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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第二章 復讐の聖女編
43/98

43、契約履行の褒美

「あのさ、俺。ルーシーに渡したいものが…」

 頬をほんのり赤く染めながら緊張した面持ちのヴィレンが言いかけた時、「ヴィレン」と、彼の帰還を知ったディートリヒがやって来た。

「おかえり。と、言いたいところだが…お前はどこにいても、騒ぎを起こすなぁ」

「おう、ディートリヒ。それがさぁ、親父が絶対に連れてけって言うからさ…」

 そう言ってヴィレンは、後ろで列となり控える使節団の面々を親指で指差していた。その顔は面倒だと感じている顔だ。

「だからな、ルーシー。俺はこいつらが一緒だったせいで、イスラークにすぐ戻って来れなかったんだよ…」

 俺一人ならひとっ飛びですぐに戻れたんだがな…と、ヴィレンはうんざりした顔のまま続ける。

「帰りが遅くなってお前に寂しい思いをさせたのは、俺のせいじゃねーぞ」

 ルクレツィアに何とか機嫌を直して貰おうと遅刻した責任を使節団の者たちになすり付けようとするヴィレンだった。

 その時、魔王国の使節団の中から2名の男女が前に出てきてはディートリヒに頭を下げた。どうやらこの二人が使節団の実質の代表のようだ。

「魔族の竜王であり、魔王国のアレンディオ・イルディヴィート国王陛下より遣わされて参りました」

 二人のうちの一人、深い藍色の髪をした若い女性が品のある穏やかな声で言った。

「魔王国第二王子ヴィレン・イルディヴィート様に随行しアレンディオ様からの書簡をお届けする為に参りました」

 更にもう一人の、赤髪で背が高く体格の良い若い男が自信に満ちた…やたら挑戦的な目でディートリヒを見つめながら言う。

 ディートリヒが「書簡…?」と、呟きながら眉を顰めていると…。

「だぁー! 親父からの手紙なんて、今はどうでもいいだろ。マノ、あれを持って来い!」

 ヴィレンが苛立たしげに声を上げた。実はずっとルクレツィアに何かを伝えようとしていたヴィレンは、ことごとく邪魔されて気が急いでいるようだ。

「はぁい、ヴィレン様ぁ〜」

 マノと呼ばれた藍色の髪の美女は、先ほどの気品ある態度とは打って変わり、気の抜けたような笑顔を浮かべて両手で抱えられる程の大きさの箱をヴィレンの元まで運んできた。

 その隣では、赤髪の男が「…いや、国王様の手紙を蔑ろにしちゃ、いかんでしょ…」と、呆れた顔で呟いている。

 マノがヴィレンの命令に従って、その箱をルクレツィアへと差し出す。

「開けてみろ、ルーシー。俺からのプレゼントだ」

 ニカッと笑うヴィレンにルクレツィアは目を丸くして、その箱を見つめた。

 重厚感のある黒い木箱に金と宝石の装飾が付いている。とても高価そうである。

 実はヴィレンはこの箱の中身を目的に、魔王国まで取りに帰っていたのだ。

 ルクレツィアが箱を開けられずにいると、目の前に立つマノが期待に満ちた目で「遠慮せずに、さぁどうぞ」と言う。ルクレツィアは急かされた事で、やっとその箱を開けた。

 ——中には、黒い卵形の球体が入っていた。ルクレツィアはそれを手に取る。手のひらにやっと収まるサイズのそれは、触れてみるとザラザラしていた。

「…黒い…結晶…?」

 その黒い結晶は中心部にいくにつれて色が濃くなっており、ルクレツィアがジッと中央を見つめていると、中で何かがキラキラと輝いているのが微かに見えた。

 ディートリヒはルクレツィアが両手で抱えるそれを見て、思わず目眩を覚える。

(…あの形、あの大きさ…贈り主が竜…まさか…)

 自分の目を疑い、信じたくない気持ちでディートリヒはヴィレンに尋ねる。

「ヴィレン。その黒い結晶は…まさか、そんなはずないよな?」

 違うといってくれ。と、願いながらヴィレンを見つめると、彼は太陽のように明るい笑顔で当たり前のように言ったのだった。

「あぁ、そうだぞ。これは『竜の心臓』だ。もちろん俺の『心臓』な」

 嫌な予感は的中するもので、ディートリヒはその瞬間、思わず気を失いそうになるところを必死に耐えてみせた。

 彼がここまで取り乱すのも仕方なかった。

 『竜の心臓』、それは魔術師なら誰もが喉から手が出るほどに欲して憧れる、伝説級に稀少な宝石だ。

 偉大なる魔術師と呼ばれるディートリヒであっても、これまでに『竜の心臓』を目にしたのは数えるほど。それも、今ルクレツィアが手にしている原型のものではなく欠片だ。

 ディートリヒもこんなに立派な『竜の心臓』を初めて目にした。

 厳密に言うと、『竜の心臓』は石ではなく竜が孵った後の卵が宿主を失った事で凝縮され結晶化したものである。

 それは元々、竜の幼生を如何なる外敵からも守り、孵化するまでに魔力を与え続ける高エネルギー体だ。よって、魔力の伝達力が良く、魔法効果も飛躍的に上昇させてくれる事から、魔法媒体の中では最高級の宝石。

 抜け殻とは言え、この世の最強種と言われる竜の卵だから、人間がそれを手にするにはあまりにも難易度は高い。ごく稀に奇跡が重なり人間の手に渡る事もあったが、その価値は計り知れず、下手すれば城すらも買えてしまえるほどの巨額の価値が付けられるものだった。

 つまり、ルクレツィアは今、一城と同等価値のあるものを手中に収めているわけだ。

「これ…ヴィレンが孵化した時の卵の結晶なの?」

「あぁ。魔法が使えるようになったルーシーの助けになれるものを渡したくて…貰ってくれる?」

 驚きのあまり呆けた様子のルクレツィアに、ヴィレンは彼女の表情を窺うような仕草をしながら尋ねた。

(なんだ…? 普段のヴィレンなら、そんな聞き方はしなさそうだが…)

 むしろ『いいから受け取れ』くらいは言いそうな性格なのに…と、ヴィレンの様子に違和感を感じたディートリヒは、何となく嫌な予感を覚える。しかし、父とは反対に娘のルクレツィアは嬉しそうに笑って答えた。

「もちろんよ、ヴィレン。きっと貴方にとってとても大切なもののはずなのに…素敵なプレゼントをありがとう!」

 その瞬間、ヴィレンは幸せそうに笑ってルクレツィアを思いきり抱き締める。

 魔族の中では常識なのだが、竜が自分の『心臓』を渡すことは最上級の求愛行動なのだ。さて、それがどういう意味を成すのかというと…。

 ルクレツィアをそっと離したヴィレンは、ディートリヒを真っ直ぐに見つめて尋ねてきた。

「なぁ、ディートリヒ…いい?」

 その瞬間、ディートリヒは思った。

(どうやら俺の嫌な予感は的中したらしい)

『契約の褒美として、ルーシーを貰ってもいい?』

 そんなヴィレンの声が聞こえてくるようで、ディートリヒは思わず笑ってしまう。同じ男だから、ヴィレンの気持ちが手に取るように分かってしまうのだろうか?

(お前も俺と同じで…恋をすると分かりやすい男なんだな)

 まるで、カレンに振り回され翻弄されていたかつての自分を見ている気分だ。

「俺の答えは、あの日に伝えた言葉の通り。何も変わらない」

 あの日、偉大なる魔術師と竜が契約を結んだ時…。

『ルクレツィアが良いといえば…………認めよう』

 ヴィレンはニッと笑ってディートリヒから目を逸らすと、ルクレツィアへと向き直る。

「ルーシー、お前に大事な話があるんだ」

 真剣な表情で言うヴィレンを、ルクレツィアはどこか緊張した様子で見上げながらこくりと頷いた。

「あのさ、俺……」

 ヴィレンも珍しく緊張しているようだ。ルクレツィアは、一体彼に何を言われるのだろうと段々不安になってきた。ヴィレンの紫色の瞳が自分の姿を映している。


「お前が好きだ。俺の恋人になってくれ!」


「………」

 ルクレツィアは目を大きく開いて、ヴィレンを見つめた。彼の表情は真剣そのもので、頬も赤く染まっていて、その言葉が本気なのだとルクレツィアにも伝わる。

「……なぁ、返事は?」

 待てども何も返事を返してこないルクレツィアに痺れを切らしたヴィレンが彼女に詰め寄った。

 ルクレツィアはびくりと肩を揺らして、震える唇で静かに答える。

「わ…私も…ヴィレンの事が好き…です」

 そんな彼女の答えを聞いたヴィレンは優しく微笑んでルクレツィアに顔を近付ける。

 ルクレツィアには一瞬何が起こったのか分からず…自分の唇からヴィレンの柔らかな唇が離れて初めて、自分達が今口付けをしたのだと理解した。

「好きだよ、ルクレツィア。ずっとこうしたかったんだ」

 そう言って、幸せそうに笑っては自分を見つめてくるヴィレン。ストレートすぎる彼の愛の言葉に、ルクレツィアは顔が熱くなる。

 ルクレツィアはまだ信じられなかった。自分の恋心を自覚したのも最近の話なのに…頭が、追いつかない。

 真っ赤な顔で目を丸くして自分を見上げてくるルクレツィアが、ヴィレンは愛おしくてたまらなかった。

 ヴィレンの大事で大切な、たったひとりの『宝石』ルクレツィア。

 そんな彼女の顔を覗き込んで、ヴィレンは尋ねた。

「ルーシーの残りの人生、全部俺にくれる?」

 ルクレツィアはふと、いつの日かヴィレンの母ヴァレリアが言っていた言葉を思い出す。

『貴女の残り全ての人生をヴィレンに奪われることになるわよ…?』

「そ…それって…」

「俺の伴侶になってほしいってこと!」

 そう言って笑うヴィレンを見つめていると、何故だろうか…涙が出てきそうになるルクレツィア。

(…きっと私、あの時から覚悟していたのかも…)

 ルクレツィアの返事はすでに決まっていた。

「うん。私の残りの人生、全部ヴィレンにあげる」

 自分の全てをこの人になら捧げたいと思ったから、ルクレツィアも微笑みながら素直な気持ちでそう言った。

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