第七話『はじめてのお使い』
お土産に渡した羊羹を出してくれつつ、彼女が言った。
「また、つまらないものを切ってしまった」
そんなことを言うのは、この口かあ!
「次は、コンニャクにするぞ」
って、あれ?
そう言えば、いつもはツクモがお茶を用意してくれているのに、今日は見てないな。
「ねぇ、ツクモはどうしたの?」
「えっ、あれ、そう言えば、見てない・・・かも」
「ちょっと探してみようか?」
「そうね、GPSで現在地を調べてみましょう」
「へぇー、さすが、ツクモにはGPSなんて付いているんだ」
「んーん、付いてないよ、携帯電話を持たせているだけ」
なんだ・・・って、
「えっ、ツクモは、そんなものまで使いこなしてるの?、凄いな」
「まあね・・・っと、現在の位置は、どうもこの家の中みたいなんだけれど」
「とりあえず、電話をかけてみる?」
「そうだね、まあ、ツクモは喋れないけど」
そう言えば、そうだった。
トゥルルルル、トゥルルル♪
リリリーン、リリリリリーン♪
電話に出る様子がない。着信音が聞こえてくるのは・・・
「キッチンの方からだ」
「あっ、あったよ、携帯電話・・・だけ、みたい」
「うーん、ツクモは何処へ消えたんだろう」
僕のつぶやきに続いて、彼女は、さらに訝しむ。
「それも、わざわざ、携帯電話だけを残して?」
疑問に答えられない僕は、代わりに、
「仕方がない、他を探そう」
そう言って、キッチンを後にしようとした時に、
「待って」
彼女に呼び止められる。
「携帯電話の下にメモが置いてあった」
二つ折りにされた紙を広げて目を通してから。
「どうやら、買い物に出かけたみたい」
「あー、書き置きを残していったのか」
なるほど、こちらから携帯電話にかけたら、この書き置きが見つかるように・・・。
機能を使いこなしているというか、使い方が間違っているというか。
「ちょっと見せて」
どれどれ。
"醤油、玉ねぎ、食パン・・・"
「って、このメモ、ここに残ってていいの?」
彼女は、笑いながら。
「これは、ツクモの初めてのお使い!、尾行をせねばなるまい」
「そうだね、この前、玉子を買いに行ったスーパーだとしたら、すぐに追いつくと思うよ」
彼女は楽しそうに。
「尾行かあ、どうしよう、変装とかする?」
「じゃあ、この眼鏡でもかけといたら」
「んー、伊達だとろくにあるけないんだけどなあ」
なんて、バカなやり取りをしつつ、ツクモの捜索に向かう。
とりあえず、結論から言えば、ツクモの尾行は失敗した。
発見した時は、人だかりに囲まれて立ち往生していたので、そこから急いで救出。まあ、ツクモみたいなロボットがうろちょろしていたら、そりゃあ、子供とかほっとかないよね。
それから暫くの間、ツクモは、彼女の足にしがみついて離れようとしなかったとさ。
帰り際、僕は彼女に聞いてみた。
「今晩、電話してもいいかな?」
「お、おう、いつでもかかってきやがれってんだ」
うわあ、なんだか、たちどころに切られちゃいそうだね。