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第九十四話


一五二六年五月 観音寺城



近江小谷城での(いくさ)が集結した。

一方の当事者であった浅井亮政は小谷城を僅かな手勢と共に退去した。

その行先は美濃国であるようだ。

史実では(時期はズレているが)京極家のお家騒動に関連して一時期美濃に出国し、翌年には小谷城に戻るムーブをしていたらしい。ただしこれは諸説あるようだ。


他方の当事者であった京極高清・高吉親子であるが、彼等は尾張へ追放された。

尾張に向かう京極高清はまるで自我を失った老人の様になってしまっていた。

息子高吉に支えられながら馬に騎乗する姿は実に哀れなものだ。



「しかし京極殿があの様子では、身柄を預けられる斯波武衛様も気の毒だのう。」

「いや、朝倉殿。私から見れば斯波武衛殿も京極と同じで落ち目だからな。知った事ではないわ。」

「ははは、手厳しいの。」



京極親子を見送る六角定頼と朝倉宗滴の会話が印象的だった。

まさに下剋上の一端を示していると言えるだろう。

それで京極家だが浅井亮政ら江北の国人衆が推していた高延(たかのぶ)が家督を相続した。

京極家は形式上半国守護と言う立場は継続するがほとんど力が残されていない。

浅井亮政が一時国外に出ているとはいえ、最早実権を回復する事は困難だろう。


さて僕(と朝倉宗滴)であるが六角定頼の誘いを受けて、六角氏の居城である観音寺城を訪問していた。

観音寺城、この城は素晴らしい。

そう、政治の象徴としては。

観音寺城は山頂から山腹にかけて幾重にも曲輪が建築されている山城だ。

そして山の下には城下町である石寺の町が広がっていた。

城下から見れば、この城は六角家の権力・繁栄の象徴に見える事だろう。



「さてさて神保殿、こちらに来て一緒に飲まんかね?」



六角定頼が右手の徳利を持ち上げながら僕を手招きした。

それなりに酒が入っているようで、その表情は上機嫌なものだ。



「は、頂きます。しかし私はあまり酒に強く無いものでして…」



まぁせっかく注いでくれるのなら、断るのは無粋と言うものだろう。

僕は自分の膳にあった盃を持って六角定頼の傍へ移動した。



「そうか、しかしまぁ、とりあえず一献。」

「頂きます。ん、くわぁ…」



んーむ、この酒は辛い。

かなりの辛口だ。



「まぁ無理はせんで良い。…ところで我が観音寺城だが、どうだね?」

「はい。ここは素晴らしい山城ですな。この規模の城は、正攻法ではなかなか攻め落とせぬでしょう。」

「ははは、そうか。…では正攻法で無ければ攻め落とせる、と言う事かね?」



六角定頼が鋭い目つきになった。

あれ、これはもしかして地雷を踏んだか?



「あ、いえ、それは…」



僕は少し目を反らした。



「宴席は無礼講だ。有り体に申してもらいたいものだな。」

「は、はい…」



僕は盃の酒を一口飲んだ。



「か、辛い…。…申し上げましたように正攻法ではきつい、と考えます。であれば、取るべき策は調略にございます。」

「ほう、我が家臣、をな。」

「この観音寺城は幾重もの曲輪、外郭に支城があり固い守りを敷くことが出来ます。しかし、その前提としてそれらにおいて指揮官や城兵が機能せねばなりません。」

「…それはどこでも当たり前では無いか?」

「ええ、そうです。しかし規模が大きい城と言うのはそれを守るのには多くの人手が要ります。人が足りぬならば、目が届かぬ場所が出てくるでしょう。今の六角様であれば結束した家臣団をこの城あるいは支城へ集結させることが出来ましょう。しかし何か家中に綻びがあればどうでしょうか?」

「そこが穴となると言いたいのだな?」

「私が敵であれば、調略で穴となる所を探しまする。」



史実において織田信長が観音寺城を攻めた時、観音寺城の支城二つが落ちただけで六角氏承禎(じょうてい)・義治親子は無血開城してしまった。

この時の六角家は観音寺騒動で相当揺らいでおり、家臣の結束力はかなり弱くなってしまっていた筈だ。

無論今目の前のいる六角定頼の治世においてはまさに六角家全盛期であるから、そこまでの心配は無い筈であるが。



「ははは。中々手厳しい話だ。」

「…申し訳ありませぬ。」

「いや、私が聞いたのだからな。」



六角定頼は盃の酒を飲み干した。



「神保殿、もう一つ伺ってもよろしいかな?」

「は、私に答えられる事ならば。」

「現在の公方様の治世について、どう思われる?」

「…それは答えにくいご質問ですね。」

「貴殿は管領様派閥と聞いておる。…であればこのまま公方様を戴くか?」

「…なかなかに答えられませぬ。」



六角定頼は現状では管領派閥と目されている。

下手な答えをしたら何か告げ口されるかな?



「…まぁ良い。我が六角はしばらくは公方様に合力する所存にござる。」

「それは神保も同じにございますな。その為にも此度上洛いたしますゆえ。」

「では現状では貴殿は御味方か。」

「敵対するつもりは毛頭ありませぬ。」

「なるほどな。六角としても、神保家を敵に回したくないものよ…」



うーむ、腹の探り合いだな。

同盟関係の畠山義総(あにうえ)や朝倉宗滴であればそれなりに腹を割った話が出来るものだが…。















観音寺城は日本100名城にも選ばれる城で大規模なものでありますが、防衛施設としては些か欠陥がある説を採用しています。本当に堅固な城であれば無血開城等は起きないものと思うのですが…

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