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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第二章 復讐の聖女編
40/98

40、16歳の生誕パーティー

 ルクレツィアは朝からずっと不機嫌だった。

「お嬢様、そんなお顔をされていたら…せっかくのドレスとお化粧が台無しですよ?」

 ルクレツィアの髪を結っていたメイドが、困ったように笑いながら宥めてきた。「うん…」と、ルクレツィアは答えるも、その表情はあまり変わらない。

 今日はルクレツィアの16歳の誕生日だ。お昼の時刻を過ぎてからは、イスラーク城に集まる貴族たちが城門の前に馬車の列を成していた。

 結局、あれからヴィレンはまだ戻って来ていない。

(すぐ戻るって言ったくせに…もう誕生日当日になっちゃったよ)

 誕生日だというのに彼女が不機嫌な理由は…。

「…ヴィレンの馬鹿。うそつき…」

 口の先を尖らせてそう呟くルクレツィア。そんな彼女の髪を編んでいきながらハーフアップにして、サイドに宝石があしらわれた美しい髪飾りを添えたメイドが明るい声で言った。

「出来ましたよ、ルクレツィアお嬢様!」

「わぁ、可愛い。ありがとう、サティ」

 サティと呼ばれたメイドは、嬉しそうに鏡の中の自分を眺めるルクレツィアに優しい目を向けながら微笑んでいた。

「世界で一番お美しい…私の大切なお嬢様。お誕生日、おめでとうございます」

 ルクレツィアはサティを振り返り、笑顔で答える。

「ありがとう、サティ。これからもよろしくね」

 その時、コンコン。と、誰かが部屋をノックした。ルクレツィアが返事を返すと、ノックの主はディートリヒだった。

「お父様、いらっしゃい!」

 ルクレツィアはぱぁっと顔を明るくさせて、自ら扉を開ける。扉の向こうには、北の領地にしか咲かない春の花で作った花束を持つ父親の姿があった。

「ルクレツィア。誕生日、おめでとう」

 ルクレツィアを見た瞬間、ディートリヒは優しく微笑み花束を手渡しながら続けた。

「生まれてきてくれて、ありがとう」

 ルクレツィアがイスラークに帰って来てから毎年、誕生日の日に必ずディートリヒが伝えてくれる言葉だ。

 何度聞いても、ルクレツィアの胸が震えてつい涙が出そうになる。

(この瞬間、お父様の娘で生まれて幸せだって、私はいつも実感するんだ…)

 ルクレツィアは花束を受け取りながら、そっと父の胸に抱き付いた。

「なんだ? いつも『淑女とは』と得意顔で説くお前が、珍しく甘えてきたな?」

「もう、今日くらい良いではないですか」

 揶揄うディートリヒに対して、ルクレツィアはむぅっと頬を膨らませながら返す。ディートリヒは笑って、娘を愛おしそうに優しく抱きしめた。

「ずっとずっと、愛しているからな」

「私も。お父様の事を愛してます」

 美しい親子愛を目の当たりにしたサティは、感動のあまり思わず涙目になっては鼻を啜っていた。

「さぁ…皆が待っている。行こうか」

「はい。お父様…」

 ディートリヒの差し出した手を掴みながらも、ルクレツィアの中には後ろ髪を引かれる思いが僅かにあった。

(…ヴィレン……)

 結局ヴィレンは、ルクレツィアが待ち望んでいたにも関わらず、間に合わなかったらしい。

(…今頃、何してる…?)

 本当は、彼に一番初めに『おめでとう』と言って貰いたかった…なんて、この望みは贅沢だろうか。と、ルクレツィアは自嘲気味に笑う。

 ルクレツィアは暗くなる気持ちを切り替えて前を向くと、自分を祝ってくれる人々の待つ会場へと向かったのだった。


 *


 本日イスラーク城へ到着したユーリは少しでも早くルクレツィアに会いたくて、まだ招待客も揃っていない時間帯からパーティー会場に顔を出していた。

「ユーリ殿下。お久しぶりでございます」

「お久しぶりです、伯爵」

 もう何度目の挨拶か分からないが、普段あまり顔を合わせない北の帝国貴族たちとはこういう機会でなければ挨拶も交わさないから仕方がない。

(とはいえ…そろそろ煩わしいけれど)

 そんな気持ちを笑顔の奥に隠して、ユーリは今日も聖人君子の仮面を被る。

(僕とした事が…待ちきれなくて早くからここに来たのが間違いだったな)

 どうやら、かなり浮かれている自分自身に少しだけ恥ずかしくなる。

 だけど、仕方ないと思う…。今日は彼にとって待ちに待ったルクレツィアとの再会の日なのだから。

 伯爵とは当たり障りのない会話をいくつか交わし、飲み物を取りに行く振りをしてその場から離れたユーリ。

「あぁ、すまない」

 側を通りがかったボーイを止めて、ユーリは「シャンパンやワインではなく、ノンアルコールの飲み物はあるかな?」と尋ねる。

 酔いが回る前に、彼は早々にアルコールを切り上げる事にしたようだ。

 その時、中央ホールから二階へ続く階段を登った先にある大きな両扉が開かれる。

 ユーリを含めて、招待客の貴族たちが自然とそちらに目を向けて見上げた。

 開かれた扉の向こう…周りの貴族たちが「おぉ…」と、小さな感嘆の声をあげているが、ユーリは声なんて出なかった。

 父親と共に姿を現したそのご令嬢の姿を見て、声も、瞬きも、呼吸すらも一瞬にして忘れてしまい、ただ、目の奥に焼き付けるように見つめるだけ。

(しまったな…今日はワインを飲むべきではなかった)

 眩しそうに目を細めるユーリ。

(君を見た瞬間、酔いが回ってしまったようだ…)

 ユーリは、6年ぶりに見たルクレツィアの輝かんばかりの美貌に酔いしれたのだった。


 素晴らしい音楽家達の音が奏でられる中、ルクレツィアはディートリヒと腕を組みながら、パーティ会場へと入場した。

 一階からこちらを見上げる招待客達へ感謝の気持ちを込めて、ルクレツィアはディートリヒや魔塔の魔術師達と練習した魔法を披露する。

 彼女の細くて白い腕が弧を描くと、ホールの天井から細かい氷の粒が降り注いだ。氷の結晶はシャンデリアの光を受けてキラキラと輝いており、まるで宝石(ダイヤモンド)が降ってきているようだ。とても繊細で幻想的だった。

 まだ初歩魔法しか使えないルクレツィアだったが、それでも、かつて『魔力なし(ノーマン)』と呼ばれた彼女が魔法を使ったという事実は貴族達に知れ渡る事となったのだ。

 ルクレツィアが魔法を使えたのだと初めて知った北の貴族達は大歓声を上げる。彼らはこの先の未来、この北の領地でクラウベルクの女帝となるルクレツィアに仕える事になる。主人がノーマンではなく魔術師である事に、彼らは喜びを隠せないようだ。

 驚いたのは貴族達だけではない。ユーリもまた、信じられない気持ちでルクレツィアの魔法を眺めていた。そして、その魔法の美しさに改めて心を奪われる。

 そして、ユーリと共にイスラークを訪れて会場の上座に座っていたアネッサも驚愕の表情を浮かべていた。少し青褪めてすらいる。

(まさか…ルクレツィアはノーマンでは無かったの…?)

 では何故、ルクレツィアは子供の頃魔法を使わなかったのか。いや、使えなかった? もしかして、そういった特殊な体質だったとか…?

 アネッサの頭の中ではぐるぐると考えが巡っていく。

 そうならそうと、ディートリヒも言ってくれれば良かったのに。そうすればアネッサは、ルクレツィアがノーマンじゃないのであれば、貴族達の差別から全力であの子を守ったはずだ。自分も差別していた一人なのに、そんな都合の良い言い分が頭を巡る。

 愕然とする中、色々な思いや考えが流れていった後、アネッサの頭には一つの後悔だけが残っていた。

(…だったら…絶対にユーリとルクレツィアを婚約解消になんてさせなかったのに…!)

 悔しさでギリギリと奥歯を噛み締めるアネッサ。家柄、血筋、美貌、その全てを兼ね備えていたルクレツィアの唯一であり致命的な欠点はノーマンであったこと。しかし、今となってはその欠点も解消された。

 現時点で、このマルドゥセル魔導帝国の皇太子に相応しい女性は、ルクレツィア・クラウベルクをおいて他にはいないだろう。

 アネッサには息子ユーリに対して強い思いがある。ユーリには常に、最高級の環境を用意してあげたいのだ。

 最高の衣装、最高の食事、最高の教師、最高の伴侶…その全てがユーリをより輝かせ完璧な皇帝へと導いてくれると信じているからだ。

「…行動しなければ…私のユーリを、完璧な皇帝に…」

 夫はあろう事か、平民の血が入った他国の姫を当てがおうとしている…絶対に阻止したいアネッサは、今、二階から優雅に降りてくる親子に近付いていった。

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