表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は最強パパで武装する  作者: リラ
第一章 修復の絆編
30/98

30、新しい家族

 グリムは一族にも母親にも捨てられて、孤独に生きてきた少年だ。自分を拾い育ててくれたディートリヒだけが、グリムにとって最後の拠り所であり居場所だったのに。

 ディートリヒのために力を振るわない自分は無価値な存在なのだ。と、怯えた目で訴えてくるグリムにディートリヒは悲しい気持ちになった。

「…俺は…お前を優秀な戦闘兵士にするために拾って育てたわけではないぞ」

 ディートリヒはグリムの心の闇の存在を知っていた。知っていて、どうしてあげたら良いのか分からず…だからグリムの思うままにさせてやろうと思っていた。

 けれど、ディートリヒはルクレツィアを通してたくさん学んだのだ。育児書を愛読している今のディートリヒになら、今度はグリムに違う言葉をかけてやれる。

「俺のためではなく、自身のために。グリムが本当にアルゲンテウスの戦闘兵士になりたいと言うのなら俺はお前のその意思を尊重するさ」

 ディートリヒはそう言って、俯くグリムの頭に手を置くと優しく撫でてやった。グリムの目が大きく開かれる…。

「あの時の俺は、無知でお前にどう伝えていいのか分からなかったが、今なら分かる」

 ディートリヒは知っている。グリムがいつも世界中の生物について書かれてある書物を読んで勉強している事を。

 彼が魔塔で心血注いで行っている研究も、魔獣の攻撃性を無くす遺伝子操作についての研究である。グリムは、出来る事なら生き物を殺したくはないのだ。

 しかし、戦闘兵士は魔獣などの危険から人々を守る役目だ。魔獣を駆除し殺さねばならない仕事…きっとグリムの気持ちに反する事なのだと。

 ここまで彼の事を知っているのも、ディートリヒが今までずっとグリムの様子を気に留めて見守っていたからだ。その感情が何なのか…ディートリヒも最近になってやっと分かった事。

 拾い育てたグリムを、自分はいつの間にか…。

「俺は、自分の息子には『本当に自分がやりたい事』をやって欲しい」

 グリムは驚いた顔で俯いていた顔を上げる。

「血は繋がっていなくとも、俺が育てたんだ。だったらお前は俺の息子も同然だろう?」

 娘の境遇を知り、ルクレツィアを救いたいと思った。同時に、ディートリヒの頭にはもう一人救ってやりたいと思う子供がすぐに浮かんだのだ。

 グリムの赤い目は潤み、目の周りが赤くなっていった。

「じゃあ、グリムは私のお兄様って事ですか?」

「まぁ…そうなるな」

「兄か。それなら、まあ…いいぞ。グリムもルーシーと仲良くするのを許してやる」

 グリムを他所に三人は好き勝手に言っている。自分がこんなにも泣いているのに…。グリムは手で目を擦りながら涙を拭った。

「俺から護衛の提案をしたが、気が乗らなければ断ってもいい」

 そんな事を言って、ディートリヒもルクレツィアも期待したような顔でグリムを見つめている。

(…僕が、本当にやりたい事…)

 初めて考えてみたけれど、すぐに答えは出なかった。

「……少し、考えさせて下さい」

 グリムはそう呟くように返事をして、温かな気持ちで溢れるこの胸を、『どうか夢ではありませんように』と願いを込めてギュッと握り締めたのだった。


 ***


 とある火山口のほとり。

 絶命した火竜が大きな音を立てて倒れると、そこには2名の者が立っていた。顔と体型を隠すように、黒地に赤の刺繍が入ったローブで全身を覆い隠している怪しい二人組だ。

「……ハズレだね」

 その内の一人が言った。女性の声だった。

「はぁ、またか…何度竜を殺せばいいのやら…」

 もう一人は男性のようだ。どうやら二人はとある竜を探しているらしい。

「教主様!」

 そこに、同じようなローブを着用した一人の男が二人に駆け寄っていった。竜の死体を見て、ひっ。と、小さな悲鳴をあげるほどの小心者具合だ。

「…親愛なる信徒よ。この竜は『魔王』の器ではなかったようです…」

 女性は丁寧な言葉遣いで慈愛溢れる優しい声でそう言うと、胸の前で両手を握り締めるポーズを取った。

「そうですか…」

 肩を落とす教徒に、女は言う。

「けれど、案ずることはありません。貴方達の働きのお陰で、我々『魔王教』の未来は一歩ずつ進むべき道を辿っています。魔王様は私たちを常に見守ってくださっていますよ」

 すると教徒は勇気付けられたのか「あぁ…!」と、感嘆の声をもらして彼女に対してまるで神仏に祈りを捧げるかのように拝み始めた。

 その教徒が二人の元を去っていった後、ずっと隣で黙って聞いていた男が口を開く。

「『魔王様』を『神様』に変えれば、まるで立派な聖女様のようなお言葉だな」

「…『まるで』じゃなくて、実際『そう』なのよ」

 二人はクスクスと笑い合った。

 『魔王教』。数千年前にこの地に生きる全ての生き物を絶望させたという最強の魔族であり最凶の竜『魔王』を崇拝する宗教団体だ。

 まだ信徒数は100も満たない小さな団体だが、それでも『教主様』と呼ばれるこの女と、常に彼女の側にいるこの男は竜を殺せるほどの強い力を有していた。

 魔王が生きた時代にあった国…主に人間の国は現在では殆どが滅びて亡国となっている。人々はこの時代を『旧暦時代』と呼び、今栄えている国の殆どが魔王が倒された後に荒廃した地を一から開拓し文明を新たに築いていった『新暦時代』に発展した国なのである。

 人間の歴史において一つの時代を終わらせたと言っても過言ではない魔王が、この世の生物も国も文明も何もかもを破壊し尽くそうとした事で、この世界の文明進化が千年遅れたと言われている。

 魔王はそれだけ、人間に対して深い恨みを抱いていたと言える。その時代に一体何があったのか…真実を知る者は皆、もう今の時代にはいないので、その真理に辿り着ける者はいない。

 彼ら宗教団体の目的は、そんな魔王の復活である。この理不尽に溢れる世界をなだらかにする事で再び新しい時代を築こうとしているのだ。

「確かに火を吹く竜だったけど、身体が赤いんじゃねぇ?」

 彼らが魔王の器として求める竜は、黒い火を吹き禍々しい漆黒の躯体を持つ竜だ。『魔王』がそういった竜だったから。

「なぁ…やっぱり、150年前に現れたっていう『災厄の竜アレンディオ』を訪ねた方が早いんじゃないか?」

 男が尋ねると、女はきっぱりとした口調で「無理よ」と即答した。

「今の私達じゃ、ただ殺されに行くだけ」

「…さようですか」

 男は少しうんざりしている様子で相槌を打っていた。

「とにかく。次の目的地を決めないとな」

「うーん…次は東の方角へ行ってみようかなぁ」

「東か…また遠いな」

 気が進まないらしい彼に、彼女は「仕方ないでしょ」と一刀両断してから、改めてこの世界をぐるりと見回した。

「相も変わらず、この世界は人殺しのクズばかり…」

 過去を思い出しているのか…女は心底憎々しげに言う。

「……で、東には何があるんだ?」

 そんな彼女に男は話題を変えるように尋ねた。

「人間の国が多いね。一番の大国は、魔術師の国『マルドゥセル魔導帝国』があるみたい」

「ふぅん…ま、行ってみるか」

 二人は目的地を決めると、東の方角へと歩き始めたのだった。


 ***

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ