消えたものは・・・
意識が戻ってくることを拒むように一心に心を閉ざそうとしていた。
それでも意識が戻ってくると涙が溢れてきた。
「全て嘘だった、馬鹿だ・・僕は・・・なぜ思い出そうなんて」
思い出した、そう思い出した、今までのことが全て嘘だと思い出した。
自分が誘拐などされていないことを思い出した。
根本的なことが嘘だと思い出した。
涙が止まらない。
「そんな・・・ずっと忘れたていたかった」
忘れていたことが幸せであったことと思い知った。
思い出したくないこと・・・を思い出した。
「セルマ」
僕には小さな時から親友ともいうべき友達がいた。
それは可愛がっていたパルムナルというペットだった。
でもセルマのことを思い出すことはなかった。
ただ過去の絵画や母や弟からセルマのことは聞いていた。
そして母は僕が誘拐される以前に、セルマは事故で死んだと教えてくれた。
でも、それは嘘だった、忘れていたいことを思い出した。
大体、僕は誘拐なんかされていなかった。
そして呪いをかけられて、恣意的に記憶を奪われたのではない。
違う、そうじゃない。
僕たちが忘れることを望んだんだ。
誘拐されたというあの日。
その時の僕は生きる気力を全て失っていた。
僕は完全に抜け殻になっていた。
そんな僕を心配したのか、それとも何か事情が分かっていのか父は行動を起こした。
僕は父に連れられて、森の奥に住むという”不老不死の魔女”のもとに行くことになった。
もっとも、どこにいるかもしれない”不老不死の魔女”に簡単に会いに行けるはずもなかった。
それでも父は長旅すら覚悟していたので、父の弟であるアルジャン叔父さんに後のことを頼んだ。
そこまでの覚悟をする父。
だが、”不老不死の魔女”は不思議なことに僕たちが来訪するることが分かっていたようだった。
僕たちが向かった森の少し入ったところで僕たちを迎えてくれた。
”不老不死の魔女”は不思議なことを言った。
「時代の主役が来るという予知夢を見たのだ、だから迎えにきた」
でも僕うや父には、”時代の主役”がなんのことかは話からなっかった。
父が事情を話そうとしてが、”不老不死の魔女”は「何も聞かなくても良い」というと僕にに「記憶喪失の呪い」を掛け始めた。
「記憶喪失の魔法とは違う、”呪いとして受ける”のだ。
今度目が覚めた時お前は結界師の能力を失うだろう。
もっとも今のお前には何も聞こえないだろうがな。
ただ、これだけは覚えておけ、お前にはお前を支えてくれる多くの者達がいること」
結果、僕は結界師としての能力の記憶とセルマのことを忘れることができた。
「なぜ思い出したんだ・・・」
その時声が響く・・・
”小心者のお前のことだ。
なぜ思い出したとか後悔しているかもな?
簡単さ、「呪いを解いた」からさ。
お前は自分を助けるための忘れる呪いを解いたんだ。
だから私が掛けた別の呪いが発現したのさ。
安心しな。
大丈夫だ。たぶんお前には十分な時が与えられたはずだからな。
思い出を胸に刻めそうして強くなれ”
「なんだよ。
なんのことだ・・・
訳が分からないよ」
頭が割れそうに痛い。
心が張り裂けそうだ。
そして僕はさっき見ていた禁書を見つけた。
すべてはその本から始まったんだ。
セルマが居なくなったのは僕のせいだ。
そうなんだ、セルマを殺したのは・・・
そんな赦されることじゃない、セルマを”惨殺”したのは・・・・
僕だ・・・・
「ごめん、セルマ・・・」
セルマには謝るしかなかった、そうしていると頭痛はだんだん薄らいできた。
見たくもない禁書
「この本のために」
そんな思いが頭をよぎる
「そうだこんな禁書なんか」
しかし禁書は焼いてしまおうとしても、破こうとしてもびくともしない。
結局元の位置に戻すと、驚いたことに次の巻が出現した。
そういえばさっき見たことのないページが出現したのだった。
「そうか次のページは別の巻なのか・・・」
本をそのままにしていると、また蓋のように扉が閉まった。
二度見たくないので、本が出てこないように強力な結界を張った。
「普通の結界魔法だけなら変な力を感じないな」
禁書の術式を使うときには自分ではない何かの力が自分に湧き上がってくるのを感じた。
だが生まれた時から持っている力を使うだけならそんな感じはしなかった。
試しに禁書の中にあった一番簡単そうな「結界を鋭利な刃物にする」術式を使ってみた。
そうすると自分のものではない湧き上がる力と少しだが別の意識が流れ始める。
「思ったとおり僕の力じゃない・・・、うっ・・」
その時、セルマのことが頭をよぎる。
そしてそのことで頭がいっぱいになるとともに物理的な痛みではない痛みを感じ始める。
頭が・・・胸が・・・心が・・・それは物理的な痛みではない痛みがじわじわと広がってきた。
「そうか、僕に掛かっていた呪いは別のものになったんだった」
その呪いがこれなんだろうか?
僕の心に別の意思が流れ込んでくる時、僕の意識を現実の世界に留めるために精神的に痛みを感じさせているのだろう。
とはいえ、そんな呪いはさっきの結界魔法で消し去ることがきるかもしれない。
ただ、予知できる能力を持っている魔女だ。
その場合はまた別の呪いが発現するのかもしれない。
ただはっきりした。
やっぱりそうか、僕は僕でないものに支配されかけている。
そしてあの時もそうだったんだろう。
だから父は僕を魔女のところへ連れて行ったのだろう。
つまり普通に結界魔法を使うのであれば別のものの力を借りることもないようだ。
ただ、母親も僕が記憶を失った理由を知っているはずだから記憶を取り戻したことは秘密にしておこう。
そうだ、だから僕は剣士であって結界師ではない。
でも、これは罰なのか?
「罰?」そうかもしれない、僕は小さな時から結界師という職業がそんなに好きではなかった。
いつも守りに徹する僕の一族、結局剣や弓、同じ魔法でも攻撃魔法で他の能力者がとどめをさすのだ。
父は結界師の仕事は他の魔法使いではできないと言っていた。
確かに、他の魔法使いはここまで強力な結界を作り出すことはできない。
つまり結界魔法は僕の一族に特化した魔法だ。
そして王より”結界師”という仕事をもうしてられその役割を受け持っている。
でもその役割に僕は不満を持っていた。
「なんて地味な役割なんだろう」
そんな思いを胸に毎日の結界構築の練習をしていた。
そして僕は婚約者のリオにもよく愚痴っていた。
リオは笑っていた。
「誰にもできないことができる貴方はすごいのですよ。
私にはそんな能力はありませんわ。
その能力を誇りに思って役割を果たすことが貴方に与えられた使命ではありませんか?」
そんな偉そうなことを言うリオは僕より一つ年上だ。
リオをフィアンセに選んだのは母の計略なのだろう。
僕には役割があった、そして皆んなが僕に期待していた。
それなのに僕は不満を持っていた。
だから罰が当たったんだ。
もし自分おものでない力に飲み込まれそうになったとき悲しい記憶が僕の中でいっぱいになる。
そんな新たな呪いを受け入れることにした。
僕はは自分でないものになる可能性がある・・・
このまま生きていていいのだろうか?
そんな疑問を持ちながら、でも父が亡くなったばかりである。
今は家族を家を支えなければと思い大きく息を吸った。