこから少し離れた場所にある魔塔では…最近、魔術師達は皆どこか元気がない様子で静かに過ごしていた。

 それはマイロ・プリツカーも同じで、気付けばため息を吐きながら窓の外を眺める事が多くなったと自分でも思う。

「…ここにも、患者がいたか」

 そんな声がしたので振り返ると、今ではすっかりイスラークの魔塔に馴染んだ『馬人族(ケンタウロス)』の魔族の男ロウ・ロウリが立っていた。

 そう、あの追放された調教師(テイマー)ニックに召喚されディートリヒの手により解放されてから、そのままこの魔塔に住み着いていたのだ。

 今のロウリは半人半馬のような姿ではなく、人族よりも少し体格は大きいが人と同じ姿をしている。

「ロウリか…お前の豊富な薬草の知識で、俺のこの晴れない心を治してくれよ」

「それは無理だな」

 ロウリが真顔で答えるので、マイロは「冗談だよ」と、冗談の通じない生真面目なロウリを揶揄うように笑った。

「…みんな、ルクレツィアを恋しがってるな」

「子供なんて一人もいなかった魔塔に突然現れた天使だからな…皆、娘に会えない寂しさを感じてるんだよ」

 ロウリの言葉にマイロが感傷気味にそう答える。

(『寂しさ』…確かに、俺もルクレツィアと薬草採取が出来なくて寂しい…)

 薬草に詳しいロウリの話を、ルクレツィアはいつも興味を持って楽しそうに聞いてくれていた。

 暴走していたとはいえ、一度は踏み殺そうとしてしまった彼女に罪悪感があったが、そんな彼女との時間を過ごすうちに罪悪感よりも友情を強く感じていたのだ。

 ロウリはマイロの隣に立ち、同じように窓の外の景色を眺めながら言った。

「…ルクレツィアはお前たちの娘ではなく、ディートリヒ様の娘だぞ?」

「そういうのいいから…我が子に思えるほど大切だって話だろ、今のは」

 たまに、ロウリのこの冗談の通じなさにうんざりするマイロ。

「……あ。『心配』って意味か?」

 たった6年では、まだまだ人間社会に馴染めないのか…ロウリは少しズレた解釈をしているが、呆れたマイロはわざわざ正してやるのも馬鹿らしく思えてそのままにしておく。

 それに、そう間違ってもいないかもしれない。

「そうだなぁ…心配もあるかな」

「大丈夫だろ。ルクレツィアの側には護衛のグリムがいる。それに、伴侶のヴィレンもいる」

「いや、まだ《《婚約者》》な?」

 聞き流せなかったので、そこはしっかりと正そうとするマイロ。

 そもそも、マイロはヴィレンをルクレツィアの婚約者とは認めていない。

(ルクレツィアの伴侶に相応しい男は、落ち着いていて、知的で、冷静で、包容力のある優しい男こそ相応しいのだ)

 とはいえ、ディートリヒがヴィレンを婚約者だと認めてしまっているので、マイロには口を出す権利などないのだが…心で思っているだけなら、構わないだろう。

「…ルクレツィアは今頃、何してるかな?」

 ルクレツィアとヴィレンがビアトリクス魔法学園へ入学して一カ月…マイロは雪が降り出しそうな鈍色の空を見上げたのだった——。


 ——ビアトリクス魔法学園には多くの学科がある。全て魔法に関するという共通点はあるが、とても細かく学部分けがされており、その学科について専門的に学べる。

 学習の時間割は自分で管理しなければならなかった。専攻学科は選択制で、一年間の間に決められた単位を取得しなければ卒業試験も修学試験も受けられないのである。

 そんな中、ルクレツィアは『氷結魔法学』を専攻学科として選択し、副専攻学科では『植物薬科学』と『星占呪術(せいせんじゅじゅつ)学』を選択していた。

 始めこそ勝手が分からずスケジュール管理に苦労していたルクレツィアだったが、ひと月も経てば慣れたもの。

 専攻・副専攻制度を採用しているビアトリクス魔法学園だが、生徒が皆必ず単位を取得しなければならない授業がある。それは『基礎魔術学』、つまり座学だ。

 これについては生徒たちの素質や魔力量でクラスを組み分けられており、年度ごとでその生徒の成績によりクラスの順位変更が行われる。

 例え初めは下位クラスからスタートしても、そこで学びを深めて成績を上げていけば上位クラスになれる。

 ルクレツィアは下位クラスだった。素質も魔力量も十分にあるのだが、まだ魔法の才が開花したばかりで初歩魔法しか使えないことが理由だった。

 そしてヴィレンは上位クラス。初めからいきなり二人に差が出てしまったが、ルクレツィアは特に悲観も僻みもない。

 しっかりと学びを深めて早く彼に追い付きたいと、明るい表情で前を向いて日々努力を続けている。

 そんな彼女の右手の人差し指には、『竜の心臓』を彫って作った指輪が輝いていた。


 『基礎魔術学』の授業を終えたルクレツィアに、とある人物が近付いてきた。絹糸のように艶のある綺麗な白髪のボブヘアーで、瑞々しい若葉のような明るい緑の瞳の女性だ。

 ルクレツィアと同じマルドゥセル魔導帝国からやって来たその貴族令嬢の名はレメディアス・ヴァイスローズ。

 …そう、ルクレツィアと因縁の公女エリーチカの双子の妹だった。

 ルクレツィアは彼女が双子の姉妹だとは知らなかったのだが、生まれつき虚弱体質だったレメディアスはずっと母親とともにヴァイスローズ公爵領地で静養していたらしい。

 健康で魔法も得意なエリーチカは父親に連れられて早くから帝都で貴族令嬢としての活動を行っていたが、ルクレツィアとの一件で父親からの信頼を失ったエリーチカは現在、公爵領で『静養』しているとのこと。

 高位の貴族令嬢として、社交界の中心である帝都で社交活動が出来ないことは致命的である。

 その話をレメディアスから聞いたルクレツィアは始め、自分が原因で…と、若干責任を感じていたが、レメディアスによればその一件だけでなく、他にも色々と公女の名に恥じた行いが露見してしまった結果だから、責任なんて感じなくていい。と、言われたルクレツィア。

「ねぇ。さっきの授業のここの意味、理解できた?」

 レメディアスが教科書を片手にルクレツィアへ話しかけてきた。

「レメディアス公女様」

 ルクレツィアが彼女を見上げて名前を呼ぶと、レメディアスは顔を顰める。

「もう、レーメって呼んでよ。僕も君のことルーちゃんって呼ぶから」

 双子なだけあってエリーチカとよく似た顔立ちの美しい彼女なのだが、どうやら性格は正反対のようだ。貴族的な駆け引きは好まず、素直な感情を見せてくる性格だった。

「う、うん。レーメ」

 ルクレツィアはヴィレン以外に出来た、初めての同年代の女友達に少しドキドキしてしまう。嬉しくて、つい顔を赤らめてしまった。

 まさか確執のあるヴァイスローズ家の人間とここまで仲良くなれると思っていなかったルクレツィア。レメディアスが初めて話しかけてきた時、彼女はとても警戒していた。

 でも、そんなルクレツィアにレメディアスは…。

『もしかして、エリーチカの件で僕が君に恨みを持ってるかも…なんて思ってる? まさかそんな。むしろ感謝してるくらいだよ』

 笑顔を浮かべて自分の気持ちを素直に吐露するレメディアス。

『あの傲慢性悪(しょうわる)女の本性を暴いてくれて、どうもありがとう。父様も母様も、やっと目が覚めたみたいで…虚弱体質のせいで魔法を上手く扱えなかった僕を、裏で馬鹿にして虐めてくるエリーチカが僕は大嫌いだったから、あいつが転落していく様はとても滑稽で面白かったよ』

 と、黒い笑顔を浮かべて言うレメディアスに、ルクレツィアは驚きつつも思った。

(やはり、エリーチカ公女と姉妹なだけあってレメディアス公女もなかなか癖のあるいい性格をしてるな…でも、少なくとも人を虐めるような下品さはなく、裏表のない人柄だ)

 つまり、好感の持てる人物だった為、ルクレツィアも彼女に心を開いて友人となったのである。

「ルーちゃん、ここ分かってたら教えてよ。僕、先生の説明じゃ分かりづらかったんだ」

「あ、うん。ええっと、ここはね…」

 急かすレメディアスにルクレツィアは彼女の教科書を覗き込みながら、自分が理解している限りで噛み砕いて説明する。

(レーメって、マイペースで少し我儘というか甘えん坊というか…何だか誰かさんに似てる気がして、放っておけないんだよなぁ)

「なるほど! すごく分かりやすかったよ、ありがとう」

 ルクレツィアの説明で理解出来たのか、ぱぁっと顔を明るくさせて嬉しそうに笑顔を浮かべるレメディアス。

(…こういう素直なところも可愛いというか…)

 レメディアスの性格は誰かさんによく似ていて、どうやらルクレツィアの母性を擽るようである。

「ルーちゃんはこの後に授業がないんだよね? 僕もなんだ。良かったら外のカフェテリアでお茶しない?」

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