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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第二章 復讐の聖女編
39/98

39、皇子からの手紙

 *


 今日の一日を終えた就寝前、夕方に受け取った手紙の事を思い出し、ルクレツィアは机の上に置いていた上質な手紙の封をペーパーナイフで切った。

 差出人はユーリ・ティア・マルドゥセルからだった。

 6年前にルクレツィアが帝都からイスラークへ帰郷した後、婚約を解消したユーリから何故か定期的に手紙が届くようになり、現在までそのやり取りは続いていた。

 ルクレツィアの中でユーリは、あまり良い思い出のない人物だったがこの6年間でその印象も変わってきている。

 ユーリはこの帝国の皇太子らしく、帝都の中でもとても優秀な魔術師となっていた。

『僕、きっと変わってみせるから。人の心に寄り添える皇帝になってみせるから、見てて』

 いつの日かルクレツィアに誓った言葉通り、帝国民に寄り添い厳しくも優しい皇子なのだというユーリの評判がイスラークにも届いていた。

 ユーリとはあれから6年間、一度も顔を合わせてはいない。

(ユーリ殿下はどんな風に成長したのかな。きっと、素敵な皇子様になっているんだろうな)

 久しぶりにユーリの昔の姿を思い出していたルクレツィアは、いつの間にか彼に友愛さを感じていたことを自覚し、彼からの手紙を読む事が楽しみになった。

 硬めの便箋を取り出して、乱れのない綺麗な文字の羅列に目を通していく。いつも通り、帝都で起こった事や最近の社交界の様子などが綴られていたのだが…。

「………え?」

 暫くして、ルクレツィアは驚きの声を上げていた。

「本当に? わざわざ?」

 続けて独りごちる。なんと、ユーリの手紙は『今年のルクレツィア嬢の生誕パーティーに参加します』という文章で締め括られていたのだ。

 今では昔と違って魔導列車もより改良されて線路も増えた為、利用すれば帝都からイスラークへ到着するのに一日程であるのだが…とはいえ、未来の皇帝がそう簡単に帝都を離れる事は出来るのだろうか?

 ユーリからは毎年、ルクレツィアの誕生日にプレゼントが届いていた。元婚約者だからって、毎年律儀だなぁ。と、それだけでも感心していたのに、まさかイスラークまで足を運んできてくれるとは…。

「…………」

(ヴィレンとユーリ殿下…どう考えても、性格は合わないよね)

 ヴィレンはグリムにもよく突っかかるが、そこはあまり気にしていないルクレツィアだった。何故なら、グリムはヴィレンを嫌ってはいないし、ヴィレンも何だかんだ言ってグリムに親しみを感じている事が分かるからだ。

 ルクレツィアは何となく、二人が顔を合わせると面倒な事になりそうな予感がして、楽しみだった自分の生誕パーティーが少しだけ不安になってきてしまった。

 だからと言って、皇族の申し出を断るわけにもいかないし…。

「……ヴィレンはともかく、ユーリ殿下なら大人の対応をしてくれるでしょう」

 考えるのも億劫になったルクレツィアは、そう自分に言い聞かせるのであった。


 ユーリの手紙には気にかかる内容がもう一つあった。

 それは、ここ最近マルドゥセル魔導帝国だけでなく近隣諸国でも騒がれるようになった『魔王教』という宗教団体についての事だった。

 帝国ではまだ被害は何も確認されていないらしいのだが、帝国の比較的友好国である聖リアン王国では魔王教が関わっているであろう失踪事件が相次いでいるらしい。

 『魔王教』とは旧暦時代に生きたという邪竜『魔王』を崇拝し復活を願う破滅思想の者たちが集まった宗教なのだとか。

 ユーリの手紙は、そういった情勢なのでルクレツィアも十分気をつけるように、という注意喚起だった。

「……確か聖リアン王国では、数年前に聖女が誕生したと話題になっていた国だったよね…」

 ルクレツィアは思い出しながら呟く。

 聖リアン王国国王の私生児である第三王女に治癒と聖魔法の素質があったと、当時とても話題になっていた。

 まるで旧暦時代に魔王を倒して活躍した『聖女』の再来なのだと、王国は騒いでいたのだ。それまでの第三王女は、兄弟から私生児だと爪弾きにされてあまり良い待遇を受けていなかったと聞いたが、今ではそれも見る影がないくらい大切にされているらしい。

「『聖女』が現れた国で、今度は『魔王教』…」

 ルクレツィアはユーリの手紙を丁寧に折りたたみ封筒の中へと仕舞う。

(…何となくだけれど、何かの因果関係を感じてしまうのは…私の考え過ぎなのかな?)

 ルクレツィアは小さく息を吐くと、そろそろ就寝しようとランプの明かりを消して、ベッドの中へ入ったのだった。


 ***


 マルドゥセル魔導帝国の帝都に聳え立つ立派な城の一室で、この国の皇帝と皇后が何やら言い争いをしていた。

「どういう事ですか? ユーリとあの王女を婚約させるですって!?」

「まだそうと決まった訳ではない。そういう話もあるというだけのことだ」

 興奮するアネッサにうんざりした顔をするマルセルが疲れた声で言った。

「いくら『聖女』と持て(はや)されようと、所詮は私生児の卑しい血の入った半端者です! 私のユーリに相応しくありませんわ!」

「アネッサ…」

 妻を宥めるのも疲れたマルセルが、痛む頭を抱えながら彼女の名を呼ぶ。

「口を慎むのだ。今や彼女は聖リアン王国の権力者なのだぞ。これから彼女を短期の遊学期間として我が帝国に迎え入れようというのに…皇后がそのような態度では、先が思いやられる」

「そもそも、私は王女をこの城に滞在させる事も認めておりませんわ!」

 宥めようとしても諌めようとしてもヒステリックを起こすアネッサに、マルセルはついに「アネッサ・マルドゥセル!」と怒鳴り声をあげた。

 途端にアネッサは口を閉じて、怯えた表情を浮かべる。

「いい加減にしなさい」

 思わず怒鳴ってしまった事に罪悪感を感じているのか、マルセルはなるべく優しい声で続けた。

「聖女を受け入れる事は、我が帝国にとっても良い事なのだ」

「………こんな事なら、ルクレツィアと婚約させていた方がまだ良かったです…」

 ルクレツィアがいくら『魔力なし(ノーマン)』と言われていようと、ディートリヒの血を受け継ぎ帝国の北の支配者クラウベルクの正当な後継者である彼女の方がよっぽど良い。

 当時カレンの事は気に入らなかったが、それでも彼女の所作や知識は周りとは比べ物にならない程に抜きん出ており、彼らが明かす事はしなかったがきっとどこかの王族か貴族なのだろうとアネッサは思っている。

(私の大切なユーリに、平民の血が入った王女を当てがうつもり!? 絶対にそんなの認めないわ!)

 ルクレツィアとユーリの婚約解消の件はマルセルも嫌な思い出があるのか、アネッサの言及に彼は眉を顰めていた。

「…魔王教だか何だか知りませんけれど、自国で騒ぎが起こっているのに、よく我が帝国に遊びに来る気になれるものです…呑気な聖女ですね」

 アネッサは最後に皮肉を言ってからその部屋を出て行った。マルセルは何も答えず、妻が怒り任せに扉を閉める音を背中で聞いていた。


 ——そんな二人の様子を盗み見る者が一人いた。

「……本当に、愚かな両親だな」

 ユーリだった。魔法を使い、両親の言い争う様子を手鏡に映し覗き見ていたのだ。

 いつも温かな笑顔を浮かべる美しくも優しい皇子と評判のユーリだが、鏡を見下ろすその目はとても冷たい。

 まるで夜空に浮かぶ月のように煌めく銀髪をかきあげながら、ユーリは誰にも見せた事のない黒い笑顔を浮かべた。

「僕の婚約者候補だって…? そんなもの、今も昔もたった一人にしか許されないのに…」

 父上には困ったものだ…と、続けるユーリは暗い部屋の天井を仰ぎ見る。

 ここは城の中にあるユーリだけの秘密の部屋。誰も知らない、誰も立ち入れられない彼だけの空間。

「どこかから令嬢を見繕っては、すぐ僕に当てがおうとする…毎回、本格的に婚約話が挙がる前に手を打つ僕の身にもなって欲しいよ…」

 いまだに婚約者もいない皇太子(ユーリ)を気にしているのか、マルセルは息子の婚約者探しには意欲的であった。だからいつもユーリは、自然とその話が潰えるように暗躍している。

 しかし今回は遂に、他国にまで手を伸ばすマルセルにうんざりするユーリ。

(今までは帝国内だったから良かったものの、他国となると…これまで通りとはいかないだろうな)

 きっと骨が折れるだろう。と、考えてからユーリはふっと柔らかな笑みを浮かべた。

 美しく着飾った令嬢よりも美しく、その銀髪と陶器のように白い肌はまるで輝きを放っているかのよう…幼い頃から『天使』だとその美しさを比喩されてきたが、今では神聖さすら感じるほどの美貌である。そんな青年に成長したユーリ・ティア・マルドゥセル皇太子殿下。

「…ま、これも僕たちにとっての試練だよね?」

 ユーリは机の上に飾っていた写真を大切そうに手に取って微笑みかけた。

「やっと君に会いに行けるよ」

 親指で優しく、その写真に映る人物の顔をなぞる。

「僕の妻になれるのは君だけだ、ルクレツィア・クラウベルク」

 ルクレツィアの平面の微笑みを、もう何度眺めたか分からない。

 ここはユーリの小さな秘密の部屋。その部屋の壁四方一面には、これまで『(ジェイ)(ブランド)』の新作ドレスとして発行されてきたルクレツィアの写真や切り抜きが隙間なく張り付けられていた。

 どこを見ても彼女と目が合うように…。

「…きっと僕、君に狂ってしまったんだ。でも、ルクレツィア嬢がいけないんだよ? 僕に諦めさせてくれないから…こんなに美しくなっていく君を見せ付けては僕を夢中にさせるくせに、この6年間一度も会ってくれないなんて酷いよ…」

 ユーリは密かに期待していた。ルクレツィアがまた帝都に戻ってきてくれる事、また自分に会いに来てくれる事…そのどちらも、結局は叶わなかったが。

 だから次は自分から会いに行く。あの様子ならアネッサを使えば、イスラークへ行く事も簡単に叶うだろう。

 ユーリは母親すらも、自分の駒として扱うようになっていた。

「君を見つめるだけで、胸が高鳴っては愛おしい気持ちでいっぱいになるんだ…ねぇ、これって恋だよね?」

 ユーリの天使のような笑顔が、恍惚に歪んだ。


 ***

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