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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第二章 復讐の聖女編
41/98

41、闇夜で嗤う偉大なる魔術師

「クラウベルク公爵、お久しぶりですね」

「…皇后陛下。えぇ、お久しぶりです」

 公式の場だからか、普段はマルセルにすら尊大な態度のディートリヒはアネッサに敬語を使っている。それに気を良くしたアネッサは、次に彼の隣に立つうら若い令嬢へと目を向ける。

「ルクレツィア嬢、この度はお誕生日おめでとう」

「有難うございます。皇后陛下より直接お言葉を頂けるなんて…至極喜ばしく思います」

 ルクレツィアは気品のある落ち着いた様子でアネッサに完璧なカーテシーをして見せた。レオノーラの教育の賜物なのだが、アネッサはますますルクレツィアを息子の伴侶にと欲しくなり思わず欲の滲んだ笑みを浮かべて…慌てて扇子で顔を隠す。

「母上、こちらにいらしたのですね」

 その時、ユーリがやって来た。

「クラウベルク公爵、ルクレツィア嬢、心からお祝いを申し上げるよ。おめでとう…そして、今日の貴女はとても綺麗だ」

「…ありがとうございます、ユーリ殿下」

 まるで恋に落ちたかのように熱い眼差しを向けながら柔らかく微笑みかけてくるユーリに、ルクレツィアは少し戸惑いつつもお礼を述べた。

「…………」

 そんな息子の様子を眺めていたアネッサは…。

「…ユーリ。貴方は暫くルクレツィア嬢をエスコートして差し上げなさい。そして、クラウベルク公爵は…」

 アネッサは皇族然とした態度でディートリヒに手を出した。その手は、エスコートをしろと言っている。

「久しぶりに顔を合わせたのですから、皇家と公爵家で未来の帝国を思い親睦を深めましょう」

 断られるとは微塵も思っていない笑顔を浮かべるアネッサに、ディートリヒは不愉快さからピクリと眉を動かしたが、諦めたように小さな息を吐く。

「…ルクレツィア。すぐに戻る」

「えぇ、お父様。いってらっしゃい」

 ディートリヒは改めてアネッサに目を向けて、渋々腕を差し出した。その腕にアネッサの手が絡まり…公爵と皇后はそのまま、会場の外へと姿を消したのだった。


 ディートリヒとアネッサは2階のテラスに来ていた。

 外に出ると空には大きな月が浮かんでいる。高台にある城なので祭りで賑わっているイスラークの街並みが下に広がっていた。その向こうには山地があり雄大な山々が立ち並んでいる。

 アネッサはその光景を眺めながら、月に照らされた稜線が美しいと感じていた。

「……話とはなんだ?」

 イスラークの景色を堪能していると、隣から不機嫌な声が聞こえてきたのでアネッサは現実に引き戻されて思わず笑ってしまう。

「…いつ見ても美しいですね、イスラークは」

 ディートリヒの問いには敢えて答えずに、アネッサの素直な感想を伝えた。昔、この景色の主になる事を夢見ていた時期もあったなと懐かしく思う。

 ディートリヒは何も返さず、代わりに呆れたように小さく息を吐いていた。

「…ルクレツィアは美しく育ちましたね」

「まぁ…俺とカレンの娘だからな」

 ディートリヒの言葉を聞いて、アネッサの中に失恋のほろ苦い思いが程走る。一瞬眉を顰めるが、しかし、アネッサにはもう何にも変え難い宝物(ユーリ)がいる…だから彼女は目的を果たすために笑顔を浮かべた。

「まぁ…ふふふ。まさか、あの偉大なる魔術師である公爵に娘を溺愛する一面があるなんて、知りませんでしたわ」

「…いい加減にしてくれないか? こんな所に呼び出して…話があるならさっさと済ませてくれ」

 ディートリヒはアネッサと過ごす時間が惜しいらしい。早くルクレツィアの元へ戻りたい気持ちが態度に出ている。

「私のユーリを見ましたか? 我が息子ながら、美しい皇子でしょう? たまに母であることも忘れてユーリの美貌に見惚れてしまい、つい、ため息をつくほどです」

 ディートリヒはアネッサが何を言いたいのか理解出来ずに眉を顰めて目の前の皇后を見た。

「さっきから何が言いたい?」

「公爵、人の話を途中で折るものではありませんよ。…ですから、今日、ユーリとルクレツィアの美しくも若い二人が並ぶ姿を見て『お似合いの二人だ』と、心から思ったというお話です」

 ディートリヒの青紫の目が少しだけ大きく開いた。彼女は目を細め、口角を上げては皇后として完璧な気品溢れる笑みを浮かべている。

「私は今でも考えてしまうのです。6年前、あの二人の婚約が解消されていなければ…今頃、お互いにとってもっと良きようになっていたのでは…と」

 ディートリヒはやっとアネッサが言わんとする事が分かった。分かった上で、まずは黙って彼女の言葉に耳を傾ける。

「まだ遅くはないと私は思うのです。皇太子であるユーリにはルクレツィア以上の女性はいないでしょうし、また、彼女にとってもユーリほどの…」

「くくく…」

 アネッサの話を最後まで聞こうと思っていたのだが、ディートリヒは堪らなくなり肩を揺らしながら笑い声を上げてしまった。

「…何がおかしいのです?」

 そんなディートリヒの様子に、アネッサは気分を害したように顔を顰めて尋ねる。

「いや、悪いな…我慢出来なくて。つまり、皇后陛下が仰りたいのは、我が娘と皇太子殿下の婚約を再び結び直そうと?」

「え、えぇ…そうです。ルクレツィアにまだ婚約者がいないところを見ると、公爵も娘の婚約者を決めあぐねているのでしょう? この婚約は両家のためにもなりますし、何よりこの帝国の未来の為にもなります」

 アネッサは訴えるようにディートリヒに言い募った。するとディートリヒは小さく笑いながら「本当に呆れる…」と呟いたのだ。アネッサは自分の耳を疑った。

「当時、俺の娘がノーマンだからと差別しておきながら、そうじゃないと分かったから欲が出たのか?」

 目の前のディートリヒは笑っていた。笑ってはいるが…アネッサには分かる。彼は今、自分に怒りを向けていると…。

 ザワザワと落ち着かなくなる心臓。確かに感じる恐怖に全身の毛が逆立つ。アネッサは、蛇に睨まれた蛙のように動けず、目の前にいる月夜に照らされた美しくも恐ろしい魔術師をただ眺めることしか出来なかった。

「うちの娘を嫁に下さいと、今更どの口が言っている?」

「…なっ…!?」

 アネッサはディートリヒの無礼な言葉に怒りを覚えて顔を赤くさせた。

「こちらは皇族なのですよ! 公爵、貴方がどんなに素晴らしい魔術師だとしても、所詮は帝国貴族であり皇族に仕える臣下なのです!」

 アネッサがそう叫ぶと、ディートリヒは冷ややかな目で彼女を見ながらひとつ教えてあげる事にした。

「…では、臣下としてひとつ忠告致しましょう」

 その時、月に雲がかかり辺りが暗くなる。突然訪れた暗闇にアネッサは怯え、ディートリヒは笑った。

「もし、こちらの意思を無視してこの話を強要してくるのであれば…俺と、そして最低でもあと一人の男が黙ってはいないでしょう」

 青紫の瞳が闇夜の中で鋭く光る。

「臣下の一人を失いたくなければ、それを覚えておくんだな。アネッサ・マルドゥセル」

 ディートリヒは吐き捨てるようにそう言って、アネッサに背を向けるとさっさとこの場から立ち去ってしまった。

 再び月が顔を出す。アネッサは恐怖のあまり腰が抜けてしまい、その場に崩れるように座り込んでいた。

「な…んなのよ、もう…この私に向かって…」

 けれど彼女の震えるか細い声は、ディートリヒには届かない。


 *


 ディートリヒとアネッサが去った後、取り残されたルクレツィアとユーリは互いに顔を見合わせる。

「…母は世間知らずなんだ、許して欲しい」

「その冗談は私の前だけにしておいてくださいね」

 肩を竦めながら困った顔をするユーリに、ルクレツィアはクスクスと笑って軽口で答えた。

 ユーリは嬉しくなった。婚約者の頃にはルクレツィアは暗い表情ばかりで自分に笑顔のひとつも見せてはくれなかったが、今ではこんなにも明るい笑顔を見せてくれる…そして、その笑顔がとても可愛いと思わず見惚れてしまっていたのだった。

 その笑顔を引き出したのがヴィレンなのだとは知らずに…ユーリはルクレツィアと距離を縮められるかもしれないと、淡い期待を感じていた。

「改めてお久しぶり、ルクレツィア嬢。手紙で連絡は取り合っていたけれど、こうして顔を合わせると新鮮な気分だね」

「はい。6年ぶりですから」

 ルクレツィアとユーリは笑い合う。かつて二人が婚約者だった頃とは違い、今の二人はとても親しげであった。

「本当に…何度も言うようだけれど、とても綺麗だよ。ルクレツィア嬢」

「ありがとうございます。ユーリ殿下も相変わらず素敵です」

 自分は本心を伝えたつもりだったけれど、ルクレツィアからは社交辞令で返されてしまった。ユーリは例え一国の皇子だとしても何事も思い通りにいくわけではないな、と、少し自嘲気味に笑った。

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