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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第二章 復讐の聖女編
38/98

38、君と離れて気付いたこと

 ルクレツィアは今にも泣き出しそうな顔だ。ヴィレンはその顔を見て、思わず笑ってしまう。

「な…なんで笑うのぉ…」

 ついに涙が溢れるルクレツィアに、ディートリヒよりも早く、ヴィレンがハンカチを差し出した。

「泣くなよ、ルーシー。俺、別にお前の元からいなくなるつもりはないって」

 ヴィレンのハンカチで涙を拭っていたルクレツィアが顔を上げる。

「…本当?」

「うん。ちょっと魔王国には帰るけど、またすぐに戻ってくるから。次は正式に『クラウベルクの客人』として」

 今までのような『ルクレツィアの個人的な客人』ではなく正式な客人として自分の立場を明確にしようと考えているヴィレン。

「だから、ディートリヒ。褒美の件は今貰うんじゃなくて…まだ保留でもいいよな?」

 ヴィレンのこの言葉を聞いたディートリヒは、ヴィレンの思惑を何となく察した。だからとても嫌そうな表情を浮かべる。

(ヴィレンのやつ…もしかして)

 そう、ヴィレンは『公式的に』次はイスラーク城を訪れると言っているのだ。つまり、このマルドゥセル魔導帝国の社交界にただの竜人としてではなく、『魔王国』の王子として表舞台に立つ気でいるのだ。

(こいつ、戻って来た時に求婚書など持ってきたりしないだろうな?)

 ディートリヒはハラハラした気持ちのまま「…保留を認めよう」と静かに答える。

「おっし。じゃあ、ちょっと国に帰って親父と話を付けてくるぜ」

 ディートリヒの返答を聞いたヴィレンは、久しぶりに竜の姿となる。6年前はルクレツィアの腕の中に収まる小さな竜だったのに。今では2メートルほどある黒竜だ。

「ルーシー! 心配すんなって。すぐに帰ってくるから…それよりも、俺が居ないからってグリムとあんまり仲良くし過ぎるなよ!」

 ヴィレンは元気よく命令口調でそう言うと、とてもあっさりとした態度でそのままイスラークの空へと羽ばたいて行ってしまったのだった。


 来月にあるルクレツィアの生誕パーティーは、例年通りイスラークの城で身内だけのパーティーを行い街で祭りを開催し祝うのかと思っていたら、ディートリヒの意向により北の帝国貴族を招待し盛大に祝う事となった。

 急な招待状が届き貴族たちは戸惑っていたが、なんと貴重な『転移ポータル』を開放する旨が招待状に記載されており、それだけディートリヒの思いが強く込められたパーティーなのだと理解し大層驚いた。

 城の者たちは、ルクレツィアに魔法の才が開花した事をディートリヒが余程喜んでいるのだろうと考えていたが、そうじゃない。

 ディートリヒは別にルクレツィアが魔術師じゃなくても構わなかった。自分の愛する娘には変わりないから。

 ただ、ディートリヒはルクレツィアがカレンと同じ道を歩まずに済んだ事が、とても嬉しかったのだ。愛娘の未来が確かに明るく照らされた事を、心から喜んでいた。


 イスラーク城が慌ただしく来月の生誕パーティーの準備に取り掛かっている間、ルクレツィアは魔塔の図書館にいた。

 気づけば、ヴィレンが魔王国へ帰って一週間が経っていた。

 ルクレツィアはこの一週間をいつも通りに過ごしている。ただ違うのは、魔法の才が開花した事でレオノーラの授業に魔法学が追加された事。

 ずっと魔術師に憧れていたルクレツィアは、幼い頃から魔塔の図書館で魔法について勉強していたため、座学は優秀だった。なので、レオノーラの授業では主に実技を学んでいる。

 昔からクラウベルクの血筋は氷魔法が得意な者が多く、ルクレツィアもその魔法に適正があった。

 たまに授業の様子を見に来る、この国最高峰の氷結使いの魔術師ディートリヒに魔法を教わったり、魔塔の魔術師達の全面協力のもと、ルクレツィアの魔法技術は少しずつ上達していった。

 この一週間で初歩魔法を習得出来るほどだった。

 本日はレオノーラの授業がお休みだった為、ルクレツィアは魔塔の図書館の中にある自分のお気に入りの場所で朝から読書をしていた。

「ルクレツィア。南方から珍しい茶葉を仕入れたんだが、休憩がてらに一緒に飲まないか?」

 最近、図書館の天敵・ヴィレンが姿を現さないことで機嫌の良いマイロ・プリツカーがルクレツィアに話しかける。

「…………」

 しかし、マイロに気付いていないのか、ルクレツィアは上の空の様子で図書館の大きな窓から見えるイスラークの空を眺めていた。まるで誰かの帰りを待っているかのように…。

「……ヴィレンのやつめ」

 マイロは眉を顰めて呟く。

「ルクレツィアにあんな寂しそうな顔をさせやがって。居ても居なくても、厄介な奴だな…」

 今はそっとしておいてやろうと、マイロは後ろを振り返りルクレツィアの元から去っていったのだった。


 高く昇っていた太陽が傾き始めて少し時間が経った頃、ルクレツィアを迎えに来たグリムが図書館へと現れた。

「…ルクレツィアは?」

 司書のマイロに尋ねると、マイロは静かに図書館の奥を指差す。

「来てからずっと…本も読まずにああして空を見上げてるよ」

 少し気の毒そうな表情をして言うマイロに、グリムは苦笑いを浮かべながら頷き、そしてルクレツィアの元へと歩いていった。

「ルクレツィア、城に帰ろう?」

「…あ、お兄様」

 軽く肩を叩かれたことで、ルクレツィアは目の前に立つグリムに気が付いた。

「どうせ、すぐに帰ってきては、また城や魔塔の中を騒がしくさせるんだ。今のうちに、思う存分静かな時間を過ごしておいた方がいいかもね」

 普段は本心しか言わないグリムが珍しく冗談を言うので、ルクレツィアはクスクスと笑った。グリムが不器用ながらも自分を慰めようとしてくれている事が分かり、ルクレツィアは温かな気持ちになる。

「いつもヴィレンと一緒にいたから。一人だと何だか落ち着かなくて…」

 と、言いかけて今日は数頁しか進んでいない読みかけの本に栞を挟むと、ルクレツィアは立ち上がった。

(帝都の屋敷で過ごしていた頃とは違って、今の私にはお父様やお兄様、それにレオノーラ先生やレイモンド…城の使用人達に魔塔の魔術師達という私を受け入れてくれた人たちが沢山いる)

 それなのに、何故こんなにも寂しさを感じるのか…。

(…そんなの、決まってる)

 たった一週間。でも、とても長い一週間だ。離れてみて初めて、こんなに実感するなんてね。

(一体、いつからなんだろう…?)

 ずっと一緒にいて、それが当たり前になっていた。

 ルクレツィアは困ったように笑ってグリムの隣に立つと、甘えるように兄の腕に抱き付いた。

「お兄様、帰りに街のカフェに寄らない?」

「僕が君の誘いを断れないって、分かってるくせに」

 ルクレツィア・クラウベルクは今、恋をしている。

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