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悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第一章 修復の絆編
34/98

34、竜の焦りと恋心

 *


 『写真機』の生産発売についての話は、ディートリヒ、レオノーラ、レイモンド、そしてジェイの大人組に任せるとして…その間、子ども組は暇である。

 ディートリヒの許可を貰い、彼らの話が纏まるまでルクレツィア達はイスラークの街を散策する事にした。

 顔立ちの良い美麗な三人が街を歩けば、周りの者たちはどうしても彼らを注目してしまう。平民達はアルゲンテウスの軍人であるグリムの事はよく知っているが、あの小さな少年少女は誰だろう? と、囁き合っていた。まさかルクレツィアがディートリヒの息女とは思っていないらしい。

「あの通りに行けば、可愛い雑貨を売っている店があるんだ」

 グリムは街に詳しいらしく、ルクレツィアの好きそうな店を案内してくれる。ルクレツィアも楽しそうに笑っているので、ヴィレンは少しだけいじけていた。

(ルーシーのやつ、さっきからグリムとばっか話してる…)

 帝都ではヴィレンとルクレツィア二人だけだったので、そう感じた事はなかったが…こうして人との交流が増えていくと、ルクレツィアを独り占め出来なくなる事をヴィレンは初めて知った。

 これが独占欲なのだと、ヴィレン本人はまだ分かっていないようだが…。

「なぁ、ルーシー! あっちの方に行こうぜ」

 ヴィレンはルクレツィアの手を掴んで気を引くと、グリムが言った通りとは違う通りを指差した。

「そちらの通りを行っても住宅街に出るだけだから、面白いものはないと思うけど」

 すかさず飛んでくるグリムの指摘に、ヴィレンは苛立ちを覚える。

「行ってみたら面白いかもしれねーだろ!」

 ヴィレンはグリムに噛み付くように反論した。

 彼はルクレツィアと過ごす中で学んだのだ。たとえ気が進まないこともやってみると楽しいと思えることがいっぱいあるということを…ヴィレンは列車の中で学んだのだから。

 我儘なヴィレンの発言にグリムは少し眉を顰めたが、すぐに小さく息を吐いて諦めたようにルクレツィアに言った。

「…分かったよ。住宅街の近くにはカフェもあるし、そこでひと休みしながら街を眺めよう」

 ルクレツィアを気遣う言葉に、彼女は嬉しそうに笑う。

「ちょうど喉が渇いてたの、ありがとうお兄様。お兄様のおかげで、私すごく楽しいわ!」

 グリムのスマートな街案内にルクレツィアが目を輝かせては尊敬の眼差しで彼を見上げている。

 ルクレツィアの気を引く事に成功はしたが、結局はまたグリムに奪われた気がしてヴィレンは悔しさでいっぱいになった。

 だから、嫉妬したヴィレンは仕返しのつもりでグリムに意地悪を言う。

「グリム、お前実は女なんじゃねーの? さっきから、女子が好きなものばっかりじゃん」

 するとグリムがヴィレンを振り返り…。

「…妹と外出するのに、兄として好きそうな店や休める店を下調べしておいたんだよ」

 そう言って、勝ち誇ったような笑みを浮かべたグリムが更に続けた。

「ヴィレン。もしかして君、女性とデートしたことないの? 下調べくらい出来る男にならないと、将来は苦労するかもね?」

 グリムの言葉に衝撃を受けるヴィレン…。僅か10歳の少年に17歳の青年が少し大人げない気もするが…しかし、グリムの言葉はヴィレンの痛いところに突き刺ささった様で、ヴィレンは悔しそうな顔を浮かべる。

「ルクレツィアも将来のデート相手には、ちゃんとスマートにリードしてくれる人を選ぶんだよ」

 と、ルクレツィアの頭を優しく撫でているグリムにそこまで言われてしまい、ついにヴィレンは半べそをかいてしまった。

「うるせー! ばーか!」

 ヴィレンは涙目になりながらグリムに暴言を吐いた後、逃げるように人混みの中へ紛れるとどこかへ走り去って行ってしまったのだった。

 ルクレツィアが慌ててヴィレンの名前を呼ぶも、彼が足を止めることは無かった。

「どうしよう…ヴィレンが怒っちゃった…」

「…これくらいで…本当にガキだな」

 ルクレツィアが悲しそうな顔でグリムを見上げる。グリムは「うっ…」と、小さな呻き声を上げると、少しばつの悪そうな顔で言った。

「…一応、二人には迷子防止に守護の宿木(ドライアド)の花粉を付けておいたから辿れるけど……ヴィレンを追いかける?」


 ルクレツィアとグリムがヴィレンを追いかけると、少し離れたところですぐに彼の姿を見つけた。

 イスラークの街を二分割するように流れる大きな川があるのだが、その川に掛かる橋の中腹あたりでヴィレンは橋の上から覗き込むように下の川を眺めていた。

 ルクレツィアはグリムには少し離れた見えるところで待っていて貰い、一人でヴィレンの元へと向かう。

「ヴィレン」

「………」

 ムスッとした表情でこちらに目も向けないヴィレン。

「お兄様はずっとこの街にいたんだから、私たちよりもイスラークのことは詳しいんだよ」

 ルクレツィアが慰めるように言うと、ヴィレンはやっとこちらを見た。

「ルーシーはグリムみたいな男がいい?」

 ヴィレンの質問の意味がよく分からず、ルクレツィアは首を傾げる。

「あいつ、俺と正反対だから…落ち着いてるし、大人だし…それに、頭も良いし…」

 ヴィレンが落ち込んでいる。あのマイペースでいつも自信たっぷりなヴィレンが珍しい…と、ルクレツィアは物珍しい気持ちで彼を見つめた。

「グリムは私たちよりも7歳も上なんだから、落ち着いてて大人で頭良いのは当然じゃない?」

 何をそんなに落ち込むことがあるのか…と、ルクレツィアは首を傾げながら聞き返すと、ヴィレンは「そうだけど…」と、何やら歯切れの悪い返事を返してきた。

「…グリムは、俺にないものをいっぱい持ってる。俺だってルーシーの側にいるのに、ディートリヒがわざわざグリムに護衛を頼んだのだって…そういう事だろ…」

 俺じゃ力不足なんだ。と、項垂れるヴィレン。ごちゃごちゃと頭の中でグリムの事が気に食わない理由を並べていたヴィレンだったが、結局、そこなのだ。

 ディートリヒがグリムを護衛として選んだ時、本当はヴィレンはとても悔しかった。『お前じゃルクレツィアを守れない』と、ディートリヒに言われたも同然だと感じていたから。

 実際に自分の力不足は認めているし、その為に強くなろうと現在進行形で努力だってしている。…レオノーラの厳しい授業にも耐えている。

 これから成長していけばいいと思ってはいるけれど…頭では分かっているが心はそうじゃない。

(ルーシーの隣は、いつだって俺だけのものじゃないと嫌だ…)

 これは焦りだ。ルクレツィアを取られたくないと駄々を捏ねているだけなのだと自分でも分かっている。だから…。

(…今の俺、かっこ(わり)ぃ…)

 ヴィレンがルクレツィアから目を逸らし、再び川に目を向けた時、ルクレツィアが「でも、」と口を開いた。

「誰が何と言おうと、私にとっての勇者(ヒーロー)はヴィレンだよ」

 ヴィレンは目を丸くしてルクレツィアを振り返った。ルクレツィアは幸せそうに笑っている。

「初めて会った時にヴィレンが私の背中を押してくれたから、何があっても私の味方でいてくれたから、私のままでいいって言ってくれたから…だから私、今すごく幸せで笑えてるんだよ」

 その笑顔がとても眩しくて、ヴィレンは思わず目を細める。

「私ね、ヴィレンと出会えて良かった!」

「……俺だって、ルーシーと出会えて良かった」

 ヴィレンがルクレツィアの手を握ると、彼女の手は少し冷たくなっていた。もうすぐ秋が来る季節となり肌寒くなってきたからだろうか…。

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