表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

09:プロポーズ後


ブラックウェル公爵家令嬢アリアとボールドウィン伯爵家次男アルフレッドの婚約は瞬く間に世間に知れ渡った。二人とも結婚相手として上位の有望株であったために注目されるのは当然のことだろう。


突然社交界に現れた家格の優れた才色兼備のアリア、多くの貴公子がアリアの心を掴もうとしたが笑顔で流されるだけであった。

王国始まって以来の天才と言われるアルフレッドは不思議な雰囲気があるものの家格や容姿が良いために多くの美女才女からアプローチを受けていたが、本人は全く恋愛に興味が無さそうで男性が好きなのではないかと言う噂すらあった。


そんな二人の婚約に周囲は残念がったが、この二人なら誰も敵わないということで潔く諦めることができたようだ。


今後の周囲の注目はどちらの家に入るのか、そして誰がどの家の跡継ぎとなるかである。




アリアがアルフレッドから指輪を受け取った後、公爵に呼び出されすぐに首都から離れることとなった。

朝早くから首都を出て休む暇なく移動を続け、やっとのことで夕方には公爵家に到着した。

使用人によると今日は公爵が在宅しているらしく、公爵の執務室に直行するよう指示を受ける。


「失礼致します。」

アリアが公爵の執務室に入ると、正面にある執務机に公爵が座っていた。彼はいつものように無機質な表情を浮かべている。ギルドで多くの人を見てきたアリアだが、それでも公爵の表情や感情を読み取ることは難しい。

機嫌が悪くないと良いのだが…。


「座りなさい。」

アリアが立ったままでいると、執務机の前にあるローテブルやソファを目で差して言う公爵。

いつも立ったまま会話することが多かったので、座るよう促されたのは初めてだ。


アリアは驚きや戸惑いを表情に出さないようにして静かにソファに腰掛けた。

するとタイミングを見計らったかのように、ドアのノック音がし使用人が温かい紅茶や菓子を配膳する。

…一体どういう風の吹き回しなんだろうか。これまで執務机に座る公爵を前にアリアは立って話をするだけであった。茶菓子が出てきたことは一切ない。


アリアが公爵の様子を横目で見ていると、執務机に置かれた紅茶を静かに飲む公爵の姿が見える。


ここで飲食をしないのも不自然か…アリアはそう考えると優雅に紅茶を口にした。

毒が入っている可能性も考えられたが、大抵の毒であれば対処できるだろう。手が震えないように普通に紅茶を飲まなければ…。

紅茶を口に含むと質の良い茶葉の香りが広がった。どうやら毒は入っていなかったようだ。



「ボールドウィンの次男にプロポーズされたようだな。」

公爵はアリアを見つめて言う。


「はい。こちらがいただいた婚約指輪です。」

アリアは左手薬指につけている大きなラベンダーダイヤの指輪を見せる。


「噂では聞いていたが、想像以上に高級な指輪をもらったのだな。その指輪だけで金の鉱山が2,3座買えるぞ。」


え!?そんな高級なものなの!?!?珍しいものとは思ったけどアルフレッドは何故偽の婚約者にこんな高級なものを!?

こんなのずっと指に付けておくなんて無理なんですけど!?


「そうらしいですね。」

アリアは公爵の言葉に心底驚いたが、表情には出さず涼しい顔を見せる。


「よくやった。思いのほか次男がお前を気に入っているようだな。」

珍しくアリアを褒める公爵。ラベンダーダイヤを贈られるほどアルフレッドを骨抜きにしたことが嬉しいらしい。


「ありがとうございます。」

アリアは相変わらず表情を変えることなく返事をする。


いや、本当にありがとうアル…貴方のおかげで難攻不落の公爵から少しでも好印象を得ることができたみたい。計画が終わったらこの指輪は必ずアルに返却しなければ…。



「それで、今後の動きはわかっているのか?」

「はい。両家から婚約の了承を得た後、すぐにアルフレッド令息が管理する領地に移動します。そこで女主人としての資質があるか試されるようです。」


「影によると、ボールドウィン伯爵夫妻は喜んでいるようだ。これまで婚約者を頑なに断っていた次男が惚れた相手を歓迎しているらしい。」

影とはブラックウェル公爵家お抱えの組織で、情報収集や様々な後始末等の裏の仕事を請け負っている。ブラックウェル公爵家に代々受け継がれている組織らしい。アリアの所属していたアップルシードほどではないが、なかなかのスキルを持っているようだ。


「問題なく婚約は締結しそうですね。両家の顔合わせはどうしますか?」

通常であれば、婚約が決まると両家で一度集まるのが通例となっている。あまり公の場に出ない公爵はどうするのだろうか。


「おそらくしばらくは顔合わせはないだろう。こちらもビジネスで忙しいし、今ボールドウィン伯爵夫妻も領地内で洪水の起こった地域があって、その対応に忙しいようだしな。」


つまり、両家顔合わせはしばらくないということか。嘘をついて婚約をしているので、喜んでいる伯爵夫妻に会うのは心が痛いと思っていたところだ。こちらとしては顔を合わせることがない方が助かる。出来れば顔合わせ前に全てを終わらし婚約を破棄したいが…。


「わかりました。では、アルフレッド令息から連絡を受け取り次第、彼の領地に向かいます。」

「わかっていると思うが、これまで通りボールドウィン家や他の貴族の情報を収集し定期的に報告しろ。…得た情報を隠すようなことはするな。」

そう言う公爵の目は鋭い。


「はい、承知しました。」

公爵はどこまでわかっていて、そう言っているのだろう。

アリアの背中に冷や汗が浮かぶ。

アリアが首都にいる際はこっそり集めた貴族の情報を公爵に横流ししていた。もちろん全てを伝えていたわけではなく、悪徳貴族のものを中心に情報を渡していた。

まさか公爵令嬢になってまでギルドにいた頃と同じような仕事をするとは思わなかったが、おかげで公爵からの信頼は着実に積み上がっている気がする。ただやはり注意して動かなければ…いつどこで公爵の目が光っているかわからない。


「今のところ、お前がブラックウェル公爵家の後継だ。それに見合った行動をしたら、後継者として認めてやる。」


「はい、もちろんです。」

アリアは強い眼差しで公爵を見返した。

本当は貴族でい続けるつもり等毛頭ないが、後継者にならないと救えない人々がいる。なんとしても後継者となり公爵が闇に葬った人々に光を照らしたい。


「今まで以上にボールドウィンの次男を惚れさせろ。あの天才をこちらに引き込むことができたら大きな利となるはずだ。」

「はい。」

アリアははっきりと返事をするが、そんな自信は全くない。むしろ今もアルフレッドが自分に惚れているわけではないし、これ以上どうすれば良いのか教えてほしいくらいだ。まずはアルとルイスに相談するか…。


「そして、無能なボールドウィンの長男を伯爵にするよう動くんだ。あの無能な長男の方がこちらとしては操りやすい。」

「はい、お任せください。」

いやいや、任せろとか言ったけど他の家の後継者争いに私が介入できるわけないだろーが。前途多難すぎる。

長男のこともよくわかってないし、そもそも本当に無能ならアルが後継者になる方が民や王国にとっては良いだろうし。

うん…これもアルとルイスに相談だな!


「わかったなら下がって良い。」

思ったより長く話していたようで、アリアの前にある紅茶はすっかり冷めていた。


アリアは立ち上がり部屋を出ようとしたが、どうしても気になることがあった。


「私と生活するようになってクロードの血の質が良くなったと聞きました。彼は今後どう扱えば?」


アリアの質問に公爵は鋭い視線を向ける。

やはりどうしてもクロードの処遇が気になったとは言え、この質問はクロードに肩入れしていると取られてしまったのかもしれない。公爵の気に障ったか。

アリアは内心忙しくしながらも、表情を変えないよう冷静を装う。


「何故その質問をする?」

公爵はアリアを試しているかのようだ。


「公爵様が私に初めて与えた任務なので今後どうすべきかお聞きしました。」

実際にクロードの世話は公爵がアリアをある程度信頼したからこその仕事だ。アルフレッドとの婚約も命令はあったが、最初からアリアを疑って依頼していた。だからこそ、最初に信頼とともに命ぜられたクロードの世話について今後のことを聞いている…と言う体にしたい。


「…あいつはお前にかなり懐いているようだな。」

まだ公爵の視線は痛い。何かを探っているようだ。

クロードとの生活には常に監視がついており、監視の目を盗んでコミュニケーションを取ることは多々あった。バレてはないはずだが…。


「孤独な子どもに幸福を感じさせるには信頼できる人の存在が必要かと思ったので。上手くできていたのかはわかりませんが…。」


「それは自分のことを言っているのか?」

公爵はアリアもかつては孤独な子どもであったと言っているのだろう。

確かにアリアも孤独で家族を探している時期はあった。公爵はそのことも知っているのだろう。


「…そんな感情もう忘れました。1人が楽ですよ。だから、あの子どもの世話をしなくて良いなら助かります。」

本当は凄くクロードのことが気になる。世話を続けたい。だが、公爵に弱味を握られては駄目だ。


「誰も信じず己のみを信じろ。それがブラックウェル公爵だ。あいつはまた地下室に戻す。他の使用人に見られるリスクを避けたい。ただ、お前の報告によると勉学と運動を好むようなので、それは続けさせるつもりだ。他にもあいつが幸福に感じる物事があるなら、メモでも残しておいてくれ。」


「わかりました。それでは失礼します。」

アリアは無表情のまま静かに頷くと公爵の執務室を出た。


流石にアリアと共にアルフレッドの領地へ移動することは叶わないが、公爵がクロードを虐待することはなさそうだ。できる限りクロードが望むことをさせるつもりらしい。それほどクロードの高品質な血を欲しているということだろう。


クロードができる限り安全に暮らせるように口裏合わせをしてメモを残さねば。

まだまだ公爵や家に関する謎は多い。その中でも目の前で苦しんでいるクロードを助けることは最優先事項だ。アルフレッドの領地にいるはずのギルと合流したら、すぐにアップルシードの人間をブラックウェル公爵家に潜り込ませることが出来るか相談しよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ