第四話『悲鳴の天ぷら』
バチ、バチ、跳ねる油の音がして、キッチンの方がずいぶんと騒がしい、というか。
「きゃあああ」
彼女、悲鳴をあげてるんだが・・・
「玉子を買いに行くよ、一緒に来て!」
ツカツカと早足で迫ってきた彼女に手をとられて、着いて早々に玄関の外へUターン。
「私、目玉焼きなら上手だから!」
なるほど、サニーサイドアップか、裏を返したりせずに、文字通りの意味に解釈しておけばいいと、はい、全てを察しました。
最寄りのスーパーの入口で、なんとなしに張り出されたチラシを見ていた僕に、彼女がのたまう。
「玉子の特売で、お一人様、ワンパック限りなんだよ、ちょっと協力して」
「ねえ、そのことなんだけれど」
「ん、なに?」
「どうも特売日は、昨日だったみたいだよ」
「チッ、せっかく連れてきたっていうのに、君ってば、ちっとも役に立たないな」
「おいコラっ!」
結局、ワンパック10個入り216円也を購入。
そして、現在、エプロン姿でキッチンに立つ彼女は言う。
「ツクモも、玉子を割ってみたいの?」
彼女とおそろいのエプロンをつけて、踏み台を抱えて持ってきたツクモがコクリとうなづいた。
コツコツとテーブルを叩いてヒビをいれるところは上手くいっている。両手で慎重に玉子を持ち、ボールの上に運んで、グシャリ。
やはり玉子の難易度は高かった。
しばし、フリーズしていたツクモは、気を取り直して、二つ目の玉子も潰すと・・・
「何もなかったかのように、シャカシャカと殻ごと玉子を溶いているんだけど?」
「君は、多分、カルシウムが不足しているね」
「なるほど、僕が食べることになるのか」
ツクモは、溶いた玉子を、湯切りに使うざるでこしながら、バターをひいたフライパンに流し込むと、トントンと柄を叩いて器用に丸めてしまった。
完成したオムレツは。
「えっと、私の目玉焼きと交換してほしいの?」
コクリとうなづく、ツクモ。
彼女の作った目玉焼きを捧げ持ち、たいそう嬉しそうに眺めている。
目玉焼きは上手に殻が割れないと作れないからね。
後日。
「はい、おみやげのケーキ」
「いやー、ふたつも、ありがとう」
「ちょっ、ひとつは僕の分だからね」
「わかってるって、冗談だから、はい、どーぞ」
「まったく」
「まぁまぁ、ほら良かったら、もうひとつ、おかわりもあるよ」
「それは、それで、ひどいよ!」
ちょうどツクモが紅茶をテーブルに並べている。
「あれから、あちこちに踏み台が増えたよね」
「ツクモがあれこれするのに不便だからね」
「料理はどうなったの?」
「まあ、ありがたい話ではあるんだけれどね、ツクモに好きな物を言ったら、そればっかりを作るようになっちゃってさ」
「ならもっと、いっぱい好きな物の話をしてあげればいいよ」